(390)“救済なき世界”をそれでも生きる(12)ドイツから学ぶコロナ以降の世界・未来シナリオ3.ローカルな自給自足社会

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楽観的ポジティブなネオトライバリズム社会

ドイツ未来研究所の未来シナリオ3は、解説では私生活への退却、すなわちネオトライバリズム(注1)とタイトルされ、コロナ危機ではグローバルな国家間の同盟が全く機能しなかったことから、人々は国家政府やG8やG20、さらには国連などの超国家同盟を信じず、グローバルからローカルへと向かい、地域近隣住民の間で新種族を形成して、魅力的暮らしを創りだしている。
すなわちコロナ感染の恐れが家庭生活の魅力を再発見させ、地方での移住で小さなコミュニティ社会を誕生させている。
そこでは人々は自ずと感染への責任感が芽生えるだけでなく、お互いの助け合いが為され、特に老人や弱者に対して配慮されている。
そうした社会は競争社会ではなく、本質的に蓄えさえ分かち合われる社会であり、暮らし易い社会であることから、益々都会からの移住者が絶えないと述べている。
経済については、コロナ危機で機能を失ったグローバル資本主義の終焉にをついて述べていないが、国際分業の欠陥と特定の原産国への不信が、地域で生産し消費する地産地消へ向かわせるだけでなく、協同組合中心の共有経済(シェアリングエコノミー)へと移行させ、資本主義の消費パターンに取って代わりつつあると述べている。
しかも「揺り籠から揺り籠(注2)」と言っ、自律的な生態系を備えた一貫した循環経済が地域社会に組み込まれ、地域経済は完全な自給自足へと動き出している。

解説では、完全孤立のローカルな未来シナリオ2が悲観的でネガティブなのに対して、同じローカルな未来シナリオ3が上のように楽観的でポジティブとなる理由は詳しく言及されていない。
しかしシナリオの流れに沿って推測すれば、民主主義がコロナ危機を契機に本質的に見直され、人々を自ら参加する底辺民主主義(脱中央主権の直接民主主義)に変え、他国や他地域に依存しない自立した相互扶助のコミュニティを誕生させ、「揺り籠から揺り籠」の一貫した循環経済を創り出しているように思われる。
何故ならコロナパンデミックが長期的に蔓延して行けば、躊躇なく移行する人工知能やビックデータによる監視社会が独裁的にならないためには、ユヴァル・ノア・ハラリの述べるように、市民が双方的に監視機能を担保しなければならないからである。 
そのように監視機能を市民が担うには、市民自ら直接政治に参加することが必要であり、地方行政区画カントンでの直接民主性のスイスのように、底辺民主主義の誕生は必至である。
それは、現在のコロナ危機での世界の対応を見れば明らかであり、ドイツでは行動規制が州単位で為されており、日本においても県単位での対処が不可欠となって来ているからである。
未来シナリオ2では、都会から地方に移住した人々が、地方の独裁的政府の指令で、農林業や漁業などの第一次産業や生活必需品を造り出す第二次産業に取組んでいるが、政府に丸投げ依存のため、自立的市民の像は見えてこず、物資と雇用が不足するなかで悲観的ネガティブな暮らししか見えて来なかった。
しかし未来シナリオ3では、コロナ危機を契機に人々が蓄えさえ分かち合う協同組合中心の共有経済への移行を設定していることから、最初は大変であっても、徐々に希望が現実なものとなり、楽観的ポジティブな展望も見えて来ている。
確かに都会から地方の地域への移住が余儀なくされれば、かつての里山や入会地といつた共有地や用水路や屋根葺きなどの労働シェアーを新たに蘇らせ、宇沢弘文の唱えた社会的共通資本(自然環境資本、道路などの社会インフラ資本、教育や医療などの制度資本)にまでシェアリングを発展させて行けば、人間が人間らしく生きやすい素晴らしい社会の展望も見えて来るだろう。
そのような共通経済は、資本主義経済が機能しなくなるなかで、ポスト資本主義になり得るものだと思う。

ヨーロッパでのコロナパンデミックはまだ終息には程遠いにもかかわらず、スペイン、イタリア、ドイツと規制が緩和され、ストップされていた経済活動が始まっている。
その活動は人命を最優先するウイルス感染学者専門家の考えとは相反するものであり、既に韓国で見られるように必ずやしっぺ返しがあると思う。
しかしそうしたリスクを冒さなければ、資本主義経済が終焉するからである。
もっとも既に資本主義は、終焉しつつあると見る専門家は決して少なくない。
例えば、ドイツの著名な社会学者ヴォルフガング・シュトレークの『時間かせぎの資本主義ーいつまで危機を先送りできるか』では、資本主義は成長の低下、不平等の拡大、金融緩和での債務肥大で、最早何処にも解決策はなく、終息に向かいつつあると断言している。
また『絶望する勇気――グローバル資本主義原理主義ポピュリズム』や、『終焉の時代に生きる』など日本でも数多くの本で知られているスロバキア生まれの哲学者スラヴォイ・ジジェクは、ドイツ観念論に学び、マルクス議論へ発展させ、資本主義及び議会制民主主義の限界を指摘し、コミュニズム復権を唱えている。
4月22日フォーカスオンラインの「コロナ危機後の世界」の連載では(注3)、「ドアノブに触れることや人々にキスすることを禁止するような悲惨な時代では、資本主義に別れを告げるべきであり、世界経済はもはや市場メカニズムに無力にさらされてはならない」、そして解決策として「コロナウイルスは、新たなコミュニズムを見つけることを強いる」との発言を取り上げていた。

何れにしても、コロナパンデミックの第二波、第三波が予想され、さらには過激化する地球温暖化カタストロフのなかでは、現在のグローバル資本主義は機能不全に陥る可能性は高い。
尚今回の未来シナリオ3では、グロバルへの不信からローカルな素晴らしい社会が描かれているが、現実的には地球温暖化への対処は必要不可欠であり、次回の未来シナリオ4では、ローカルとグローバルのバランスをどのように取り、ポジティブな素晴らしい社会が描かれるか期待したい。

(注1)ニュートライバリズム
人々は(現代大衆社会とは対照的に)部族社会で生活する運命にあるというイデオロギー
https://www.evolution-mensch.de/Anthropologie/Neutribalismus

(注2)Cradle to Cradle
「揺り籠から墓場まで」デザインの大量生産、大量廃棄とは異なり、徹底した循環経済の原理
https://de.wikipedia.org/wiki/Cradle_to_Cradle


(注3)Die Welt nach der Corona-Krise (1)Kehrt sich jetzt die Globalisierung um? Corona-Pandemie erzwingt Umdenken
https://www.focus.de/politik/experten/gastbeitrag-von-frank-a-meyer-kehrt-sich-jetzt-die-globalisierung-um-corona-pandemie-erzwingt-umdenken_id_11894724.html