(445)民主主義は世界を救えるか(5)ドイツが警鐘を鳴らす日本の金融緩和政策・何故自助経済の世界が創られなければならないか

「石油とガス無し」社会への試練

 

 今回の最終フィルムでは、太陽光、風力、バイオマスだけではなく、既にミュンヘンで一部実用化されている地熱発電が紹介されている。

南ドイツでは日本と同様に至る所で温泉(バーデン)が湧き出しており、ミュンヘンでの微弱地震誘導に対する安全性が検証されれば、このフィルムで述べられているように、ドイツ消費電力の15%を担うことも可能だろう。何故ならドイツは日本と異なり、全くと言っていいほど地震がないからである。

 そして今夏の再生可能エネルギー法改正で、再び市民のエネルギー転換にアクセルが踏まれれば、これまで想定されていたより3倍のスピードでエネルギー転換が進み、2030年までには「石油とガス無し」の希望ある社会が実現するだろう。

 しかしそれまでの試練は決して安易ではない。ドイツ第一公共放送ARDの6月17日Tagesschauによれば、ドイツを含むイタリアなどのEU5か国の天然ガス輸送は大幅に削減されたことが報道され(既にフランス、フィンランドデンマーク、オランダ、ポーランドブルガリアではロシアからの天然ガス輸送を禁輸)、6月23日にはハーベック経済相が天然ガス緊急事態第二段階の宣言をしている。

第二段階はあくまでも危機への警鐘であり、ガス市場への政府介入はないが、ロシアからの禁輸が近いことを警告している。

それ故禁輸された場合に備え、既に一部の天然ガス火力発電所は石炭火力発電所に切替る準備が進んでいるが、当面は「石油とガス無し」の希望ある社会のために厳しい試練が続くことも確かである。

 

 ドイツが警鐘を鳴らす日本の金融緩和政策

 

 6月20日のTagesschauは、「ギャロップインフレか国家破産か?」の見出しで日本の金融緩和政策を厳しく批判していた(注1)。

批判は東京にあるドイツ日本研究所のフランツ・ベルガー所長の意見として述べられ、日本があくまで金融緩和政策を続けるのは、世界で跳びぬけた負債大国であり、金利を上げれば負債が増大し、国家破産を招くからであり、このような負債国家にとって継続は心地よいものだろうと揶揄している。

更にそのような金融緩和政策は、リスクある起業には回されないことから経済を活性化せず、ゼロ金利故に生産性のない従来の企業を生き続けさせ、人口統計学の視点からも行き詰まりを引き起していると指摘している。

そして最後にベルガー所長は、「私は、激しいインフレか、ある時点での金利上昇で国家破産かの、中央銀行金利を低く保ち続ける悪しき決定を望まない」と結んでいる。

 ドイツからこのような厳しい批判が為されるのは、日本が2013年量的金融緩和政策を始めた後、欧州中央銀行ECBがそれを真似て始め、加盟国の刷る大量の国債を買取る手法が長年問われて来たからである。

現に2020年5月ドイツ憲法裁判所は、違憲判決とも言うべき異議判決を出している。

 ドイツ憲法裁判所が異議を唱えた理由は、第一次世界大戦後賠償費用を工面するため、意図的に資金供給量を増大し続けていたが、突然金融制御ができなくなり、1兆倍を超えるハイパーインフレを招いた苦い経験があるからだ。量的金融緩和の仕組みは、一見安全であるように見えても通貨増刷では同じであり、現在のような危機の時代には一度インフレが加速すると、制御不能に陥るからであった。

 日本の場合は、財政負債が天文学的に巨大であるばかりか、日銀コントロールを万全だと過信し、財政負債を増やし続けていることにある。しかも最近では、著しい円安も日本産業にとっては神風であるといった、嘗ての関東軍猛進時代の反省なき風潮さえ生まれていることに恐ろしさを感じないではいられない。

 問われなくてはならないのは何故日本だけ金利を上げれないかであり、財政負債解消に厳しく向合う姿勢である。そうでなければ、戦争に加えて干ばつなどで世界的食料危機が起れば、市場に溢れるお金が食料に向かって暴走し、嘗てのドイツのようにいずれハイパーインフレに見舞われかねないだろう。

 

(注1)6月20日Tagesschau「ギャロップインフレか国家破産か?」

https://www.tagesschau.de/wirtschaft/japan-geldpolitik-101.html

 

何故自助経済の世界が創られなければならないか

 

 前回はドイツのように絶えず民主主義を進化させて国民の暮らしを優先さて来た国であっても、経済においては利益追求が最優先されていることを述べると共に、「石油とガス無し」の社会が地域での自給自足の自助経済を創り出し、世界を救うと述べた。

 今回はその整合性を述べることから始めたい。

 第一に、現在のグローバル資本主義経済は格差を肥大させ、人間の自由と平等を尊重する民主主義を機能不全にさせ、社会正義や気候正義の実現も期待できなくなっているからである。

 第二に、格差肥大はロシアの力による侵攻だけでなく、従来右派政権のコロンビアの選挙で(6月19日)左派政権が誕生するように、中南米の全ての国を反自由主義へと向かわせ、世界を大きく分断しているからである。

 第三に、現在の経済は究極的に弱肉強食の競争であり、一握りの強者だけが益々強くなり、弱者はどのように努力しても勝てない世界となっているからだ。

それは富が蓄積される弱国資源国を、強国の金融ファンドは絶えず標的とし、冨が根こそぎに奪われているからである。

すなわち何らかの債務悪化を理由に標的国の国債を大量に売り、同時に国債保険(クレジット・デフォルト・スワップCDS)を大量に買付け、フェークを含めて債務悪化情報を流し、暴落させた国債を買戻し、逆に高騰した国債保険を売り抜き、弱国資源国の富が根こそぎに奪い取られて来たからである。

しかし世界が二分されるなかで、そのような新自由主義の手口も限界に達しているからである。

 第四に、ロシアの力による侵攻を受けて、世界の国々は軍事力強化に乗り出しており、最早戦争は何処で起きてもおかしくない時代に突入してきたからである。

 日本でも敵地攻撃ミサイルが公然と言及されるだけでなく、憲法改正で軍隊保有の実現が強まっており、核保有を求める声さえ聞かれるようになって来ている。

このようにロシアの力による侵攻から核保有を求める風潮にいたる原因は、格差の拡大であり、絶えず成長を求める資本主義の格差拡大が限界に達していることを物語っている。

それは強国の経済が絶えず富を求めて海外に進出し、他国の富を奪ってくる構造にあり、最早開発によってウィン・ウィンの関係ではないことが、貧困の深化であからさまになって来ているからでもある。

  世界は一方でこうした危機の状況に突き進むなかで、ロシアに石油とガスを依存してきたドイツでは危機を力として、地域での分散型技術による自然エネルギーへのエネルギー転換が促進され、地域で自給自足する経済、自助経済の兆しが感じられる。

そのような兆しの理由を挙げれば、以下のようになる。

 第一に、地域でのエネルギー自立では、これまで巨大電力企業が支配してきた集中型大量生産技術での遠隔送電よりも、地域で市民エネルギー協同組合が分散型適量生産技術で製造する方が経済的に圧倒的に有利であるからである。そして地域のエネルギー自立が達成されれば、水素として蓄えられた余剰エネルギーを用いて地域での生活必需品の製造でも同じであり、迫りくる危機に対処するためにも必然的に世界は自助経済に塗り替えられなくてはならないからだ。

 第二に、現在の国益を追求する国民国家による世界では本質的に国益優先で戦争がなくならないからだ。しかも国民国家の集う国連は創設した5か国に拒否権があり、シリア戦争、ウクライナ戦争に見るように、一方の世界の和平工作が他方の世界を率いるロシア、中国の拒否権で全く機能していない。すなわち平和を創り出す国連軍自体が機能不全となっており、絶えず国連改革が求められているが、改革には拒否権が行使され、現在の国連が存続する限り拒否権はなくならない。

 第三に世界が他に利益を求めない分散型技術による地域自助経済に転換して行けば、自ずと世界の何千という地方政府が集う新しい国連が求められ、そこでは他から獲得する必要がないことから、戦争のない相互扶助の世界創出を期待できるからである。

もっともそのような新しい国連、そして自助経済からなる世界が求められるとしても、現在の巨大産業が支配する国民国家の世界からは、絶望的に遥か遠くに見えることも確かである。

しかし2030年までにドイツで、再生可能エネルギーが80%を超える「石油とガス無し」の地域社会が実現するようになれば、世界に何千という自助経済からなる世界、戦争のない相互扶助の世界も真近にかに見えるだけでなく、そのような世界への転換を現実化する動きも起きて来る筈である。

  尚『2044年大転換』では、ここでは経緯を割愛するが、2035年国連に集う非政府組織の指導で新たな国連地域政府連合が誕生し、世界は国民国家の従来の国連と二つに別れて必死に生き延びようとしている。

 そのような自助経済の地域政府連合の国連誕生は、現在の世界からすれば国民国家の国連に敵対するものであり、グローバル資本主義経済が支配する国民国家では絶対に許されないものである。しかし危機が次々と現実化するなかでは、延命戦略として寧ろ積極的に自助経済の地域政府と国連地域政府連合を容認している。

その理由は絶えざる成長を求める国民国家連合が、洪水や干ばつによって食糧危機が頻発し、さらに感染症が絶えず猛威を振るうなかでは、世界の貧困支援や平和維持の機能を失ったからである。

すなわち危機に際して全く余裕を失い、貧困問題、難民問題、平和維持、そして気候変動問題に対処できず、むしろ地域が自ら解決することを望み、大都会死守に徹している。

それはグローバル資本主義側が、確保した最も安い栽培地、生産地、資源地域から大都会消費の循環体制維持で、問題の湧き上がる世界の無数の地域を意図的に切り捨てるという、危機克服の判断からである。

 しかもそこには目論見があり、国民国家を支配するグローバル資本主義側は、世界の大都会をあらゆる手段で死守し、敵対する世界の地域政府と表向き友好関係を維持して行けば、国民投票による自己決定権で独立した地域政府も、嘗ての途上国のように何れ経済支配できると踏んでいたからである(次回に続く)。