(291)世界の官僚奉仕を求めて第一回 『ロシアのドーピング秘密』が抉り出す官僚支配

ロシアの国家ぐるみのドーピング不正はロシアだけの問題のように扱われていますが、本当は現在の日本の溢れ出している不正の問題でもあり、最早不正に機能できない世界の問題でもあります。
思い起こせば2002年夏に福島原発で、何十もの炉心隔壁のひび割れトラブル隠しが内部告発によって明らかにされた際、新聞報道の追求で検査企業の技師たちは「異状ありきという報告書なんて受取れない」というのが長年培われてきた官僚たちの慣習であることを漏らしていました。
また昨年の東洋ゴム東芝旭化成、化血研、そして今年の三菱自動車やスズキ自動車などの絶えることのない不正では、メデイアが追求していくと「問題のある報告書など受取れない。目標を達成する報告書しか受取れない」という不正強要が、官僚化した企業組織にも見えてきました。
日本はドーピングに関してはクリーンですが、それは日本がアメリカに追従していることから、アメリカと対等するロシアのようにドーピング不正が容認されるほどメダル獲得が強要されていないという見方もできるでしょう。
もっともオリンピック開催誘致では、長野オリンピックの際会計帳簿が燃やされるほどの凄まじい賄賂不正が問われたにもかかわらず、東京オリンピック誘致でも目標達成のために、フランス検察が公表したように前IOC会長への2億円贈賄不正がなされています。
すなわち現在の利益最優先の社会、世界からは必然的に不正が溢れ出しており、最早このまま見過ごして行けば、人類に未来はないというのが私の考えであり、どのように道を切り開いて行けばよいか再開したブログ「ドイツから学ぼう」で訴えて行きたいと思っています。

今回載せたドイツ公共放送ARD(注1)『ドーピングの秘密・・どのようにロシアは勝者を造り出したか』は、2014年12月3日にドキュメンタリー番組として放映され、内部告発と徹底した検証でロシアの国家ぐるみのドーピングを描いています(2年後という遅さには問題があるとしても、今年1月に放映されたNHKクローズアップ現代の秀作『ドーピングショック 〜組織ぐるみの不正はなぜ〜』はこの番組を手本にしています)。
このドキュメンタリーはロシアの女子800メートルの世界記録保持者ユーリア・ステパノワと夫のロシアアンチドーピング機構職員のビタリー・ステパノワがドイツのジャーナリストでドーピングの専門家であるハヨー・ゼッペルトにEメールで内部告発するところから始まっています。
このドキュメンタリーが世界にとって衝撃的なのは、ロシアの国家ぐるみのドーピング内部告発を、言訳など不可能なほどに一つ一つ実際に現地でコーチなどの取材を通して検証していることです。

長いことブログ「ドイツから学ぼう」を休ませてもらいましたが、ようやく納得できる本が書けましたので再開したいと思います。
本に関しては8月中旬に『ドイツから学ぶ「官僚支配から官僚奉仕」・・日本の民主的革命』というタイトルで、チェルノブイリ原発事故後『まだまにあうのなら』で50万部を超える脱原発のバイブルを生み出した地湧社から発行されます。

目次はじめにあとがきを載せておきますので(推敲段階の原稿ですので多少異なるかもしれません)、是非読んでもらいたいと思います。

それから今回から始まる「世界の官僚奉仕を求めて」について終わりに一言いえば、パナマ文章やドーピング内部告発がドイツでなされるのは、世界でドイツだけで官僚奉仕が徹底して実現されているからに他なりません。

(注1)ドイツの公共放送は、9つの地方公共放送からなるドイツ公共放送連盟ARDともう一つの公共放送ZDFからなり、ZDFテレビ放送は世界の誰でもが無料で視聴できます。このようなZDFの無料インターネットサービスは1996年から開始されており、2006年にZDF社内から有料化案が浮上した際、「ドイツの公共放送は国民に開放される方法こそ模索されなくてはならない」というZDF管理評議会委員を兼ねる連邦文化・メディア大臣の発言で、現在も完全な無料化が実施されています。その背景には、ドイツでは公共放送は国民への奉仕と基本法の求める市民育成の義務、さらには世界の民主主義と平和に貢献するだけでなく、絶えず世界に理想を求めることを使命としているからです。
公共放送の財源は国民の支払う負担金からなり、その6割がARDに配分され、残りの4割がZDFに配分されています。2013年1月の受信料改正では従来の受信機所有の受信料徴収から公共放送サービスを享受する権利への負担金に変更されましたが、国民の支払う負担金は従来の月17ユーロ98セントから15年1月より17ユーロ50セントに値下げされています(生活保護家庭などは負担金免除)。