(398)救済なき世界”をそれでも生きる(20)・ベックのリスク社会(4)・コロナ危機到来の日本を考える(7)日本を危機から救う具体的方法論3.ベーシックインカム

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今回の議論の冒頭でも、ベックは「それ故、人は近代とは何であるか自ら問わなくてはならないでしょう」、「それは、何が近代を引付けるかという点であり、本質的に発展の認知であり、決定を可能にするものであり、宿命的にするものではありません」と、リスク社会を生み出した近代を問うている。

そこには危機を生み出した近代を、解体し、再構築するというポストモダンの概念では対処できず、あくまでも近代を内省し、問い直すことで解決して行こうというリスク社会への強い思いが感じられる。

それ故にベックは、前回述べたように福島原発事故直後のインタビューで、「私たちは、空間的、時間的、または社会的に制限することができない新しいタイプの危険に取り組んでいます。その発生確率は非常に低いとしても、どのような状況でも発生してはなりません」と断言しているのである。

しかしベックはあくまでもポジティブであり、エネルギー転換を示唆して、「リスクは別の現代への新しい道の展望も提供します」と述べている。

そのようなベックの姿勢は、今回の後半の議論でも見られ、NZZのジャーナリストが過去の大恐慌を踏まえて、現在の金融危機をネガティブに問い正すのに対し、「まさにヨーロッパとドイツでは、同時にそれが最初の議論に戻り、産業化の勝利行進基づいた温和な状況で副作用が世界中に引き起されています。それに私たちは最早いかなる解答もありません。しかしそれこそが注目すべきパラドックスです」と、ネガティブな副作用こそ未来を切り開く鍵であると、果敢に立ち向かうベックの真骨頂を感ぜずにはいられないか。

 

 日本を危機から救う具体的方法論3

ベーシックインカム

 

前回ドイツ市民のシンクタンクとも言うべきドイツ経済研究所が、コロナ禍での困窮者救済のため、ベーシックインカムの本格的な調査を開始したことを述べたが、今ではその報道が世界に拡がり、救済なき世界で福音のように現実味を帯びて来ている。

具体的にはドイツ経済研究所が主導するもので、研究のために1,500人のドイツ在住の被験者が募集され、3年間に渡り月額1200ユーロの給付金の支給を受ける120人と、残りの支給を受けない人1,380人のデータ比較が為される。

実際の給付開始は2021年春で、すべての参加者は半年に1度、雇用、時間の使用、消費者の行動、価値観、健康という6項目のアンケートに回答することが求められている。

このようなベーシックインカムの本格調査がなされるのは、近年ベックの唱えるリスク社会が益々現実化し、救済なき世界の喫緊の救済策として求められているからに他ならない。

実際リスク社会の概念を築いた社会学ウルリッヒ・ベックは、ベーシックインカムを単にリスク社会の救済策として考えているだけでなく、人類をあらゆる束縛から解放する切札と考えていた。

それは、日刊シュピーゲル紙(DER TAGESSPIEGEL)の2006年11月30日の「失業は勝利である」というタイトルで、「社会学ウルリッヒ・ベックは、ベーシックインカムで人類の束縛からの解放を望む」のインタビュー記事で詳しく述べられている(注1)。

そこでベックはベーシックインカムについて、「個人的に私は、月800ユーロが誰にとっても適切だと思います」、「失業は敗北ではなく、勝利です。生産性の向上が、人間の労働を最小限に抑え、最大の繁栄を達成することを可能にします。完全雇用の代わりにベーシックインカムの自由、–それが今日のオルタナティブです」、「最早雇用主から指図される必要がなく、公正な報酬を自分で交渉できるようになるため、多くの人が逆に働きたいと思うでしょう。彼らは基本的な収入を持っているので、危険にさらされせん」、「誰もやりたがらない「安い」仕事は必用不可欠な仕事であり、最早安い賃金で誰も引受ないので、高賃金になります。これは、人の嫌がる仕事する低賃金労働者を起業家にもする、ベーシックインカムの特殊性です」、「少数は怠惰になるでしょう。しかし彼らは既に今日そうしており、因果関係はなく、働きたい者が大多数であり、今日よりもはるかに自由かつ自己決定で行うことができるでしょう」、等々(下の記事翻訳参照)

 こうしたベックのベーシックインカムに対する忌憚なき発言からは、彼がベーシックインカムをリスク社会の切札と考えていたことが伺える。

もしベックが2015年70歳の若さで急死しなかったら、ベーシックインカム論をリスク社会の切札として大成させ、このコロナ禍で導入実現の先頭に立っていたように思える。

もっともドイツでは既に機が熟しており、この数年で支持者が倍増した緑の党、及び政党リンケは概ね導入実現に支持を示しており、来年2021年の連邦選挙の争点になることはほぼ確実視されている。

既に国民は2019年のドイツ経済研究所のアンケート調査で、国民の過半数が賛同していることから、コロナの進展次第で2021年の実現も有り得るシナリオである(注2)。

そして日本においても、今年3月までは国民全てへの10万円給付は全く予想だにされなかったことから見て、9月からコロナ進展次第で日本においてもベーシックインカム導入は有り得ないシナリオではない。

それは、極々最近、日本を危機から救う突破口になり得ると思えて来ている。

もちろん本質的に日本の危機を救うには、繰り返し述べているように、戦後のドイツに学び、司法を国民にガラス張りに開き、行政訴訟を誰もが容易く求めることができる仕組に変え、官僚支配から官僚奉仕に転換して行くことだと確信している。

しかし、福島原発事故の現実が語るように、危機を手段として焼け太りする仕組みが常套化しており、たとえ日本沈没が始まったとしても、その転換を正攻法で望むことは難しいと、極々最近の世の反応を見るにつけても感じている。

そうしたなかで、現在の経済優先のコロナ対応では年を越えない前に逆に行き詰まり、困窮した大半の国民がベーシックインカム導入を大合唱するシナリオも、私には見えて来ている。

確かにそのようなシナリオは本来の意図とは異なるものであるが、その実現によって暮らしの不安が解消され、生きがいある仕事に取り組めるようになれば、それを維持するためにも、開かれた公正な社会が求められるようになることも確かである。

またベーシックインカムで毎月最低限の暮らしを営むお金が、国民一人一人に無条件に支給されれば、生活保障審査などの膨大な仕事だけでなく、福祉、教育、環境といったお上の要の仕事を簡素化でき、殆どお上の裁量を必要とせず、自ずと官僚奉仕の時代が到来する。

財源は国民一人あたり月額7万円を支給するには、国家予算にも匹敵する100兆円の巨額な財源が必要であるが、それはベックが前述のインタビューで述べるように、「(新自由主義を放置すれば)社会の下層3分の1を絶望、犯罪、暴力に追い込みます。これはまた、何かを所有している人にとっても不快でしょう」が解決の鍵を握っている。

特に最近の日本では格差が固定化しており(日本の100万世帯が億万長者)、例えば戦後の分かち合いの時代のように、所得税最高税率を65%戻すとか、或は贅沢品への物品税復活(注3)など、国民の大部分が合意できる方法はいくらでもある筈だ!

 

(注1)

https://www.tagesspiegel.de/themen/gesundheit/arbeitslosigkeit-ist-ein-sieg/780852.html

 

(注2)

https://www.diw.de/de/diw_01.c.618749.de/publikationen/wochenberichte/2019_15_1/zustimmung_fuer_bedingungsloses_grundeinkommen_eher_bei_jung___ser_gebildeten_menschen_sowie_in_unteren_einkommensschichten.html#section1

 

(注3)89年の消費税導入で無くなった物品税は、例えば普通自動車が23%であったように、裕福者への贅沢品への課税は著しく高く、食料品などの生活必需品への課税は無かった。

 

(注1)のインタビュー記事

ベックさん、CDUも現在、無条件のベーシックインカム、すなわちすべての人のための基本的財政支援に、取り組んでいます。例えば、チューリンゲン州のディーター・アルトハウス首相は、「連帯市民手当」の導入を表明しています。それは市民に何をもたらすでしょうか?

年齢や社会情勢に関係なく、誰もが月に一定額の資金を受け取り、基本的な生活を確保するのに役立ちます。存在の単純な基本的なニーズに関するすべての懸念は、このように一気に排除されます。

この金額はいくらですか?

600から1500ユーロまで、さまざまな概念があります。個人的に私は、月800ユーロが誰にとっても適切だと思います。18歳の誕生日までは、親が子供のベーシックインカムを管理者として管理するでしょう。

この考えはユートピアではありませんか?

いいえ、現実的なもので幻想ではありません。幻想は、私たちの社会がまだ夢見ている完全雇用です。私たちは、誰もが仕事を持ってるように、再び景気の活気づくことだけを思っています。高い失業率に対する20年間の闘争の後、私たちは自分自身に疑問を持たなければなりません:

どのように私たちは仕事なしで有意義な生活を送ることができますか?

まさに、失業は敗北ではなく、勝利です。生産性の向上が、人間の労働を最小限に抑え、最大の繁栄を達成することを可能にします。完全雇用の代わりにベーシックインカムの自由、–それが今日のオルタナティブです。

ベーシックインカムが導入されると仮定して:いったい誰が特に働きたいと思うのでしょうか?

最早雇用主から指図される必要がなく、公正な報酬を自分で交渉できるようになるため、多くの人が逆に働きたいと思うでしょう。彼らは基本的な収入を持っているので、危険にさらされせん

そして、誰もやりたがらない「安い」仕事はどうでしょうか?

誰もやりたがらない「安い」仕事は必用不可欠な仕事であり、最早安い賃金で誰も引受ないので、高賃金になります。これは、人の嫌がる仕事する低賃金労働者を起業家にもする、ベーシックインカムの特殊性です

もう誰もが、働くことを望まないようになるのではないでしょうか?

確かに少数の人はテレビの前に食らい付き怠惰になるでしょう。しかし彼らは既に今日そうしており、因果関係はなく、働きたい者が大多数であり、今日よりもはるかに自由かつ自己決定で行うことができるでしょう。

ハルツIVはベーシックインカムの前段階であると考える人もいますが。

それは間違っています。ハルツのコンセプトは後ろ向きです。それは仕事の管理を拡大し、重要な問いをを回避します。すなわち自動化の巨大な可能性と人々の創造性の中で有益なシステムをどのように創造するかという問いを回避します。

それにもかかわらず、人々は仕事を持っていないと、辛いのではないでしょうか?

問題は失業ではなく、無収入であることです。すなわち仕事と収入の間のリンクです。有給の仕事はほとんど意義を持たず、経済的な安心感もありません。しかし、教育、育成、環境の分野では、多くの人々が自分の存在を確保することを強いられなければ、多くの人々が引き受けたいと思うやるべき仕事がたくさんあります。ベーシックインカムは、強制仕事から有意義な仕事へ、2倍の自由を私たちに与える筈です。

では、なぜ政治家はずっと前にこの方法を採らなかったのですか? 

私たちの存在の唯一の意味の源としての就業労働の話は、支配の道具です。私たちは、1日の時間リズム、トレーニング、思春期から成人への移行などすべてを、に向けています。個人は、主に就業労働によってその地位が決まります。だからこそ、自分自身に適応を強制するのです。この自らの強制がなくなれば、最早自由をコントロールできなくなると、多くが恐れています。仕事がなくなると、雇用社会の男たちの多くは力の基盤を失います。

政治家はそのコントロールを畏怖していますか? 

残念ながら外見上に過ぎず、政治家は、住民の大半が怠惰で不本意であると思っています。それ故ベーシックインカムは資本主義に合っています。それは巨大な経済的移動性、生産性と創造性を発揮するでしょう。生産プロセスを抑制する多くの障害が排除されます。

新自由主義思想家もそれを望んでいませんか?

ベーシックインカムの支持者の大きな連なりがあります。最近亡くなった「新自由主義の父」ミルトン・フリードマンから社会主義者アンドレ・ゴルツ、アーチリベラルなダーレンドルフ卿、または東ベルリンの社会学者ヴォルフガング・エングラーに至るまで。彼らは、資本主義が社会的になる方法を示しています。すなわち収入に依存しない仕事で、自己決定することで。

ベーシックインカムが経済に与える影響は何でしょうか?

それは経済のための正当性の新しい基礎を作成します。今日の巨大企業は、逆説的な状況に置かれています。経済行動によって、巨大企業は国家と全従業員に対して不誠実に行動しています- そしてその逆もまた同様です。経営者の愛国心を誇るには、ほとんど助けになりません。このためには、まずドイツの国家レベルで、行動する経営者を育成する必要があります。ベーシックインカムは経営者を、国民収入の雇用を安定するための強制から解き放ちます。

ベーシックインカムはどのように賄われるべきですか?

ベネディクタス・ハードープによる贅沢品への物品税モデルが理にかなっています。これは同時に資本主義を促進し、制御するものです。税金はどこで入ってくる可能性があり、商品が販売されている場所だけでありません。このようにして経営者は解き放たれ、公益に寄与しています。一般的には、多くの収入を得ている人が、直接税金を払う必要があります。

起業家ゲッツ・ヴェルナーは、物品税が資金調達のために完全に十分であるという考えに異議を唱えていますが。

私は早い段階でこれについて自ら述べたくありません。私たちは議論の始まりに過ぎません。いずれにせよ、賃金付随コストが下がる可能性があります。それが最初のステップです。

政治はベーシックインカムに対してどのように見ていますか?

緑の党自由民主党に支持の可能高いと思います、もっともFDPは驚くほど完全雇用固執していまが。社会民主党SPDは難しいでしょう。ベーシックインカムが、労働党の権力地位を危険にさらすからです。キリスト教民主同盟CDUには、カート・ビーデンコフのような幾人かの異なる賛同思想指導者がいますが、残念ながらドレスデンの連邦党大会が示したように、ベーシックインカム導入に消極的です。しかし、以前と同じ方法で(現在の新自由主義を)続ければ、社会の下層3分の1を絶望、犯罪、暴力に追い込みます。これはまた、何かを所有している人にとっても不快でしょう。