(460)危機の時代を賢く生きる(2)・「市民のお金」妥協決着・気候活動家の違法行為が投げかけるもの

危機の時代を賢く生きる(2)

 

 第2回は未来の屋根に雨を防ぐだけでなく、巨大な電力供給を夢見て、太陽光瓦を作り出し、自ら企業アウターク(自給自足)を設立して、ドイツ中の屋根を太陽光瓦に葺き替えようとしている男(パウル)の話である。

映像からは、パウルが職人と一緒に楽しみながら太陽光瓦を葺き替えており、まさに危機の時代を賢く生きていると言えるだろう。

そしてパウルのような挑戦を支援する人がいるのもドイツであり、世界的な風力エネルギー企業の責任者(代表)は、パウルの太陽光瓦を「敷地内のすべてのものを可能な限りエネルギー効率よくするという哲学に適合している」と絶賛していた。

話は変わるが、日本でも屋根を巨大な電力供給源と考え、東京都は2025年から新設住宅の屋根に太陽光パネル設置義務を決めたが、議会だけでなく各方面から批判が噴出している。

確かに制度は整っておらず、新設を考える市民の負担が大きく、住宅コスト上昇で販売も落ち込むだろう。

だから手を出さず、現状維持を貫こうとするのでは、最早進めないだけでなく、身を亡ぼす時代が到来していることに気づくべきであろう。

1980年代末のドイツのアーヘン市の市民は、市民自ら太陽光パネル普及を発案し、90年台に市民の消費する電気料金を1%値上することで、設置者が損をしないやり方で普及させて行ったのである(当時の太陽光パネル設置は高価であり、太陽光で発電された電力は電力公社が20年間電力売価の10倍で買取ることで、設置者は得はしないが、損もしないというのが、当時のアーヘン方式普及の市民の賢い哲学であった)。

これからの時代は危機を避けられないが、いかに起きた危機に対処するかが問われているのである。

最早危機を踏台としての利益追求はあってはならないことであり、起きた危機を皆で分かち合い、そして危機への対処を生きがいに変える社会にして行かなくてはならないだろう。

 

「市民のお金」妥協決着(まだ遠いベーシックインカム

 

 キリスト教民主同盟CDUの州首相が多数派を占める連邦参議院では、「市民のお金」法案への反対が強く、年明けからの施行が危ぶまれていたが、連邦議会連邦参議院の調停委員会で11月23日に妥協決着が図られた。

その妥協決着では、支払い額は同じでも、2年間の支払い期間が1年に短縮され、失業当事者の貯蓄も60000ユーロから40000ユーロに削減された。

また申請違反があった場合、連邦議会での法案では制裁に6か月の猶予期間が認められていたが、従来通り直ちに制裁が課せられことになった。

このように信号機政府が譲歩する形で決着したのは、前回載せた世論調査で国民の半数以上が信号機政府の決めた「市民のお金」法案を支持せず、働こうとするインセンティブに欠けていると判断していたからに他ならない。

そのような妥協決着法案は、ベーシックインカム導入には程遠いものとなったが、国民の意思を尊重して長期的視点で取組み、困窮者救済優先で予定通り施行されるのは評価できるだろう。

このようにして多数決で押し切らず、国民の意思を尊重して、反対者と妥協を模索し、決着を図るやり方こそ民主主義であり、日本も学ばなくてはならないだろう。

 

気候活動家の違法行為が投げかけるもの

 

 確かに緑の党連邦農業大臣ジェル・オズデミールが言うように、飛行場侵入という危険な違法行為は気候保護運動に水をかけるものかも知れないが、彼らが何故違法行為までして訴えているのかを考えなくてはならないだろう。

彼らが違法と認識して行動するは、今年もCOP27で実行力ある行動が先送りされたことへの抗議に他ならない。

彼らは最早ティピングポイント(臨界点)を超えていると認識し、「最後の世代」と称しており、映像で見る限り真摯に飛行場に侵入し、一時的に航空運行を停止して、世界に抗議を訴えているのである。

この違法行動に対して、政治家を含め批判者が圧倒的であるなかで、ドイツ第一放送ARDの26日のTageshauでは、科学者でもある社会学者マティアス・クエントの見解を載せ、熟慮を求めていた。

社会学者の見解は、「何十年もの間政治と産業は、特に運輸部門において、気候保護対策を減速させ、妨げてきた」と述べ、「これを考慮すると、活動家が傷口に指を入れることで気候保護運動に害を及ぼすと非難することも言い訳であり、行動を好むと、好まざるとに関わらず、気候危機の責任は他の場所にある」と指摘し、「権威主義的な(行動への)反発と処罰の幻想は、民主主義文化にとって、短時間の破壊的行動そのものよりも危険である」と、現在の非難一辺倒の風潮を戒めていた。

気候活動家の違法行為は、現在の気候変動危機をどう見るかによって異なるだろう。

世界が現在の枠組で気候保護に努力して行けば、まだ臨界点に間に合うとすれば、政治家たちの非難も正しいだろう。

しかし現実を直視すれば、世界は既に臨界点に間に合わない地点に達していることは明らかである。

尚臨界点は2007年から使われ出したキーフレーズであり、気候変動研究の第一人者ジェームズ・ハンセン博士(前ナサ研究所所長)は、南極やグリーンランドの氷床が激的速さで海に落下する氷床崩壊を止めれる点(気温上昇1.5度)であると指摘している。

ハンセン博士の出した2007年の論文では、古い気象データを解析し、350万年前に起きた地球の気温上昇2度~3度で、氷床崩壊によって海面が25メートル上昇した事実から、その危険な可能性を示唆している。

2008年NHKが放映した『未来への提言 地球温暖化に挑む 世界の叡智が語る打開策』(宇宙飛行士毛利衛さんがハンセン博士をインタビュー)では、ハンセン博士が前年南極の一部で起きた氷床崩壊を説明し、あと数年で世界は石炭を廃止しなければ臨界点を超え、2100年の海面上昇は59センチではなく十数メートルになる可能性があると明言しており、その言葉が私の脳裏にも強く残っている(ICCの当時公表した59センチ海面上昇には、南極やグリーンランドの氷床崩壊は含まれていない)。

この番組でもハンセン博士は、産業や政治の妨害について言及し、論文での真実が政府官僚によって改ざんされた事実を述べ、毛利さんを驚かせていた。

その後ハンセン博士は要職を解かれ、気候活動家となり、抗議デモで2度の逮捕にもかかわらず、気候変動危機の恐ろしさを世界に訴えている。