(412)何故市民はコロナ禍で扇動されるのか?(最終回)国家が陰謀するとき・ドイツ最新ニュースに学ぶ(5)

何故市民はコロナ禍で扇動されるのか?(最終回)

国家が陰謀するとき

 

フィルムで見るように、ノルトライン・ヴェストファーレン州の内務大臣であるヘルベルト・ロイルは、陰謀の神話とイデオロギーの乱用を民主主義への脅威の高まりと見なしている。

すなわちコロナ禍で浮き彫りにされているように、グローバル資本による益々拡大していく格差の問題があり、それを民主主義の政治が解決できていないところにある。

そうした大衆の不満を利用したのが、ドイツの陰謀論者が唱えるビル・ゲイツ陰謀論に他ならない。

番組の視点としては、そのような現在の陰謀論反ユダヤ主義と結びついたナチズム(国家社会主義)再来として捉え、民主主義の危機を警鐘して終わっている。

しかし私にはドイツで繰り返されて来たナチズムへの傾斜だけでなく、陰謀論は極右過激派を遥かに超えて国家レベルで為されているように思える。

例えば現在のポーランド右派政権は、難民は伝染病や禍を運んで来るという陰謀論を利用して、EUの庇護権に基づいた連帯的難民引受拒否を掲げて、リベラル派から政権を奪い取ったからである。

また今年2021年は、1991年の湾岸戦争から30年であり、先日のNHK時論公論でも明言していたように、湾岸戦争に踏み込ませた2つの根拠は、「イラク軍の石油施設破壊による油まみれの水鳥」、「イラク軍の病院での新生児殺し」であり、両方とも武力行使するための陰謀論であったことが世界で実証されている。

さらに2003年のイラク侵攻も、イラク大量破壊兵器保持が武力行使するための国家の陰謀論であったことは、既に世界が共有する事実である。

そのような国家の陰謀論は、シリア戦争やウクライナ戦争でも見られ、コロナ禍の現在にあってはトランプ支持者が民主主義の象徴である国会議事堂を襲撃するほど、危機の時代に突入していると言えるだろう。

最後にこの番組を評価すれば、制作スタッフは極右過激派の攻撃にさえ耐えて、コロナ禍陰謀論の背後に迫っており讃えたいが、国家陰謀論についても専門家に語らせれば、現在の民主主義危機の深淵さが一層感じられたように思う。

 

ドイツ最新ニュースに学ぶ(5)

 

 

1)アメリカ弾劾裁判(無罪判決確実のなかで敢えて為された理由)(ZDFheute2月9日)

この放送でも述べているように、共和党の殆どの議員が反対するなかで、50名の共和党上院議員17名がトランプ弾劾賛成に回ることはなく、勝ち目のない戦いを敢えて為した理由を考えなくてはならないだろう。

ZDFの米国特派員のElmer Theveßenは、その理由に対して民主党は2つのシグナルを送りたかったと述べている。

一つは、今回起こった事件が憲法に基づくのか?、そしてトランプは大統領職にないとしても、責任がないのか?というシグナルである。

もう一つのシグナルは、民主主義がどれほど深淵に近づいたことを示すことである。

私自身も今回民主党が2回も弾劾裁判敗訴を覚悟して、世界に再度問うたことは意義あることだと確信する。

何故ならトランプ政権の4年間は民主政治を否定したものであり、今回の選挙敗北を支持者を使って奪い取ろうとした事実を再度世界に問うことは、恐ろしい時代の幕開けを警鐘するからである。

それと同時に多くの大衆が、トランプの「戦わなければ、私たちの国はない」という要請で国会議事堂に集まり、襲撃したことは脅威であり、一歩間違えれば米国独裁国家を誕生させた危うさである。

その原動力は、トランプのグローバル資本主義に真っ向から反旗を翻した保護主義であり、それがアメリカ市民の半数近くの絶賛的支持を造り出したことを、バイデン民主党政権、及びソ連、中国を含めた世界の資本主義国家は熟慮しなくてはならないだろう。

 

2)ドイツ再びロックダウン延長(ZDFheute2月11日)

 

ドイツのコロナ感染は順調に下がって来ており、1日の感染者数や住民10万人の7日間の感染率も1か月前に較べ、半分以下に下がって来たことから、ロックダウンから自主制限を期待する声が高まっていたが、ドイツ政府はさらに1か月ロックダウンを継続する厳しい措置を採った。

このような厳しい措置を継続する理由は、翌日に為されたメルケルインタビュー「コロナ対策の展望と反省」で明らかにしている。

 

3)メルケルインタビュー「コロナ対策の展望と反省」(ZDFheute2月12日)

 

実際にはこのインタビューは12分間渡って、国民の求める質問がメルケルお気に入りのZDF報道女史マリエッタ・スロムカを通して、国民の理解を深めるべく和やかになされている(注1)。

このインタビューの第一のポイントは、コロナパンデミックの展望であり、このままコロナは終息に向かうのか、そしてコロナパンデミック第三波があるかである。

メルケルの回答は、まだコロナ渦中にあるが、この3週間半で1日の感染者数及び感染率は半減しており、このままロックダウン制限を守って行けば、3月1日までには解除基準の感染率(住民10万人の7日間の感染者数)50以下にできると述べている。

そして第三波なしで乗り越えれるかは、現在の賢明で慎重な開始ステップにかかっているとし、3つの側線(ストランド)が開始されるのは感染率35以下が2週間以上継続されなくてはならないと明言している。

第二のポイントは、現在世界で普及しているワクチンはドイツのベンチャー企業で生み出されているにもかかわらず(開発は米国ファイザーとの共同)、12月終わりから始まったドイツでのワクチン接種が余りにも遅く、ワクチン供給が各地で不足している現状と批判を踏まえて、お金が関係しているかの質問である。

メルケルの回答は、お金の問題ではなく、単にコミュニケーションの誤りとし詳しく語らなかったが、現在接種加速に努めており、3月末、遅くとも4月には全てがワクチン接種できるだろうと自信を持って述べている。

(この背景にはワクチン供給注文が、連帯を重んじてEU注文であり、注文量にもEUのミスがあり、さらに実質的に米国への供給が優先されるなどの事情には触れず、接種の加速で批判は解消されることを強調している。それは2月からドイツ国内マールブルグでワクチン生産が始まり、大量に供給できる自信から来るものであろう。実際1月の終わりは200万を超えた程のワクチン接種が、2月14日の発表では414万を超えており、急速に加速し始めている)。

そして第3のポイントは、全ての制限解除の条件として、発生率35が2週間以上継続すると言う恐ろしく厳しい基準を打ち出した理由である。

それはコロナ第二波が夏の終わりに始まったにもかかわらず、秋の期間は躊躇して11月まで第一波のように行動制限に踏み切れなかった反省を吐露し、隣国のチロル地方南アフリカ変種コロナ感染が猛威を振るう中で、何としても第三波なしでコロナ終息を成し遂げようとするメルケルの思いが感じられた。

(注1)

https://www.zdf.de/nachrichten/heute-journal/videos/merkel-interview-corona-video-100.html