(313)世界の官僚奉仕を求めて第22回自然エネルギーが創る富の蓄積のない社会(4)エネルギー転換は歴史を創る・ドイツが極右台頭を克服できる理由 前編(私の見た動画15『エネルギー転換の切り札は水素貯蔵』)

水素貯蔵技術が未来を切り開く

上の動画が提示するように、ドイツでは風力発電太陽光発電で製造された過剰な電力を水素に変え、貯蔵する取組がなされています。
既に2014年から地域の公共ガス企業は太陽光発電風力発電で製造した過剰な電力を水の電気分解に利用し、生ずる水素をガス網の天念ガスに混ぜて、地球温暖化に優しいエコロジーガスとして供給を始めています。
自動車に対しても天然ガス車に水素が混ぜて売られ、また燃料電池車には直接水素が1キログラム9、5ユーロの統一価格で水素ステーションで販売されています(水素1キログラムで普通車は凡そ100キロ)。
以前ブログに載せたベルリン近郊の農村プレンツラウのハイブリド発電所では、2011年から下の動画で見るように水素製造による地域の電力完全自給を実現しています。

もっとも水素を電力に再生する場合は熱併用の小型ガスタービンでビオガスと混ぜて燃焼して再発電することから(ブロック・コージェネレーション)、飽く迄も過渡期の水素ガス利用であり、究極的には燃料電池で直接水素を空気との化学反応で再発電できる社会を目指しています。
実際家庭用の数キロワットから産業用の100メガワットまでの大型燃料電池(固体酸化物形燃料電池SOFC)は既に開発されており、ドイツのエネルギー転換の地平線には水素貯蔵での豊かな未来社会が見えて来ています。
すなわちドイツの描く水素社会は、日本のように石炭産出国で水素を製造するといった理念なき構想ではなく、地域での完全電力自給自足だけでなく、過剰な電力を水素貯蔵し、あらゆるものの地産地消を目指す分散型社会です。
もっとも実用的燃料電池にはまだコスト面で問題がありますが、普及の始まりにもかかわらず急速にコストが下がっており(ドイツの専門誌よれば1キロワット時の燃料電池は2008年に900ユーロしていたものが、2020年には300ユーロまで下がると伝えています)、ドイツの村々(ゲマインデ)が自然エネルギーだけで電力の完全自給自足を実現し、誰もが水素自動車(燃料電池車)を乗り回すのも時間の問題と言えるでしょう(100メガワットの大型燃料電池1基は1000人の村民の凡そ100日間の電力使用量に相当します)。
そうした着実にエネルギー転換を推し進めるドイツの未来からは、人類が無尽蔵の自然エネルギーを水素に蓄積し、富の蓄積を不要にさえする世界が見えて来ています。

ドイツが極右台頭を克服できる理由
しかしそのような希望ある未来とは逆に、世界は1月17日の英国メイ首相のEUからの完全離脱宣言、そして25日のトランプ大統領のメキシコ国境での「壁建設」の大統領令発動と、これまでの過度なグローバルを推し進めた世界とは全く異なる過度な保護主義の世界が幕開けし、恐ろしい未来への船出を危惧しないではいられません。
特にトランプのアメリカ中心主義の公約を躊躇することなく着々と着手する強引さには、極右の台頭を感じ得ません。
それを許しているのは、それを望む人々がより多くなって来たからに他ならず、その理由は過度なグローバル化であり、競争原理最優先のルールなきグローバル化に民主主義政治が歯止めをかけられず、ボトム競争で多くの人々が下へ下へと落下して行くからです。

私がベルリンで学んだ2007年から2010年のドイツでも、ボトム競争の激化で老舗の何万もの企業が倒産し、「ドイツのお金はドイツでつかわなくてはならない」というプラカードを掲げる極右が通りのあちこちで見られ、世界一豊かなドイツ市民の暮らしは一変していました。
通りではマイスターが作るドイツが誇るパン屋などの店も至るところでシャッターを閉め、床屋(フリザー)も10ユーロから徐々に下がって行き5ユーロを切る店さえ出現し、店の従業員の時間給も5ユーロまでも下がっていると伝えていました。
また少なくとも2000年までは環境農業政策で手厚い耕作地の環境補償で豊かに暮らしていた農家も、EU拡大でポーランドなどから安い乳牛や農産物が関税なしで出回るため、小規模農家の倒産は激増し、特に乳牛農家の倒産は毎年1万軒を超えていました。
それは規制なき過度なグローバル化が必然的にもたらしたものであり、現在の極右が世界に台頭する状況もまさに規制なきグローバル化によって生み出されていると言えるでしょう。
そのような困難な状況をドイツが克服したのは、シュレーダー政権による規制なきグローバル化に沿った競争原理最優先の「アジェンダ2010」政策が徐々に機能し始めたからだと日本では言われていますが、むしろ逆でドイツの戦後から80年代まで徹底された弱者や地域に配慮した規則ある市場経済、すなわち社会的市場市場経済への回帰にあります。
そうした困難を克服した回帰の原動力は、地域で2000年以降驚くべき勢いで拡がって行った自然エネルギーへのエネルギー転換に他なりません。
2009年9月の連邦選挙で競争原理最優先の「アジェンダ2010」を表向き批判し、中間層や低所得層の大型減税(経済成長加速法)を掲げ大勝利したメルケル政権も実際は産業支配がより強く、原発推進への逆行とも言うべき28年間の原発運転期間延長を勝利宣言と同時に訴えました。
しかし国民の大部分が反対するだけでなく、地域に拡がった市民エネルギー組合、風力発電太陽光発電などの企業の反対も激しく(既に多くの企業が原発運転期間終了を見越して計画を始動させていたことから)、その後の州選挙でメルケル政権は全敗し、福島原発事故がなくても脱原発を選択せざる得なかったからです。
そして2011年の脱原発宣言後は地域でのエネルギー転換が益々加速し、ドイツを支配していた4大電力企業が倒産の危機に瀕するほど追い込まれ、2014年7月の再生可能エネルギー法改正で固定買取価格から入札価格への変更でブレーキがかけられたと言えるでしょう。
しかし最早市民の創る自然エネルギーは電力会社の供給する電力価格より明らかに安く、固定買取制度を不要としており、エネルギー転換の地平線の向こうには、人類の新たな歴史を創る自然エネルギーによる水素社会が見えて来ています。