(487)『核のない善なる世界創出への新しき復活』 

 挨拶

 長く休んでおり申し訳なく思っていますが、ようやく本を書くことが一応できましたので、「はじめに」及び目次を紹介しておきます。この間昔読んだことのあるトルストイの『復活』も読みました。トルストイは90歳を超えても人間として尊厳ある生き方を求めて、新しき社会の復活に前へ前へと最後まで取組んでいたことを思えば、まだまだ私も若輩として前に進めるような気になっています。

 まだ推敲や資料などの整理がついていませんが、300ぺージほどの私としては厚い本となり、4月末までには本を出したいと予定しています。

 

「はじめに」

 トルストイの『復活』は、ネフリュードフ侯爵過去に恋して捨てたカチューシャ徒刑衆としてシベリアに送られることに自らの罪を感じ、カチューシャを救いだそうと追いかけて行く。その過程で侯爵はこれまでの退廃的生き方に目覚め、人間の尊厳ある生き方を取り戻し、若い頃の純真な生き方を超えて人間として尊厳ある新しい生き方に復活していく物語であった。

 私の書いたこの本も、罪を犯した世界がまったく責任のない気候レイシズムで苦しんでいる人々に対して、押し寄せる禍を力としてエネルギー転換による利他主義で救いを求め、世界自らも尊厳ある生き方に目覚め、貧困や格差がないだけでなく、搾取と争いのない核のない善なる世界を創り出し、新たに復活していく物語でもある

 フランス革命ロシア革命、そしてベルリンの壁崩壊後のビロード革命を初めとした民主化革命では絶えず理想社会が求められて来たが、すべての革命において理想が実現することはなかった。

 その理由は革命後も冨を蓄積する仕組が残り、冨の蓄積する仕組なくしては国家が維持できなかったからである。すなわち国家は冨の蓄積を追求するために官僚組織を必要とし、必然的に利権構造を生み出し、外に冨の獲得を求め競争、争いを起して行くからである。しかも内においては利権に関与する一握りの人たちが裕福になり、多くの人々暮らしに困窮する構図はトルストイの『復活』に見る帝政ロシアの時代も現在も変わらない。

 しかも社会に理想が掲げられる時、革命においては理想強制され無数の人々が虐殺されたことから、恐ろしい社会イメージし、むしろネガティブにしか感じられない。 

 しかし現在は地球上のすべての氷河融解や核戦争の危機が現実化しつつあり、それにもかかわらず危機を推し進める利権構造が肥大し続け、危機を阻止する行動口先ばかりで全く機能していない。もしこのような現在の世界が継続されるなら、最早人類は生き残れないことも確かである 

 それに対して無尽蔵の太陽を原資とする太陽光発電風力発電などの自然エネルギーが絶えず生み出されるエネルギー転換の世界は、冨の蓄積の追求を必要としないことから、地域での自立した自給自足の自律経済社会を創り出し、利権構造のない、争いや戦争ない理想世界非暴力によって築くことも可能である。 

 そのような自律経済社会の実現は、まさに私の半世紀前に体験した「幸せな懐かしい未来」を超えた理想の未來社会であり、他から奪うこともないだけでなく、格差もなく、戦争のない核のない善なる世界である。

 本書では、第一章、第二章で、ドイツ及びEUにおいて二〇四五年までに市民イニシアチブのエネルギー転換が実現できることを検証している。

 また第三章ではドイツの電力や水道の湧き上がる再公営化について伝え、市民イニシアチブによるエネルギー転換を通して、再公営化実現がどのような希望ある未来社会を創り出そうとしているか、現場での取組みから述べている。

 そして第四章では、化石燃料支配の利権構造世界がエネルギー転換を阻止するため、私たちの目の届かないところでどのように機能しているか探求した。そのため最近ドイツで世に出され、反響を巻き起こしている『気候レイシズムエコロジー転換への右派の攻撃 Klimarassismus. Der Kampf der Rechten gegen die ökologische Wende』を翻訳して要点を書き記した

 また第五章では、巨大な化石燃料支配に立ち向かうドイツ公共放送の戦いを伝え、現在化石燃料支配を支える極右政党AfDへのドイツ市民抗議デモがドイツ中に拡がる実態を通して、新しい世界への胎動を描いている。さらに第六章ではそのような新しい世界への胎動は、これから押し寄せる禍を力として、世界のすべての地域を互恵的利他主義でエネルギー自立させることで可能であることを述べている。

 第七章の「核のない善なる世界」誕生の物語では、現在の世界危機を踏まえて予想される洪水、食料危機、感染症の蔓延などの禍を力として、どのように核のない善なる世界が実現できるかを描いている。

 そして最終章の「幸せな懐かしい未来を超えて」では、そのような理想社会は、単に私やヘレナ・ホッジが半世紀前に見た「幸せな懐かしい未來」への回帰ではなく、お金に依存することもなく、都市に暮らすこともない、生活の楽しみや幸福感や豊かさが溢れる善なる社会であることを具体的に検証している。

 

 

目次

核のない善なる世界創出の新しき復活 

序章 核のない善なる世界創出への思い 

ガザの地獄絵図を見るなかで 10

私の体験した「幸せな懐かしい未来 13

核のない善なる世界創出への思い 18

第一章 ドイツ市民エネルギー転換 23

アーヘン市民の太陽光普及の哲学 24

再生可能エネルギー法施行 26

再生可能エネルギー法の改悪 29

禍を力とした歴史的転換 32

貫かれる気候正義 35

第二章 欧州連合を解き放つ市民のエネルギー転換 38

二〇一八年の新たな欧州連合エネルギー指針 39

革命的に拡がるヨーロッパのエネルギー転換 43

第三章 ドイツで拡がる再公営化 47

脱原発でのドイツ市民の哲学 48

市民イニシアチブのハンブルクでの再公営化 54

ベルリン再公営化の挫折と勝利 58

拡大する市民イニシアティブのエネルギー転換 63

なぜ今、市民イニシアティブへの転換なのか 68

第四章 気候レイシズムの台頭 73

気候レイシズムの台頭 74

『気候レイシズム』が訴える化石燃料支配との闘い 78

第五章 化石燃料支配と戦うものたち 88

何故今、エネルギー転換推進が攻撃されるのか? 89

極右政党(AfD)の「緑の党」攻撃 91

「戦う民主主義」を掲げる公共放送の報道 96

戦う公共放送の潜入取材 101

ドイツから始まった世界を変える市民デモ 108

第六章 エネルギー転換が創る新しい世界 114

拒否権を持つ利権構造の世界 115

エネルギー転換による利権構造のない世界 122

第七章 「核ない世界」誕生の物語 128

二〇三〇年の衝撃が生み出した市民イニシアチブ 129

自己決定権を持つ地域政府が創り出す新しい社会 135

国民国家連合のもう一つ別な世界 141

大都会東京崩壊する日 147

市場経済を終わらせた世界地域連合の戦略 151

戦争のない核なき世界誕生 157

世界地域連合憲章 160

物語から始まる「幸せな懐かしい未来を超える世界」166

終章 幸せな懐かしい未来を超えて 168

地域市民が創り出す芸術の復興 169

共に生きる社会 171

医師と店員が同賃金の社会 174

幸せな懐かしい未来を超えて 179

「著者の紹介一」私の「核のない未来」へのルーツ 187

シェーナウへの私の訪問 188

スラーデック御夫妻の日本訪問 191

巻町講演会でのスラーデック御夫妻の思い 197

巻町交流会での住民の思い 201

公共哲学京都フォーラムでの「核のない未來」議論206

広島での黙祷と誓い 214

盛和塾へ集う人々へのメッセージ 218

「著者の紹介二」私のゴルフ場開発反対運動と行政訴訟  

(486)ドイツから世界を変える市民デモが始まった

 

ドイツから世界を変える市民デモが始まった

 

 現在のドイツ中に拡がる市民の右翼過激主義(極右政党AfD)に対する抗議デモは、今年1月14日のポツダム市の市民デモから始まり、毎週の週末には過去にないほど盛り上がり、7週間続いている。3月に入ろうとしているが終わる気配がなく、まさにそれは危機の時代への市民の結束であり、世界を変えるものである

 事の発端は右翼過激主義者がポツダムで難民、移民の追放を目的とした秘密会議を開催したことに始まっているが、現在では右翼過激主義(極右政党AfD)のEUの拒絶、人為的気候変動否認、政治的、文化的、宗教的に開かれた多元社会否定、そして民主主義を葬り権威主義的支配に導こうとする極右政党AfDへの抗議デモに拡がっている。

 ドイツ第二公共放送ZDFheuteの2月17日の「右翼過激主義に対する抗議デモ・唯一(危機の)時代での結束」記事では(注1)、抗議運動が始まってから約1カ月が経ち、既に300万人以上市民が各都市右翼過激主義に反対してデモに参加していると伝え、同時にライプツィヒ大学社会学者シュテファン・ポッペの抗議運動展望を載せていた。

 ポッペ博士が語るには、第一に抗議運動の規模と運動期間が重要であり、例えば1989年の壁崩壊に繋がるライプツィヒでの月曜日のデモや、2019年に始まった今日の「未來のための金曜日デモ」は世界を動かしたと説明している。また今回の抗議運動は2月2日の世論調査が示すように79%の人が極右抗議デモに賛成しており、支持政党でも昨年7月以来20%という高い支持率を続けてきた極右政党AfDも今年に入り20%を割ったことは大きな成果であると指摘している。

さらに極右抗議デモでは、参加者には異なる幅広い価値観があることは確かであるが、だからこそ、唯一(危機の)時代への結束することを望みたいと述べていた。

 またドイツ第一公共放送ARDの1月28日「Tagesshau」では(注2)、「右翼過激主義に対する大規模な抗議行動・AfDはパニックに陥っている」と題して社会学者のマティアス・クエント教授のインタビューを載せている。

クエント教授は、「各都市の大規模な抗議運動だけでなく、小さな町でも、小規模で、自分の環境の中で行われ、国民の大半が右翼過激主義抗議運動支持しており、それは極右政党AfDが大衆政党であることに疑問を投げかけ、パーニックに陥らせている」と主張している。

またARD制作の『私たちはAfDにいた・脱退者のレポート』に対しては、「右翼過激主義は、破滅への恐怖と、すべてが壊れ、すべてがますます悪化し、結局、国を救うことができるのは極右(AfD)だけであり、自分たちだけだという考えで支持されています。しかし市民抗議デモが明らかにしたのは、参加者には肯定的な感情があり、希望があり、民主主義を支持し、右翼過激主義の破壊的な立場と文化的悲観主義を拒絶していることです。そして、デモやソーシャルメディアのスピーカーで、右翼過激主義者に対するこれらのデモの影響の1つは、フラストレーション、エネルギーの喪失、コミットメントの低下などです。AfDを支持する人々は、自分たちの社会観がこれらのデモによってこれほどまでに揺さぶられていることに不満とショックを受けています。それは理性的なレベルだけでなく、感情的なレベルでも起っています」と述べていた。

 このようなドイツの公共放送の報道には、市民の抗議デモを支援すると同時に、民主主義を葬ろうとする右翼政党AfDを許してはならないという「戦う民主主義」の姿勢が全面に感じられた。

 このドイツの「戦う民主主義」は、戦後二度とナチズムの恐るべき犯罪を繰り返してはならないという深い反省から、1949年に誕生させた基本法(ドイツ憲法)で、第一条から 第二〇条の国民の権利条項で「国家は国民のためにある(国家は国民のために奉仕する)」を明確に規定し、多数決では変えられない不可侵としたことに発している。

 しかも戦前のように官僚支配構造に戻らないよう、第一九条四項で「何人も、公権力によってその権利を侵害されたときは出訴することができる」と明言し、容易に行政訴訟が為されるよう導き、1960年に成立させたドイツ行政裁判法では、「行政当局は記録文章や書類、 電子化した記録、情報の提出義務がある(第九九条第一項)」を明記し、行政に過ちがある場合有耶無耶にできないようにしたからである。

 それは、裁量権を持つ官僚一人一人の責任を問うものでもあり、戦前の官僚支配構造から官僚奉仕構造へ変えるものであった。しかも基本法を的確に機能させるための連邦憲法裁判所の存在が大きい。ドイツの連邦憲法裁判所は51年に設立された時から、国民にガラス張りに開かれ、16人の裁判官たちは連邦選挙での政党得票率によって各政党推薦で選ばれる裁判官であり、競い合って絶えず国民に正義を訴えている。

 しかも協議室の議論は、国民にガラス張りに開かれており、裁判官たちの相反する激しい議論を見ることで、国民が合意を求める民主主義を学べるよう意図されている(まさにドイツの「戦う民主主義」は日本の戦前の官僚支配を継続する表向きの民主主義とは一八〇度異なるものであり、日本にとって認めたくない存在であり、絶えず日本ではメディアを通してドイツ批判が為されている)。

 今回のドイツ市民の抗議デモは民主主義を守る一点で結束しており、抗議対象の右翼過激主義(極右政党AfD)の背後には民主主義を葬ろうとする化石燃料支配の世界があることも確かである。それは余りにも巨大な構造であり、ドイツ市民から始まる抗議デモが世界に拡がっても、すぐには変えれないほど強靭な構造である。

 しかし化石燃料支配の引き起す禍の頻繁化は必至であり、世界市民の抗議デモは、それらの禍を力にして、化石燃料支配の競争世界から自然エネルギーの平等な争いのない連帯世界を創り出していく決意表明でもある。

 尚既にブログで書いたのであるが、2022年8月21日放映のドイツ第一公共放送(ARD)制作『気候崩壊、エネルギー危機、右翼の物語』では、極右研究の第一人者であるマグデブルグ・シュテンダール応用科学大学の社会学教授マチアス・クエントを登場させ、なぜ今右翼の物語が拡がって行くか、核心に迫っていた。放送フィルムでのクエント教授は、「ロビーイストたちは気候問題にブレーキをかける最前線ですべての政党に出入りしており、一〇年前からネオリベラルな強いネットワークを誕生させている。そして極右ネオリベラル政党AfD(ドイツのための選択肢)は、議会で化石燃料の特権を守る議題を勢力的に遂行宣伝している」と明言していた。

また2020年2月4日に放送したドイツ公共放送ZDFの報道特集番組「フロンターレ21」では、人為的気候変動を否定するロビー活動とAfDの関係を暴き出していた。この番組は市民調査機関CORRECTIVと共同で危うい潜入取材まで試み、このフィルム『気候変動否定での潜入捜査Undercover bei Klimawandel‐Leugnern 』を見れば、ドイツの公共放送が報道の中立性を越えて絶えず民主主義を進化させ、不正に立ち向う報道を実践していることがよくわかる。

その報道によれば最も重要であるお金の流れは、まずアメリカの石油産業などからのお金が、様々なシンクタンク、あるいは匿名寄付を可能するドナーストラストを通してハートランド研究所に集められる。そしてそこからドイツのEIKE研究所(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候とエネルギーのためのヨーロッパ研究所)にお金が送られ、そこから極右政党AfDに流れている。すなわちEIKEとAfDは密接につながっており、EIKE副代表のマイケル・リンブルフはAfD連邦議員カルステン・ヒルゼの事務所に勤務しており、AfDの党員でもある。そしてAfDは連邦議会で人為的気候変動を否定するだけでなく、政府の気候保護政策を絶えず批判し、エネルギー転換にブレーキをかけている。報道から見えてくるものは、現在の化石燃料支配の世界は石炭や天然ガス使用をより長く続けるために、ドナーストラストなどを通じて合法的に人為的気候変動を否定する研究機関などに資金を提供し、ドイツであれば究極的に国家社会主義の復興を求める極右政党AfDによって様々な気候保護阻止の活動がなされている実態であった。

 

 世界は何処に向かおうとしているのか?

  

 ロシアが何故ウクライナ侵略を始めたかは明らかであろう。ロシアはソ連崩壊後政治的にも混乱し、それまでの軍需産業から民需産業への転換も上手く行かず低迷していたが、一九九八年の金融危機による為替激落や石油ガスの世界的高騰で成長に転じ、石油や天然ガス開発によって粗野な資本主義の頭角を現して行った。しかしそれを率いる企業は欧米の株式企業ではなく、国家権力(プーチン政権)による利権と結びついた企業集団(オルガルヒ)であり、戦前の日本で言えば大本営統治の企業集団と言えるだろう。そのような企業集団が利権を求めて他国へ侵略するのは、自然の流れとも言えるからである。

 また現在のイスラエル侵攻も利権構造の肥大から見れば、自然の流れである。イスラエルは建国当初はキブツ共同生活が象徴するように農業中心の社会主義的な国家であったが、防衛の必要性から国内で戦車や戦闘機を製造する兵器産業が育って行った。そしてそれに伴い中東のシリコンバレーと呼ばれる工業国なり、2010年からは地中海のタマルガス田などの天然ガス開発に着手し、その急速な発展成長は驚くものがある。

しかしその反面富国強兵で利権構造が肥大し、202212月に誕生したネタニヤフ右派連立政権は、世界からポピュリズム的強権体制と批判される覇権政権である。

 司法改革では、最高裁が法律の無効判決をしても国会の過半数決議で覆せるものであり、行政府の完全支配を目指すものであった(但しこの司法改革は2024月の最高裁判決で無効とされた)。さらに政権人事では世界から利権屋ばかりと批判されるほど利権剥き出しの人事であった。

 特に連立政権の極右政党「宗教シオニズム」のスモトリッチ党首は財務相と第二国防相を兼任している。さらに連立政権のもう一つの極右政党「ユダヤの力」のベングビール党首は新設の国家安全保障相に就任し、これまで国防相の指揮下にあったパレスチナ西岸地区の警察業務も所掌している。

 すなわちネタニヤフ右派連立政権は当初からパレスチナの属国化を掲げており、イスラエルパレスチナへの侵攻も自然の流れであり、利権構造肥大による侵略戦争とも言えるだろう。

それは化石燃料支配の利権構造が肥大しているのはロシアやイスラエルだけでなく、世界のすべての国で起きており、既に述べた世界各国の化石燃料補助金総額が1000兆円を超え、将来も増え続けるというIMF報告実証している。

すなわち世界を牽引するG20やG7諸国も、本質的には同罪である。表向きG20諸国は、2009化石燃料補助金の段階的に廃止することを決定し、2012年に再確認した。またG7諸国は2016年に、2025年までに化石燃料補助金の終了を決議している。しかし罰則規定がないことから、その後も化石燃料補助金は増え続けている。

 そのような世界であるからこそ、ロシアとウクライナの停戦協議やイスラエル侵攻停止にも、表向きは表明していても本質的には戦争を容認しているのである。何故なら戦争特需で、全体としては潤っているからでもある。まさにそれは、化石燃料支配が覇権主義の世界に導いていると言っても過言ではない。

(注1) 

https://www.zdf.de/nachrichten/politik/deutschland/proteste-demos-rechtsextremismus-deutschland-100.html

 (注2)

https://www.tagesschau.de/inland/demos-gegen-rechtsextremismus-104.html

(485)ガザの人々の「幸せな懐かしい未来」

ガザの人々の「幸せな懐かしい未来

 

 

1月20日に放送されたETV特集「ガザ~私たちは何を目撃しているか~」は重い問いかけで、ガザの2万人もの無力な市民が悲惨に殺されて行く実態と、それを見過ごすしか手立てのない世界の深層に迫っていた。

冒頭の「私たちは全員死にかけている。世界はそれを眺めているだけだ」と訴えるガザの女性の悲痛な叫びには、絶望と怒りが溢れ出していた。

しかもそれを目撃する世界は無力であり、未だに出口さえ見えて来ていない。

このフィルムが描いているように、ユダヤパレスチナの紛争はホロコーストの悲劇を背負ったユダヤの人たちが、1948年パレスチナの地にイスラエルを建国した時から始まっている。

ホロコーストでは名前で扱われずモノとしてジェノサイドされたユダヤの人々が、それまでアルベルト・カーンの映像では助け合って共存していたパレスチナの人々を殺戮、追放し、そして今ガザの人々をジェノサイドしているのである。

その光景は地獄絵図であり、尊厳ある人間が何故ここまで残忍になれるのか問わずにはいられない。

この番組で救いと打開する鍵が感じられるのは、ガザ難民3世で嘗てのガザの人々の幸せな暮らしのオーラル・ヒストリーに、救済を求めて取組んでいるガータ・アギールさんの話であった。

難民キャンプで育ったガーダさんは、祖母の時代の女性たちから暮らしや生き方を日々聞いて育ち、幸せで誇りある暮らしや生き方に勇気と希望を感じ、それを記録し伝えて行くことが、現在を打開して行くものだと確信している。

「幸せだった。人の力を借りることもなく。私たちの土地があり、畑にはイチジクやブドウもあった」と誇らしく語る女性の話からも、それが伝わってくる。

イスラエル占領下の同化政策が採られる難民キャンプでの祖母たちの闘いは、嘗ての暮らしや生き方の豊かさ、寛大さ、収穫や歌踊りと言った歴史を語り継ぐことであり、ガーダさんはそこから「スムード(困難を乗り越える力、信念や希望)」を与えてもらったと自負する。

そして今、そのようなスムードを「世界の人々と共有し、パレスチナが生き続けるために歴史を記録し書き続ける」と語っていた。

そしてイスラエルの人々に理解してもらいたいのは、パレスチナの人々の土地への愛着、そこから生まれるスムードであり、どのような苦難があっても「パレスチナ人はここに留まる」であった。

すなわちガーダさんが理解してもらいたいのは、祖母たちの誇りある暮らしや生き方であり、それは前回書いた私のバングラデシュ山岳地仏教農家で半世紀前体験した「幸せな懐かしい未来」に他ならない。

 

なぜ「幸せな懐かしい未来」が打開の鍵となるのか?

 

世界の人々がガーダさんの祖母たちの暮らしと生き方に共感したとしても、現在のガザをジェノサイドと認める世界が何もできないように、殆どの人が打開の鍵となるとは思わないだろう。

昨年亡くなつたドイツの偉大なエコフェミニズムの旗手マリア・ミースは、女性の子供を生み、育て世話をすること、料理や掃除、洗濯などの家事をすることなどの労働が「再生産」と呼ばれ、この「再生産」が女性支配、自然支配、植民地支配の根幹であることを看破した。そして外に搾取を求める資本主義の視座から、内に自給を求めるサブシステンス(生命の維持や生存のための活動であり、生活の楽しみや幸福感や豊かさも示唆している)の視座への転換を求め、女性支配、自然支配、植民地支配のないオルタナティブな生産・生活様式を求め続けた。

ミースの提唱するサブシステンスの視座への転換は、気候激化、頻発する戦争のなかで先見の明ある提唱であり、福音ともなり得るものであった。

しかし世界の危機も最上の利益追求機会と利用し、危機の原因である化石燃料補助金が1000兆円を超えても止まらない惨事便乗型資本主義のなかでは、ミースの提唱も絡めとられ葬られて行った。

しかしそのように葬った世界はウクライナや中東で戦争が止まらないだけでなく、地球温暖化をむしろ推し進め、破局への途を辿っている。

事実そのような破局の途を懸念して、アメリカの設立した世界の中央銀行を取り締まるIMFが昨年公表した報告書では、2022年度の世界の国々が支払っている化石燃料補助金は1000兆円を超え、パリ協定達成の2030年には1200兆円を突破すると分析している。

そのような分析に従えば、2030年には臨界点1・5度を超え、最早地球のすべての氷河が融け出すことも避けられなくなり、次々と破局的禍の到来も避けられなくなる。

しかしその禍を力とすれば、希望ある途が開かれてくることも確かである。

事実ウクライナ戦争でロシアの天然ガスと石油が断たれたヨーロッパでは、化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーのエネルギー転換が加速している。

再生可能エネルギーの原動力は、地域に無尽蔵に降り注ぐ太陽であり、光や風を利用した分散型技術である。

この分散型技術は、地域でのエネルギー自立が従来の巨大電力企業の電力よりも経済的に圧倒的に有利である。しかも運営形態は利益追求の企業よりも地域住民の幸せを求める協同組合形態が最も秀でており、ドイツの市民エネルギー協同組合の爆発的拡がりが実証している。

しかも地域でのエネルギー自立は、余剰エネルギーを水素として蓄えることで、富の蓄積の必要のない地域自助経済を創り出して行くからである。

なぜなら頻発する戦争の拡がり、気候変動の激化で世界の地域は否が応でもエネルギー自立を通して自給自足を迫られ、地域自助経済の自律社会を築いて行かなくては生き延びれないからである。

そのような自律社会は、まさに「幸せな懐かしい未来」に他ならない。

そこでは他から奪うこともないことから、女性支配、自然支配、植民地支配がないだけでなく、戦争のない核なき世界が創り出されるからである

 

なぜ日本社会は沈んでいくのか?

 

いつまで経っても解消されない政治とカネの泥沼化、能登半島地震での孤立地域復旧の遅さ、物価高騰でも政策立案者が国家ネズミ講と豪語する金融緩和政策を止めれない実態、国連気候変動会議COPで化石燃料推進の不名誉な化石賞の4年連続の受賞に対してもメディア追求の弱腰、日本の膨大な化石燃料補助金44兆円さえ追求しない政治の弱腰、そしてジャニーズの性被害同様本質問題を追求できないメディアの広告依存等々に、日本沈没の未来をオーバーラップせずにはいられない。

世界の中央銀行を取り締まる国際通貨基金ⅠMFの報告によれば、2022年の世界の化石燃料への補助金総額は過去最高の7・3兆ドル(約1000兆円)にも上り、年々膨れ上がり続けている。

その内訳は1兆3300億ドルの明示的補助金と5兆7000億ドルの暗黙的補助金に分けられる。明示的補助金は燃料の消費者への小売価格を下げるために使われており、国内生産コスト、流通コスト、マージンなどが含まれている。また暗黙的補助金は、小売価格に温室効果ガスの排出による気候変動への寄与、微粒子などの有害な地域汚染物質の放出による地域の健康被害(主に早期死亡)、道路燃料の使用に関連する交通渋滞や事故などの外部コストが含まれていないため、これを補うための補助金である。

報告書には具体的にガソリンの例が挙げられており、アメリカの場合ガソリンの小売価格は1リットルあたり 0.3ドルで、供給コストは 一 リットルあたり 0.5ドルであることは明示的補助金は0.2 ドルで、暗黙的補助金は外部コストの合計であり 1リットルあたり付加価値税 (VAT)を含めて 0.75ドルとなることが説明されている。

そして報告書27頁には主要25か国の化石燃料補助金の内訳が載せられており、最も補助金総額多いのは中国であり、明示的補助金2700億ドル、暗黙的補助金1兆9660憶ドルで、2兆2350憶ドルにも上っている。次に多いのはアメリカであり、明示的補助金30億ドル、暗黙的補助金7540億ドルである。次いで総額補助金4210憶ドルのロシア、総額3410憶ドルのインドが続く。そして第五番目に多い国として日本が来て、明示的補助金340憶ドル、暗黙的補助金2760憶ドルで、総額3100憶ドルが明示されている。

日本の化石燃料補助金3100憶ドル(約44兆円)は2022年予算額が108兆円ほどであることから見れば恐ろしく高い額であり、国民の支払う税収入65兆円の8割近くが、化石燃料継続支援のため補助金として使われていることを示している。

このような数字からも、日本が如何に化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーへのエネルギー転換に消極的で、インドネシアベトナムの石炭火力発電建設の化石燃料プロジェクトを推進しようとしていることは明らかである。

そして2022年移行も世界の化石燃料補助金は、新興市場国の化石燃料消費が増え続けることから、2030年には化石燃料補助金総額は8兆2000憶ドルに増え続けると予想している。

報告書が上げる化石燃料補助金が止まらない理由は、一つには補助金を縮小すれば化石燃料価格が上昇しインフレを招くからであり、もう一つの理由は国際競争力に悪い影響を与えるからであるとしている。確かにそれは正論に見えるが、その裏に政治と産業の密接に結びついた利権構造が隠されていることも事実である。

それは日本の戦前における発展過程を見れば明らかであり、富国強兵、殖産興業を目標に官主導で日本の産業を育成するなかで官と民の癒着関係が必然的に生じ、強固な利権構造を築き上げ、利権構造が肥大して行き詰まると、利権を求めて際限なく膨らんで行った事実からも理解できるだろう。そこでは冷静な判断が効かず、世界を敵にまわして戦うことも厭わなかった。

そして今日本が沈んでいく原因は、際限なく膨らんだ利権構造であると言っても過言ではない。

例えば日本は1990年代には太陽光発電技術、風力発電技術でドイツを遥かに引き離して先端を走っていたが、今や再生可能エネルギーへのエネルギー転換では後進国に成り下がっている。

その原因は、先ず原発と火力発電ありきで不足する電力を再生可能エネルギーで補う制度で、イソップ童話が説くように、「黄金の卵を産むガチョウ」を殺し続けている利権構造に他ならない。

 

尚、長らくブログを休んでいますが、現在書いている『禍を力とする核のない世界』もようやく目途が見えてきており、来月には書き上げる予定です。そこではどのように「幸せな懐かしい未来(核のない世界)」を異論なく創り出して行けばよいか、また地域自助経済の社会とはどのような社会か具体的に描き出す予定です。

(484)年の終わりに、「私の体験した世界一幸せな懐かしい未来」への祈り(悪しき未来遭遇の懸念を超えて思う)。

今年の始めには世界の市民の多くが、ウクライナ戦争終結と「COP28」での化石燃料段階的廃止宣言で、世界に希望が灯されることを望んでいた。

しかしウクライナ戦争は和解協議さえ語られなくなり、終わりの見えない悲惨な戦いが続いている。しかも10月にはハマスの恐るべき残忍なテロ攻撃で、イスラエルパレスチナの絶望的戦争が今も継続している。

 絶望的なのはイスラエルパレスチナ武装組織ハマス絶滅を宣言して、多くのパレスチナ一般市民も殺戮しているからであり、国連もアメリカの反対で停戦決議さえ出来ていないからである。

 さらに今年は人類史上最も暑い夏となり、私の暮らす妙高でもお盆を過ぎても暑い日がいつまでも続き(例年であればお盆過ぎには、涼しさを通り越して寒さを感じるのだが)、身近に地球温暖化の恐ろしさを実感した。幸い私の畑や田は山から水が流れて来ていたことから、自給自足分を含めてそれなりに確保できたが、水が流れて来なくなれば致命的である。

 

原発3倍化が意味するもの

 

 上の映像に見るように、私自身も師走12月1日に開催された国連の気候変動会議「COP28」に少なからず期待していたが、終わって見れば、世界は全氷河融解を避けられない1・5度臨界点超えを容認したと言えるだろう。

 それは、2日に2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするため、「世界全体の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やす」との宣言が日本を含めて22か国の連盟で為されたことが象徴していた。

実際は福島原発事故以降原発の安全性強化で建設コストは恐ろしく高くなり、再生可能エネルギーに較べて恐ろしく電力コストが高くなるなかで、本気で原発ルネッサンスを復活させようとしているとは思えない。

 福島原発以降ドイツやスイスで脱原発を選択したが、確かにフランス、英国、フィンランドスロバキアなどで新しい原⼦炉が建設されていることも事実である。しかしいずれも建設コストの上昇で完成が遅れており、信頼性の高いドイツ経済研究所(DWI)は詳細な分析を通して、「原発ルネッサンスの復活はない」と明言している。

 今年4月脱原発を完了したドイツの主要メディアはそのような観点に立ち、世界においてもエネルギーとしての原発復活はないと見ており、2021年3月11日の南ドイツ新聞「なぜ原⼦⼒エネルギーは重要性を失いつつあるのか?」の記事では、原発が衰退して行くと指摘している。

そこでは、インドや中国の新規プロジェクトが持ち上がり、バングラデシュ、ナイジェリア、サウジアラビアなど28 カ国が原⼦⼒発電への参⼊を望んでいるにもかかわらず、安全技術の問題に加えて、決定的な経済コストの問題から原発衰退と総括している。

 それにもかかわらず米国、英国、仏国、日本などの22か国が原発3倍化宣言をしたことは意図があってのことであり、考えなくてはならない問題である。

 まず第一に考えられる理由として、原発3倍化宣言は化石燃料支配の延命を図るためであり、実際に原発3倍化が不可能であっても、2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ目標の大きな柱になり得るからである。

 第二に、原発テロなどの理由から秘密性が容認され、必然的に監視国家へ導くからであり、ロバート・ユングが指摘した「原子力帝国」である。それは、現在の新自由主義が望む究極の政治と産業が一体化したコーポラティズム帝国である。

 第三の理由として、ウクライナ戦争は世界の多くの国に覇権国家へと向かわせ、それらの国は自らを守るために核保有を望んでいるからである。すなわち原発参入は、容易に核保有国家への途を開くからである。

 そして最後に第四の理由として、危機に瀕した原発産業が世界各国への売込みで原発ルネッサンス復活を望み、ロビー活動を強めているからである。原発3倍化宣言をした国々では、政治がロビー支配されていると言っても過言ではない。

 事実今年発表された国際通貨基金IMF報告によれば、世界各国の化石燃料原発を含め)への昨年2022年の補助金総額は7兆ドル(約1000兆円)にも上っており、化石燃料延命と原発延命を願うロビー活動は同根であるからである。

 したがって最終日の12日に出された合意草案では、化石燃料の全廃目標ではなく、「化石燃料から段階的削減」の文言が使われたのであった。その文言は会議延長で「化石燃料からの脱却」に置き換えられたが、全く罰則規定もないことから、各国に委ねられ、本質的には大きな後退を余儀なくされたと言えるだろう。

 それ故13日19時のZDFheuteニュースでは、「1・5度臨界点実現」の終わりの始まりと指摘し、最早パリ協定の実現は無理となったことを示唆していた。

 

私の体験した世界一幸せな懐かしい未来

 

 シリア戦争で書いたように、戦争の発端は気候変動激化による干ばつで多くの人が豊穣の大地を追われ都会に出てきても、満足に衣食住ができないことから、多くの市民が民主化を求めて立ち上がったことに端を発していると言えるだろう。

 ロシアのウクライナ進行にしても、気候激化で地域から都会へ出てきた多くの人々の暮らしの困窮から、そのままではプーチン政権が維持できないことに端しているように思われる。

 またイスラエルにしても、農作物を90%以上自給するだけでなく、ヨーロッパ中心に輸出する世界有数の農業国であり、気候変動激化による影響は決して少なくなく、狭いパレスチナ領土への力による入植が増え続けている。

 パレスチナの人々にとっては、戦後の不条理な取り決めによって狭い地域に押し込まれ、益々暮らしが困窮して行くにもかかわらず、世界は何時まで経っても対処できないでいる。それが戦う武装組織ハマスを生み出し、決して許されない残忍なテロ攻撃を起こしたのであった。しかしホロコーストの地獄を体験したユダヤの人々は、今ハマス絶滅を目標に掲げて、パレスチナの人々に同じ苦しみを与えているのである。その本質的な原因をユダヤの市民、さらには世界の市民は考えなくてはならないだろう。

 ブログに書いたのであるが、私自身6年ほど前若い頃ボランティア活動したバングラデシュを訪問し、半世紀前のチッタゴン仏教孤児院が中学生までの学校に変わり、100人にも上る朝礼で挨拶できたことは感無量であった。しかし今から思えば誘拐されて、殺されてもおかしくなかった。

 既に首都ダッカのレストランで、ジャイカ海外協力隊に関与する人々が襲撃され多くが亡くなっており、私が訪問した直後には地域で農業指導で尽力している元大学教授が殺害されたからである。

 半世紀前は屡々ダッカで日本人に出会ったものだったが、6年前は日本人を見かけず(既に警報が出ていたことを後で知った)、声をかけてくるのは現地の若者であり、携帯で連絡を取り合っていたことからISに近いグループの若者であったように思う。

 一番危なかったのは、昔同様にダッカからチッタゴンへバスで行き、停車場から予約ホテルへ行くのに、近づいてきた若者のリキシャに乗った時であった。確かに8時間もかかるバス旅で疲れていたことは確かであるが、リキシャに乗って途中で眠り込むことはないにもかかわらず、目が覚めると街中ではなく村はずれで、リキシャの若者ではなく別の堪能な若者に訪問目的を査問されるかのように聞かれた。

 危機を感じた私は、50年近く前に日本の子供たちとバングラディシュの子供たちの描いた絵の交換で、市民交流を拡げようとしたことを話し、その後も交流が続き、当時の仏教孤児院が貧しい家庭の子供たちの教育を引き受ける学校も運営し、そこを訪れることをひたすら説明した。私の身なりも、半世紀前の古い登山リュックを担ぎ、裕福な日本人旅行者に見えなかったからか、査問の後リキシャでホテルへ届けてくれ、難を逃れることができた。

 半世紀前も慶応の学生がここで殺される事件かあったが、当時の私はにわか仕込のベンガル語で、一人であちこち出かけた。その理由は出会う人々に強く親しみを感じ、危ないと感じることが一度もなかったからである。

 その際インドも一人であちこち回ったが、危ないと感じたことがないだけでなく、助けてもらった思いが強い。例えばカルカッタでは、疲れから登山リュックをタクシーに忘れたことがあった。お金以外は殆ど入れていたことから、途方に暮れていると、強面の運転手が部屋に届けてくれ、窮地を脱することができた。

 もっともインドの旅では、8ミリカメラも、一眼レフカメラも盗まれたが、それはヒンズーの教えに、富めるものは貧しいものに施しを与えなくてはならず、貧しいものが富める人からいただくことを禁じていないからであろう。

 そのように盗まれることは屡々あったが、旅は絶えずゆったりとしており、時間に追われている国から来たものには心が癒された。実際現地の食事処では注文してから1時間待たされることが当り前で、食事にありつくまでに、誰かと話すことが当り前となっていた。また列車の時間なども1時間くらい待つことが当り前で、プーリーという海辺の駅では、その列車が故障でなくなったと駅員に言われ、しかたなく駅近くの食事処で雑談していると、「汽車が着いた」と例の駅員が呼びに来てくれ、列車も私を待ってくれていたのか、私が飛び乗るとすぐさま発車した。

 何故そのようなことを今書くかと言えば、そのような貧しい国が産業発展で物質的に豊かになったが、牧歌的なのんびりしたものが最早失われていたからである。

 そして今思い出すのは、若い僧の案内で山奥に分けいり、驚くほど幸せな村の思い出である。訪れた農家では、まず温厚な中年の一家の主人に寝たきりとなった母親の部屋に通され、母親とのやり取りから、いかに年寄りを大事にしているかに驚いたものであった。その驚きを主人に伝えると、日本のことを聞かれ、「姨捨山」の話をすると、「ここでは考えられないことだ」と驚きの表情で訴えられたのが忘れられない。

 またその村で話した10人近くの子供たちが、山を下りる際姿が見えなくなるまで「ビタイ!ビタイ!(さようなら!さようなら!)」と見送ってくれ、今もその声が私の耳に残っている。

 それはヘレナ・ホッジが、ラダックに見た「世界一幸せな懐かしい未来」に通じるものであり、それはラダックでもグローバルな産業社会の発展で失われていると聞く。

 何故世界一貧しいと言われたバングラディシュの山奥の村が、世界一幸せだと感じるかを今考えると、日本のように悪政で暮らしに困るほど年貢で取上げられることもなく、政治の空白地域であったことから政を村で自ら決めることができ、古来から自給自足で豊かに暮らして来たからだと思う。そしてそれを維持するために伝統と慣習が重んじられ、知恵袋の年寄りが寝たきりになっても、心から大事にされることにもこよなく幸せが感じられた。

 

地域の自己決定権による自給自足が世界を救う

 

 COP28の終わりが示すように、1・5度臨界点を守ることは不可能になったと言えるだろう。それは地球上の全ての氷河が融け出すことを意味し、十数メートル海面が上昇し、途上国の陸地が沈むだけでなく、先進国の海辺の大都会がすべて沈むことを意味している。

 しかも現在のように2050年までのゼロ排出を原発3倍化と二酸化炭素貯留(CCS)と言ったフィクションで上辺を繕う化石燃料支配の世界では、リオ宣言、京都議定書の固い誓いにもかかわらず、2020年には温室効果ガス排出量が1990年に比較して160%に増大したことから見れば、2050年には250%を超えて来るシナリオさえ想定される。

 それは地球温暖化を想像もできないほど加速させ、今世紀にもすべての氷河が融け出す事態さえ招きかねない。新自由主義信奉者は、経済成長発展のためには十数メートルの海面上昇も容認し、それさえも大都会の高地移転を成長発展と考えるかも知れないが、巨大台風が一瞬で襲う大都会水没では、インフラだけでなく全ての機能が失われ、人類絶滅のカタストロフィともなり兼ねない。地球がそのようなカタストロフィに進んで行けば、生き残った人々も激的に進化したウイルスによって、最後の止めを刺され兼ねないからである。

 またそうでなくとも、イスラエルパレスチナに見るように憎しみが積み重なっていき、将来核攻撃テロによって核戦争が始まれば、「核の冬」によって人類絶滅もあり得るからである。

 まさに我々の未来は、現在の危機を直視すれば、絶望的と言わざるを得ない。

しかし希望がないわけではない。市民のエネルギー転換が進むドイツからは、光が射してきていることも確かである。

 具体的には90年代終わりに民営化された電力が、ハンブルク、ベルリン、シュトゥットガルトなどと、再び再公営されただけでなく、ドイツ全土の地方自治体で再公営化の動きが加速している。

 特にテューリンゲン州では、ドイツ最大の電力企業エー・オン(E・ON)が支配してきたテューリンゲンエネルギー社の株式を、約四〇〇の⾃治体が加盟するテューリンゲン州エネルギー協会(KET)が46%所有し、約八〇〇の⾃治体からなる自治体エネルギー持ち株会社テューリンゲン(KEBT)が保有し、テューリンゲン州のエネルギーは実質的に地方自治体の⼿に委ねられている。

 このようにドイツで電力の再公営化が進む最大の理由は、再生可能エネルギーは分散型技術で、地域でのエネルギー自立が巨大電力企業が送電する電力よりも圧倒的に有利であるからである。その結果2011年脱原発宣言までドイツ最大の電力網で電力供給していたエー・オンは、電力網を自治体や第二の巨大電力企業アール・ヴェー・エーRWE)に売渡し、電力供給から撤退を余儀なくされている。

 また再生可能エネルギー後進国と言われていたイタリアにおいても、2020年まで再生可能エネルギーコミュニティ(一人一票の協同組合だけでなく、市民の投資額に比例した投票権を持つ合資会社非営利団体などを含む)が12しかなかったが(この時点でドイツでは1750)、現在イタリア7901の殆どの自治体で設立の取組みがなされ、革命的に拡がっていることにも光が見えてきている。

 そのような変化は、EUがパリ協定を実現するため2018年のEUエネルギー指針(RED2)で、ヨーロッパ市民に再生可能エネルギーへのエネルギー転換での市民の役割を認識させ、市民自身が再生可能エネルギーを生産し、消費し、商い、貯蔵できる権利を与え、加盟国すべてに実現を求めたからである。

 具体的にはEUの地域間格差などを目的とした7500憶ユーロの資金提供(国家復興・強靭化計画NRRP)によって、イタリアの住民5000人未満の5529の地方自治体に、再生可能エネルギーコミュニティ設立のために22憶ユーロが提供され、国と地方政府のトップダウン方式で強力に推し進められているからである。

 事実ミラノ工科大学が今年2023年4月に出した研究論文「イタリアにおける再生可能エネルギーコミュニティ開発の新たな動向」によれば、2025年までに設立される再生可能エネルギーコミュニティは4万にも上ると分析している。

 もっともこのようなトップダウン方式には、ドイツのような市民イニシアチブが見られないが、再生可能エネルギーコミュニティの構造自体がエネルギー民主主義を形成することから、後進国イタリアにおいても、パリ協定の2030年には全ての地方自治体で市民イニシアチブによって再生可能エネルギー100%実現、もしくは実現に迫っている姿が見えて来ている。

 何故なら再生可能エネルギーコミュニティは、政府イニシアティブであっても、民主主義、社会正義、公平性、認識、多様性、信頼、透明性などの価値感を通して推し進められて行くことから、必然的に市民イニシアチブのエネルギー民主主義を生み出すからである。

 それ故2030年には臨界点1・5度を超えているとしても、少なくともEUの国々では地域での電力自立達成に迫り、そのような地域から「市民イニシアチブで世界を変えて行かなくてはならない」という声が世界に轟き、聞こえてくるであろう。

 それは、気候変動激化は避けられないとしても、禍を力として変えて行くものである。具体的には、私がブログで主張してきた互恵的利他主義によって、世界の全ての地域に利益を求めず再生可能エネルギー資材と技術を提供することに繋がるものであり、世界を本質的に変えるものである。

 そのような世界とは、地域が自己決定権を持って殆どのものを自給自足できる、全ての地域からなる新しい世界であり、私が半世紀前バングラデシュの山奥の村で体験した「世界一幸せな懐かしい未来」が創る世界に他ならない。

(483)ベアボックの「世界の転換点」とは

世界は既に限界点に達している

 

 11月1日のZDF『現在をどうする?(WAS NUN?)』の外相ベアボックのインタビューでは、ベアボックは「ハマスの残忍な10月7日のテロ攻撃はイスラエルに対して転換点であるだけでなく、世界の転換点である」と述べていた。

それは用意周到の5000発を超えるロケット弾を撃ち込むことで、イスラエルの迎撃防衛システムを麻痺させ、1400人もの市民を虐殺したからである。そこでは人間の命の重さが全く考慮されておらず、核兵器テロも可能な時代に突入したからである。

またベアボックは、ドイツ国内の反ユダヤ主義の高まりでユダヤ人は街頭で最早デモをする勇気がなくなり、ユダヤ人が住む家にはダビデの星がスプレーで描かれ、連邦刑事局が夥しい数のユダヤ人への犯罪を報告する中で、断固たる措置を取ることを述べていた。それは同じ緑の党のハーベック経済相が述べているように、反ユダヤ主義を唱える者は国外追放という断固たる措置である。

国際世論がイスラエルの攻撃を非難するなかで、そのような断固たる措置をドイツが採るのは、ホロコーストで600万人を超えるユダヤ人を虐殺した負い目からでもあるが、断固たる措置を採らなければ国内が大混乱に陥る事態が想定されるからである。

その理由は今年世界の難民(殆どが紛争からの避難民)が1億1000万人を超え、限界に達しているからでもある。ドイツは難民の庇護権を守り、突出して寛容であるが、難民拒否を唱える極右政党AfD支持が急激に急激に高まり、9月以降世論調査で20%を超えているからである。

またドイツは既に多民族国家であり、ドイツ国籍のトルコ人親族だけで1000万人を超えており、反ユダヤ主義が拡がれば大混乱となり、収拾が着かなくなるからでもある。

 

応急的な解決策はあるのか?

 

 しかしイスラエルのガザ攻撃が市民を盾にするハマスに対して、問答無用の攻撃で女性や子供まで殺戮するに及んで、ベアボック外相は11月10日のアラブ首長国連邦の外相会談で、「すべての⼈は平和と尊厳の中で⽣きる権利を持っています」と述べ、和平解決策を見出すためにアラブ湾岸諸国に西側と協力するよう訴えている。

そしてベアボックは、「2つの国家で隣り合って暮らすという約束に⽴ち返ることだけが、 イスラエル⼈とパレスチナ⼈に平和、安全、尊厳の⽣活をもたらす

ことができるのです」と強調していた。

2つの国家の約束とは、2000年のクリントン大統領仲介の下で、PLOアラハト議長とイスラエルバラック首相との会談を経て、聖地を含む東エルサレムの一部に加えてヨルダン川西岸地区の97%とガザ地区全域をパレスチナ国家として認めるパレスチナ国家創設であり、2003年アラファートは和平推進派のマフムード・アッバースを初代首相に任命し、アッバース内閣がテロ抑制と治安の回復を掲げ、アメリカの発表した平和のための2つの国家創設の合意である。

それを実現するためには国際世論の高まりで、暗殺されたイスラエルのラビン首相のような和平内閣を誕生させ、パレスチナもテロ攻撃放棄で国連に委ねさせなくてはならない。

もっとも国際世論の強力な圧力によって平和のための2つの国家が創られたとしても、イスラエルパレスチナの圧倒的な格差がなくならない限り、紛争がなくならないことも確かである。

本質的に紛争をなくすためには、現在の化石燃料エネルギーの集中型支配から再生可能エネルギーの分散型市民参加にエネルギー転換して行き、究極的には世界のすべての地域がエネルギー自立を基盤にして、他から貪り取る必要のない自給自足の社会に変えて行くことができれば、紛争のない世界を創ることは可能である。しかもそれは、先進国が互恵的利他主義で世界のすべての地域に再生可能エネルギーの分散型技術を提供していけば、前回述べたように十分可能である。

(482)出口なしの中東紛争を終わらせるためには

 ブログを長く休んで『気候正義が創る核なき世界』を書いていたが、書き始めると書かなくてはならないことが次々と見えてきて、来年春までには、となってきている。

したがってブログも時に応じて始め、現在考えることを老骨に鞭打って綴ることにした。

 

イスラエルパレスチナの悲劇

 

 

 20年近く前アルベール・カーンの残した100年前のパレスチナの映像を見たことがあったが、そこではユダヤ人とパレスチナ人が共存して、助け合って生きていた。しかし近代化の波に呑み込まれ、イスラエルが力によって建国されてからは絶えず紛争が続き、憎しみの坩堝と化している。

 確かにハマスによる突然の5000発を超えるロケット弾の奇襲攻撃や、国境の厚い壁破壊での侵入による多数のイスラエル市民虐殺は許されてはならない犯罪である。しかし220万にものパレスチナ住民をゴザ地区という狭い空間に16年間も封鎖して閉じ込め、困窮する住民をドローンで監視してきたイスラエルという残忍な国民国家も許されてはならないだろう。

 もっともそのような非人道的状況が16年間も容認されてきたことは、アメリカの拒否権で国連が機能しなかったからに他ならない。

 そしてイスラエル軍によるガザ地区への大規模な侵攻が調えられるなかで、国連の停戦要請がアメリカなどの拒否と、ドイツや日本などの棄権で成立しなかった。しかし世界の殆どの国が停戦を望み、日増しに停戦への訴えが強まっている。それゆえアメリカも25日の国連でガザ侵攻先延しの一時的戦闘中断を要請し(中国とロシアの拒否権行使で否決)、26日EUもガザ戦闘中断要請で合意するなど、イスラエル軍の表立ったガザ侵攻にはブレーキがかかっている。

 しかし26日19時のZDFheuteが伝えるように、前夜から一時的戦車による侵攻が始まっており、翌日からは一時侵攻に加えて、ハマスの地下要塞破壊を目標に大規模な大量爆弾投下が為されている。これはイスラエル軍の大規模侵攻に替わるものであり、このような大量爆弾投下が長く継続されて行けば、恐るべき数の住民が殺されるだけでなく、ゴザ地区はイスラエルの狙い通りに殲滅浄化されるだろう。

 このような目には目の残忍な行為は、自爆テロを聖戦と位置付けるハマスだけでなく、世界の回教徒を立ち上がらせ、仕返しが連鎖して核戦争にも繋がって行きかねない。何故なら今回のハマスの奇襲は驚くほど計画的に練られており、イスラエルのロケット弾に対する防衛迎撃システムを麻痺させるものであり、その後ろ盾にはイランがおり、さらにその後ろには世界一の核保有国ロシアがいるからである。

 それは「核の限定使用も辞さない」と公言するロシアから、核兵器ハマスに渡ることもあり得る時代に突入してきたからである。

 まさに世界は、出口なしの時代に突入してきたことを認識しなくてはならないだろう。

 

 

禍を力とする互恵的利他主義

 

 「出口なし」はパレスチナイスラエルの中東紛争だけでなく、ウクライナ戦争も「出口なし」であり、人類を滅ぼしかねない地球温暖化が臨界点を越えようとしていることに対しても「出口なし」である。

 すべての氷河が融け出せば、十数メートルの海面上昇は必至であるだけでなく、それ以前に洪水や干ばつが激化し、頻繁に巨大台風の到来で海辺にある大都市崩壊は免れられない。

したがって我々の未来はたとえ核戦争で滅ぶことがないとしても、最早数えきれないほどの禍が押し寄せて来ることは必至である。そのような禍とは、洪水や干ばつの激化による食料危機、陸地水没や戦争による大量避難民の移動、温暖化と大量避難民移動による感染症激化など、化石燃料支配の国民国家では対処できなくなり、機能停止に導くものである。

 しかしそのような禍を力として、現在の化石燃料エネルギーの集中型支配から再生可能エネルギーの分散型市民参加にエネルギー転換して行くことができれば、究極的には利益追求の貪り取る競争社会から利益追求のない分かち合いの連帯社会に変えることも可能である。

何故なら太陽を原資とする太陽光発電風力発電バイオマス発電のためのエネルギーは、世界のすべての地域で必要量の数千倍が降り注いでおり、すべての地域が太陽でエネルギー自立し、余剰エネルギーを蓄えることができれば、食料や生活必需品だけでなくあらゆるものを原則的に地域で生産することは可能であるからだ。

そうできれば、世界は外に向かって貪り取る競争社会ではなく、ローカルに内に向かって創り出す連帯社会に変わり、戦争のない共存して助け合う社会を新たに創り出すこともできるだろう。

 現に欧米の学術書や研究学会では、化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーへのエネルギー転換は喫緊の課題とされている。そしてエネルギー転換を推進するエネルギー民主主義(化⽯燃料⽀配のエネルギーアジェンダに抵抗し、エネルギー体制を取り戻し、⺠主的に再構築するイデオロギー)は、再⽣可能エネルギーへの移⾏を推進する創発的な社会運動と採られるだけでなく、欧州連合EUでは社会的に望ましい政策目標と見なされるようになって来ている。しかも既に欧米では2018年にはエネルギー民主主義の出版発表が頂点に達し、地域分散、市民参加、社会的所有権を持つエネルギー民主主義がルネッサンス開花している言っても過言ではない(注1)。

もっとも多くの文献では、エネルギー⺠主主義の⽬標や理想がテクノ政治的ユートピアのようなものとして理解されているので、すべてのエネルギー⽣成と供給が市⺠グループによって管理、所有されるようなエネルギーの到達ゴールの可能性は近い将来は困難であるとしている。

 そのような移行が難しいのは現在の化石燃料支配が余りに強く、利権構造が網の目のように張り巡らされているからであり、移行での政策では化石燃料支配側への配慮なしには成立しないからである。

しかし化石燃料側に配慮した巨大企業の洋上風力発電や砂漠での巨大太陽光発電は、製造された電力を高圧電力線建設で遠距離輸送するやり方が地域で小規模の分散型風力発電太陽光発電にコスト面で敵う筈がなく、巨大な中央集権的支配が滅ぶのも時間の問題と言えるだろう。もっともそれは現在の視点からすれば、50年先、100年先の遠い未来と考えられているが、温室効果ガス排出量の増大がどうにも止まらない状況からすれば、10年、20年の近い未来になりそうである。

何故なら、禍の到来の増加に対して化石燃料支配の国民国家が対処できない時代がそこまで来ており、国民国家が機能を失えば地域を投げ捨て、地域が必然的にエネルギー自立だけでなく、自給自足しなければならないからである。

 それこそは、禍を力とする互恵的利他主義の時代の到来である。すなわち禍を力として自立した地域はエネルギー民主主義に従って連合し、世界のすべての地域を互恵的利他主義で同じように変えて行くことで、「出口なし」の世界が切り拓かれる時代の到来である。

 切り拓かれた世界とは、ローカルに内に向かって創り出す連帯社会であり、戦争のない共存して助け合う社会からなる新しい一つの世界である。

 

 ブログを休んでいる期間、私にとっては本を書くだけでなく稲を収穫し、再びこの妙高を終の棲家と決め、残してきた荷物をすべて運んできた。その量は中途半端ではなく段ボール箱80箱を超え、ロングの4トントラックでも積み切れないほどだった。その整理に1週間近くを要したが、腰も患ずに元気であるのは、若い頃体を壊し、さらに中年期は糖尿や狭心症に見舞われ、食養生と絶えず朝、昼、夕方と歩いてきたからだと思っている。それゆえ76歳を過ぎても薬も飲まずに元気で暮らせるのは、私自身禍を力として生きているからだと思っている。

 

 

(注1)Energy democracy as a process, an outcome and a goal_ A conceptual review (sciencedirectassets.com)

(481)核なき世界の実現(9)最終回・互恵的利他主義

 戦争阻止に機能しない国連

 

 上の私の見た動画78『大国の戦争に機能しない国連』(2023年2月19日の放送のNHKスペシャル「混迷の世紀 第9回 ドキュメント国連安保理〜密着・もうひとつの“戦場”〜」を私の印象で5分の1ほどに短縮)では、「戦争を止められない国連は、もはや不要だという声もあります。それでも国連は必要ですか?」という厳しい問いから始まっている(残念ながらこの動画も何処がするのか特許権で守られおり、見てもらうことが出来ませんが、公共放送を私の印象で5分1にしたものが見れないのは表現の自由に反するものであり、それこそが絶えず退歩してきた日本の民主主義のリトマス試験紙であるように思います。尚デイリーモションでは不思議にも見られましたので載せて置きます)。

www.dailymotion.com

しかも国連事務総長グテーレスは、その批判には「致し方ない」としか答えられないのが現状である。

国連誕生以来の国連研究の第一人者のイェール大学のポール・ケネディ教授は、「国連はいま、1945年に創設者たちが悪い意味で予想していた通りになっています。というのも、安保理が戦争を終わらせることができるのは、大国の考えが一致していて、拒否権を行使せず、他の国を妨害しないときに限られているからです」と明言している。

さらに付け加えて、「拒否権を持つ大国が、国連憲章の中にある『各国の主権を尊重する』という規定を無視することは、あってはなりません。しかし残念ながら、大国に有利な国連のシステムをどうすることもできません。一方で、だからこそロシアは、国連にとどまっているともいえるのです。創設者たちは、国連を“サーカスのテント”に例えました。一頭の猛獣がテントを飛び出すよりも、すべての動物をテントの中にとどめておいた方が、まだいいと考えたのです」と述べている。

そしてロシアの引き起した戦争に機能できない国連に対して、「ロシアを国際社会に引き戻す方法を、なんとしても見つけなくてはなりません。プーチンのロシアは、他の国を傷つけながら、他でもないロシア自身を最も傷つけています。もしロシアがいまの状況から抜け出したいと判断したとき、国連事務総長に仲介を要請する可能性は十分あります。まずは、ロシア自身が行動を変える必要がありますが、事務総長の仲介には、戦争を出口に向かわせる可能性が残されています」と語っている。

すなわち国連はロシアが戦争を止めたいと望まなければ機能せず、ロシアを国際社会に引き戻すには、止めたいと望むように仕向けるしかないと言っているのである。

それは嘗てのロシア大帝国を妄想する独裁プーチン政権では不可能であり、欧米支援でウクライナが境界線までロシアを退け、一時的に停戦が結ばれても、本質的な平和構築は難しいことを物語っている。

もっとも欧米にしても、ゴルバチョフの「欧州共通の家」という平和構想を真摯に受止めず、東欧拡大で利益追求を最優先したことは明らかであり、言わばウクライナは大国ロシアとアメリカの代理戦争の犠牲という見方さえできる。

そのような視点から見れば、何時世界戦争に発展してもおかしくなく、まさに人類は絶滅の核戦争危機にあると言えるだろう。

 

互恵的利他主義

 

 同時に人類は地球温暖化による全氷河融解で海面が十数メートル上昇し、世界の大都市が水没崩壊するという危機にも直面している。

それは化石燃料を燃焼させることで絶えず成長してきた結果であり、必然的に招いてきた気候変動危機である。

そのような将来的危機が年々確実視されるなかで、ヨーロッパ連合EUは真剣に受止め、化石燃料エネルギーを再生可能エネルギーにエネルギー転換によって2050年までに二酸化炭素排出量ゼロの脱炭素社会の実現に、2015年のパリ協定以来真剣に取組んできた。

しかしウクライナ戦争によって石油や天然ガスのロシア依存ができなくなったことから、再生可能エネルギーへのエネルギー転換がより速く求められている。

再生可能エネルギー太陽光発電風力発電バイオマス発電にしても地球に降り注ぐ太陽エネルギーを源とする分散型技術であり、地域で小規模な発電が経済的にも圧倒的に有利である。

それゆえ従来の巨大企業が支援を受け、洋上風力発電や砂漠でのメガソーラーで再生可能エネルギー事業に取組んでも、遠くからの電線網建設でコストが跳ね上がり、将来的展望が開かれないことから停滞を余儀なくされていた。

そのような再生可能エネルギーへのエネルギー転換の停滞から、EUは2018年のエネルギー指令では、これまで巨大企業配慮でエネルギー転換に市民の参加を阻むものであったが、積極的に市民参加できるものへと転換した。

さらにウクライナ戦争のエネルギー危機で全面的に市民参加を求め、地域でのエネルギー自立を後押しするまでに変化したと言えるだろう。

事実2023年1月の科学的データでは(注1)、EU29カ国で1万を超える市民イニシアチブ(ドイツで言えば市民エネルギー協同組合)が湧き上がるように設立され、市民エネルギー転換に取組んでいることが報告されている。

そうした流れからは、ドイツが電力消費の少なくとも80%以上を再生可能エネルギーに転換すると明言した2030年には、地域での市民エネルギー転換が急速に進み、多くの地域でエネルギー自立が実現しよう。

そのような地域での市民によるエネルギー自立は、従来の競争原理ではなく、連帯による分かち合い原理であり、利己主義とは対局の利他主義(愛他主義)を育む筈である。

何故なら益々過激化する地球温暖化を本質的に阻止するためには、エネルギー自立が達成された地域がその技術ややり方を他の地域に無償で提供すればするはど、速く本質的解決に向かうからである。

それは正確に言えば、互恵的利他主義である。

地域のエネルギー自立が実現すれば、危機の時代には食料の自給自足だけでなく、余剰エネルギーを利用して生活必需品の地域での生産に向かうことは必至である。

それゆえ前回述べた禍を力としてヨーロッパを吹き抜ける風は、グローバルに外に向かって貪り取る競争の風ではなく、ローカルに内に向かって創り出す連帯の風と述べたのである。

そのような風は、本質的な平和をもたらす風であり、世界のすべての地域が太陽を利用してエネルギー自立で自律社会を築いて行けば、他から奪う必要がなくなり、自ずと恒久平和の核のない世界が実現しよう。

それゆえ欧州連合EUは、そのような壮大な和平構想をすぐさま提案し、ウクライナ戦争を停戦に導くべきである。

国境を越えてすべての地域がエネルギー自立によって自律社会を築くという和平構想は、ゴルバチョフが夢見た「欧州共通の家」をさらに越えて「世界共通の家」を創るものであり、例えプーチンが大帝国を夢見る独裁者であったとしても、拒めない筈である。

何故ならそのような利他主義に基ずく壮大な和平構想には、プーチンの正義とするNATO拡大阻止を解消するだけでなく、NATOを将来的になくすものであるからだ。

しかもそれは、ポール・ケネディ教授が説くロシアが戦争を望まなくさせる唯一の方法でもある。

西側がこのような利他主義に立ち、壮大な和平構想でロシアから北朝鮮、さらにはアフリカなどの発展途上国再生可能エネルギーの分散型技術とやり方、さらには実地指導を無償で提供することは、絵に描いた餅であり、決して容易なことではない。

しかしこのままウクライナ戦争を続け、さらに中国や北朝鮮などを巻き込んだ世界核戦争に発展する可能性を考えれば、絵に描いた餅の実現も、西側の意思と決断次第である。

壮大な和平構想で、世界のすべての地域で太陽エネルギーに基ずく自律社会が誕生していけば、恒久平和の核のない世界が実現するだけでなく、現在の気候変動の危機、格差肥大社会の危機、感染症危機などすべての問題が解消へと向かい、想定できない程大きな利益であり、まさに互恵的利他主義によって生み出されるものである。

 

岐路に立つ我々の時代

 

 我々の時代は化石燃料エネルギーから自然(太陽原資)エネルギーへの過度期に立っており、人類が滅びるか、人類の理想が実現できるかである。

すなわち化石燃料支配のグローバル資本主義は生き延びるために新自由主義カジノ資本主義)を生み出し、競争原理最優先で奪い取って行くため、アフガニスタン、シリア、ウクライナで絶えず戦争を続け、ウクライナ戦争では人類絶滅の核戦争危機を招いている。

さらに長年の化石燃料支配は、地球温暖化危機や格差肥大の分断危機など、生命を脅かす危機を招いている。

しかし多くの人々は化石燃料のメディア支配によって洗脳され、目先の自らの利益に囚われ、本質的な解決に目を向けようとさえしない(注2)。

そのような化石燃料のメディアによる洗脳の検証にもかかわらず、ドイツでさえ化石燃料支配は強く、中々気候正義は進まなかった。

しかしウクライナ戦争が引き起したエネルギー危機という禍を力にして、ドイツだけでなくヨーロッパ全体で市民の自然エネルギーへの転換が一気に進み始めている。

それは、ロシアの石油やガスからのエネルギー自立を強いられたからであり、それに対して化石燃料支配の担い手である巨大企業の惨事便乗型利益追求が最早通用の限界に達しているからである。

また民主主義を掲げるヨーロッパの過半数を超える市民が、真剣に気候正義実現を求めており、政治はその要請に答えなくてはならないからである。

そのような気候正義実現は世論が促す政治決断で、互恵的利他主義に立って世界に拡げて行くことができる段階に達している。すなわち地域での分散型技術の発展で、世界世論がそれを望めば世界の政治を動かすことも可能である。

もっとも現在の世界政治は大国ロシアの戦争停止には無力であり、ウクライナへの武器提供で戦争を煽りたて、益々人類絶滅の核戦争危機に向かっている。

それゆえ絶えず成長発展を求める世界経済の仕組を変えることが必要であるが、それを直接求めれば、旧勢力と新勢力の対立は避けられず、革命という力よる転換が必要になり、革命が成功しても、力による統制で人類の理想は決して実現しない。

しかし近代の負債が招いた気候変動危機、格差社会危機、生態系危機、世界戦争などの危機で、頻繁に生じてくる禍の対処に民主主義を通して政治が動くことは止められない。

そして世界が表向き二酸化炭素排出量ゼロの脱炭素社会実現を約束する2050年までには夥しい数の禍が待ち受けていると思えるが、禍を力として流れに任せて化石燃料から自然エネルギーへの転換を進めて行けば、人類理想の社会を築くことも決して絵に描いた餅ではない。

人類理想の社会とは、地域エネルギー自立を基盤として食料や生活必需品を自給自足を指向し、競争よりも分かち合いによる連帯を尊重し、外に対しても互恵的利他主義を貫ける社会である。

そこではエコロジーな脱成長が原則として求められるとしても、辛い単純労働には積極的にデジタル化、人工知能やロボット技術が利用され、労働が楽しく豊かに解放される社会であり、利他主義で様々な人の多様な幸せが求められる社会であり、恒久平和の核なき世界である。

 

(注1)

ヨーロッパ29か国で湧き上がる1万を超える市民エネルギー協同組合

https://www.nature.com/articles/s41597-022-01902-5

 

(注2)

化石燃料のメディア支配は(385)で述べたように、ZDFが2020年に制作した『気候変動否定での潜入取材』(2月4日のZDFフロンターレ21で放送)では、市民調査機関と共同で人為的気候変動を否定するロビー活動本部に潜入取材までして、その実態と資金の流れを明らかにしている。

その実態では、あらゆる分野の著名人にお金で記事を依頼し、人為的気候変動に絶えず疑問を投げかけている。すなわちそれらの記事は、科学的論拠に全く関心なく、都合のよい科学事実だけを抜き出し、感情に訴える一貫性を備えた嘘を作りだしている。そのようなメディア支配のやり方は、タバコの発がん性公示では世界の著名人を通して疑問を投げかけ続け、半世紀近くも厳しい既成を引き伸ばしてきたことが、カルホルニア大学科学史教授のナオミ・オレスケスの書いた『世界を騙しつづける科学者たち』では見事に検証されている。

またお金の流れは、アメリカの石油産業などからのお金が様々なシンクタンク、あるいは匿名寄付を可能するドナーストラストを通してハートランド研究所Heartlandに集められ、ドイツの研究所EIKE(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候とエネルギーのためのヨーロッパ研究所)に莫大なお金が送られ、そこから極右政党AfD(ドイツのための選択肢)に流れている。

 

ブログ休刊のお知らせ

  「永久革命としての民主主義」第三部『核なき世界実現』を書くため、10月中旬くらいまでブログを休みます。この本ではブログに書いた内容を深め、単に書くだけでなく、利他主義(愛他主義)による気候正義達成で、戦争のない「核なき世界」実現を世界に訴える活動の第一歩としたいと思っています。尚「永久革命としての民主主義」第一部第二部を読んでいない方には、是非読んでもらいたいと思います。また人類の理想達成については、昨年4月に出した『2044年大転換』を読んでくだされば、理解してもらえると思います(但しウクライナ戦争に対してはアメリカのアフガニスタン撤退直後であったこともあり読み切れておらず、本質的理解に欠けていたと思います。下に目次を載せて置きます)。

目次

はじめに  1

序章  たたき台としての救済テーゼ 11

コロナ感染症が問う社会正義 13

「悪魔のひき臼」が文明を滅ぼして行く 17

人新生の希望ある未來はドイツから開かれる 20 

第一章 二〇四四年大転換未来シナリオ 25

     二〇三一年国連の地域主権、地域自治宣言 27

     地域主権、地域自治が創る驚くべき変化 41

     地域の自助経済が創る新しい社会 49

     ベーシックインカム導入が時代の勝利となる日 60

     二〇四四年七月X日の首都崩壊 64

     市場が終わりを告げるとき 68

     戦争のない永遠の平和 74 

     倫理を求める絶えず進化する民主主義 82

第二章 大転換への途は始まっている 89

     緑の党の基本原理が世界を変えるとき 91

第三章 何故ワイマール共和国は過ちを犯したのか?107

    ワイマール共和国誕生の背景 109

    官僚支配こそホロコーストの首謀者 114

第四章 戦後ドイツの絶えず進化する民主主義 121

    世界最上と自負するドイツ基本法 123

    戦い育む憲法裁判官たち 128

    ドイツを官僚支配から官僚奉仕に変えたもの 139

第五章 ドイツ民主主義を進化させてきたもの 145

    メディア批判の引金を引いた『ホロコースト』放映 147

    裁判官たちの核ミサイル基地反対運動 153

    脱原発を実現させたメディア 168

    気候正義を掲げて戦うドイツ公共放送 179

第六章 人々に奉仕する経済の民主化 187 

    危機を乗り越える社会的連帯経済 189

    ドイツの連帯経済 194

    人に奉仕する経済の民主化 199

第七章 ドイツの気候正義が世界を変える 207

    気候正義運動が創る違憲判決 209

    文明の転換 213

あとがき 221