(406)救済なき世界”をそれでも生きる(28)・コロナ感染拡大で見えて来た世界(6)ベーシックインカム(BI)導入が生きがいを創り出す

ドイツの職人(マイスター)はベーシックインカム導入でどうなるのか

 

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ベルリン地域の公共放送rbbの視聴者投票シリーズ番組「私たちは議論しなくてはならない・・・ベーシックインカム」の第2回では、パン工房の見習制度がベーシックインカム(BI)導入で存続できるかの視点で議論されている。

パン職人のライナーは、パン工房では深夜作業開始で、見習の初めは620ユーロという低賃金であり、1000ユーロのBIが貰えれば、存続できないのではないかとの危惧からネガティブである。

これに対して市民寄付で自ら600人以上のBIを実践しているボーマイヤーは、BI導入で見習の人たちは生活が安定することで、お金に縛られることなくやりたい仕事が選べるようになるとポジティブである。

与党CDU議員のグラフは、人々が一生懸命働き、税を払うことは尊いことであり、BI導入はそうした勤勉さを損なうと考えており、BIより減税であると持論を主張し、踏み込んで議論に加わろうとせず、あくまでもネガティブである。

また仕立洋裁工房を営むメルツは、BI導入で手工業の職人たちは安心して好む仕事に打ち込め、働くことに幸せが感じられようになるとポジティブである。

しかし現在のドイツの職人たちはコロナ禍で浮き彫りにされるように、低賃金で過酷な労働が強いられる見習の存続は難しく、マイスターによる伝統さえ失われようとしていることも確かである。

 

 BI導入が生きがいを創り出す

 

既にブログで述べたように、2004年マイスターの国として世界に名高いドイツが、新自由主義の進展で、衛生管理や安全性が求められる分野を除き、開業に必要なパン屋から理髪師に至るまで大半の手工業マイスター資格を廃止した。
すなわち技術よりも儲け、質よりも量への追求が加速され、マイスター資格を開業条件や生産条件から取り去ることで競争強化を促したのである。

それ故私がドイツで暮らした2007年から2010年頃は、街の至る所で倒産したパン屋を見かけ、スパーでは量産された驚くほど安いライ麦パン(1キロ程のミッシュブロート)が1ユーロ以下で売られていた。

最初私はそれを喜んで買っていたが、数少なくなったマイスターのパン屋で当日特価ライ麦パンを味わってからは止み付きとなった。

値段は倍もするが、ほんのりとした酸味と噛み応えある味の虜である。

そうしたパンの美味しさがわかるベルリン市民は、焼き立ちのパンを買うために並び、まさにドイツの素晴らしい伝統文化であり、なくしてはならないものである。

しかし見習制度が余りにも過酷、低賃金で、デジタル化とオートメーションで量産するパンも年々マイスターの造るパンに近づき、何れドイツのマイスター制度がなくなるとさえ言われていた。

それ故に見習やマイスターたちが誇りを持って、安心して仕事打ち込めるためにも、BI導入は必要である。

それは美味しいパンが暮らしに不可欠であり、市民がマイスターのパンを愛し必要としいるからであり、市民に愛され必要とされているからこそパンを造ることが見習やマイスターの生きがいとなっているからである。

ポストコロナの時代において、人工知能によるデジタル化、オートメーション化の急速な普及は避けられず、多くの職場はそれに奪われて行くだろう。

しかしそれは人類にとって新たなチャンスであり、BI導入は失業で困窮する人たちを救うだけでなく、お金から解放されて、生きがいの持てる職業を自由に選択できる時代を創り出すこともできよう。