(438)ドイツが採る塞翁が馬・世界はウクライナを見捨てようとしている(続)[世界戦争の始まり(5)]

ベアボック外相(緑の党)の塞翁が馬

 

 上に載せたドイツ公共第一放送Tagesschauでのアンナレーナ・ベアボック外相インタビューは(3月18日)、午前中にベアボック外相(緑の党)が発表した3つの柱からなる新安全保障戦略を受けての質問であった(1)。

(1)

https://www.tagesschau.de/inland/baerbock-sicherheitsstrategie-tagesthemen-101.html

 

安全保障戦略は、前日17日連邦議会のゼレンスキー大統領の「経済、経済、経済優先が新たな壁を造ろうとしている」の演説に答えるものであった。

それはまだ細部については、他の省庁及び連邦議会の議論を数か月かけ、法案化を目指している。

この新安全保障戦略の第一の柱は、「生命の不可侵、すなわち戦争や暴力から守る安全保障」、第二の柱は「民主主義における私たちの生活の自由な安全保障」、そして第三の柱は「私たちの暮らしの生活基盤の安全保障」である。

それゆえインタビュアーは、安全保障の幅が広すぎるのではないかと質問しているのである。

ベアボック外相はその質問に対して、広すぎることはないと明言し、戦争攻撃から守る安全保障だけでなく、暮らしを守る安全保障が必要であると述べている。ウクライナ戦争で浮上したエネルギー問題も、ドイツがエネルギーをロシアに依存しているからだと述べている。

例えば天然ガスのロシア依存だけでなく、ドイツの主な天然ガス貯蔵施設もロシア企業に、経済利益優先で売却されている現状を批判している。

それは、ドイツの世界最大の化学企業BASFがロシアの世界最大の天然ガス生産企業ガスプロム(半国営企業)子会社に、ドイツにあるBASF所有の全ての天然ガス貯蔵施設(ドイツの貯蔵施設の4分の1)を売却し、BASFがシベリアの巨大天然ガス開発に投資していることを指している(2)。

(2)

https://www.wiwo.de/unternehmen/energie/gefaehrliche-abhaengigkeit-warum-gehoert-deutschlands-groesster-gasspeicher-gazprom/28014654.html

 

こうしたロシアへの資源依存と経済進出が暮らしの安全保障を脅かしており、新たな新安全保障戦略が必要であると説いているのである。

そしてベアボックの会見では、ウクライナ戦争はヨーロッパの安全に広範囲にわたる影響を与える地政学的な転換点だと強調し、安全保障はこれまでの過去から考えるのではなく、未来から考えるものでなくてはならないと説いている。

そこには悲惨な戦争だけでなく、気候変動激化からくる生活基盤の危機に対処できる安全保障でなくてはならず、その実現には利益を優先しない外交、貿易、協働に変えていかなくてはならないという強いベアボックの思いが滲み出している。

 ベアボックはロシア侵攻が開始されるまで、外交交渉で戦争が始まらないよう全力で努めたが、ロシアは国益を求めて侵攻し、欧米諸国も火の粉が降りかかるのを恐れてウクライナへの直接関与を避けるなかで、現在のウクライナ戦争を転換点として、戦争のない平和に安心して暮らせるヨーロッパ及び世界にして行かなくてはならないという、大きな強い意思が感じられる。

まさにそれは、禍を転じて福に変えるベアボックの塞翁が馬である。

 

ハーベック経済相(緑の党)の塞翁が馬

 

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 また連邦経済大臣ロバート・ハーベック(緑の党)は、世界が徹底した経済制裁を発動するなかで、ロシアからの天然ガス禁輸はドイツを大混乱に陥らせると分析警告していた。

しかしそれはロシアからの天然ガス依存を継続を望むのではなく、ロシアからのエネルギー依存を出来うる限り速く断つことを意図するものであった。

すなわち当面は、ロシアが天然ガス輸送停止の万一の場合に備えて、既に述べたようにハーベックは中東を訪問して天然ガスをロシア以外から調達する目途を付けことに努めている。

欧米はプーチンの要求するルーブル支払拒否を決め、ドイツもそれに従うことを決め、万一の場合が急浮上してきたことから、上の写真で見るように3月30日にハーベック経済相は「緊急ガス計画」を発表している(3)。

(3)

https://www.tagesschau.de/wirtschaft/habeck-fruehwarnstufe-notfallplan-gas-101.html

 

具体的計画では、ガス供給を早期警告段階、警告段階、緊急警告段階の3つの段階に分け、現在を早期警告段階とし、ロシア以外のガス輸入促進、国内のガス貯蔵施設の満タン化、エネルギー消費節約に取組むことを誓っている。

そしてロシアからの輸送停止された場合警告段階に移り、市場が混乱して機能が難しくなれば国家が介入する緊急警告段階に移行し、病院などの公共施設や市民生活維持の供給が優先されて配分されると述べている。また産業界には、ガス供給制限による影響でガス供給可能な国への工場移転を採らないよう警告した。

しかし既にハーベックは、本質的解決のために、化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーへの100%エネルギー転換を2045年から2035年に早めることを公約している。

 具体的には4月2日のZEITオンラインがその概要を報道しているように(4)、再生可能エネルギー法(EEG)の再改正によって、市民及び自治体が太陽光発電風力発電(陸上)に自発的に取組むインセンティブを約束し、5月には閣議決定することを明言している。

(4)

https://www.zeit.de/politik/deutschland/2022-04/habeck-gesetzespaket-erneuerbare-energie

 

 それは、エネルギー転換を市民の手に再び取り戻すことであり、現在のグローバル大量生産の集中型技術文明からローカル地産地消生産の分散型技術文明への移行を急加速することでもある。

そのようなハーベックの手法も、禍を福に転じ、「緑の党」創設当時の理念「誰もが希望の持てる世界の創出」の実現化に見える。

 もっともベアボックにしても、ハーベックにしても、そのような理念の実現に固執しておらず、只々現実の大戦の危機解決、気候変動危機解決に挺身していると言えよう。

しかしそのような塞翁が馬への挺身こそが、結果的に文明転換の始まりを創り出しているように見える。

 

世界はウクライナを見捨てようとしている(続)

 

 もしメルケルが首相を続けていたら、今回の悲惨な戦争は起きなかったかもしれない。何故ならメルケル外交政策では、まず最初に相手の要求に共感することから交渉を始め、ロシアだけでなく中国とも友好関係を築いてきたからである。

今回のウクライナ戦争では、交渉段階で米国諜報機関プーチンの侵攻指令を察知して、NATO拡大阻止の要求は絶対に譲れないと欧米諸国が最終交渉さえ拒否して、ロシア侵攻が始まっている。

確かにその際にはロシアの軍隊は国境に集結しており、欧米のNATO 拡大への回答は明白であったことから、最終交渉をしても同じであったかも知れない。

しかしメルケルがいれば、ドイツ再統一の立役者コール首相とゴルバチョフ書記長との間に「NATOをこれ以上拡大しない」という口約束は公表されていたことから、プーチンの抱く正義に共感することから始め、「NATOを拡大しない」仕組構築に挺身して努めることを約束し、たとえ不可能としても、NATO拡大阻止の仕組構築を長期的に創ることを提示すれば、プーチンの正義は一先ず充たされ、戦争にならなかった公算も高いように思われる。

なぜこのようなことを書くかといえば、絶えず成長を求める世界が目的達成のためには人間さえモノとして扱い、理性による啓蒙も達成の道具となる時代に(既に20世紀にはホロコーストで見るように)突入しているからである。

すなわちカントの「正義はなされよ、たとえ(邪悪な連中の)世界は滅ぶとしても」が道具として、ナチズムの「正義はなされよ、ホロコーストがなされるとしても」、そしてファシズムと戦った連合国側の「正義はなされよ、原爆投下がなされるとしても」に利用されてきたからである。

 そして今、独裁者プーチンは「正義はなされよ、世界が滅ぶとしても」と侵攻を止めず、欧米諸国も「正義はなされよ、ウクライナを犠牲にしても」と戦争を和平に導く努力を怠っているように思える。

 確かに経済制裁や避難民の受入れでは、日本も含めて欧米諸国の犠牲も多大であり、「ウクライナを見捨ている」と考えるのは見当違いも甚だしいのかも知れない。

しかし経済制裁と武器提供支援が効力を発揮すればするほど、ロシアを追い詰め、空爆と遠距離砲撃による市民の無差別殺戮へと激化させている。

ウクライナの人々の悲惨な状況が深まって行くのを見るにつけても、世界がこのままにすれば、ホロコーストを上回る犠牲者が出ることも現実化しつつあるように思える。

 

『2044年大転換』出版のお知らせ

 

何故今本を書いたかをより具体的に理解してもらうため、推敲後の原稿から序章を抜き出し、載せて置くことにしました。また推敲で書き足すことが増えたため、目次も載せておきます。

 

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序章  たたき台としての救済テーゼ

 

 

コロナ感染症が問う社会正義 

 

 二〇二一年夏八月、日本ではコロナ変異株デルタが猛威を振うなかで、オリンピック開催を強行した。英国では、五〇万人もの若者がマスクも付けずに、ロックフェスティバル開催で自由を楽しんだ。

 八月二九日のドイツ公共第二放送ZDFニュースの映像を見ると(1)、まるで英国の若者たちはウイルスとともに生きる術を得て、楽しんでいるように見える。それゆえZDFの記者は、少々呆れながらも、「自由というまやかしの夏を楽しんでいるのでしょうか、それともウイルスと共に生きる術を見つけて楽しんでいるのでしょうか?」という問いを発している。

 もちろん英国コロナ感染者数推移を見れば、「自由というまやかしの夏を楽しんでいる」のは一目瞭然である。英国の一日の感染者数は、今年一月初めには六万人を超えていたが、ワクチン接種が速く進んだことから、五月には千人台に減少し、重症化も激減したことから、七月からすべての制限が撤廃された。

 しかし実際の一日の感染者数は六月には一万人台へ、七月にはニ万台、八月には三万人台へと増え続けており、そのなかでの自由を満喫するロックフェスティバルの開催であった。それは絶えず成長を求める経済の枠組みのなかでは、主催者側は生き残るために開催するしかなく、アーティストたちも開催なくして生き残れないからである。また集う若者も、自由を楽しんでいるというより、長く自由を制限された呪われた時代に怒りをぶつけているように見える。

 しかしまやかしの自由享楽にも限りがあり、変異株デルタが猛威を振うなかで、既に別の変異株へと、ウイルスは生き延びるために突然変異を繰り返しており、まったく終息する目途が立たない。これまでのワクチン接種効力とコロナ感染の推移を見ると、最早数年で終息するとは思えない、恐ろしい時代に突入したように思える。

 このような恐ろしい時代をつくり出しているのは、ペストの時代のような外界との封鎖なしに、ワクチン開発で克服しようとする経済成長優先の構造であり、自然を科学開発で克服できるという傲慢さに思える。事実ウイルスは、ワクチン接種で生き延びるために様々に突然変異を繰り返しており、ワクチン接種は一時しのぎの対処に過ぎない。

 それでも現在の社会で生き残るためには、ワクチン開発が突然変異拡大の一因であるとしても、コロナ感染での重症化激減の事実から、ワクチン接種をしないわけにはいかない。

 もっともこの世界に、気候正義や社会正義が叶うもう一つ別な世界が出現するとすれば、「ワクチン開発によるウイルスの克服、あるいは科学による自然の克服が間違いだった」と見直される日が来るかもしれない。

 コロナ禍で社会正義が機能しない現実を鋭く捉えたのが、二〇二一年一月末にドイツ第一公共放送ARDが放映した『コロナワクチン接種ルーレット Impf-Roulette 』であった(2)。

 このフィルムは、コロナウイルスが世界を震撼させ、再び二〇二〇年秋から感染猛威を振るっていくなかで、公的機関の研究所でのワクチン開発最前線を描くだけでなく、ワクチン臨床試験が為されているにもかかわらず、国民へのワクチン接種が期待できないブラジル医療現場の深刻な問題も映し出していた。

 フィルムでは随所に専門家の意見が挿入されており、「何故かくも速くワクチン開発ができるか?開発されたワクチンは安全なのか?ワクチン接種の世界的な公正な配分、社会正義は為し得るのか?」と問うている。

 ワクチン開発に成功した製薬企業は、この戦いの敵は他の企業ではなく、コロナウィルスであると強調する。しかし現状は、WHOがワクチンの公正な供給を求めてCOVAXを立ち上げ、何十億の貧しい人々に二〇二一年末までにワクチン接種を約束しているにもかかわらず、殆ど進展していない。その反面ワクチン開発に成功した企業の株価は、市場を陶酔させている。

 それは、まさにカジノ資本主義と呼ばれる現在のグローバル資本主義のルーレットが回る光景であり、「ワクチン開発とは、企業の巨大商いなのか?世界を救うものなのか?」を問いかけるかのようである。すなわち前半で描かれていたようにワクチン開発は、政府がドイツ感染症医療センター(DZIF)統括の各地研究所に多額のお金を提供し、膨大な試行錯誤で開発の道筋を作り、開発企業がさらに多額の費用をかけて市場化していく有様は、何十倍もの見返りを期待して、賭け金を積んでいく賭博とも言えるだろう。

 それゆえARDの載せている解説では(3)、「世界危機におけるワクチンルーレットは、金、権力、社会正義、さらには生存と死に対する経済による犯罪劇ではないか "Impf-Roulette" ist ein Wirtschaftskrimi entlang einer globalen Krise. Es geht um Geld, Macht, Verteilungsgerechtigkeit – und um Leben und Tod. 」と問うている。同時に公正なワクチン接種がなされないのは、現在の社会が理想(すべての人の幸せ)を求める社会でないからであり、社会正義が実現される理想を求める社会を創り出さなくてならないと訴えている。

 

 

「悪魔のひき臼」が文明を滅ぼして行く

 

 しかしそのような理想を求める社会は、現在のように市場経済がすべてを支配するなかでは不可能に見える。何故なら、カール・ポランニーが『大転換・市場社会の形成と崩壊』(4)で述べているように、市場という「悪魔のひき臼」は、すべてを粉々に砕き、粉々になるまで退路のない社会を生み出しているからである。

 ポランニーは、古代から封建時代に到る自給自足を基調とした社会では、互酬や再分配によって「経済が共同体という社会に埋め込まれたもの」に過ぎなかったが、資本主義の誕生によって「経済に埋め込まれた社会」という大転換が引き起こされたと述べている。

 しかも大転換した社会では、至るところに市場が形成され、労働、土地、貨幣を商品化することで、市場が「悪魔のひき臼」と化していると指摘している。そこでは労働の商品化が人間を死に到らしめ、土地の商品化が環境を破壊し、貨幣の商品化が人間の欲望を肥大させ、インフレや恐慌を招き、市場は「悪魔のひき臼」となっていく。それゆえポランニーは理想の社会として、「互酬性」と「再配分」を基調とする新たな経済社会を示唆している。

 それに対して現在の社会は、人間が生きていくのに必要な作物さえ先物相場でルーレットを回しているように、「悪魔のひき臼」を激化させており、世界の大部分の人々が気候正義や社会正義を叫んでも、「悪魔のひき臼」が止まる気配は全くない。

 しかし「悪魔のひき臼」の如き市場が、大洪水や感染症蔓延で機能しなくなれば、否が応でも地域での自給自足を強いられ、互酬と再配分で生き延びていくしかない。

 もっとも現在のコロナ禍では、まだそのように考える人は殆どいない。しかし専門家は、気候変動の激化で干ばつや洪水で食料危機と同時に感染症蔓延に見舞われ、市場だけでなく国家が機能しなくなる未来を警鐘している。

 事実二〇〇九年ABC放送が、権威ある数十名の専門家の裏付けに基づいて制作放映した未来シナリオ『地球二一〇〇年』では(5)、関与した多くの専門家自身もフィルムに登場して、人類が築いてきた文明崩壊の可能性を検証していた。

 そこでは、地球温暖化の激化でメガ台風による洪水や干ばつが頻発し、食料危機や難民移動などで、パニックや暴動を繰り返していき、最終的にメガ台風がニューヨークの海岸周辺を水没させ、発生した恐ろしい感染症蔓延が国家機能を奪い、人類の文明が滅びていく有様を描いている。

 しかしその後の世界は、そのような警鐘を無視するだけでなく、温室効果ガス排出量を一九九〇年比で二〇一二年までに漸次削減することを京都議定書で誓ったにもかかわらず、逆に大幅に増大させ、二〇二〇年には一六〇%に増大させている。それはパリ協定厳守が叫ばれる現在も変わらず、二〇五〇年までの脱炭素社会という目標を免罪符とし、むしろ逆に危機を踏台にして、絶えざる成長を追求している。

 しかも絶えざる成長追求で、一握りの人々だけが益々富み、大部分の人々を益々貧しくしていく格差社会が肥大している。大部分の人々はそうしたなかでも、来るべき大いなる禍に真剣に向き合うこともできず、絶えず成長を求めるなかでグリーンニューディールという「成長と抑制」のテーゼに吞み込まれるだけでなく、期待さえ抱いている。

 

 

 

人新生の希望ある未來はドイツから開かれる

 

 そのような現在の過った実態を、昨年二〇二〇年コロナ禍で世に出た『人新生の「資本論」』(6)は的確に捉えていた。もっとも著者斎藤幸平が述べる、「人類が歴史を終わらせないためには、脱成長コミュニズム共産主義)しかなく、三・五%の賛同者が本気で立ち上がれば、それを実現できる」という主張には異議を感ぜずにはいられない。

 現在の資本主義では最早対処できないという主張には全面的に賛同するが、三・五%の賛同者が本気で立ち上がったとしても、アラブの春や香港の民主化が資本側の力で潰されて行ったように、真っ向から立ち向かうなら潰されることは目に見えている。万一革命に成功しても、民主集中制を盾に異論者をジェノサイドしたり、天安門で市民への発砲指令を出すといった独裁的なものへと変質しかねない。

 もちろん非暴力での転換を考えているとしても、旧勢力の圧倒的な力による支配のなかでは、大部分の市民が望めば民主的に移行できるものではなく、最終的に力による旧勢力との戦いになるからである。しかも力による過去のすべての革命は一旦政権が誕生すると、権力維持優先で理想目標が挫折するだけでなく、反対派の抹殺が常であった。

 しかし私が半世紀近く指針としてきたドイツでは、ナチズム(国家社会主義)の恐るべきホロコーストの過ちを、戦後寧ろ力として基本法を誕生させ、前進と後退を繰り返すなかで、民主主義を絶えず進化させ、教育を市民奉仕に変え、メディア、司法、そして政治さえも市民奉仕へと変えてきている。

 もっとも経済はグローバル資本主義が容認されており、市民への奉仕に転ずるにはまだまだ時間がかかるとしても、二〇二一年四月の連邦憲法裁判所の気候変動訴訟違憲判決で政府政策を大きく変えたことは確かであり、気候正義や社会正義が貫かれる時、経済も民主化へと変わらざるを得ない。

 そのようにドイツの「絶えず進化する民主主義」を展望する時、人々に奉仕する「地域社会に再び埋め込まれた経済」を創り出す日も近いと確信できる。

 しかもそのような「絶えず進化する民主主義」の原動力は禍であり、戦後のドイツには禍(過ち)を力として福へと転ずる、「絶えず進化する民主主義」が埋め込まれていると言えよう。

 しかし現在の世界は、救済目標さえ免罪符として成長を続ける世界であり、このまま進めば迫りくる「大いなる禍」を避けることはできず、滅びるしかない。

 しかしながら世界の市民の力で、日本、そして世界の国々が、ドイツの禍を福へと転ずる「絶えず進化する民主主義」を手本として、気候正義や社会正義を貫くように変われば、「大いなる禍」は避けられないとしても、その禍を力としてカタストロフィを免れ、福と転ずることも可能である。

 それはまさに、気候変動の危機を克服するだけでなく、誰ひとり見捨てない、希望ある未来を創り出すことである。

 

 第一章では、危機直面によって目覚めていく世界が禍を福として、絶望の未來をどのように希望の未來へ変えていくか、『二〇四四年大転換』の未来シナリオで描き出している。

 それは単なる空想的未來シナリオではなく、現在の世界の危機を直視し、でき得る限り現実的な展開で描いており、現在の危機からの救済テーゼである。

 もちろん様々な点で異論はあるだろうが、『二〇四四年大転換』シナリオは将来を考えるたたき台として描いたものであり、世界が希望ある未來に向かう文明救済論でもある。

 それゆえ第二章から第七章までは、禍を福に転じてきたドイツの絶えず進化してきた民主主義について言及することで、『二〇四四年大転換』の正当性を示し、世界が禍を転じて福と為すことを希求している。

 

(1)著者翻訳日本語字幕付き動画「ドイツから学ぼう(428)」転載

https://msehi.hatenadiary.org/entry/2021/09/04/143436

〈2)著者翻訳日本語字幕付き動画「ドイツから学ぼう(413~418)」転載

https://msehi.hatenadiary.org/entry/2021/02/24/103243

(3)

https://www.daserste.de/information/reportage-dokumentation/dokus/sendung/impf-roulette-die-jagd-nach-dem-wirkstoff-100.html

(4)カール・ポランニー『大転換・市場社会の形成と崩壊』吉沢英成訳、東洋経済新報社、一九七五年

(5)著者翻訳日本語字幕付き動画「ドイツから学ぼう(271~277)」転載

https://msehi.hatenadiary.org/entry/20151118/1447849447

(6)斎藤幸平『人新生の「資本論」』、集英社新書、二〇二〇年

 

 

 

目次

 

はじめに  1

 

序章  たたき台としての救済テーゼ 11

コロナ感染症が問う社会正義 13

「悪魔のひき臼」が文明を滅ぼして行く 17

人新生の希望ある未來はドイツから開かれる 20 

 

第一章 二〇四四年大転換未来シナリオ 25

     二〇三一年国連の地域主権、地域自治宣言 27

     地域主権、地域自治が創る驚くべき変化 41

     地域の自助経済が創る新しい社会 49

     ベーシックインカム導入が時代の勝利となる日 60

     二〇四四年七月X日の首都崩壊 64

     市場が終わりを告げるとき 68

     戦争のない永遠の平和 74 

     倫理を求める絶えず進化する民主主義 82

 

第二章 大転換への途は始まっている 89

     緑の党の基本原理が世界を変えるとき 91

 

 

第三章 何故ワイマール共和国は過ちを犯したのか?107

    ワイマール共和国誕生の背景 109

    官僚支配こそホロコーストの首謀者 114

 

第四章 戦後ドイツの絶えず進化する民主主義 121

 

    世界最上と自負するドイツ基本法 123

    戦い育む憲法裁判官たち 128

    ドイツを官僚支配から官僚奉仕に変えたもの 139

 

第五章 ドイツ民主主義を進化させてきたもの 145

    メディア批判の引金を引いた『ホロコースト』放映 147

    裁判官たちの核ミサイル基地反対運動 153

    脱原発を実現させたメディア 168

    気候正義を掲げて戦うドイツ公共放送 179

 

第六章 人々に奉仕する経済の民主化 187 

    危機を乗り越える社会的連帯経済 189

    ドイツの連帯経済 194

    人に奉仕する経済の民主化 199

 

 

第七章 ドイツの気候正義が世界を変える 207

    気候正義運動が創る違憲判決 209

    文明の転換 213

 

あとがき 221