(467)ウクライナ戦争を生み出しているもの

ヨーロッパ民主主義の危機(ウクライナ戦争の原因)

 

 上の動画は、ドイツ公共第一放送ARD制作の「レスペクト(尊重)」シリーズの番組の一つであり、まさにドイツの戦う民主主義(永久革命としての民主主義)を象徴するものである。

(これらの何十もの民主主義を守るための作品が制作放映されており、学校で青少年政治教育の教材としても使われている)

 今回の「ヨーロッパ民主主義の危機」はウクライナ戦争が起きる前の2021年に7月に制作放映されたものであるが、ポピュリズムの台頭で70年間続いたヨーロッパの平和が危機にあることを警鐘している。

嘗てワレサ議長率いる「連帯」で民主主義を希求したポーランドが、2004年にEUに加盟し、農業だけでなく様々な分野でEUの莫大な助成金を受けて、10年間で豊かさが全体として倍増し、EU加盟国の何処にでも行けるだけでなく、何処にでも暮らせる自由を手にした。

しかしその頃にはポピュリズムが蔓延し、2015年には右派政党「法と正義」が10月の国民選挙で圧倒的勝利を勝取り、2015年末には憲法裁判所の違憲判決を過半数多数決から3分の2多数決に変え、実質的に憲法裁判所の機能を無力化した。更にメディア改革で公共放送を国家文化機構に変え、権威主義体制に呑み込まれて行った。

 このフィルムで取上げている「ポーランドはナチズムのホロコースト犯罪の関与していない」という法律は(2018年にポーランド議会で議決されたホロコース法)、まさに過去の事実を変える歴史の改ざんである。

それは単なる歴史の改ざんだけに終わらず、その背後では治安維持法のような法律が機能し、社会全体が独裁国家へと変貌して行き、最早ブレーキが効かなくなりかねない。

事実ハンガリーのオルバン政権は最早独裁化しており、ポーランドも2015年以降カンチスキーの独裁化が益々強まっており、大衆支持も一過性のものではなく、益々強まっている。

このフィルムが伝えるポピュリズムとは大衆迎合であり、ポピュリストの戦略は絶えず同じであり、「エリートと大衆の間にある敵対をでっち上げ、強調する」ことである。

エリートとは、大衆とかけ離れた上にある人であり、ここではポピュリストと反目する政治家、理想を求めるEUのような機構に関与する人、メディアなどの人であると述べている。

そして、「ポピュリストは不安を掻き立て、強く感情を呼び起こすテーマで大衆をつかみ取る」、「その際事実はなんら役割を果たさず、ポピュリストは大衆を興奮させる敵の像を必要とし、作り上げる」と述べている。

事実ポーランドでは、2015年まで極右党首と報じられていたカンチスキーは、国民選挙で「避難民受入れは、南ヨーロッパで忘れていた病気を呼び覚ます」と述べ、国民の不安を掻き立て、EUのシリア避難民受入れ義務拒否を掲げ、大衆を扇動していた。

カンチスキー右派政党が大勝利した後「ディ・ツァイト」10月29日報道では、勝利の第一の理由を新自由主義の格差拡大に対して包括的社会政策(年金や子育て手当の大幅値上)をあげ、第二の理由に政治家の多くに若い女性を登用し、EU議会ポーランド議員代表にドゥダ、女性首相にベアタとし、党首カンチスキーが見えないようにしていると書かれていた。

また第三の理由として、政治綱領には選挙民を優先する政策しか書かれておらず、日頃主張する憲法改革などの問題となっている政策には一切触れていないことを挙げていた。

しかし大勝利した後はポピュリズムの唱える議会多数決で、憲法とメディアを支配し、ポーランド法に見られるような歴史の改ざんで独裁化を推し進めている。

そうした経緯は、無法なウクライナ戦争を開始した独裁者プーチンがそうであり、まさにポピュリズムが作り上げたと言えるだろう。

すなわち社会主義のロシア崩壊後、競争原理優先の新自由主義到来で競争社会に一変し、他者に不寛容であるばかりか、バッシングやヘイトスピーチが連鎖するなかで民主主義が育たず、多数万能のポピュリズムが台頭し、独裁者プーチンを誕生させたのであった。

そのような視点から見れば、現在のウクライナ戦争もポピュリズムが作り出したものであり、私たちが帰属する民主主義の原点に立ち戻り、民主主義がポピュリズムに取り込まれていないか、考えて見なくてはならないだろう。

 

新刊の紹介

永久革命としての民主主義』

(ドイツから学ぶ戦う民主主義)

 

[https://www.amazon.co.jp/dp/B0BVTLRXGC?ref_=pe_3052080_397514860]

 

 

 

 私は紙本で育ったことからペーパーバック版も出しましたが、キンドル版は安いし、私がドイツの公共放送に日本語字幕を付けた映像作品にリンクされ、映像で楽しみながら学べるので試して見て欲しい。

私自身kindle本を敬遠していましたが、本が読みにくくなって初めて試したところ、文字が自由に読みやすい大きさにできることから、キンドル版がある場合は利用しており、もっと早くから利用すべきだったと思っている。

尚この本の説明紹介では以下のように書いている。

 この本は、多難な禍が次々と到来する危機こそ希望ある未来を創る力であり、それを為し得るものは、ドイツから学ぶ「永久革命としての民主主義」であると説いている。
また今回電子書籍及び紙本が無料で易しく出版できたことについては、紙本の「あとがき」で以下のように書いているので参照して欲しい。
 私のように学者でもなく、作家でもない一市民が、世に訴える本を書きたくても、お金なしでは出版することが非常に難しい時代になって来ている。
そうしたなかでアマゾンでの書籍出版は、電子書籍だけでなく、紙本さえも、「誰でも無料で易しく出版できる」と聞き、今回試して見た。
 私自身団塊の世代であることからも、パソコンは何とか使用できても、スマートフォンは殆ど使いこなせていないことから、途中で投げ出したくなったことも屡々であった。
それでも独力で頑張り、書き終えて見ると、「誰でも無料で易しく出版できる」といううたい文句が本当であったことに、今更ながら驚いている。
 そのようなアマゾンの仕組は、この本で述べているように、ドイツの「永久革命としての民主主義」の引金を引いたのがハリウッド商業映画『ホロコースト』であったように、世界の「永久革命としての民主主義」の引金となり得るものだと思っている。
何故なら市民一人一人が、誰でも自らの思う訴えを容易に出版できれば、その波紋が拡がって行き、究極的に社会を競争から連帯に変え、世界の人々が望む希望ある社会を創り出し得るからである
 私自身も、これまでブログ「ドイツから学ぼう」で長年書いてきたことを掘り起こし、『ドイツから学ぶシリーズ』を出していくことで、「永久革命としての民主主義」の引金を引きたいと思っている。
 そのためにも最早避けられない気候変動激化など、降りかかる禍を力として、生涯書き続けるつもりである。