(405)救済なき世界”をそれでも生きる(27)・コロナ感染拡大で見えて来た世界(5)公共放送視聴投票でベルリン市民77%導入賛成のベーシックインカム

公共放送の投票でベルリン市民77%が賛成するベーシックインカム

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2020年11月17日ベルリン市民の公共放送rbb(公共第一放送ARDに属するベルリン州ブランデンブルグ州地区の公共放送)が視聴投票シリーズ番組の「私たちは議論しなくてはならない・・・ベーシックインカム」で、視聴していたベルリン市民の77%が導入賛成に投票したことは画期的である。

そのような公共放送で(条件なし)ベーシックインカムが取り上げられたこと自体、それを求めることが高まって来ており、上の動画で見るように、与党CDU議員クリスチャン・グラフの問いかけへの疑問に対して、司会者は躊躇なく議論の必要性を強調していた。

それはベーシックインカムに反対している与党キリスト教民主同盟CDUや、連立政権パートナーの社会民主党があくまでも完全雇用に拘り反対していても、ベーシックインカムを提唱するのはリンケだけではなく、緑の党ベーシックインカム導入を求める声が湧き上がっているからである。

実際緑の党は11月22日に開かれた党大会で、執行部が2021の連邦選挙で緑と赤(SPD)政権誕生の可能性が高いことから、SPDに配慮して見送りを決めていたが、突然決議提案がなされ、代議員約62%の賛成で、ベーシックインカム導入を政党の政策目標に掲げることを決定している。

逆に言えば、既にそのような状況が把握されていたからこそ、公共放送でのベーシックインカム導入議論と、番組後半から開始された視聴者賛否投票がなされたと言えよう。

そして議論後の最終視聴者投票結果では、ベーシックインカム導入支持者が77%に達し(反対20%)、導入を待ち侘びる圧倒的市民の思いが伝わって来た。

それは、基本法に沿い緊急の困窮者を救える仕組みを持つドイツにおいても、グローバル資本主義の進行で社会の格差が年々歴然とし、コロナ禍で大部分のドイツ市民の暮らしに重く圧し掛かって来ているからである。

生活困窮者を緊急に救う措置がドイツにあるのは、最低限の暮らしを営むことは人権であり、その人権が守られなければ、あらゆる権利がないがしろされることが理解されているからである。

すなわち健康、教育、年金受給の権利から、障害者やLGBT(レスビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスジェンダー)の人たちの生きる権利などに至るあらゆる権利が尊重されなくなるからである。

 

日本でもベーシックインカムが必要な理由

 

日本においても憲法25条で、“健康で文化的な最低限の生きる権利”を明記しているにもかかわらず、生活困窮者に対して緊急措置の仕組みがなく、生活保護を申請しない人は見捨てられ、申請者にも厳しい資産審査があり(例えば暮らしに必要な自動車所有は難しいなど)、現在のコロナ禍で機能しているとは言い難い。

実際そのような困窮者が激増していることは、日々のニュースや特集番組で伝えられいるが、それを見るにつけても、この国が生活困窮者の人間らしく生きる権利をないがしろにしていることを感ぜずにはいられない。

事実12月5日に放送されたNHKスペシャル 「コロナ危機 女性にいま何が・女性の「自死」急増の背景にある貧困問題」ではその実態が浮き彫りにされ、特に弱い立場にある女性を自殺死に追い込む危機が描かれていた。

また12月1日に放送されたクローズアップ現代「“パパ活”の闇 コロナ禍で追い詰められる女性たち」では、そのような弱い立場にある女性が“パパ活”という個人売春に追い込まれる実態が描かれていた。

番組では“パパ活”を斡旋することで毎月100万円以上の手数料を稼ぐ男性に密着取材しており、女性の危機を利用して稼ぐ男は、「ただ、嫌ならやめればいいっていう話なので。こういうことをしなくても、女性が生活できる世の中になるのが一番ですけど、僕一人の力でそれを変えることは難しいので。今、“パパ活”なんていう、ちょっとライトな言葉になっていますけど、一昔前だったら、“援助交際”とか、“愛人”なんていう言葉で。そういう言葉がなくならないし、なくなることはもう、僕は無理なんじゃないかと思ってて、そこの後ろめたさはないですね。」と述べていた。

それはまさに、危機を利用して富を肥大させる現在のグローバル資本主義、すなわち一握りの人たちが危機に投資して、弱い国、弱い人、そして回り回って99%の人たちから富を奪う新自由主義を象徴しているように思えた。

また11月29日放送されたNHKスペシャル「ある、ひきこもりの死 扉の向こうの家族」では、80歳代の高齢者が50歳代のひきこもりの子供の面倒を見る悲惨な8050問題とも呼ばれている、全国推定61万人にもおよぶ中高年引きこもりの実態を描き、当事者や家族への聞き取りを通してその原因を追求していた。

そこでは、2年前の冬に市の支援を断り10日後にゴミに埋もれて餓死していた男性を中心に、現在の過酷な競争社会が生み出した負の側面を描いていた。

亡くなった男性は56歳の牧岡伸一さんで、生前早く亡くなればいいとさえ思ったことのある弟二郎さんが、大量のごみを遺品整理するなかで、書き残したメモから真剣に生きようと悩んでいた兄を見つけ、かけ外のない兄を失った悲しみが溢れ出していた。

メモには、「健康さえないがしろにして、働くだけ働いて、頭のなかはからっぽなのだから」と書かれており、伸一さんが引きこもる原因が浮かび上がって来た。

弟の言では、出歩いて人と話すことが好きだった伸一さんが、最初の仕事で、ノルマが要求される非正規の訪問販売で売り上げが上がらず、2ヶ月で職場を追われ、その後就職勉強に努力して医療事務資格を取り、医療事務の正規の仕事に就くも、当直や深夜残業などの激務で体調を崩し、仕事を辞め、引きこもったことが語られていた。

それは、ノルマを果たせない人たちが切り捨てられていき、自己責任が問われる生産性優先の現在の社会では、誰にでも伸一さんのように、引き込まなくてはならない可能性のある明日が見えて来る。

現在の社会が弱い立場のパパ活や引きこもる人たちを、強い人たちがより活躍するために仕方がないと放棄するなら、それは誤った社会であり、誰の目にも弱い立場の人たちを支援しなくてならないと思うのは、現在の首相も、日本政府も同じであろう。

それ故、これからも様々な支援策が入れ替わり出されるだろうが、そこには様々な条件が付けられ審査ある支援策では、このような人たちを救うのは出来ないと言っても過言でない。

それ故に、日本でも今(条件なし)ベーシックインカムが必要であり、真剣に向き合うことが出来れば、殆どの国民はベルリン市民のように賛成するであろう。

それが実現すれば、真面目過ぎ、不器用、発達障害などの理由から生産性優先の社会では撥ね除けられる人々が解放されるだけでなく、全てが連帯して幸せになれる社会への発進へと変わり得る。

財源に関しては前回示したように、5%の裕福層にかつてのように富の再配分の所得税強化を求めれば、95%の国民は潤い、日本においても毎月国民一人あたり12万円のベーシックインカム導入は可能である。

それは現在のような自己責任を求める生きにくい社会を変え、究極的には地球温暖化を克服し、ウイルスとも共生できる世界に変えて行くだろう。