(204)ドイツメディアから考える今5・・原発ロビーの逆襲(1)

ドイツのエネルギー転換は、ZDFフィルム『電気料金のトリック・・誰が支払うのか』で見るように再生可能エネルギー法賦課金の市民負担による電気料金が高騰するにも拘らず、最早止められない勢いで加速していた。
そこでは、エネルギー専門家が巨大電力企業の将来を壊滅的と明言しており、化石燃料による中央集中型産業社会からソラー燃料による地域分散型産業社会への転換を確信させるものであった。
それ故、日本の原発再稼働や集団的自衛権容認でのナショナリズムの高まりも、最終的にはドイツが切り開く第三次産業革命とも称されるエネルギー転換で、多少の紆余曲折はあっても日本にも飛火することで、ドイツのようによくなると楽観視していた。
しかし今年に入り原発ロビーの逆襲が秘密裏に、しかも電光石火のように開始され、ごく最近のEUとドイツ政府の合意でエネルギー転換にブレーキが踏まれるまでに至っている。
それは取りも直さず、少なくとも現在までドイツのエネルギー転換が素晴らしく加速していることを意味し(日本では原子力ムラに関与する人たちによって恰もドイツのエネルギー転換が失敗しているかのようにプロパガンダされているが)、既に昨年巨額の赤字に転じたRWEやEonなどの巨大電力企業が生き残りをかけて逆襲に転じ、ドイツ政府を通して今年4月にエネルギー転換にブレキーが踏まれるように画策したことを物語っている。

その最初の逆襲は、今回上に載せたZDFフィルム『原発ロビーの逆襲2−1・・間違って算定されたEUエネルギー政策』(2014年1月21日フロンタール21放映)であった。

最初フィルムは、昨年末画策された2030年までのEUエネルギー政策では現在の太陽光発電の設置費用算定が1キロワットあたり2300ユーロであるが、ベルリン市新興地域の集合住宅では既に1300ユーロと低く、太陽発電設置企業によって巨大電力企業より安い電力供給が始まっていることを描いている。
もはやそこでは、太陽光発電が補償金なしに競争力を持つようになって来ており、画期的であると同時に益々エネルギー転換が加速されていくことを意味している。
それにもかかわらずEUエネルギー政策では、ドイツの太陽光発電風力発電が既に原発電力より安い事実に目を瞑り、従来の原発は安い、クリーン、安全であるという原発産業の謳い文句が採用され、巨額の助成金を必要とする原発路線がEU委員会で決議された。

そのEUエネルギー政策を画策した首謀者が、こともあろうに前のバーデン・ヴュルテンベルク州首相エッティンガー(現EU委員会のエネルギー担当委員)であると、このZDFフィルムは厳しく批判すると同時に、EUエネルギー政策の間違いを検証している。

ドイツが脱原発でエネルギー転換を推し進めていることから、エッティンガーへの非難はつい最近まで政府与党から緑の党まで一致し、市民や民間団体の間では急速高まっている。
例えば会員数50万人のドイツ最大の自然保護団体ブント代表アクセル・マイヤーは、「エッティンガーのような政治家としてカモフラージュした原発ロビイストは、政治及びEUにおける人々の信頼を危うくする」と明言している(注1)。

エッティンガーが政治家としてカモフラージュした原発ロビイストであるかどうかは別として、エッティンガー(当時バーデン・ヴュルテンベルク州首相)は原発運転期間28年延長の強硬論者であり、期限が切れた原発ネッカーウエストハイム1号機を電力不足を装った「影の計画」で連邦選挙まで延長させた黒幕であったことは確かである。
そのことは、私が字幕を付けて紹介したZDFフィルム『大いなるこけおどし・・原発政策の間違い』(第1章後半)を見れば明らかである。
そしてエッティンガーの企画したEUエネルギー政策が、今年ベルリンで開催された国連政府間パネル(IPCC)のエネルギー政策に大きな影響を与えた。
すなわち4月14日に公表されたIPCC報告書では、今世紀中期までにCO2排出量の40%から70%の削減、今世紀末までに100%削減を明記したにもかかわらず、抜本的な削減方法として再生可能エネルギーへのエネルギー転換を打ち出すことができず、原発路線の容認と石炭火力発電のCCS技術(排出CO2を地下に貯蔵する技術であるが未完成)が柱とされた。

それはまさに、原発ロビーの逆襲の開始であった。

(注1)BUNDのホームページ
http://vorort.bund.net/suedlicher-oberrhein/guenther-oettinger.html