(391)“救済なき世界”をそれでも生きる(13)ドイツから学ぶコロナ以降の世界・未来シナリオ4.グローカリゼーションの弾力ある社会

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シナリオ4は、現在コロナ危機への対応で制限と緩和が錯綜して、未来シナリオが近視眼的になることを避け、2021年の未来から描いている。
そこではデジタル化が急速に進み、教育のオンライン授業から家庭の職場化まで、これまでの世界とは一変している。
解説(注1)に従えば、コロナ危機は市場の自己浄化を引き起し、グローカリゼーション(グローバルな利点とローカルな利点の推進)を急速に進め、食料などを含めた生活必需品はローカルな生産へと転換し、企業も世界分業体制から、製造から販売までのサプライチェーン化を進めている。
すなわち経済構造自体がフィルムでも述べているように、グローバルからローカルへと移行し、自律的で自立的なものになっている。
そこでは、近隣の週末の市から、地域での生産やオンラインショップが活況を呈し、解説では敢えてAmazonやAlibabaのオンライン小売独占が解消されたと述べるほど、これまでの社会構造を一変するものである。
さらに特筆すべきは、コロナ危機が単に身体の健全性だけでなく、環境、都市、政治、世界共同体の健全性へと問いかけが拡がって行き、健全性追求に歩み始めていることである。
そのような健全性追求の過程は、トランプの今年11月のアメリカ大統領選挙敗北やAfDの分裂という結果以外は殆ど述べられていないが、コロナや地球温暖化の問題が、グローバルにしか本質的に解決できないことから、試行錯誤を繰り返す中で辿ってきた有様が想像できる。
それはフィルムの最後でも描かれているように、コロナ蔓延の苦難の日々をバネとして、世界の市民がより強固な結び付きを創り出し、世界の包括的健全性を求めているからに他ならない。

そして今、ドイツの未来研究所が描く未来シナリオ4を日本の現状から眺めると、絶えず社会に包括的健全性が追求されてきたドイツゆえに、さらなる健全性が求められ、楽観的ポジティブな弾力ある社会が描けるのだと確信する。
日本においては、これから予想されるコロナ第2波や経済危機に対して相応に目が向けられいるが、長期的な未来シナリオに対しては全く描けていない。
もっともマスク不足を一つ取っても、現実の窮乏が自ずから生産形態を変え、これまでの中国での大量生産依存から、消費者市民の要望に沿った地域での生産に道を開き始めていることも確かである。
今回の日本のコロナ第1波は、欧米の国々のように厳しい制限なしにもかかわらず、欧米の10分の1以下であったことは幸いであった。
それは、アジアの国々が欧米と比較しても非常に感染者数が少ないことと、何らかの因果関係を感じさせる。
例えばコロナウイルスに関しては、アジアにおいて以前からインフルエンザとして慣れ親しんで来たことで、既に何らかの免疫を持っているというような関係、それは何れ明らかになるだろう。
しかし世界のコロナ感染者は500万人を超え増え続けており、楽観視は全くできない。
コロナ第2波は秋頃再び猛威を振るい始めるという厳しい予想もなされており、その際ウイルスも進化し、アジアの人々も何十万、何百万と感染者を出すこともあり得るし、若者の8割軽症も重症化割合が高齢者と同様になることさえないとは言えないだろう。
また新たな感染症の到来(例えばエボラウイルスが空気感染へと進化するような)、さらには地球温暖化被害が益々激しくなっていくなかでは、未来シナリオ4が描くように究極的には、自給自足の自立した地域がグローバルに繋がって、世界が一つになって立ち向かわなくてはならない。
コロナ以降も自国利益優先でそれができないなら、最早人類の未来はないだろう。
世界が一つになって立ち向かう場合、最も重要なのはこの未来シナリオが訴える健全性であり、身体の健全性だけでなく、環境から政治至る包括的健全性である。
しかしその健全性という言葉自体が、絶えざる成長を求める資本主義経済のなかで、搦め捕られているのも確かである。
そうした意味では、最近聞いた人類学者デヴィッド・クレーバーの世界市民への訴えは心に響くものがあり、絡め捕られている健全性を多様に解き放ってくれるだろう(下のアドレスで視聴可能)。

https://twitter.com/brutjapan/status/1256010447431577601

 

(注1)

https://www.zukunftsinstitut.de/fileadmin/user_upload/Zukunftsinstitut_White_Paper_Der_Corona-Effekt.pdf
4Adaption: Die resiliente Gesellschaft (適応:弾力性ある社会)を翻訳しておきます。

Die Weltgesellschaft lernt aus der Krise und entwickelt resiliente, adaptive Systeme. Gesellschaftliche Tiefenströmungen in Richtung Postwachstum, Wir- Kultur, Glokalisierung und Post-Individualisierung, die bereits vor der Krise existierten, werden durch die kollektive Corona-Erfahrung von der Nische in den Mainstream katapultiert.・・・・・・・・・・・。

世界社会は危機から学び、弾力性のある適応システムを発展させている。ポスト成長、私たちの文化、グローカリゼーション、ポスト個人主義の方向への深い社会的潮流は、危機の前からすでに存在しており、集団的コロナ体験を通じてニッチから主流に躍り出ている。コロナウイルスは、市場の自己浄化を引き起こした。私たちの商品の生産地に関する集団的な反省が、新しい消費パターンを活気づけている。グローバルな生産と販売の繋がる鎖の欠損が、国内でのオルタナティブものへの再発見へと導いた。店頭販売、地域の製品、サプライチェーンが活況を呈し、これにより、オンラインとオフラインの賢明なバランスが生まれただけでなく、何よりもグローバオルタナティブル化した小売チェーンの巧妙な取り扱い、ローカルとグローバルのトレードのバランス、そして(仲介者なしの公正な)直接取引形態が盛んとなり、それ以来週末の市、地域の生産者、地元のオンラインショップが活況を呈している。 AmazonやAlibabaなどのオンライン取引の独占が解消され、グローバルな生産チェーンへの依存度が低く、ローカルでより迅速に入手できるより多くの小規模の担い手が意のままにしているg。社会は大量消費と使い捨ての考え方から離れて、より健全な経済システムへと移行している。

コロナは、新しい全体論的な健全性ビジョンを実現した。健全性はもはや、個人の身体と行動にのみ影響を与えるものとは見なされていない。むしろ健全性はより包括的に見られ、環境、都市、政治、世界共同体、これらはすべて、人間の健全性にとって重要な要素である。世界の健康と個人の健康は一緒に考えられている。この新しい考え方は、健康システム全体を変革し、政府、都市計画担当者、企業が協力して、すべての人に健康的な環境を創り出している。
この文脈では、リアルタイムで匿名で健康データを共有するために、デジタル健康アプリの使用は当然で、 健康予報は疫病の可能性などの正確な予測を行うことができる。それは誰にとっても明らかで、個々の健康はもはや環境や社会から切り離されているとは見なされない。
グローバルリスクは、グローバルネットワークで行動できる超国家機関を要請する。例えばコロナ危機は、政治力のバランスを必要とした。国民国家の関連性は低くなっているが、都市と超国家当局はますます重要になってきている。すなわち地方レベル(都市、地方自治体、市長など)がグローバル組織に直接リンクするグローカリゼーションの再編成が重用だ。そうすれば、地域の問題を迅速かつ創造的に解決し、グローバルなリスクをより迅速に認識して対処することができる。全体的に見て、人類はパンデミック以来グローバルな共同体として、挑戦は一緒に解決しなければならないものと、より強く認識した。何故なら疫病も気候危機も国境で止まらないからだ。それは、連帯と隣人とだけでなく、国際的グローバルレベルの私たちの文化における価値観の根本的な変化で、グローバルなアイデンティティを創り出している。
コロナ危機は、ビッグデータ、予測分析、早期警告システムの超国家的な使用において具体的な学習へと導いた。現在人工知能は、初期段階でパンデミックを抑えるだけでなく、国境に心をわずらうことなく、すべての起こり得るリスクを最小限に抑えるように、より有益に使用されている。現在の健康データのグローバルな交換により、リスクを早期に特定できるよう、誰もが健康追跡装置(スマートフォン)を備えている。多数の機能しているネットワークで相互に継続的に学習することで、グローバルな弾力性が創られている。
この新しい精神はまた、メディア環境に大きな影響を与え、有益なジャーナリズムが警告主義や偽のニュースを広めるのではなく、解決策に焦点を合わせている。それは、危機への建設的な対処方法を知る弾力ある適正社会を維持するにも寄与している。