(417)ドイツ最新ニュースに学ぶ(10)・ワクチン接種ルーレット(5)

勇気あるメルケルの撤回と謝罪(ZDFheute24日)

 

ZDFの解説によれば、3月23日に行われた連邦及び州首脳会談で第二波のようなコロナパンデミックを避けるために、ロックダウン規制をより強化し、国民にとって重要な4月1日から4月5日までのイスター(復活祭)を、4月1日4月と3日を休日とする決定であった。

すなわち賑わいが予想されるイスター5日間を、店舗などを閉じる厳しい規制休日として、コロナ第3波の防波堤とするものだった。

この決定に対して、連邦議会、経済界、市民からの批判が高まるだけでなく、既に準備が始まっているイスターを取止めることで、店や企業への保証など様々な問題が浮上した。

そのためメルケル首相は、差し迫った時間では対処できないと判断し、翌日の議会で進退をかけて謝罪したのであった。

議会では、野党のFDP(自由民主党)やリンケ(左翼党)はメルケル首相の信任投票を求めたが、緑の党女性代表カトリン・ゲーリング・エッカルトは、「誤りを認めることは尊敬に値するEinen Fehler einzuräumen, verdient Respekt」と述べ、信任投票をすることは、決議さえされなかった。

経済界はこのメルケルの謝罪決断を大いに評価し、自動車産業会長ヒルデガード・ミュラー女史は、「誤りを認めることは、(メルケル首相)の偉大さの徴だと思うIch finde es ein Zeichen von Größe, wenn man Fehler eingesteht」と述べていた。

また各州首脳も、会議で皆で決めことでもあるのに首相が進退をかけて謝罪したことを評価し、バーデン・ヴュルテンベルク州のウィンフリード・クレッチマン首相(緑の党)は、「このイニシアチブに対して、再び首相に大きな敬意を払いたいnoch mal meinen großen Respekt für diese Initiative zollen」と述べている。

このようにメルケル首相の進退をかけた謝罪は、非難した側からも大いに評価され、新たな連帯感さえ生み出している。

それこそが戦後ドイツが採って来た、「過去に目を閉ざすもの・・・」が語るように、・過去を真摯に反省し、未来を創る姿勢である。

(それに較べ日本は過去の“誤り”を自虐史観と戒め、森友問題に見られるように、至る所で漏れ出して来る“誤り”を、改ざんしてまで無謬神話を貫こうとしている)

もっともメルケルが誤りと許しを請うたものは、イスター規制自体の誤りというより、国民の待ち望んでいたものを奪うには、余りにもコンセンサスがなかったことへの誤りである。

それ故イスターに対しては、市民自らの自粛を懇願している。

また28日のARDでのインタビューでは(下のアドレス参照)、コロナパンデミック第3波を克服する決意と責任が感じられた。

具体的には、今回のコロナ変異種はより攻撃的で、より感染速度がより速く、より致死率高く、「基本的に新たなパンデミックの始まりである "Wir haben im Grunde eine neue Pandemie."」と警告し、状況の深刻さ気づいていない人、さらには州知事に、イスター後も発生率を100以内に抑えることができないなら、ロックダウンを州に任せるのではなく、連邦介入で一体となってさらに厳しい措置を取ることも示唆していた。

https://www.tagesschau.de/inland/innenpolitik/merkel-annewill-corona-101.html

 

EUの天安門事件以来の制裁(ZDFheute22日)

 

中国の少数民族への迫害、香港への力による弾圧、さらにはこの報道でも描かれているミャンマー軍事独裁の市民攻撃は益々エスカレートしている。

現在のミャンマーでの市民、さらには子供への攻撃を見ると、天安門広場民主化を求めた市民を、皆殺しに射殺した映像光景がオーバーラップする。

そこでは、市民に銃を向ける兵士に、ヒューマニズムを期待しても無駄である。

何故なら、戦後ドイツのフランクフルト学派を生み出したホルクハイマーやアドルノが、『啓蒙の弁証法』で厳しく批判しているように、理性による進歩(啓蒙)が自然や人間を支配するための道具と化してしまったからである。
すなわちカントの「正義はなされよ、たとえ(邪悪な連中の)世界は滅ぶとしても」が、ナチズムの「正義はなされよ、ホロコーストがなされるとしても」、そしてナチズムに抗する連合国側の「正義はなされよ、原爆投下がなされるとしても」に容易に転化するからである。

それ故ドイツではそれを許さないため、戦う民主主義と言われる倫理的民主主義が一貫して追求されて来たと言えよう。

しかしそれを中国やミャンマーに求めても無駄であり、たとえその他の世界が一丸となって非難、制裁を実施しても、ここでの本質的解決は難しいように思える。

ここでは、緑の党のブティコファーの言うように「制裁は政治的象徴以上のものであり、EUが貿易や投資利益のため、人権を無視していないことを示す」ことで、これ以上迫害や市民の虐殺が起きないよう妥協点を見出すしかないように思える。

本質的な解決は、現在のコロナ危機で求められ始めた社会正義、そして地球温暖化危機で世界が連帯して求めている気候正義のなかでしかないように思われる。

 

ワクチン接種ルーレット(5)

 

コロナパンデミックは、感染者が1億人を遥かに超え、300万人近い命を奪い、より攻撃的で、感染速度がより速く、より致死率が高い変異種に進化して、益々猛威を強めている。

特にその猛威が激しいのは、ブラジル、インド、アフリカなどであり、それらの国々の人々をワクチン接種で救済することなしには、コロナ危機は何度でも感染爆発を繰り返し、終息しないと言っても過言でない。

それ故このフィルムで描かれているように、WHOは公正で、公平なワクチン接種を目標としたCOVAXを立ち上げ、2021年末までに20憶人分のワクチンを購入し、貧困国75%の人々がワクチン接種できるようすると宣言している。

しかしカジノ資本主義のルーレットが回る中で、停滞を余儀なくされているのも現実である。

何故なら、例えばEUではCOVAXに10憶ユーロを提供しているが、製造されたワクチンはEU域内優先で、輸出されるワクチンも殆どが先進裕福国という現状があるからである。

それがこのフィルムで描かれているアマゾン先住民の村には、全くワクチン接種の目途が立たない理由であり、益々世界のコロナ感染猛威を激しくさせている。

そうしたなかで一筋の希望は、ドイツのメルケル首相やシュタインマイヤー大統領が、公正で、公平なワクチン接種という社会正義を、世界に強く訴え始めたことである。

具体的にはメルケル首相は、今年1月開催された世界経済フォーラのオンライン会議で、世界経済フォーラムのCOVAXとの締結を歓迎し、「もちろん、配布が迅速に始まるように、できる限りのことを行います」と述べ、さらに「世界で誰が何時、どのワクチンを受け取るかという問題が、国際連帯と新たな記念を創り出すでしょう」と付け加えている(下の資料参照)。

https://www.dw.com/de/merkel-verlangt-globale-bereitstellung-von-corona-impfstoff/a-56349904

またドイツ連邦大統領シュタインマイヤーは、COVAXの試みが成功できるかどうかは人類の問題であり、国際連帯のリトマス試験であると、世界に訴えている。

https://www.tagesschau.de/ausland/corona-impfstoff-steinmeier-who-101.html