(419)ドイツ最新ニュースに学ぶ(12)

コロナ禍で一進一退の緊迫が続くなかで、世界の未来を切り開く出来事があった。

一つはバイデン大統領が強く打ち出したグリーンニューディール政策で、それで地球温暖化が本質的に解決するとは思えないが、それで世界が遅まきながら連帯して取組むとすれば、少なくとも未来は繋がるだろう。

もう一つは緑の党が党の誕生以来初めて首相候補を決め、政治のあらゆる分野で気候政策に取組むと宣言したことである。

緑の党は、社会民主党やリンケ(左翼党)のように労働組合基盤を持たず、また保守のキリスト教民主同盟のように産業ロビーイストとの関係もなく、言わば市民がロビーイストの市民政党である。

そのような市民政党から、世界初の首相誕生は何を意味するか考えて見たい。

 

『バイデンが開く気候正義ZDFheute4月22日』

・・・気候正義は世界を変えられるか?

 

バイデンがグリーンニューディール計画で、2030年の温室化効果ガス排出量を少なくとも半減すると世界に宣言したことは、パリ協定を画期的に加速する。

しかも気候正義の実現では、中国からロシアまですべての国が一体となる世界が戻って来たことは、競い合いとしても素晴らしことである。

しかしバイデンの唱える雇用のためのグリーンニューディール計画は、地球温暖化という危機さえも絶えざる経済成長に利用するもので、90年のリオ宣言以来の温室効果ガス排出量を絶えず増大させて来た事実からも、前途は決して楽観できない。

例えば日本は2050年までに炭素ゼロの水素社会実現を掲げているが、水素製造では殆どがオーストラリアでの石炭からであり、それでは水素発生と同量の二酸化炭素

が発生する事から地下貯蔵を計画している。

しかし二酸化炭素地下貯蔵技術は完成された技術ではなく、たとえ将来完成してもコスト面で実現不可能である。

何故ならドイツ経済研究所は、既に10年近く前に世界の研究結果を検証してそう結論づけている。

結局それでは、他の国で排出されるだけで、先進国の表向き炭素ゼロとなっても、絶えざる成長を求めている間は変わらない。

それ故、地球温暖化は益々進み、気候変動による洪水や干ばつ被害に加えて、世界的食料危機の発生、さらにはコロナ終息後にも頻繁な感染症襲来は避けられそうにない。

しかしそれでも世界が一体となって気候正義に取り組めば、たとえ恐ろしく険しい途を辿るとしても、自ずと希望ある未来が見えて来るだろう。

それは私の考えでは、地域分散技術の自然エネルギー利用の地域自給社会であり、すべての地域自給社会が連帯する一つの世界である。

 

 

緑の党女性首相が誕生する勢い』

・・・何故今そのような時代が生まれているのか?

 

68年の世界の平和と平等を求める若者たちのうねりは、ドイツでも議会制民主主義を放棄し、力による変革を求めた。

しかし若者の力による変革が当然の如く燃え尽きた後、その灰の中から緑の党が誕生し、環境から平和に至るまで議会民主主義を通してオルタナティブな突破口で、世界に轟く環境先進国を築いて来た。

しかし緑の党が掲げる理想原理「エコロジー、社会的連帯、底辺民主主義、非暴力」は、誕生以降のドイツ社会でもラジカルであり、あくまでも未来への途先案内人であり、緑の党からの首相誕生など、誰も夢にも思わなかった。

それが、キリスト教民主同盟の牙城であった原発王国バーデン・ヴュテンベルク州の不正が明るみ出ると、瞬く間に原発の“クリーン、安全、安い”の嘘が剥がれて行った。

それが折しも、2011年の福島原発事故直後の州選挙で、緑の党クレッチャマン首相政権を誕生させ、今日の緑の党の勢いを創り出している。

何故なら、クレッチャマン政権は緑の党の理想原理にこだわることなく、3期に渡って市民ための政治を現実に沿って実践し、市民を裏切ることがなかったからである。

緑の党についてはブログ112,113、114参照)

すなわちドイツ国民のそのような信頼醸成が、産業側に組する保守政党労働組合に組する政党よりも、すべての市民がロビーイストでもある緑の党に首相誕生の期待を生み出していると言えるだろう。

そして産業成長や労働組合に関与しない市民政党の首相が生まれるとすれば、これまでの絶えざる成長政治では地球温暖化が激化する未来を乗切れないと、市民が判断した証しであり、世界の国々にそのような市民政権が誕生すれば、間違いなく世界は変わるだろう。