(502)戦争と平和(8)なぜ人類はジェノサイドを続けるのか?【4】・『衝突の根源に何が』が訴えるもの2-2・平和解決は可能か?

公共放送『衝突の根源に何が』が訴えるもの

NHKスペシャル『衝突の根源に何が・記者が見たイスラエルパレスチナ』の2-2では、両者の代表が解決をどのように考えているか聞いている。

強硬姿勢を採るイスラエルのニル・バルカト経済産業相は、記者の「ガザ攻撃が“戦争犯罪”と見られるのではないですか」という質問に対して、「それはハマスに言ってください。彼らが降伏すればすぐに戦争は終わるのです」と強く反発し、最初からまったく話合おうとする姿勢がなかった。

彼によれば、国際法違反とされるイスラエルパレスチナ入植も、そこが嘗てユダヤの地であったことから違反ではなく、すべての戦争の原因と見なされている占領政策を正当化していた。しかもまったく歩み寄る余地がなく、“力による解決”しかないとさえ、宣言しているように思えた。

一方パレスチナ解放機構PLO)代表のジブリル・ラシューブ事務総長は、イスラエルの現政権が存続する限り、二国家共存することは不可能だと主張しながらも、「双方の政治体制が共存することが、唯一の解決策です。イスラエルの敵でもなく奴隷でもない隣国になるのです。しかし犯罪的で腐敗したメタニアフ政権は嘗て中東諸国の主権と平和を脅かし、イスラエル自らの存続も脅かしています」と述べ、二国家共存に解決を求めていた。

そのように双方の歩み寄りの余地がまったくないなかで、鴨志田記者は30年以上も双方の痛みを見つめてきたイスラエル人ジャーナリストのアミラ・ハス女史に解決の道を聞いている。

アミラ女史は、「私が何年も伝えてきたことの一つが、イスラエルが占領を続けるかぎり平穏な日常は訪れないということでした。ある時点で爆発するだろう」との思いを吐露していた。そしてこの負の連鎖を断ち切るための質問に対しては、「もう内部からの変化は望めません。外からの介入が必要です。……世界はもうこの争いを止めることを諦めてしまったかのようです。しかし血まみれの惨状をどうして放っておけるのでしょうか?この争いは世界大戦を引き起す恐れすらあるのです」と訴えていた。

そしてフイルムのラストは、鴨志田記者自身の声で「イスラエルパレスチナの人々は今長い苦難の歴史の記憶から逃れられず、目の前の悲劇を止めることもできずにいました。取材を通じて人々が口にしたのは、“もはや自分たちの力では暴力の連鎖を止めることはできない”という悲鳴のような訴えでした。あまりにも多くの命が奪われていくこの不条理から、私たちは目を背けるわけにはいかない。そう強く感じました」と結んでいた。

なぜイスラエル占領政策が止められないか

なぜイスラエル占領政策が止められないかについては、同時期の1月29日に放送されたクローズアップ現代「止まらないガザの殺戮」が簡潔に語っていた。

取材したホロコースト研究の第一人者で、ユダヤ人のモシェ・ジメルマン教授は、「『ナチスにやられたのは自分の弱さのせいだ』と言われるため、サバイバーは体験を語ることができませんでした」と語っている。さらに戦争が繰り返されるなかで、政府は建国から長い間ホロコーストの記憶を利用してきたと指摘し、「『私たちは犠牲者だから攻撃を受けたら何をしてもいい』。和平交渉よりも武力に行使するのが国のメンタリティーになってしまっています。ホロコーストの記憶を、攻撃を正当化する道具に変えていったのです」と述べていた。

そして番組キャスターの桑子真帆は、ホロコーストが弱さの現われであり、軽蔑の対象になって行ったことを踏まえて、「それが(軽蔑)、アラブ諸国との戦争が繰り返される中で“国民を統合する”、まとめるために利用され、ひいては“攻撃を正当化する” ためにも利用され、それが今にもつながっているということです」とモシェ教授の主張を噛み締めるように繰り返していた。

世界はガザのジェノサイドを止めることができるのか?

9月18日の国連総会(193カ国)は、イスラエルに対し、パレスチナ占領政策を1年以内に終わらせるよう求める終戦決議を124カ国の賛成多数で採択した。決議では、占領地からのイスラエル軍撤退や土地の返還、新たな入植地建設の停止を要求。各国には、占領地で使用される可能性がある武器をイスラエルに供与しないことや、占領に関与した個人や法人に制裁を発動することを要請している。

しかしこの決議に法的拘束力はなく、イスラエルアメリカが反対し、日本が賛成にもかかわらずドイツや英国など43ヶ国が棄権したことからも、戦争を終わらせることの難しさを感じないではいられない。

しかもこともあろうに国連決議の前日と当日に中東レバノン及びシリアで、ハマスの後ろ盾となっているイスラムシーア派組織ヒズボラのメンバーが持つ通信機器が一斉に爆発し、死者37人、負傷者約3000人を出したと報道された。ニューヨークタイムズによれば、この通信機器はハンガリーのBAC社製造とされたが、このBAC社はイスラエルのフロント(隠れ蓑)企業であり、イスラエル諜報員が電池に爆薬を混ぜ製造していたと伝えている。

このような前代未聞の一斉爆発は、その直後報復前にイスラエルレバノンの軍事基地及び首都ベイルートの作戦本部などを大規模に空爆していることから、イスラエル政府の関与は明らかであろう。

それは、国際連盟で日本の属国である満州帝国を認めない決議した際日本が激高して国連から脱退したことを思い出させずにはいられない。親米よりの松岡洋右全権大使が激高して脱退したが、現在から見れば日本帝国が占領政策で突き進むなかで、起きるべくして起きた脱退であった。

なぜなら利権構造で構築された大本営にとって占領地からの撤退は、積み上げられた利権をすべて放棄することであり、そのような選択肢はないからである。

そして現在のイスラエルのネタニヤフ政権は、ネタニヤフ自身汚職容疑にまみれ、閣僚は利権屋ばかりだと世界から報道批判されるほど、利権剥き出しの人事である。そのような政権ゆえにネタニヤフ独裁政権が継続する限り、たとえアメリカが停戦賛成を要請しても、占領政策パレスチナに止まらず、レバノン、シリア、イランへと拡大して行く公算が高い。

停戦を実現するためには選挙での政権移行が不可欠であり、一旦戦争がガザ完全制覇で止まれば、政権移行の可能性は極めて高い。それ故にネタニヤフ独裁政権は戦争を止めないために、現在はレバノンへと計画的に戦争を拡大しているように思われる。

次回は今年ベルリン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した、2023年10月7日のハマスのテロ虐殺直後に撮影されたパレスチナ西岸での小さな村での悲惨な復讐とも言うべきドキュメンタリー『No Other Land 』を取り上げて、本質的な平和への解決を考えて見たい。

またユダヤ思想の源流である「ティックン・オラムTikun Olam(世界の修復)」の善なる思想を通して、気候正義に基ずく世界の平和な新たな創造を考えて見たい。