(486)ドイツから世界を変える市民デモが始まった

 

ドイツから世界を変える市民デモが始まった

 

 現在のドイツ中に拡がる市民の右翼過激主義(極右政党AfD)に対する抗議デモは、今年1月14日のポツダム市の市民デモから始まり、毎週の週末には過去にないほど盛り上がり、7週間続いている。3月に入ろうとしているが終わる気配がなく、まさにそれは危機の時代への市民の結束であり、世界を変えるものである

 事の発端は右翼過激主義者がポツダムで難民、移民の追放を目的とした秘密会議を開催したことに始まっているが、現在では右翼過激主義(極右政党AfD)のEUの拒絶、人為的気候変動否認、政治的、文化的、宗教的に開かれた多元社会否定、そして民主主義を葬り権威主義的支配に導こうとする極右政党AfDへの抗議デモに拡がっている。

 ドイツ第二公共放送ZDFheuteの2月17日の「右翼過激主義に対する抗議デモ・唯一(危機の)時代での結束」記事では(注1)、抗議運動が始まってから約1カ月が経ち、既に300万人以上市民が各都市右翼過激主義に反対してデモに参加していると伝え、同時にライプツィヒ大学社会学者シュテファン・ポッペの抗議運動展望を載せていた。

 ポッペ博士が語るには、第一に抗議運動の規模と運動期間が重要であり、例えば1989年の壁崩壊に繋がるライプツィヒでの月曜日のデモや、2019年に始まった今日の「未來のための金曜日デモ」は世界を動かしたと説明している。また今回の抗議運動は2月2日の世論調査が示すように79%の人が極右抗議デモに賛成しており、支持政党でも昨年7月以来20%という高い支持率を続けてきた極右政党AfDも今年に入り20%を割ったことは大きな成果であると指摘している。

さらに極右抗議デモでは、参加者には異なる幅広い価値観があることは確かであるが、だからこそ、唯一(危機の)時代への結束することを望みたいと述べていた。

 またドイツ第一公共放送ARDの1月28日「Tagesshau」では(注2)、「右翼過激主義に対する大規模な抗議行動・AfDはパニックに陥っている」と題して社会学者のマティアス・クエント教授のインタビューを載せている。

クエント教授は、「各都市の大規模な抗議運動だけでなく、小さな町でも、小規模で、自分の環境の中で行われ、国民の大半が右翼過激主義抗議運動支持しており、それは極右政党AfDが大衆政党であることに疑問を投げかけ、パーニックに陥らせている」と主張している。

またARD制作の『私たちはAfDにいた・脱退者のレポート』に対しては、「右翼過激主義は、破滅への恐怖と、すべてが壊れ、すべてがますます悪化し、結局、国を救うことができるのは極右(AfD)だけであり、自分たちだけだという考えで支持されています。しかし市民抗議デモが明らかにしたのは、参加者には肯定的な感情があり、希望があり、民主主義を支持し、右翼過激主義の破壊的な立場と文化的悲観主義を拒絶していることです。そして、デモやソーシャルメディアのスピーカーで、右翼過激主義者に対するこれらのデモの影響の1つは、フラストレーション、エネルギーの喪失、コミットメントの低下などです。AfDを支持する人々は、自分たちの社会観がこれらのデモによってこれほどまでに揺さぶられていることに不満とショックを受けています。それは理性的なレベルだけでなく、感情的なレベルでも起っています」と述べていた。

 このようなドイツの公共放送の報道には、市民の抗議デモを支援すると同時に、民主主義を葬ろうとする右翼政党AfDを許してはならないという「戦う民主主義」の姿勢が全面に感じられた。

 このドイツの「戦う民主主義」は、戦後二度とナチズムの恐るべき犯罪を繰り返してはならないという深い反省から、1949年に誕生させた基本法(ドイツ憲法)で、第一条から 第二〇条の国民の権利条項で「国家は国民のためにある(国家は国民のために奉仕する)」を明確に規定し、多数決では変えられない不可侵としたことに発している。

 しかも戦前のように官僚支配構造に戻らないよう、第一九条四項で「何人も、公権力によってその権利を侵害されたときは出訴することができる」と明言し、容易に行政訴訟が為されるよう導き、1960年に成立させたドイツ行政裁判法では、「行政当局は記録文章や書類、 電子化した記録、情報の提出義務がある(第九九条第一項)」を明記し、行政に過ちがある場合有耶無耶にできないようにしたからである。

 それは、裁量権を持つ官僚一人一人の責任を問うものでもあり、戦前の官僚支配構造から官僚奉仕構造へ変えるものであった。しかも基本法を的確に機能させるための連邦憲法裁判所の存在が大きい。ドイツの連邦憲法裁判所は51年に設立された時から、国民にガラス張りに開かれ、16人の裁判官たちは連邦選挙での政党得票率によって各政党推薦で選ばれる裁判官であり、競い合って絶えず国民に正義を訴えている。

 しかも協議室の議論は、国民にガラス張りに開かれており、裁判官たちの相反する激しい議論を見ることで、国民が合意を求める民主主義を学べるよう意図されている(まさにドイツの「戦う民主主義」は日本の戦前の官僚支配を継続する表向きの民主主義とは一八〇度異なるものであり、日本にとって認めたくない存在であり、絶えず日本ではメディアを通してドイツ批判が為されている)。

 今回のドイツ市民の抗議デモは民主主義を守る一点で結束しており、抗議対象の右翼過激主義(極右政党AfD)の背後には民主主義を葬ろうとする化石燃料支配の世界があることも確かである。それは余りにも巨大な構造であり、ドイツ市民から始まる抗議デモが世界に拡がっても、すぐには変えれないほど強靭な構造である。

 しかし化石燃料支配の引き起す禍の頻繁化は必至であり、世界市民の抗議デモは、それらの禍を力にして、化石燃料支配の競争世界から自然エネルギーの平等な争いのない連帯世界を創り出していく決意表明でもある。

 尚既にブログで書いたのであるが、2022年8月21日放映のドイツ第一公共放送(ARD)制作『気候崩壊、エネルギー危機、右翼の物語』では、極右研究の第一人者であるマグデブルグ・シュテンダール応用科学大学の社会学教授マチアス・クエントを登場させ、なぜ今右翼の物語が拡がって行くか、核心に迫っていた。放送フィルムでのクエント教授は、「ロビーイストたちは気候問題にブレーキをかける最前線ですべての政党に出入りしており、一〇年前からネオリベラルな強いネットワークを誕生させている。そして極右ネオリベラル政党AfD(ドイツのための選択肢)は、議会で化石燃料の特権を守る議題を勢力的に遂行宣伝している」と明言していた。

また2020年2月4日に放送したドイツ公共放送ZDFの報道特集番組「フロンターレ21」では、人為的気候変動を否定するロビー活動とAfDの関係を暴き出していた。この番組は市民調査機関CORRECTIVと共同で危うい潜入取材まで試み、このフィルム『気候変動否定での潜入捜査Undercover bei Klimawandel‐Leugnern 』を見れば、ドイツの公共放送が報道の中立性を越えて絶えず民主主義を進化させ、不正に立ち向う報道を実践していることがよくわかる。

その報道によれば最も重要であるお金の流れは、まずアメリカの石油産業などからのお金が、様々なシンクタンク、あるいは匿名寄付を可能するドナーストラストを通してハートランド研究所に集められる。そしてそこからドイツのEIKE研究所(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候とエネルギーのためのヨーロッパ研究所)にお金が送られ、そこから極右政党AfDに流れている。すなわちEIKEとAfDは密接につながっており、EIKE副代表のマイケル・リンブルフはAfD連邦議員カルステン・ヒルゼの事務所に勤務しており、AfDの党員でもある。そしてAfDは連邦議会で人為的気候変動を否定するだけでなく、政府の気候保護政策を絶えず批判し、エネルギー転換にブレーキをかけている。報道から見えてくるものは、現在の化石燃料支配の世界は石炭や天然ガス使用をより長く続けるために、ドナーストラストなどを通じて合法的に人為的気候変動を否定する研究機関などに資金を提供し、ドイツであれば究極的に国家社会主義の復興を求める極右政党AfDによって様々な気候保護阻止の活動がなされている実態であった。

 

 世界は何処に向かおうとしているのか?

  

 ロシアが何故ウクライナ侵略を始めたかは明らかであろう。ロシアはソ連崩壊後政治的にも混乱し、それまでの軍需産業から民需産業への転換も上手く行かず低迷していたが、一九九八年の金融危機による為替激落や石油ガスの世界的高騰で成長に転じ、石油や天然ガス開発によって粗野な資本主義の頭角を現して行った。しかしそれを率いる企業は欧米の株式企業ではなく、国家権力(プーチン政権)による利権と結びついた企業集団(オルガルヒ)であり、戦前の日本で言えば大本営統治の企業集団と言えるだろう。そのような企業集団が利権を求めて他国へ侵略するのは、自然の流れとも言えるからである。

 また現在のイスラエル侵攻も利権構造の肥大から見れば、自然の流れである。イスラエルは建国当初はキブツ共同生活が象徴するように農業中心の社会主義的な国家であったが、防衛の必要性から国内で戦車や戦闘機を製造する兵器産業が育って行った。そしてそれに伴い中東のシリコンバレーと呼ばれる工業国なり、2010年からは地中海のタマルガス田などの天然ガス開発に着手し、その急速な発展成長は驚くものがある。

しかしその反面富国強兵で利権構造が肥大し、202212月に誕生したネタニヤフ右派連立政権は、世界からポピュリズム的強権体制と批判される覇権政権である。

 司法改革では、最高裁が法律の無効判決をしても国会の過半数決議で覆せるものであり、行政府の完全支配を目指すものであった(但しこの司法改革は2024月の最高裁判決で無効とされた)。さらに政権人事では世界から利権屋ばかりと批判されるほど利権剥き出しの人事であった。

 特に連立政権の極右政党「宗教シオニズム」のスモトリッチ党首は財務相と第二国防相を兼任している。さらに連立政権のもう一つの極右政党「ユダヤの力」のベングビール党首は新設の国家安全保障相に就任し、これまで国防相の指揮下にあったパレスチナ西岸地区の警察業務も所掌している。

 すなわちネタニヤフ右派連立政権は当初からパレスチナの属国化を掲げており、イスラエルパレスチナへの侵攻も自然の流れであり、利権構造肥大による侵略戦争とも言えるだろう。

それは化石燃料支配の利権構造が肥大しているのはロシアやイスラエルだけでなく、世界のすべての国で起きており、既に述べた世界各国の化石燃料補助金総額が1000兆円を超え、将来も増え続けるというIMF報告実証している。

すなわち世界を牽引するG20やG7諸国も、本質的には同罪である。表向きG20諸国は、2009化石燃料補助金の段階的に廃止することを決定し、2012年に再確認した。またG7諸国は2016年に、2025年までに化石燃料補助金の終了を決議している。しかし罰則規定がないことから、その後も化石燃料補助金は増え続けている。

 そのような世界であるからこそ、ロシアとウクライナの停戦協議やイスラエル侵攻停止にも、表向きは表明していても本質的には戦争を容認しているのである。何故なら戦争特需で、全体としては潤っているからでもある。まさにそれは、化石燃料支配が覇権主義の世界に導いていると言っても過言ではない。

(注1) 

https://www.zdf.de/nachrichten/politik/deutschland/proteste-demos-rechtsextremismus-deutschland-100.html

 (注2)

https://www.tagesschau.de/inland/demos-gegen-rechtsextremismus-104.html