(418)ドイツ最新ニュースに学ぶ(11)・ワクチン接種ルーレット(6最終回)

連邦政府の権限強化 (ZDFheute4月8日)

結局月曜日の首相会議は、州首相の多くが権限奪うものだという考えであることから、中止された。

しかし連邦政府のコロナ感染への統一的対処は強く、各州は発生率(住民10万人あたりの7日間の発症者数)が100を超えたら夜間外出禁止、店舗閉鎖のロックダウンを採るという具合に、全州一律の規制を適用することで合意した。

メルケル首相が、昨年秋のコロナ感染第二波を許した反省から、コロナでの連邦政府の権限を強化し、コロナパンデミックを終息したい思いは理解できる。

実際これまでの感染防止法では各州の事情に配慮して、一律の規制を強いることはできず、連邦政府の4月18日までのロックダウン規制にもかかわらず、ザールラント州は8日から解除している。

確かに連邦共和国で各州の事情を配慮し過ぎれば、各州が独自の権限を持つことになり、連邦政府政権と真逆の右派、もしくは左派州政権では、連邦政府と対立すれば究極的にスペインで見るように独立運動になりかねないからだろう(私自身は、地域が分散的に自立し、自治権を持つのは賛成であるが)。

しかしコロナ感染では、各州の感染状況も異なり、各州の事情に配慮せず、権限の強化で連邦政府が介入するのは、ヨーロッパが採る補完性原理にも違反する(もっとも、今回のドイツの連邦権限の強化は、あくまでも統一した一律規制を求めるもので、州に配慮した介入とも言えるだろうが)。

補完性原理とは、もっとも身近なところが優先して対処するという原理で、家族で対処できない場合はコミュニティが、コミュニティが対処できない場合は自治体が、自治体が対処できない場合は州が、州で対応できない場合は連邦が、連邦で対応できない場合はEUが対応するという原理である。

私が思うには、コロナ禍で国(連邦)の権限強化はもっての他で、むしろコロナ禍を踏み台として、これからの未来に降りかかる禍に対応するためにも、地域対応優先の補完性原理を推し進めるべきである。

 

ハンガリーでのコロナ脅威(ZDFheute3月31日)

(何故独裁もどきの東欧が今コロナ非常事態なのか?)

ドイツがコロナ発症率(住民10万人あたりの7日間の発症者数)が100を超えて来たことから(4月12日発症数が140,9)、連邦のコロナ防止法改変で権限強化を打出すほど深刻な対応から見れば、現在の東欧の発症率は余りにも高すぎる(4月12日ハンガリー353.9、チェコ共和国264.2、ポーランド359.6、ルーマニア165.3)。

2月末に世界最高の発症率と紹介したチェコ共和国では、3月6日には発症率805.1を記録し、3月31日には449.4に下がり、さらに264.2まで下がって来ていることから峠を越えたようにも見える。

しかしチェコ共和国では、昨年秋に始まった第2波は10月27日に806の頂点に達し、その後12月始めには200台前半まで下がると、再び上がり出し、1月11日には846.8の頂点を打つという具合にアップダウンを繰り返している。

このアップダウンは、ハンガリーポーランドルーマニアでも同じであり、これらの東欧諸国では、1989年ソ連全体主義に支配されて来た市民が民主革命を成功させ、その後新自由主義の競争原理浸食によって困窮し、再び公平性を求め、国家社会主義的独裁者とドイツなどでは批判される首相を選んだ国々である。

これらの首相たちは、新自由主義での経済的成功者であり、EUの補助金では自らの企業着服嫌疑さえかけられている。

何故これらの国でロックダウンにもかかわらず、コロナ猛威が繰り返されているかについては、チェコ共和国の際に述べたように様々な憶測がなされている。

前回はARD傘下のバイエルン公共放送が述べる、危機の時代に生き延びる戦略として培われた伝統的な逆らう気質に説得力を感じたが、それだけでもないようだ。

現在も世界で最もコロナ猛威が激しいのはアメリカとブラジルで、アメリカはトランプ、ブラジルはボルソナーロの経済優先の失政と言えるだろう。

両者とも独裁的権力でコロナ第1波では即座にロックダウンをするが、自らの事業も経済的打撃が大きいことから、第2波ではロックダウンを先送りし、経済を優先して来た構図が見られる。

時期を失い一旦拡がってしまうと、後に戻らないし、その後で市民の暮らしをロックダウンしても、製造企業の操業は止めず、コロナ禍でも絶えず経済優先の構図である。

そのような構図が、まさに東欧諸国でも見られる。

 

ARD『ワクチン接種コロナルーレット6』最終回

 

企業側はワクチン開発は他社との競争ではなく、競争すべき敵はコロナウイルスであると言う。

しかし誰の目にも明らかなように、ワクチン開発は利益追求の最前線であり、市場(株式相場)を陶酔状態にさせるカジノルーレットでもある。

今回の冒頭で現在の世界は理想社会ではないと言っているが、理想社会とはどのような社会であろうか?

私が思うには、カジノルーレットが回らない社会であり、カール・ポランニーが『大転換・市場社会の形成と崩壊』で述べているように、市場という「悪魔のひき臼」がすべてを粉々に砕き、粉々になるまで退路のない社会ではなく、「互酬性」と「再配分」を基調とする新たな経済社会であろう。

それなくしては、社会正義や気候正義の実現は不可能であり、人類は滅亡するしかないだろう。

尚ドイツ第一放送(ARD)のこの作品は、私自身が50年近くも前、製薬会社の化学研究室で抗免疫剤開発をしていたこともあって、興味深いものであった。

当時は疾患部細胞を鍵穴と見なし、有効物質に化学合成で鍵を付けることで増強するというやり方で、殆ど体の免疫作用機序も知らずに取組んでいたが、サリドマイドやキノホルム(スモン病)など多くの薬害が問われる時代でもあった。

今回のワクチン開発では、コロナウイルス突起部の人工合成の遺伝子情報(mRNA)ワクチンであったり、またコロナ感染で苦しむ患者には患者体内に生ずる抗体をCHO細胞培養で大量生産するという薬剤開発にも、驚くものを感じた。

しかもこの作品は、そうした現場をドキュメンタリーで描くだけでなく、現在進行形のコロナ禍で様々な問題を投げかけており、必見の価値はあるだろう。

 

*前々回述べたように『ワクチン接種ルーレット』終了しましたので、「ドイツ最新ニュースに学ぶ」に絞り、隔週で継続します。もっとも今回のように友人が脳梗塞で運ばれるというように、一寸先は何があるかわかりませんが。