(203)ドイツメディアから考える今4・・『無数の雄ヒヨコ殺処分(ZDF動画)』が問いかけるもの 後編(富裕層自治体から集団的自衛権)

ZDFフロンタール21『無数の雄ヒヨコ殺処分』の後半では、殺処分される雄ヒヨコを助成金によるプロジェクトでの飼育が紹介される。
実際に飼育している農家のペーター・シューベルトは、消費者は卵1個に3セントから4セント助成することで、現在年間ドイツで4000万殺処分されている雄ヒヨコを救い、ゆっくり成長させることでお祖母さんの時代主流であった味わいのあるゴッケル鶏肉を食べることができると推奨している。
そこには飼育家の倫理観さえ感じられた。
そしてZDFの主張も、1個10セントの余りにも安い平場飼い卵を13セントから14セントにすることは消費者の許容範囲であると、動物愛護団体のマヒの主張を通して殺処分廃止を求めている。
それ故、殺処分廃止の時期は定かでないが、やろうとするなら2年から3年で実現できると、訴えているように思えた。


ドイツでは鶏飼育も狭いケージでの飼育は実質的に禁じられ、平場飼いが基本であるが、動物への倫理が全く配慮されない日本では狭いケージ飼育が大部分である。
すなわち飼育動物は大量製造マシーンの代用であり、狭いケージで運動させることもなく、ひたすら卵を産み続けるか、肥育だけが求められて飼育されている。
したがって個体の抵抗力もないため、飼料に抗生物質を混ぜることが当たり前となり、現代に暮らす消費者は生体実験を強いられていると言っても過言でない。
さらにそのような飼育は衛生管理の徹底にも拘らず、鶏インフルエンザに容易に感染し、その度に何十万羽が殺処分されている。
原因は疫学的に証明されているわけではないが、鶏インフルエンザの変異が更に劣悪飼育の東南アジアで起きていることからも、こうした利益最優先の全く飼育動物に配慮しないやり方が指摘されている。
ドイツのように飼育動物にも健全な生き方が求められることは、消費者自らの健康にも貢献するだけでなく、精神的にも豊かに暮らすことである。

しかし現在は化石燃料の枯渇に伴い競争原理が最優先され、自国民の間にさえ分かち合いが失われていき、経済的な再配分さえ異議が唱えられる弱肉強食の新自由主義社会が拡大している。
4月22日クローズアップ現代で放映された『“独立”する富裕層〜アメリカ深まる社会の分断〜』(動画)では、アメリカの富裕層が自らの自治体をつくる深刻な分断が紹介されていた(アメリカでは既に30程の富裕層自治体が誕生している)。
特に驚いたのは、大きな成功例として紹介されるジョージア州のサンディ・スプリング市で住民グループ代表が当然の権利であるかのように、「政府による所得の再配分には反対です。人のお金を盗む行為だと思います」と述べていたことであった。
現代の富裕層は、世界のメディアが共同制作した『世界の貧困〜なぜ格差はなくならない〜』が描くように、現代の植民地主義に少なくとも間接的に関与し、金融投機もしくは金融投資で財を益々増やしていることは明らかである。
そうしたなかで所得の再配分さえ認めない富裕層自治体は、まさに無数の雄ヒヨコ殺処分を容認する社会の行き着く先と言えよう。
そうした傲慢な選択をすれば、世界の破滅は必然である。
何故なら貧困ゆえに根絶できないアルカイダのようなテロ集団の武器庫には、前回のZDFフィルムが描くように世界を破滅するに足りる兵器が溢れているからだ。

そして今、日本における憲法解釈による集団自衛権容認も富裕層の傲慢さから来るものであり、戦後二度と戦争を起こさないと誓った平和憲法を葬るだけでなく、立憲国家を放棄することであり、日本を再び戦争に巻き込み、世界を滅ぼすものである。

そうした中で私たちは雄ヒヨコ殺処分の処方箋をドイツに学ぶだけでなく、限りなき軍備縮減と並行した平和外交政策、そして脱原発によるエネルギー転換で世界に発信するドイツの連帯(ゾリダリテート)を学ばなければならない。