(468)第5の権力ロビー活動はコントロールできるか・経済の民主化を求めて(2)

ロビー活動とは何か

 

 今回もARDの民主主義教育の一環として制作され、2023年2月8日にバイエルン放送を通して全国に放映されたレスペクトシリーズの「ロビー活動」を考えて見たい。

まずこの番組ではタバコ産業がタバコが健康に有害であるにもかかわらず、ロビー活動を通して規制を何十年に渡って先送りしてきた事実を取上げ、ロビー活動が民主主義にとって良いものか、悪いものなのか問いかけている。

ロビー活動の起りは、19世紀の英国で利益団体代表が英国議会玄関ロビーで要望を伝えるために、政治家を待ち受けていたことから始まっていると説明している。

そして問題として、ロビー活動に公開性が認められないなら、どのようなコントロールも効かなくなることを指摘している。それゆえ議会、政府、司法、メディアに次いで国家の第5の権力であり、ロビー活動が公共性を失うならば、ロビイストに政治家を不法に影響し、贈賄政治の黒幕を見ると述べている。

 

 ドイツ社会では少なくとも1990年のドイツ統合まで、ロビー活動が話題になることは殆どなく、昼食の接待さえ厳しく禁止されていた。そのように戦後のドイツが利権政治に厳しい対処をしていたのは、ナチズム独裁国家の下では利権政治が蔓延し、ホロコースの強制収容所さえシーメンスやベンツなどが強制労働に利用していた反省からだった。

そのようなドイツも、ドイツ統合で東ドイツの莫大な資産を求めてアメリカ資本がなだれ込んだ時から一変した。すなわちコンサルタント企業マッキンゼーや法律事務所ホワイト・アンド・ケースなどの多くの弁護士を抱えた専門企業がなだれ打って入り込み、信託公社の役人や政治家を巧妙に買収し、旧東ドイツの資産をただ同然に加えて、当時4万社の企業には雇用を条件に2560憶ユーロの助成金さえ、合法的に強奪して行った。

まさにそれは、ドイツへの新自由主義の襲来であり、ドイツ統合の生みの親コール首相さえ汚職に巻き込まれて行き、刑法108e条項を改正でロービ活動での便宜を合法化するだけでなく(議決に関与する便宜だけが有罪)、国益最優先を名目にロビイスト連邦議会への出入りがフリーパスとなって行った。しかもその過程で、ロビー活動は民主主義政治に必要であるさえ言われるようになって行った。

 しかし2008年の金融危機以降第4の権力といわれるメディアから新自由主義への批判が湧き出してくると、2009年の書店には上のようなドイツ統合以降のロビー活動の実態を暴露するブラック本が並び、ロビー活動への批判が激しくなった。

しかし一旦築かれた政治と産業のロビー活動を通した利権関係は、政治家と企業の汚職が絶えず摘発され、激しい批判を浴びたにも関わらず、2021年まで容認されてきた。

 それはキリスト教民主同盟CDU(CSUを含)の長期メルケル政権が続いたことにも因っている。しかし2021年数人のCDU連邦議員がコロナマスクで便宜を図ったことが報道され、激しい批判を浴びたことから、以前から求められていたロビー活動の透明性を確保するロビー活動透明性登録簿法案を容認するしかなく、連邦議会で2021年3月25日に決議された。

しかし透明性を確保する上で詰めの作業が難航しており、実施が延ばされている。

 

透明性登録簿で公正さは確保できるのか?

 

 信号機連立政権では、ロビー活動の透明性を確保するため早急の登録簿実施を約束したが、2023年現在に至っても実施されておらず、ARDのレポーターは長年ロビー活動の透明性を追求してきた非営利団体ロビーコントロール代表のチム・ランゲに現状を聞いている。

チム代表の回答では、詰めの作業が難航し実施が難航しているが、幾つかの突破口が為されており、立法及び行政でのロビー活動の足跡が具体的記載される登録簿作成に向かっており、近く実施されるロビー活動登録簿では「透明性は高まるでしょう」と明言している。

しかし企業の利益を追求するロビー活動が、公共や弱者への配慮という本質的な問題に対しては提示に留めていた。それは、現状がロビーコントロール求める公正さ確保から遠いからであろう。

もっとも企業のロビー活動を透明化することは経済民主化の第一歩であり、それなくして現在の覇権主義体制の拡がりや気候変動激化は、競争原理を最優先する経済では止められないからである。

何故ならギリシャ金融危機で浮かび上がった事実は、このブログ(68)で述べているように、ギリシャ市民が求める不当債務の原因がドイツ企業であったからだ。

具体的には第一位は賄賂によるオリンピック融資で莫大な利益を得たシーメンスであり、第二位はギリシャNATOの軍備を仕組んだドイツ武器産業であり、第三位は恐ろしく高い利子で巨額の利益を得ていたドイツの銀行であった。

それらの企業戦略は、最初に述べたドイツ統合での合法的アメリカ侵略企業から学んだものであった。

例えばシーメンスの他国への経済戦略は、日本語資料さえ公表されているように、各国でコンサルタントを通して役人に多額の賄賂を支払い、コンサルタント費用や弁護士費用として計上するといった巧妙なやり口であった。そのようなやり口で莫大な利益を上げていたことは、米国司法相の刑事訴追で明るみに出て、世界に知れ渡った。

しかもそのようなドイツ企業の巧妙のやり口は、東欧諸国のEU加盟では本領を発揮し、民営化を推し進め、民営化した企業を企業買収によって支配下に置いたことも事実である。

そのようなドイツの規制なき自由な経済侵略は、格差が拡大するなかで東欧市民が市民の2流化と言って非難するのも忘れてはならないだろう。

それは現在の東欧諸国の権威主義政権誕生の起因であり、現在のウクライナ戦争の起因と言っても過言ではない。

しかし競争原理を最優先するグローバル資本主義経済は、世界が二分極するなかで、或は気候変動が激化するなかで、さらには感染症が頻発して世界に拡がるなかで、最早存続できないまでに追い込まれており、経済の民主化が不可欠と言えるだろう。

 

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