(422)ドイツ最新ニュースから学ぶ(15)

 

ドイツの徹底した「過去の克服」(ZDFheute5月28日)

 ドイツは、20世紀初頭の帝国主義植民政策を採るなかで、当時の植民地ナミビアにおいて先住民族ヘロン属とナマクワ属の数万人を虐殺した。

その過去の過ちに対して、5年前から和解への対話を続け、今年5月28日ドイツ政府はその際の虐殺をジェノサイドと公式に認め、道義的責任としてナミビア発展のために11憶ユーロ支援供出を表明した。

まさにこれは、ドイツの徹底的な「過去の克服」であり、ナミビアの次は第二次世界大戦でのポーランドギリシャだと言われている。

戦争での過ちに対して言及するだけで、自虐史観として激しい批判がある日本では、このような徹底した「過去の克服」は理解不可能であり、何故ドイツはそこまでやるのかと問わずにはいられない。

実際ドイツは、ホロコーストの犠牲者に対しては、被害者補償や司法訴追だけでなく、ネオナチ規制から公的な認識共有に至るまで、徹底した「過去の克服」に努めて来た。

ベルリンの中心には、何千の石碑が天に叫ぶかのような「ユダヤ石碑」が建設されている。

またドイツの行動を歩けば、そこから強制収容所に輸送された人の名前が刻まれている10センチ四方ほどの真鍮プレートを至る所で見かける。

もっともこうしたドイツの徹底的「過去の克服」は、最初は前進と後退を繰り返し、戦後のナチズムの反省がなされた後は、50年代の終わりには過去の過ちを忘れようとし、ナチ犯罪を65年で時効にしようした時代もあった(現在ではナチ犯罪に時効はない)。

それを変えたのは、60年から始まった「競争よりも連帯」を優先する教育の民主改革だった。

もちろんそれを引き起こしたのは、二度と過ちを繰り返さないことを誓ってつくられた基本法であり、十数年をかけて熟成して来たからこそ開始されたと言えよう。

そして教育の民主改革は、官僚や政治家を市民奉仕に転換させるだけでなく、司法も裁判官たちを高座から市民目線に引き下ろし、市民奉仕に変えたと言えるだろう。

またそうした土壌が70年代終わりには、保守中立を保っていたメディアを奮い立たせ、現在ではタックスヘイブンから気候正義に至るまであらゆる問題で、「戦う民主主義」の姿勢が感じられる。

そこには、よりよい社会、よりよい世界を築きたいと願う市民と連帯するドイツのメディアがある。

同様にドイツの「過去の克服」も進化しており、最初は周辺諸国との賠償や司法訴追を終わらせることで、国益を追求しているという非難の声さえ聞かれた。

しかし今では、これまでの世界では考えられなかった帝国時代の植民地政策の過ちにさえ、謝罪と和解を求め、さらに第二次世界大戦の戦争下おける過ちにも謝罪と和解を求めようとしている。

それは、「過去の克服」にドイツが長年に渡って真剣に向き合い、対話を続けるなかで、ドイツの民主主義を成熟させ、「過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる」を心底悟らせたからと言えるだろう。

また被害者側も、過去の死ほど辛い苦しみは賠償というお金だけで報われるものではなく、和解対話を続けるなかで、封印していた苦しみを語り、加害者と共に過ちのない未来を創ることに救済を見つけたからである。

このようにドイツの徹底した「過去の克服」は、過去の過ちを未来への問いかけに発展させており、究極的には国家間戦争を国際司法解決に変えるものだと信じたい。

それはドイツの未来のためであり、世界の未来のためでもある。

 

喫煙がなくなる日(ZDFheute5月31日)

 

ドイツの戦う民主主義は気候正義、社会正義を掲げ、世界の先頭に立って絶えず戦っている。

しかしドイツほどロビー活動が公然と為され、強固な国はない(本元の米国を除いて)。

それゆえ結論から言えば、喫煙がなくなる日は来ないと言ってもよい。

それは、私がドイツで暮らした2007年から2010年までの4年間に強く感じたことであり、CDUの州首相たちは、「原発は安全、安い、クリーン」というロビーイストたちの標語を使って、原発運転期間の28年延長(2060年まで原発運転)を求め、2010に原発運転期間延長が議決された際は、ドイツでも脱原発は実現しなのかと思った程であった。

2011年10月に災害のお見舞いで日本を訪れたドイツ大統領クリスティアン・ヴルフは、長年ニーダーザクセン州首相として原発推進の急先鋒であったが、その頃はロビー支配が解かれ、日本の講演では「日本でも脱原発は可能だ」と強調していた。

しかし帰国後汚職疑惑が次から次へと明るみに出され、大統領職から引きずり降ろされた事実を、ドイツ人なら理解できるだろう(ブログ79参照)。

その事実からして、ドイツのロビー活動の強さは想像を絶するものがあり、メルケル脱原発宣言後も原発さえ決して諦めていない。

喫煙に対しては、タバコの有毒性葉50年以上も前から科学的事実が報告されて来たにもかかわらず、ロビーイストたちはそのような科学的論拠には全く関心がなく、専門外の世界の著名な御用学者を利用して、都合のよいことだけを指摘し、人々の感情に絶えず訴え続けている。

ZDFの記者はそうしたロビー活動の圧倒的強さを知るからこそ、2040年までに喫煙をなくす癌研究センターの要請に、疑問符を投げかけるのである。

このようなロビー活動の司令塔は、アメリカの財源豊かなハートランド研究所であり、そこからドイツのEIKE研究所(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候変動やエネルギー問題でのヨーロッパ研究所)にお金や指令が出されている。

そのような事実を検証したのは公共放送ZDFであり、昨年2020年に市民調査機関CORRECTIVと共同で潜入取材を強行し、ロビー活動の不正を実証し報道している(ブログ385参照)。

そのような篤いドイツの戦う民主主義にもかかわらず、タバコをなくすこと、そしてロビー活動の不正をなくすことは、ポランニーが“悪魔のひき臼”と呼んだ市場がある限り不可能にさえ見える。

それでも世界が気候変動激化、コロナ以降の感染症激増していくなかで、世界は変わる日は近いと確信する。

国連は現在の危機に、2015年「世界を変える持続可能な開発目標SDGs」を開始し、誰も取り残さない2030年までの実現を宣言している。

SDGsの担い手は、国連が積み重ねて来た議論では、利益を求めない様々な形態の協同組合となっていたが、2015年の国連決議では担い手に多国籍企業も加わり、今やSDGsは経済成長の免罪符に利用されるほど市場に絡め取られている。

それでは京都議定書のように殆ど機能しないことは最初から判り切っており、必ずや世界が動きき出す時が来ると信じたい。