(334)時代の終わりに(18)“パラダイスペーパー”とヨーロッパの右傾化

“パラダイスペーパー”とヨーロッパの右傾化

上のNHKスペシャルが11月12日に放送した『追跡パラダイスペーパー』私の見た動画42は、「富める者がより豊かになり、正直者が馬鹿を見る不条理な世界」を強く浮かび上がらせていた。
富めるひと握りの人たち、企業家、政治家たちは、国民国家の税システムを遥かに超えるやり方で税を逃れ、働く弱者だけが逃れることなく徴税され、さらに国家財源の不足で福祉切捨てが断行され、正直者は益々暮らしに困窮して行くと言えよう。
この動画ではトランプの商務長官ウィルバー・ロスのタックスヘイブンだけしか描かれていなかったが、ICIJ(国際調査ジャーナリスト連合)のホームページ(注1)には、トランプの重要な取巻き陣13人のパラダイスペーパー関与が図示されている。


(上左から)
シェルドン・アデルソン(SheldonG. Adelson )ラスベガス・サンズ社の会長かつCEO、不動産開発業者。トランプ基金に500万ドル寄付。
ランダル・クォールズ(Randal Quarles) 連邦準備制度の副長官
デイビット・コック兄弟( The Koch brothers )総資産482億ドルの富豪。トランプ税制プラン支援者。
ステファン・シュウォースマン(Stephen Schwarzman)ブラックストングループのCEO。トランプをウォール街に繋げる太いパイプ役 。
トーマス・J・バラック・ジュニア(Thomas J. Barrack, Jr)トランプの友人でアドバイザー。トランプ基金の設立者。
カール・アイカーン(Carl Icahn)ウォール街の巨額投資家。8月大統領の助言ポストを辞任。
(下左から)
レックス・ティラーソン(Rex Tillerson)国務長官。石油メジャー最大手のエクソンモービル前会長兼CEO。
ロバート・マーサー(Robert Mercer )ルネッサンステクノロジーのCEO。トランプの重要な後援者。
ウィルバー・ロス(Wilbur Ross )商務長官。
ティーブ・ウィン(Stephen Wynn )カジノ大事業者。トランプの親しい友人で、トランプ基金に72万9000ドル寄付。
ポール・シンガー(Paul Singer )著名なヘッジファンドマネージャー。トランプ基金に100万ドル寄付。
ゲイリー・コーン(Gary D. Cohn、)ドナルド・トランプ政権の国家経済会議委員長、経済担当大統領補佐官
ジェフリー・パーマー(Geoffrey Palmer)不動産開発業者。トランプ基金に500万ドル寄付

これらの取巻き陣を辿っていけば、トランプはアメリカ第一を主義を掲げ、弱者のため現在の不条理と戦うと誓ったが、それは一部の石炭労働者や白人失業者救済の上辺だけであり、実際は税制改革でひと握りの富める人たち、さらには多国籍企業を、益々豊かにするシナリオが見えてくる。
そのシナリオ目的ためには、トランプは気候変動条約やユネスコからの脱退だけでなく、貿易での強硬なアメリカ利益第一主義を力によって押通し、世界の平和や環境の悪化に対しては目を瞑る、恐るべき世界の指導者とも言えよう。

また先月ヨーロッパで行われたオーストリア選挙(10月15日)やチェコ選挙(10月21日)でポピュリズム右派政党が勝利し(下の動画ZDFニュース参照)、トランプが囃され、結果的に世界がトランプ陣営の望むように導かれて行く危機が迫って来ている。
何故ポピュリズムが囃されるかと言えば、現在の競争原理が最優先される新自由主義世界では、オバマ見るように民主主義が掲げる弱者救済の理念が実現しないだけでなく後退し、強いリーダの実行が求められるからである。
しかし強いリーダは実際は富める側にあり、行き着く先はひと握りの富める人たちの世界支配とも言えよう。
今回の“パラダイスペーパー”は、そうした事実を白日に晒し、正直者が馬鹿を見るだけでなく困窮する絡繰を明らかにした。
その絡繰に現在の世界の危機を解決する糸口があるからこそ、世界の主要なメディアのジャーナリストがICIJに集い、体を張って戦っている。
それは正直者が報われる社会へ導くことであり、現在のポピュリズムによるひと握りの人たちの世界支配阻止に繋がるものだと思う。
私がそう思うのは、ポピュリズムによってナチズムを生み出した戦後のドイツが「万人の幸せ」を社会の目標に掲げ、基本法ポピュリズムに歯止めをかけ、様々な方法で官僚支配から官僚奉仕へと180度転換させたからだと確信するからである。
もちろんそうしたドイツでさえ、経済的にはグローバルな新自由主義に呑み込まれていることは否定できないが、そうした状況のなかでも一歩一歩着実に希望ある未来に向けて歩み続けていることも事実である。
それ故今回のひと握りの人たちを震撼させる不都合な事実が、ドイツ(南ドイツ新聞)から発せられたと言えるだろう。

(注1)https://www.icij.org/investigations/paradise-papers/