(375)メルケル時代の終りから見えてくる世界(4)・違憲審査法廷創設の必要な理由(4)憲法を守ることで見えて来る希望ある未来(後編)

日本の希望ある未来を創るために

前回は福島原発事故無罪判決があり、その判決の不当性に怒りを感じ、思わずその危うさを書かずにはいられなかった。
そしてその後誰かの内部告発らしき情報で、関西電力高浜原発の贈賄事件が発覚し、その巨額なお金は国民の電気料金から出ていることから、怒りが益々膨らんでいる。
それは単なる贈賄事件ではなく、この国を狂わせている根幹である。
すなわち網の目のように縦横に張り巡らせれた利権構造であり、金品を受けた関電の20人の誰もが贈賄は犯罪であるとわかっていても、組織自体が止むなかでは辞表覚悟でなければ断れないし、現在の利益最優先の業界、国益最優先のなかでは日常茶飯事になっている。
例えばブログ(306)で述べたように、経済産業省の若手官僚たちが出した提言書で最早核燃料サイクル計画が破綻していることを指摘し、「世の中を誤魔化しきれない」とまで書き、実際原発に関与する中枢官僚も核燃料サイクル計画を止めようとして、福島原発事故原子力委員会が当事者たちの23回に渡る秘密会議を開いているが、どのように間違った計画でも一旦動き出した計画は利権構造から止められないのである。
私の見た動画8(2013年2月10日放映のNHKスペシャル『核のゴミはどこへ~検証・使用済み核燃料~』)で、利権に関与していない原子力委員会委員長代行鈴木達治郎が止まらい理由を、NHKの取材に応じて以下のように述べていたのが印象的だった。
「いわゆる利害関係、今の自分たちの属している団体や組織の利害というものが、今のサイクル政策にやはり直結していることで、やはり事業に影響がでるから(政策変更は)止めて欲しい・・」
こうした利権構造が止められないのは原発関係だけでなく、最早不必要とさえ言われている高速道路開発、リニア鉄道開発、そして復活したダム開発などが本来は社会福祉に回すべきお金を喰い尽くしている。
その上日本の未来を開く産業戦略の柱が、原発維持で海外への原発受注ウォーズと高効率と吹聴する石炭火力の途上国売込みであり、国連が気候変動危機を警鐘し、2050年の二酸化炭素排出量ゼロを必死に目指すなかで、日本は余りにも未来の希望を自ら閉していると言わざるを得ない。
何故なら原発の世界的な安全基準が高まるなかで、原発エネルギーコストは現在においても目途の立たない原発廃棄物処理コストなしで、世界の再生可能エネルギーよりも高コストである。
しかも日本においては、絶えず同じ電力を生み出す融通性のない原発起動が、90年代には世界の最先端であった太陽光技術や風力技術を足踏みさせ、最早ドイツから見れば後進国と言っても過言でない。
また石炭火力推進で利用される二酸化炭素地下貯蔵(CCS)技術も、ドイツ経済研究所のヒルシュハウゼン教授(ベルリン工科大学)が詳しい検証で(ブログ239参照)フィクションであると指摘するように、(原発廃棄物というゴミを資源に変える核燃料サイクル計画と同様に)先送りするための誤魔化しであることは明白である。
さらに私が危惧するのは、利権構造が行き詰る時、戦前のように力による進出が必然的に起こり、日本が自ら戦争の引き金を引くことである。
しかも今度の戦争は帰らざる河であり、核戦争の引き金が引かれれば日本人が日本に住めなくなるだけでなく、人類は“核の冬”で地球に住めなくなるだろう。
そうした悲惨な未来を迎えないためには、今憲法を守り正すことで、国益最優先の官僚支配、そして絶えず肥大し続ける利権構造の仕組を変えなくてはならない。
そのためには護憲を掲げる野党が次回の衆議院選挙で、最高裁判所内に憲法違憲審査法廷創設を公約し、憲法を守り正すことで官僚支配から官僚奉仕へ、国益最優先から国民利益最優先へ、競争原理最優先の教育から分かち合い最優先の教育へ転換して行かなくてはならない。
そのような転換は、既に述べたように完全に官僚の関与を排除し、政権関与もを受けない絶対的第3者機関でなくては実現は不可能である。
それを実現したドイツでは、憲法裁判所の16名の裁判官は連邦議会連邦参議院で、選挙での政党投票率で各党推薦の各々8名の裁判官を選出し、その他の連邦及び州の審議会やあらゆる公的機関や委員会の委員も、原則として連邦もしくは州選挙での政党投票率で各党推薦の専門家を選んでおり、何処から見ても独立した、公正を求める絶対的第三者機関を創り出している。
何故ならそのような絶対的第三者機関では、少数政党推薦の専門家も含まれ、より多くの市民支持を獲得するために、競って内部をガラス張りに開こうとするからである。
そこでは市民の誰もが理解できるようにわかりやすく議論がなされ、必然的に市民も議論に巻き込まれて行き、ポピュリズムに陥ることなく、各政党推薦の専門家を通して倫理的民主主義を創り出して行くからである。
日本においてもそのようなドイツの転換のやり方に見習えば、仕組みを変えることは可能であり、仕組が変われば必然的に官僚奉仕となり、国民利益を最優先することから、日本においても希望ある未来が必ず見えてくる。

 

人間メルケル(4)国民に仕えるという本来の信条

 

今回のフィルム冒頭に出て来るアンデス協定(Andenpakt)は、2003年7月にシュピーゲル誌が暴露したCDU内の秘密裏の共謀ネットワーク協定であり(注1)、党大会前に党内の指導的議員が海外に出て、何年も前から党の方針から個人的問題などで共謀していた。
しかもそのような協定は、ロビイストたちによって作り出されたものであった。
それゆえにリンケ創設者のギジーが言うように、コールの不正献金は氷山の一角であり、党内の西ドイツの政治家が不正に関与していたから、権力争う有力者がメディアによって一人一人葬られて行くなかで、争わないメルケルが首相になれたのも確かである。
既にこのブログや自著で書いたように、西ドイツでは1990年のドイツ統一の際アメリカ資本の役人や政治家買収も厭わない専門企業が、公正さをモットーするドイツのもう一つの壁をこじ開け、競争原理最優先の新自由主義の扉を開いた。
具体的にはコール政権を通して1994年に刑法108e条項を改正し、議決に関与しない接待が黙認されるまでに激変させたのであった(それまでは政治家や官僚に対する昼食さえ、厳しく禁止されていた)。
それゆえ少なくとも世界金融危機の2008年までは、ドイツにおいても国民利益より国益が最優先され、ドイツの新自由主義化が急激に進展していた。
そうしたなかで、このフィルムでも述べられているように、最初はCDU立直しのためメルケル暫定的利用の筈であったが、金融危機メルケルの国民に仕えたいという本来の信条が頭角を現し、首相を4期も務めるまでに国民に愛され、CDU右派保守層が行き場失う程CDUを変えたと言えるだろう。

 

(注1) 

"Andenpakt": Das konspirative Netzwerk in der CDU - SPIEGEL ONLINE