映画『イスラエル主義』が語る本質的解決(1)
上に載せた動画は2024年1月22日の「デモクラシー・ナウ」の放送であり、放送では映画『イスラエル主義』を紹介すると同時に、映画監督エリン・アクセルマンと今や反イスラエル主義の先頭に立つ主人公女性シモーネ・ジマーマンを通して、何故今アメリカの多くのユダヤ人若者がイスラエルのガザの侵攻や西岸占領政策に反対するかを語っていた。
映画『イスラエル主義』は、イスラエルの安全と利益のために身を捧げる愛国心教育で育てられた二人の実在の若者が、大学やイスラエル軍に入隊でパレスチナ人の抑圧による苦しみを知り、これまでの唯一イスラエルの安全と利益を優先する「イスラエル主義」に疑問を持ち、本質的解決を求めて立ち上がって行く実在の物語である。
シモーネは、祖父と祖母がナチズムのユダヤ人迫害のなかでポーランドからアメリカに逃げてきたユダヤ人家庭で育ち、大学で中東問題に接するまで「イスラム主義」を信奉するナイーブな女子学生であった。しかし大学の学生会議でアメリカの武器技術提供でのイスラエルからの投資撤退決議に反対した際、決議を求める悲痛な親パレスチナ学生の悲痛な声にショックを覚え、これまでの自分に疑問を持ち始めた。さらに翌年の夏パレスチナの西岸を訪れ、立ち退きを強いられる実態を目にして、大きく変わって行ったと語っている。
そしてシモーネは、アメリカのイスラエル占領政策支援終了とパレスチナとイスラエルの本質的解決を求めるユダヤ人の活動家運動「IF NOT NOW」の創設者の一人となり、前回紹介したイスラエルの人権平和団体「ベェッレム」のアメリカ代表となって活動している。その活動では、すべてのパレスチナ人とイスラエル人の平等、正義、そして希望ある未来を求めている。
現在の一年間にも続くガザのジェノサイドに対して、無力な世界の現状からは絶望しか見えてこない。しかしユダヤ人若者の「イスラム主義」に反対し、中東の平和、平等、正義を求める声が映画『イスラム主義』上映を通してアメリカ全土に拡がり続けているだけでなく、今やネットを通して世界に拡がっている現状からは、もう一つの希望ある世界が見えてきている(注1)。
尚この映画制作は「ティックン・オラム」プロダクションと表示されており、「ティックン・オラム」は既に述べたように、ユダヤの源流思想「すべてが愛をもって神に立ち返り、私たちの壊れた世界を修復する」であり、他者への愛をもって中東の平和を目標に掲げていると言えるだろう。
危機のなかで遅まきながら変化を求めている世界
映画『イスラエル主義』が描く、パレスチナ人への抑圧だけでなく、停戦平和を求めるイスラエル人を非国民として厳しく制裁する実態は2024年9月6日放送のNHKスペシャル『“正義”はどこに ~ガザ攻撃1年 先鋭化するイスラエル~』を見れば真実であることが理解できるだろう。特にイスラエルの占領政策に基づいて入植が加速するパレスチナ西岸での暴力とアパルトヘイトは、これまでそれを描くこと自体が反ユダヤ主義とされてきたことから控えられてきた。それはまさに、戦前のドイツでの恐るべきユダヤ人迫害がナチズムの脅しによって控えられていた実態とも言えるだろう。
確かにこの放送でも一方的イスラエル批判にならないよう、残忍な10・7のハマス襲撃映像を載せ、直接的なイスラエル批判とならないよう配慮している。しかしイスラエルで停戦平和を求める人たちへの制裁映像やパレスチナ西岸での暴力とアパルトヘイトの実態映像は、明らかに鋭くイスラエルを批判している。
そこには遅まきながら、NHKを初めとして前回載せたドイツ第一公共放送など、世界の公共放送も映像を通してイスラエル批判にようやく動き出したように感じる。それは裏返して言えば、世界に危機が迫っているからである。具体的にはイスラエル軍の侵攻拡大のなかで中東の平和が絶望視され、ウクライナ戦争も益々終わりが見えなくなり、ゼレンスキー大統領は国内が廃墟となって行くなかで、ロシア侵攻さえ打ち出しているからである。
ロシアへの侵攻は欧米の最新兵器が使用されれば、ロシアの防衛網が手薄なことから大進撃もあり得ることであり、そうなればプーチンの最初に宣言した核の限定使用にもなりかねない。
またイスラエルがレバノンを越え、イランとの戦争が始まる公算は高く、そうなれば圧倒的に戦力でまさるイスラエルが制圧するとしても、中東紛争は益々憎しみの連鎖によって、核兵器テロさえ起りかねない危機へと突入して行くからである。
確かに喫緊に求められるのは停戦であり、停戦を通して二国間共存の「オスロ合意」を実現しなくてはならない。しかし現在のアメリカ主導のパレスチナの再建と中東の平和実現には大きな問題があり、イラクやアフガニスタンの挫折を見れば明かである。
2003年のイラク戦争では、中東の安全と平和、さらには中東の民主化という大きな目標を掲げ、連合国は圧倒的に勝利した。しかし戦後の復興では、ナオミ・クラインが言うように、連合国暫定政府(政府と企業が一体化したコーポラティズム体制)はビジネスを優先させ、イラクの残された冨と連合国の公的資金を喰いつくして行った。その結果、治安が以前より悪化し、反米感情が高まるなかで、大きな負の遺産を残して2009年アメリカ撤退で幕を引いた。
そのようなナオミ・クラインの描いた惨事便乗型資本主義の視点に立てば、現在のウクライナ戦争や中東戦争も果てしなく続くことで、政府と企業が一体化したコーポラティズム体制の世界が、平和のためというお題目で、武器や資材提供によって国民のお金を喰いつくしているという見方さえできる。実際世界経済は、戦争特需によって一時的に上向いているとも言える。
しかし果てしなく続く戦争継続によって利益追求する世界は、最早末期的であり、破綻に向けて突き進んでいると言えるだろう。しかも世界の大部分の人たちは、公的資金が戦争によって喰いつくされて行くことから、益々貧しくなっている。
私の創造的平和構想(1)
このような世界の末期的危機のなかでは、本質的解決は世界国々が利他主義に徹するしかないように思われる(注2)。
それは上に述べた「イスラエル主義」に反対するアメリカのユダヤ人若者たちが、すべてのパレスチナ人とイスラエル人の平等、正義、そして希望ある未来を求めて運動していることからも見えてくる。事実ユダヤ思想の源流「ティックン・オラム」は、利他主義に行き着いている。
例えばユダヤ問題に取組むユダヤ人の緑の党EU議員セルゲイ・ラゴディンスキーは、「私にとって、この思想はより進歩的であり、ユダヤ教ではティクン・オラムという考え方が非常に強く、他人に良い生活を提供する場合にのみ私たちはよく生きることができ、私たちがともに平和でいられるという事実が私の心に刻みつけられている(„Für mich ist der Begriff eher das Progressive und die Tatsache, dass in der jüdischen Religion dieser Gedanke von Tikun Olam sehr stark ausgeprägt ist, dass wir nur dann gut leben können, wenn wir für ein gutes Leben für andere sorgen, dass wir nur dann mit uns im Reinen sein können, das ist schon etwas, das für mich prägend ist“)」と述べている(注3)。
そのような利他主義の視点に立てば、現在の世界の危機は止まらない戦争、激化して行く気候変動、増え続ける難民であり、そのような危機を同時解決して行くことも決して不可能ではない。
たとえば紛争地域に国連軍投入による緩衝地域ではなく(しかも国連軍創設は現在の国連では拒否権で不可能)、難民を取り込めるエネルギー自立の再生可能エネルギーコミュニティーを創り出すことで同時解決できると、私は考えている。
もちろん難民の人たちだけでなく、紛争国の人たちに加えて、志願する世界の人たちが参加するコミュニティーであり、構想が実現して行けば本質的解決となる筈である。しかしそのようなコミュニティー建設は、紛争真っただ中に人による盾であることから、たとえ国連主導でなされたとしても、命の危険があることは確かである。
それでも、「お前は自虐するユダヤ人であり、死ね!」と脅かされても怯まないアメリカのユダヤ人若者たちや、「裏切り者、テロリスト!」と罵られても止めないイスラエルの平和活動家たちを思うとき、そのような企画が為される時命の危険があるとしても、世界の多くの人たちが参加志願すると確信する。
私自身も今年77歳になったが、朝は読み書き、昼は農仕事にあけくれ、まだまだ意欲があることから、そのような企画があれば真先に志願したい。確かに人間は、自らの人生を振り返っても自己中心的であり、シェーム、シェームの悔いることばかりであるが、人は他者のために生きれる時生きがいと喜びを感じ、最も輝いているように思うからである。
もっとも今回は私の創造的平和構想を僅かに輪郭しか述べておらず、荒唐無稽な構想と思われても仕方がない。次回は納得が得られように、もっと詳しく具体的に述べていきたい。
(注1)映画『イスラム主義』は下のアドレスで見られ、私も寄付と思い見たが、英語字幕であり、そのような映画を見慣れている人以外はお薦めできない。もっともワンカットワンカットをじっくり見れば、素晴らしい映画と思った。
https://www.filmsforaction.org/watch/israelism/
(注2)今年四月に出した『核のない善なる世界・禍を力とする懐かしい未来への復活』では、EU市民の地域エネルギー自立の再生可能エネルギーへの取組みは活気的に2030年のパリ協定の実現に迫っているが、それ以外の世界は実現努力に欠けており、気候変動激化は必至であり、洪水、干ばつ、食料危機、新たな伝染病襲来は避けられない未来を述べた。同時に禍が押し寄せて来るとき、エネルギー自立を達成した地域が世界の他の地域に利他主義で資材やノウハウを提供して行けば、気候変動を解消できるだけでなく、まったく新しい「核のない善なる世界」を創り出すことができる物語であり、しかも論理的であると自負している。
(注3)