(40)検証シリーズ6、財政問題は増税で解決できるか。第7回(最終回)「地産地消が日本を救う、そして世界を救う(第七の封印を解け!)」前編

地域再生を考える時、そこで生きる者にとって地域が未来に向けて輝いていなければならない。
そのように未来に向けて輝いている成功例として、かっては困窮の極にあったデンマークが挙げられるだろう。
デンマークはドイツの上に位置し、北海道の半分ほどの大きさで、人口も500万人ほどで日本の都道府県規模である。
絶えずドイツ帝国オーストリー帝国の圧迫に苦しみ、19世紀中頃に立ち上がったが敗れ、肥沃な大地シュレス・ヴィヒホルシュタインをドイツに没収され、莫大な賠償金を課せられた(『デンマルク国の話』内村鑑三・・・青春文庫 )。
http://www.aozora.gr.jp/
しかし残された不毛の地ユトランド生きる人たちは、その逆境をバネとして希望の緑の大地に変え、世界に輝く国に再生した。
しかも1973年のオイルショックにおいてはエネルギー自給率1パーセントであったが、北海油田再生可能エネルギー開発に全力を傾け、エネルギー自給ができるような税制度を採り、2008年にはエネルギー自給率130パーセント(2004年155パーセント)に達し、世界で最も豊かな国の一つになっている。
http://www.ambtokyo.um.dk/ja/menu/GreenDenmark/Denmark/
日本の衰退著しい地方も、不毛の地であることをバネとして豊饒の地と成した小さな国デンマークを手本として、地域を再生することは十分可能である。
そのためには前回述べたように、機能不全を呈している明治以来の官僚支配政府の刷新は必要不可欠だ。
権限の下への委譲で中央に支配されない地方分権が徹底されていけば、地方政府は小さな国デンマークのように、現在の窮状をバネとして、創意工夫で豊饒の未来に向けて動き出す筈だ。
現在の地域衰退の原因は、若者が雇用がないため都会へ出て行くのとは対照的に、物が地域振興のために開発された高速道路を通して都会から入って来るからだ。
すなわち物を外に依存するため、益々雇用の場が減少し、若者が外へ出ていく悪循環を深化させている。
そうした中ではどれだけ国民の血税と将来世代の負債が投入されても、政官財の巨大な利権構造に喰い尽されていくだけだ。
それを打破するためには、地域での地産地消が必要であり、デンマークに倣うならば税制的戦略も不可欠だ。
すなわち地産地消税の創設である。
地産地消税は、小国地方政府の地域関税であり、地域外から運ばれてくるすべての商品に課税する税である。
確かに税であることから、消費者にとってはマイナスのイメージしかないかもしれないが、地域内の生産者には課税されず、地域外からの生産者に対して適正な競争のインセンティブを与えることから、逆に物価が下がり暮らし易くなる。
特に日本のように物価が恐ろしく高い国では、むしろ世界の物価に収束して健全に下がり、国際競争力の向上にも貢献する。
しかもそれは地域を再生すると同時に、中央に依存しない自立した豊かな地域を実現することに繋がる。
そのような地産地消税が威力を発揮するためには、少なくとも10パーセント程度の課税が必要であろう。
もっとも急激な変化はデメリットや抵抗も予想されることから、健全な国際競争力育成を掲げて1パーセントから始めて、累進的に増加させることで10年後10パーセントになるといった方法がよいだろう。
課税で得られた税収の一部を地域内の生産者支援に利用していけば、これまでほとんど他の地域に依存していた農産物や製品に対しても、デンマークのエネルギーの自給率1パーセントから130パーセントが示すように、自給自足することも可能だ。
実際の導入では、例えばある農産物がほとんど外からの流入する地域であれば、税収をその農産物の生産に参入する生産者育成や、外の地域又は外国の生産者を地域内に呼び込む移住支援に使えば、地域内での地産地消を高めることは難しいことではない。
また電化製品などの生産されていない地域では、課税免除と十分な支援金によって、意欲ある生産企業を招致することも可能だ。
さらに法整備で地域内での徹底したリサイクルを義務付けて行けば、大きなインセンティブとなるであろう。
もっともすべての農作物や製品を地産地消することは、適材適所の生産原則からして不可能であろう。
たとえ課税免除と十分な支援があったとしても、農作物であれば気候や耕作地の適正に大きく左右されるため、導入後地域内での生産がある水準まで増加した後は、自ずと適正なバランスに達するであろう。
しかし生産原則の観点から大きなハンディーのある地域においても、食料や生活必需品に関しては少なくとも3分の1ほどの地産地消は可能であり、そのために地方政府はあらゆる方法で支援すべきだ。
そのためには地方政府は、これまで地域産業衰退の原因を徹底分析すると同時に、産業振興戦略を抜本的に見直さなくてはならない。
すなわち戦略的な農業政策、林業政策、漁業政策、そして未来産業の枠組みを作り、長期プロジェクトで地産地消を実現すべきである。

例えば林業をでは、日本は国土の7割近くが森林であるにもかかわらず、国内自給率は僅かに2割ほどであり、多くの森林は管理されることなく荒れ果て、災害の原因とさえなっている。
これに対して森林が国土の3割しかないドイツでは、山間地の小規模農家を林業マイスターに育成するなどして100万人以上の雇用を生み出し、徹底的な森林管理を通して日本の三倍もの木材を安定的に生産している。
また日本のように国土が森林で覆われる北欧諸国では、育成に100年も要する寒冷地にもかかわらず、林業は主幹産業として未来に輝いている。
日本も戦後10年ほどは木材を自給し、林業は農業と並んで地域の要であった。
しかし1961年の完全自由化という悪しき政策によって、価格の安い途上国の熱帯雨林などに依存し、木材の自給率を激減させてきた。
しかも農業同様に補助金による保護政策を通して利権構造を生み出し、恐ろしく国際競争力を低下させてきた。
それは1立法メートルの木材を生産するのに、日本では70ドルも必要とするのに対して、スウェーデンでは僅か6ドルで済み、まったく補助金なしで林業が地域の要となっている。
この理由は、日本では森林所有者が分散して小規模、伐採木材の搬送道路が不整備、それ故に機械化が大幅に遅れているからだ。
既に林業の機械化は北欧だけでなくドイツでも進み、林業マイスターたちは立木をつかんで切り倒し、長さを揃えて木材にできるハーベスタに乗っており、一度も地面に降りない機械作業となっている。
したがって日本の林業を再生するためには、これまでのように林業森林組合に任せるのではなく、意欲的民間企業の参入が不可欠だ。
しかし森林は保水力や水源などの公共性が強く、利益追求だけを最優先させることはできない。
それ故森林組合がチェック機関として機能すると同時に、民間企業が容易に参入できるように搬送道路の整備や森林所有者の同意を取るなど、黒子として先導役に徹することが必要である。
そうすれば、全ての地域で少なくとも半分ほどの地産地消を実現することは十分可能だ。

また海に囲まれた日本は世界一水産資源に恵まれ、1982年には1282万トンの漁獲量を誇る世界一の水産国家であった。
しかしそれ以降急速に減少し続け、2009年には530万トンとなり、既に何年も前から世界最大の水産輸入国である。
日本の漁場が世界一水産資源に恵まれていたのは、先人が植物プラントを生み出す森と魚の密接な関係を知っており、江戸時代の各藩が漁場近くの森の伐採を禁止し、森を育成してきたからだ。
しかし日本の工業発展とともに捕獲技術が恐ろしく向上し、「巻き網漁」などによって魚を根こそぎに捕獲することで、日本近海の水産資源は激減し、漁業を不況産業へ転落させた。
これに対して現在の欧米、特に北欧諸国では好況産業として未来に輝いている。
そこでは水産資源の育成が最優先され、最新の科学技術で厳しく水産資源を管理している。
例えば深海においても1立法メートルあたりどれ位の魚がおり、各々の魚の体長は何センチか判別可能な魚群探知機を開発し、必要とされる漁獲量だけを網で捕獲している。
したがって欧米では、漁業が育成と捕獲を厳しく管理規制する知的産業として位置付けられている。
すなわち日本のように緩い総量規制による解禁を待って、公の海で漁船が魚を根こそぎにして取り合い、多く捕獲すればするほど利益が得られ、時にはそのために取れ過ぎて畑に捨てるやり方では成立しない産業となっているのだ。
したがって地方政府が少なくとも漁獲量が回復するまでは公社化し、漁協が中心となって専門家の指導のもとに捕獲から水産加工までを運営すべきである。
何故なら日本の海は公のものであり、国民のものだからだ。
そうすれば北欧諸国のように水産資源育成を最優先し、知的産業化を推し進めることは可能である。

そして本丸の農業政策については簡略に述べることはできないことから新たな題目で書く予定であるが、2000年まで環境農業政策の農家直接補償制度で、豊かな理想的地域農業を築いてきた農業自給国ドイツでさえ、新自由主義のボトム競争の中で毎年1万件以上の農家が倒産するほどに、地域農業は危機に瀕している。
そうした中では民主党の掲げる農家直接補償制度は時代錯誤的であり、戦後自民党が推し進めてきた食管制度の枠を越えるものではなく、農家に媚びるお金のバラマキ以外の何者でもない。
端的に述べれば、コメの完全自給に拘るより、出来るだけ多くの農産物を地域で地産地消できるように、新たな戦略で若者を地域に呼び戻し、希望溢れる産業に再生していかなくてはならない。
ドイツの小規模農家の生き残る戦略として、地域で消費する有機農産物の生産から鶏卵や養豚などを営むビオ農家への転向が増えており、2009年には1万9000件にも達している。
既にハウス栽培で有機農産物を生産することは決して難しくなく、欧米だけでなく韓国においても経営が成立つマニュアルは完成しており、地方政府が本物の食の安全を掲げてビオ農家の育成に取り組めば、若者や新規参入者を呼び込むことも可能であり、農産物の地産地消は右肩上がりに実現されていく筈だ。

東京都のような大都会では、確かに食の地産地消は難しい。
しかし地方の過疎地域などに地産地消を目的とした都の農業法人を設立し、3割までの地産地消に課税免除の措置を採ればよいだろう。
もちろんこれらの都の農業法人は地方政府に属することから、過疎地域の活性化にも役立つ筈だ。

また長野県のように海と接していない都道府県でも、地方政府が漁港のある地方の地域に漁業法人を設立し、地産地消の実現に励めば相互の繁栄に繋がるだろう。

後編に続く。

・・・タイトル「第七の封印を解け!」について。

「第七の封印」とは、ヨハネ黙示録にある世界の終末を意味しており、現代で言えば、ギリシャ金融危機に見られるように強者のルールなき強奪が繰り返される世界、北朝鮮、インド、パキスタだけでなくイランやイスラエルといった国々に核兵器が拡散される世界、自国利益を最優先して地球温暖化に対処できない世界、安い、クリーン、安全という嘘で原発バブルを推進する世界、自爆テロの連鎖が拡がり続ける世界、といった絶望的な世界である。
尚、『第七の封印』はスウェーデンの巨匠ベルイマンの映画作品でもある。
http://www.youtube.com/watch?v=O4JgsWxFY2E&feature=related