(429)ドイツ最新ニュースから学ぶ(22)ドイツ連邦議会選挙が語るもの・更に進化するドイツ

都合によりしばらく「ドイツから学ぼう」を休みます。

10月1日                関口博之

 

 

既に赤と緑の連立で勝敗が決着

 

 上に載せた連邦議会選挙前の議会では、メルケル首相、首相候補3人、及び他の野党党首も内心勝敗の決着が着いたことから、メルケル首相、与党同盟首相候補ラシェットは,

ドイツが左へとシフトしないように訴えている。また自由民主党FDP党首は、決してリンケ(左翼党)との赤赤緑連立政権はあってはならないと牽制し、自由民主党との赤緑黄連立政権を呼びかけている。

 このように勝敗が決着したのは、一枚の写真からであった。具体的には7月17日の洪水被災地で、シュタインマイヤー連邦大統領(SPD)の被害者に支援約束演説の背後で、こともあろうに被災地ノルトライン=ヴェストファーレン州のアルミン・ラシェ(CDU)首相が笑みを讃えて笑っている下の写真が、多くのメディアを通してドイツ中を駆け回ったことに発している。

https://ostbelgiendirekt.be/wp-content/uploads/2021/07/485F1795-149F-4380-B538-DF850C64D004-e1626599414262.jpeg

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もっとも世論調査に影響を与え始めたのは、7月末からであり、それを後押ししたのは、ZDFの首相候補ラシェット夏インタビューで(注1)、ラシェットが「愚かでした。在ってはならないことであり、遺憾なことをしました。 "Es war blöde und es sollte nicht sein und ich bedauere es"」と、ひらあやまりしたからであった。

 それまではラシェットの楽勝ムードが高まり、世論調査の支持率は30%を超えており、対抗相手の緑の党首相候補ベアボックは20%を割り、社会民主党SPD首相候補シュルツに至っては、当初からそれまで絶えず15%ほどの支持しかなく、誰もSPD支持率の上昇を期待するものさえない有様だった。

 それが8月1日の世論調査(平均)では、与党同盟UNIONが28%、緑の党19%、SPD16%、8月15日UNION25%、緑の党19%、SPD18%、9月1日UNION23%、緑の党18%、SPD23%、9月18日UNION22%、緑の党16%、SPD26%と、信じられない大きな変化をし、最早SPD緑の党の連立政権誕生は動かし難いものとなったと言っても過言ではない。

 もし一枚の写真がなければ、緑の党との連立ラシェット政権、もしくはSPDとの連立ラシェット政権は確実であったことから、ドイツの歴史を変えた写真と言えよう。

 

(注1)

https://www.zdf.de/politik/berlin-direkt/berlin-direkt---sommerinterview-vom-25-juli-2021-100.html 

 

緑の党ベアボックに見るペトラ・ケリーの再来

 

 

 9月12日開かれた公開放送での3者討論対決では(注1)、ベアボック候補の主張の鋭さと、訴える力は、上に載せたZDFheuteニュースでは、ほんの一部しか伺えないが、討論対決でのラスト1分の主張は圧巻であった(その下に載せた動画)。

 これまでの討論対決では、演台から離れ一歩前に出た候補者は誰もいなかったが、ベアボックはその壁を破り、「私たちが本当に壁を破るのか、それとも壁を維持することに固執するのか?Schaffen wir einen echten Aufbruch oder verharren wir im "weiter so"? 」述べたのは見事であり、まさにコロンブスの卵であった。

 ZDFの3者討論対決の世論調査では(注2)、SPDショルツ候補 が最もよかったと思う視聴者は全体の32%、緑の党ベアボックが26%、UNIONラシェットが20%であったが、感情に訴える力はベアボックが39%で、ショルツ28%、ラシェット14%で、ひときわ光っていた。また若い人(18歳から34歳)のベアボック評価(最もよい)も、52%と群を抜いていた。

 最もベアボック候補は、緑の党が5月に支持率26%でUNIONを抜くと、急に批判が高まり、州や連邦での要職経歴がない、2018年クリスマス賞与の申告もれ、さらには今年出した、彼女の気候正義、社会正義などの実現を書いた本『アンナレーナ・ベアボックの今・私たちの国の刷新方法Jetzt Annalena Baerbock・Wie wir unser Land erneuern』では、出典が書かれていないことから激しく攻撃され、支持率は26%から急落し、最悪時は14%まで下がっていた。

 確かに経験不足は否めないが、それにもかかわらず党内のガラス張りに開かれた選挙で急激に這い上がってきたのは、まさに彼女の秀でた力であり、緑の党創設者のペトラ・ケリーを彷彿するものを感じる。

 今回の選挙で首相になることは難しいとしても、連立政権では首相シュルツコントロールで固い壁を破り、必ずや気候正義、社会正義を成し遂げてくれると期待したい。

 (注1)

https://www.zdf.de/politik/wahlen/bundestagswahl-2021-triell-100.html

(注2)

https://www.zdf.de/nachrichten/politik/tv-triell-blitzumfrage-laschet-scholz-baerbock-100.html