(114)ドイツの今を考える。(9)緑の党の連邦首相誕生は可能か 後編

1999年5月13日緑の党大会で3月から始まっていたNATOによるユーゴ空爆が容認され(無条件停止318票、容認一時停止412票)、外務大臣を兼ねるヨシュカ・フィッシャー党首に戦争犯罪人として赤いカラーボールが投げつけられた時(鼓膜に損傷を負った)、私はブレーメンにいた。
ブレーメンの市庁舎広場では連日のように空爆反対の集会が開かれていた。
5月23日にはブレーメン緑の党集会が開かれ、保険大臣アンドレア・フィシャー女史の講演があったことから、土砂降りの雨の中を聞きに行ったことを思い出す。
集会は緑の党空爆で二分して紛糾していたことから険悪なものになると思っていたが、そこでは空爆に関して敢えて触れず、外の嵐の激しさとは対照的に友好的で、フィシャー女史の保険改革の悪戦苦闘の訴えに連帯して呼応していた。
すなわち彼女が「以前から私たちの求めていた医療や介護の質の向上を必死に追及しているのですが、社会民主党は企業よりで・・・」という発言に対して、聴衆は絶えず「そうだ。そうだ。(シュティムト。シュティムト。)」と手の甲で学生のように机を叩き呼応していた。
確かに緑の党空爆容認で一層現実路線を採ったことは事実としても、私にはこの際の体験から、彼らが1980年に緑の党創設時の理想を失ったとは思えない。
しかしヨシュカ・フィッシャーの現実路線は余りにも露骨であり、シュレーダー連立政権末期においてはシュレダーとの仲も険悪となり、あくまでも政権参加を求めるためCDUと黒と緑の連立を画策していた(注1)。
そのような露骨な権力欲と新自由主義の推進の責任からヨシュカ・フィッシャー党首は2005年9月政治から引退を余儀なくされたが、緑の党も同罪であり、本来ならば社会民主党SPDのように国民批判の矛先が向けられてもいいはずである。
それにもかかわらず緑の党が上昇気流にあるのは、脱原発を含めて1980年当初の彼らの理想が今切に求められているからだ(注2)。
すなわち1980年緑の党エコロジー危機が差し迫るなかで、エコロジー、社会的連帯、底辺民主主義、非暴力の4つの理想を掲げて登場したときに較べ、現在は既に危機が現実化しているからに他ならない。
そのような視点から見れば、クレッチャマン州首相が目先の州民利益だけを求め現実的手法を過信すれば、ヨシュカ・フィッシャーの二の舞ともなりかねない。
それ故バード・ザッキンゲンのダム開発(改修)では経済効果といった狭い観点に囚われず、本来の緑の党の理想追及に立って州民を啓蒙するくらいの戦略が必要である。
何故なら、1980年当初の4つの理想を実現しなくて最早前には進めない社会、そして世界が到来しているからだ。
だからこそ、右と左に大きく相反するキリスト教民主同盟CDUと左翼党リンケの2050年の未来は、富の再配分による地域中心の社会的市場経済で大筋で一致さえするのだ。
したがってクレッチャマンが大きな視点で州民利益を継続させていけば、究極的には1980年当初の緑の党の理想実現に到達するだろう。
それは本当の意味で、ドイツに緑の党首相が誕生することを示唆している。

次回は連邦議会から消えるまでに衰退の著しい自由民主党FDPと、瞬く間にドイツの若者を虜にしている成長著しい海賊党を通して、ドイツ国民が今何を考えているかに迫りたい。

(注1)2004年2月19日シュピーゲルオンライン記事
"Die Grünen sind Schröders Schicksal"
緑の党シュレーダー運命共同体である」
http://www.spiegel.de/politik/deutschland/regierungskoalition-die-gruenen-sind-schroeders-schicksal-a-286957.html

赤と緑の連立において緊張が高まっているなかで、緑の党評論家第一人者のヨアヒム・ラシュケはシュピーゲルオンラインのインタビューで緑の党の節度、連邦首相の独走、ハンブルク州の黒(CDU)と緑の連立について述べている。
「黒と緑の連立はこれまでのところヨシュカ・フィシャーとゲハルト・シュレーダの良好な関係からタブーに見えていたようであるが、今再びこの種の考えが復活してきているのではないか」というシュピーゲルの質問に対して、ラシュケは以下のように答えている。
「両者の間に冷却があるからだ。ハーナウ問題(ハーナウの原発施設を中国へ輸出する)でシュレーダはフィシャーを驚くほど不快にした。一つにはシュレーダのイニシアチブであった。それはまさに他方の動物がうまくいかなくなる時特別な種類の勘が働く、二人の政治的先導者の行動である。事実上今両者には、継続する個人的連帯基盤がない」
さらに「緑の党は周知の主張にも関わらずゲルハルト・シュレーダに絶えず過度に甘んじている。実際2002年には4つの省の大臣ポストを手に入れている。さらに他にもよいことがある。それゆえ今緑の党は大きな危機において社会民主党SPDと絶大な連帯を持つべきである」
そして10日以内にハンブルグで州レベルの最初の黒と緑の連立があるかという質問に対して、「ハンブルグでは黒と緑の連立は誕生しないだろう。CDU党首候補オレ・フォン・ボイストの選択は次の順序である。単独の絶対多数、FDPとの連立、そしてSPDとの大連立である。だから緑の党は決して登場しない。産業政策、交通政策、外交政策、ならびに治安政策で黒と緑は、ハンブルクでは他の都市や地域よりも大きく異なっている。ついでながら、ハンブルグ緑の党が政策でこのような連立試行をすることは、選挙民への裏切りである」と答えている。
(ラシュケは第一人者と称されるだけあって、鋭い分析で的を射ていた。もっともハンブルクは次の2008年州選挙で黒と緑の連立を誕生させた)

(注2)1980年緑の党綱領
http://www.boell.de/downloads/stiftung/1980_Bundesprogramm.pdf
Präambel 前文
Wir sind die Alternative zu den herkömmlichen Parteien. Hervorgegangen sind wir aus einem
Zusammenschluß von grünen, bunten und alternativen Listen und Parteien. Wir fühlen uns verbunden mit all denen, die in der neuen demokratischen Bewegung mitarbeiten: den Lebens-, Natur- und Umweltschutzverbänden, den Bürgerinitiativen, der Arbeiterbewegung, christlichen Initiativen, der Friedens- und Menschenrechts-, der Frauen- und 3.-Welt-Bewegung. Wir verstehen uns als Teil der grünen Bewegung in aller Welt.
私たちは既成政党に対するオルターナティブであり、緑の色鮮やかなオルターナティブなリストと政党の提携で生じてきている。私たちは新しい民主主義運動に携わる全ての人たちと連帯していることを感じている。すなわち生命保護団体、自然保護団体環境保護団体、市民運動キリスト教市民運動平和運動、人権運動、女性運動、第三世界運動の人たちと。私たちは世界の緑の運動の一部として自らを理解している。
Die in Bonn etablierten Parteien verhalten sich, als sei auf dem endlichen Planeten Erde eine unendliche industrielle Produktionssteigerung möglich. Dadurch führen sie uns nach eigener Aussage vor die ausweglose Entscheidung zwischen Atomstaat oder Atomkrieg, zwischen Harrisburg oder Hiroshima. Die ökologische Weltkrise verschärft sich von Tag zu Tag: Die Rohstoffe verknappen sich, Giftskandal reiht sich an Giftskandal, Tiergattungen werden ausgerottet, Pflanzenarten sterben aus, Flüsse und Weltmeere verwandeln sich in Kloaken, der Mensch droht inmitten einer späten Industrie und Konsumgesellschaft geistig und seelisch zu verkümmern, wir bürden den nachfolgenden Generationen eine unheimliche Erbschaft auf.
Die Zerstörung der Lebens- und Arbeitsgrundlagen und der Abbau demokratischer Rechte haben ein so bedrohliches Ausmaß erreicht, daß es einer grundlegenden Alternative für Wirtschaft, Politik und Gesellschaft bedarf. Deshalb erhob sich spontan eine demokratische Bürgerbewegung.
ボンで設立された既製政党は、あたかも際限ある惑星が無限の産業成長が可能であるかのように振舞っている。自らの言葉で言えば、既成政党はそのことによって私たちを原子力国家あるいは核戦争のなかへ、ハリスバーグスリーマイル島事故を起こした州都)や広島のなかへと絶望的決定に導いている。エコロジー危機は日に日に激しさを増している。すなわち資源は枯渇し、有害物質の醜聞が連なり、動物種が絶滅していき、植物種が死に絶え、川や世界の海洋が汚染された溜りとなり、人類は後期産業消費社会の真っ只中で心の萎縮に脅かされており、私たちは将来世代に恐ろしい遺産を負わせようとしているのだ。
生活基盤、労働基盤の崩壊、そして民主主義権利の解体が、経済、政治、社会に根本的なオルターナティブが必要となるほどかくも険悪な規模に到達している。それ故自然に市民運動が生じるのだ。
Es bildeten sich Tausende von Bürgerinitiativen, die in machtvollen Demonstrationen gegen den Bau von Atomkraftwerken antreten, weil deren Risiken nicht zu bewältigen sind und weil deren strahlende Abfälle nirgends deponiert werden können; sie stehen auf gegen die Verwüstung der Natur, gegen die Betonierung unserer Landschaft, gegen die Folgen und Ursachen einer Wegwerfgesellschaft, die lebensfeindlich geworden ist.
Ein völliger Umbruch unseres kurzfristig orientierten wirtschaftlichen Zweckdenkens ist notwendig. Wir halten es für einen Irrtum, daß die jetzige Verschwendungswirtschaft noch das Glück und die Lebenserfüllung fördere; im Gegenteil, die Menschen werden immer gehetzter und unfreier. Erst in dem Maße, wie wir uns von der Überschätzung des materiellen Lebensstandards freimachen, wie wir wieder die Selbstverwirklichung ermöglichen und uns wieder auf die Grenzen unserer Natur besinnen, werden auch die schöpferischen Kräfte frei werden für die Neugestaltung eines Lebens auf ökologischer Basis.
何千もの市民運動原子力発電所建設に反対する力強いデモのなかから形成された。何故ならそのリスクは克服できないから、その放射線廃棄物はどこにも貯蔵され得ないから、彼らは生命に敵対するまでになった自然の荒廃、景観のコンクリート化、投げ捨て社会の問題や原因に反対して立ち上がっている。私たちの短期的に向けられた経済的な目的思考の大変革が必要である。
私たちは、今日の浪費社会がまだ幸せや生活の満足を促進するというのは誤りだと思っている。
それどころか逆に人間はますます追い立てられ、不自由になっている。どのようにしたら物質的生活基準の過大評価から自由になれるか、どのようにしたら自己実現を再び可能にし、自然の限界を意識できるかという度合いに応じて、創造的な力がエコロジーな基本に立つ生活の新形成ために解き放たれるだろう。
Wir halten es für notwendig, die Aktivitäten außerhalb des Parlaments durch die Arbeit in den Kommunal- und Landesparlamenten sowie im Bundestag zu ergänzen. Wir wollen dort unseren politischen Alternativen Öffentlichkeit und Geltung verschaffen. Wir werden damit den Bürger- und Basisinitiativen eine weitere Möglichkeit zur Durchsetzung ihrer Anliegen und Ideen eröffnen.
Grüne, bunte und alternative Listen hatten ihre ersten Wahlerfolge. Die 5%-Klausel und andere
Erschwernisse können sie nicht mehr aufhalten. Wir werden uns nicht an einer Regierung beteiligen, die den zerstörerischen Kurs fortführt. Wir werden aber versuchen, in der Verfolgung unserer Ziele auch bei etablierten Parteien Unterstützung zu erhalten und Vorschlägen anderer Parteien, die unseren Zielen entsprechen, zustimmen.
Gegenüber der eindimensionalen Produktionssteigerungspolitik vertreten wir ein Gesamtkonzept. Unsere Politik wird von langfristigen Zukunftsaspekten geleitet und orientiert sich an vier Grundsätzen: sie ist ökologisch, sozial, basisdemokratisch und gewaltfrei.
私たちは、議会の外の行動が自治体議会、州議会、並びに連邦議会の活動を通して補われることを必要だと思っている。私たちはそこで私たちの政治的オルターネイティブを公にし、声望を得たい。私たちは市民運動や底辺運動でその願い事や理想の実現へのさらなる可能性を開くだろう。緑の党の鮮やかでオルターネイティブな名簿は最初の選挙成功をもたらした。5パーセント条項や他の約定は最早押しとどめることはできない。私たちは破壊的な進路をとり続ける政権に参加しない。しかし私たちは私たちの目標の達成を既成政党の支持で得ることを、そして私たちの目標に適合する他の党の提案を賛成することを追及する。
私たちは一次元的生産増加の政策に反対して、全体的な構想を支持する。私たちの政策は長期的未来展望に基づき4つの原理に立っている。すなわちそれらはエコロジー、社会的、底辺民主主義、そして非暴力である。
(この後に4つの原理が具体的に述べられ、綱領が掲げられている。4つの原理は現在ますます重要になってきていることから後日一つ一つ訳し、じっくり考察したい)。