公共放送『正義はどこに3-2』が訴えるもの(2)
上に載せた動画『正義はどこに・3‐2』は、鴨志田記者の「この一年ガザの惨状に世界が目を奪われている間に、ヨルダン川西岸でも力による支配が強まっていました」で始まり、パレスチナ人の「誰がこの土地の占領を許したのか。誰が私たちを支配することを許したのか」の悲痛な声で終わっていた。
既にパレスチナのヨルダン川西岸のイスラエルのアパルトヘイトは、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの2022年2月1日発表した「残虐な支配体制と人道に対する罪」の報告書で、 「イスラエルが支配下に置く全地域で実施してきた隔離、没収、排除など、残虐な施策が、明らかにアパルトヘイトにあたることを確認した」と断言している。
アパルトヘイトとは、1つの人種集団が他の人種集団を日常的に抑圧・支配する政策であり、国際公法が禁じる重大な人権侵害であり、アムネスティは外部専門家の協力を得て大規模な調査と法的分析の結果、長年のイスラエルの占領での支配政策がアパルトヘイトであると断言し、国際刑事裁判所の裁きを求めている。しかしその訴えを国際社会は今日まで放置し、映像で見るように益々そのアパルトヘイトが激化している。
トランプが再勝利する危機の時代
国会襲撃を公に指令し、自国利益第一で気候保護条約撤退などあらゆる国際秩序を壊し、人種差別を露骨に捲くし立てるトランプが、私から見れば悪しき独裁者であり、今回のアメリカ選挙で大統領に返り咲いた。
その返り咲きは決して意外なことではなく、さらに恐ろしい時代の到来を招くと危惧していたことである。返り咲きの危惧は、アメリカ社会の格差が益々拡大し、グローバル化で製造業が途上国移転によって年々衰退し、大部分を占める貧困層と中間層が実現されない民主主義の綺麗ごとに怒っていたからである。
確かにアメリカの景気はよく、全体として潤っている。しかし潤っているのは1%の裕福層であり、1%の総所得は下位20%の総所得の140倍にも達する。そのような人たちにとって、現在のインフレや競争の激化は深刻であり、民主主義の掲げる自由、平等、平和は綺麗ごとに過ぎず、明日の暮らしこそが切実な問題である。
確かにすべての輸入商品に20%から100%の関税を掲げるトランプの保護主義は、破綻寸前の国内産業を蘇らせるだろう。しかも世界のポリスの役割を放棄し、既に支配している途上国から資源を安く調達すれば、アメリカ国民は潤うだろう。それが強国アメリカの復活であり、国内産業の衰退によって貧困が下へ下へとスパイラルして行く人たちにとって、トランプの自国利益第一は魅力ある福音に聞こえる。事実そのような自国利益第一は、トランプ支持者に目先の約束を果たすこともできるだろう。
しかし既にブログ(333)で述べたトランプの演説の動画が示すように、トランプは白人至上主義者であり、ようやく獲得されてきた黒人や有色人種の権利が奪われて行き、イスラエルに見るアパルトヘイトさえ復活し兼ねない。すなわち人種差別を原動力として、国家社会主義(ナチズム)が甦ることである。
それはアドルフ・ヒトラーが予言した百年後の復活である。そのような予言を為した背景には、民主主義社会が経済格差を拡げ、自由平等の公正さが失われていくことにある。その結果国民は、ナチズムの説く愛国心、正義感、未来への希望に酔いしれるからである。
具体的には上に載せたZDFの『私たちドイツ人と民主主義(Wir Deutschen und die Demokratie)』(2019年4月30日放送)が描くように、世界一の民主主義国家と称賛されたワイマール共和国は、「虚構と未来への期待が現存を加速し、同時に幻覚から目覚めていた」、「夢想家がほっつき歩き、当時は素晴らしい時代であり、敗れた戦争の余波は最早感じられなかった」、「多くの女性は自己認識、自己決定で、益々自由に生きていた」と語られている。
しかし大部分の国民は飢えを脱しただけで、そのように自由を謳歌できる暮らしとは程遠かった。すなわち政治の腐敗と並行するように門閥主義が横行し、職人の子は職人、インテリの子はインテリ、企業家の子は企業家であることが暗黙的に決められている階級社会であり、一握りの人たちだけが益々裕福になり、自由を謳歌する時代であった。
それゆえ大部分のドイツ人は、ナチズムの掲げた平等と公正さを求めるスローガンに熱狂して行ったのである。すなわち二五ヵ条ナチズム綱領では、第一一条で労働によらず、努力のない所得の廃止、第一二条で企業の国有化を要求し、第一四条での大企業利益の国民への分配、第一六条での百貨店などの即時市町村有化、第二〇条での勤勉なすべてのドイツ人に国庫負担での教育保証などを掲げ、富の平等な分配と公正さを求め、国民の要望に寄り添っている。すなわち国家社会主義とは、マルクスの理想とした不正なき平等社会の右翼による実現とさえ言えよう(左翼による実現は、スターリンのソ連帝国に他ならない)。
しかし国家が平等に分配できる富を得るために、帝国主義を推し進めてきた官僚支配を誉め讃え、第三条で海外進出による領土拡大を求め、雇兵廃止と国民軍編成を要求している。またユダヤ人に対しては、第四条でユダヤ人は国家公民でないと断言し、第五条で(ユダヤ人は)外国人関係法規を適用しなければならないと述べている。さらに第二三条では、新聞のメディア支配を打ち出し、最後の二五条では、ナチス政党の議会での無制限な権威を掲げ、ナチズム独裁国家建設を誓約している。
実際にこのようなナチズムはドイツ国民を熱狂させて行ったが、その結果として必然的にホロコースト、そして世界戦争を引き起して行ったのである。
まさにトランプの再勝利はアドルフ・ヒトラーの予言によるナチズムの復活であり、人種差別や地球温暖化の激化だけでなく、人類絶滅の世界戦争へと紛争が拡大して行く危機である。
私の創造的平和構想(3)
そのような保護主義による平等な冨の分配と公正さを求める国家社会主義(ナチズム)への甘美な誘惑は、民主主義が経済の自由を通して格差を益々拡げていくなかでは、トランプの再勝利が示すように防ぎようがないことも事実である。
現に民主主義国家から権威主義国家へ移行する国は増え続けており、地球温暖化に対しても国益最優先で二酸化炭素排出量は1990年リオの削減の誓いにもかかわらず、2020年には160%に増え、それ以降もパリ協定にもかかわらず増え続けている。さらに戦争はイラク、アフガニスタン、シリア、ウクライナ、パレスチナと止めどもなく継続されており、最早戦争という戦争特需を通して先進国が潤う政府と企業のコーポラティズム体制が構築されていると言っても過言でない。
そのような構築は、化石燃料エネルギー支配のグローバル資本主義が行き詰まり、「ショック・ドクトリン」が提示するように戦争などの禍を通して潤う仕組みが造られ、断末魔を迎えているからに他ならない。それは化石燃料エネルギー支配の民主主義では止まらないだけでなく、対処自体が逆に推し進めている。
しかし地域分散技術の行き渡る再生可能エネルギーの世界では、そのような悪しき構造が解消されるだけでなく、経済的にも平等な「エネルギー民主主義」を創り出すと論じられている。すなわち「エネルギー民主主義」は、地域エネルギー自立の過程で経済的にも平等な共同体を創り出していく。しかもそのような共同体は太陽と風による余剰エネルギーを水素で蓄積することで、究極的には自給自足の共同体を創り出すことから、経済的にも侵略のない利他主義の世界へと導かれていく。
そのような「エネルギー民主主義」は、現在の気候変動、経済格差、人種差別、難民などの問題を本質的に解消するシステムが組み込まれており、私の提唱する「核のない善なる世界」に導くことも可能である(詳しくは次回参照)。
本来「エネルギー民主主義」は、「誰でも十分なエネルギーを利用できるようにする」という概念であり、ドイツの気候正義運動(気候変動に関与していない先住民や貧しい人々が最も被害を受けている不正義を問い正し、気候変動を生み出している経済を変えて行く社会運動)に発している。そして現在では、再生可能エネルギー後進国のイタリアにおいてさえ、地域で何万の再生可能エネルギーコミュニティーを生み出しつつある(注1)。
そのような再生可能エネルギーコミュニティーをイスラエルとパレスチナの境界線に平和を取り戻す人間の盾として、何千と創り出して行くことが、私の唱える創造的平和構想である。
確かに紛争地への国連軍派遣は、5大国の拒否権で決議されることは不可能である。しかし2021年に発効された核兵器禁止条約は国連総会で決議されており、安保理での決議は不可能としても、本当に世界に平和をもたらすものとして多くの国が望むのであれば、国連加盟国三分の二の賛成で決議可能である。
創造的平和行使が国連総会で決議されれば、拒否権行使を望む国々は参加しないとしても、平和を望む殆どの国が参加する人間の盾としての志願市民、専門家、そして大部分の難民からなる国連平和市民(再生可能エネルギー)コミュニティ設立部隊を派遣することは可能である。
国連平和市民(再生可能エネルギー)コミュニティ設立部隊には命の保証はないとしても、人間の盾としてパレスチナのジェノサイドをくい止め、イスラエル人の復讐攻撃による恐怖心を取り除くものであり、それが攻撃されることはないと確信している。それ故最初に述べたように、そのような国連設立部隊が国連決議の下に編成されれば、採用されることは別として、77歳となった私も志願したいと思っている。
何故なら、もう一つのアルタナティーフ(オルタナティブ)な世界、核のない善なる世界を創り出すことが、私の生きる目標であるからだ。