(385)“救済なき世界”をそれでも生きる(7)地球温暖化否定プロパガンダに先制して戦うドイツ公共放送

上の動画はドイツの公共放送ZDFが2020年2月4日の報道特集番組Frontale21で放送し、ネットで世界に公開したものである。
これを見れば、ドイツの公共放送が報道の中立性を越えて、戦う民主主義を実践していることがわかるだろう。

そのような姿勢を貫くのは、「ホロコーストはなかった」という主張に、肯定側の論拠と否定側の論拠を中立公平に報道すれば、いつまで経っても決着がつかず、その間に過ちが為されるからである。
もっとも今回の社会のための市民調査機関CORRECTIV(1)と協力しての潜入取材は、一歩間違えれば恐ろしく危険であり、公共放送がここまで踏み込むかと、多くの人は疑問視するだろう。
しかし世界は、地球温暖化パリ協定の開始年2020年になっても一丸となって行動しているとは言えず、逆に人為的気候変動否定ロビー活動がヨーロッパでは活発しており、パリ協定を推進するEUのヨーロッパグリンニューディールさえ葬ろうとしている。
それ故、パリ協定の推進国ドイツはそのようなロビー活動のターゲットとなり、既に右派極右政党Afd「ドイツの選択」やネットを通して人為的気候変動否定のプロパガンダが活発化している。
(そうした状況ゆえに公共放送は戦うのであり、戦わなくてはならないのである)
そのようにロビー活動が活発化する理由は、潜入捜査でも明らかになったように、存続の危機にある石炭産業や石油産業から莫大なお金が出ているからである。
しかしそのような嘘が拡がり、世界が約束した90年リオ会議以来現在に至るまで、CO2排出量削減どころか倍増する勢いで増やしてきた本質的な原因は、構造的なものがある。
すなわち現在のお金が支配する消費社会にあって、CO2削減は産業の成長を減速することであり、消費者にとっても実効性ある炭素税導入や石油製品の高騰は困窮へと導くものであり、自動車から肉食中心の食生活に至るまでが大なり小なり制限され、あらゆるものが構造的にも変化を求められるからである。
しかもアメリカでは、京都議定書以前から、絶えずメディアによって、石油製品の高騰がすべての高騰を招き、恐ろしい混乱を招くと宣伝されていた。
それ故前回述べたように、アメリカ人の二人に一人は人為的気候変動を信じないのであり、そのような世論調査を日本でもすれば同様であろう。

そのような人たちは、その多くがハンナアレントの「全体主義の起源」で述べているように、階級や政党に縛られない大衆である。
本文から抜粋」すれば、「(全体主義は)一貫性を備えた嘘の世界をつくり出す。この嘘の世界は現実のそのものよりも、人間的信条の要求にはるかに適っている。ここにおいて初めて根無し草の大衆は人間的想像力の助けで自己を確立する。そして、現実の生活が人間とその期待にもたらす、あの絶え間ない動揺を免れるようになる」。
すなわち大衆が求めるものは、不安を解消するわかり易い提示であり、科学的論拠よりも人間的信条に訴える一貫性を備えた嘘に他ならない。
それゆえに、ドイツで人為的気候変動否定のロビー活動を統括するハートランド研究所のジェームス・テラーは、「人は論理的なことで動機付けられないので、感情で議論しなければなりません」と強調している。
すなわち彼らは、科学的論拠に全く関心なく、都合のよい科学事実だけを抜き出し、感情に訴える一貫性を備えた嘘を作りだしているのだ。
事実『世界を騙しつづける科学者たち』を書いたカルホルニア大学科学史教授のナオミ・オレスケスが探求した、研究活動中の1990年から2002年の科学者論文調査で、全てが(928論文)人為的気候変動を肯定する研究であり、否定する研究論文がゼロという事実は、それを如実に示している。
それは取りも直さずロビーイスト側にとって、人為的気候変動が事実であるかはどうでもよく、事実であるとしても、壊滅的影響は遠い未来にあり、子供たちの住む海岸近辺の大都市が水没しても、高台にそれを克服できる新都市をビルドすればよいという、傲慢な1%裕福層の論理である。
それゆえに発展成長は、何が何でもこれまで同様に継続していかなくてはならず、タバコ産業がタバコの有害報告を夥し数の科学者やメディアを利用して、発がん性などの科学的事実に疑問を投げかけ続け、50年近く厳しい規制を引き延ばし来たように、1%の裕福層は期限や制約なしに、益々富を築こうとしていると言っても過言ではない。
事実今回のコロナ新型肺炎でも明らかなように、その被害は感染者だけでなく、様々な業種の人たちからマスクやトイレットペーパーを使う消費者に至るまで、99%の人たちにより重くのしかかって来ている。
感染症地球温暖化の因果関係は、CO2排出量と気候変動のように明白に立証されていないが、感染媒介生物の北上だけでなく遺伝子の変異確率に至るまで、気温上昇の影響を裏付けるものである)。
すなわち現在の規制なき競争原理による、グローバル化を通して世界をコントロールしようとするネオリベラリズム新自由主義)の世界では、地球温暖化によって生ずる洪水、干ばつ、そして感染症にしても、このまま従来の発展成長を続けていけば、先に行けば行くほど、99%側に命にかかわる程より重くのしかかって行くのである。
それゆえに、99%の連帯を求めるクライン・ナオミやグレタ・トゥンベリを先頭にする“未来のための金曜日”は、気候正義を掲げて戦うことを求めている。
しかしそれは、60年代末の世界の若者たちが求めたような力による革命ではなく、石炭や石油といった化石燃料エネルギーから、太陽、風、水、バイオといった自然エネルギーへのエネルギー転換を通して、すべての人にとって社会正義が叶う徹底した民主主義の構築である。
それは私自身も、自然エネルギーがドイツの市民エネルギー協働組合で見られるように、分散技術であることから地域での小規模エネルギー自給が経済的にも最も有利であり、人類は究極的に社会正義実現に限りなく近づいて行けると確信するものである。

(注1)CORRECTIVは2014年にドイツで、社会のために、社会と共にを掲げて設立された無党派の市民調査機関で、その独立性は財団や市民の寄付で担保されている。
下のアドレスのCORRECTIVの記事には、ZDFとの共同調査でのCORRECTIVの女性報道員カタリナと男性報道員ジャンの潜入取材が詳しく載せられている。
https://correctiv.org/top-stories/2020/02/04/die-heartland-lobby/

もちろん最初は通常の取材で、人為的気候変動否定側のドイツでの目的、手段方法、そしてお金や人材の流れを調査しようとしたが失敗に終わり、唯一の方法として潜入取材しかなかったと述べている。
特に女性記者カタリナのペンにはカメラが隠され、エレガントな会議ブレザー姿とは異なり、絶えず緊張した取材であったと述べられている。
お金の流れは、記事に載せられた下の図を見れば一目瞭然であり、まずアメリカの石油産業などからのお金が、様々なシンクタンク、あるいは匿名寄付を可能するドナーストラストを通してハートランド研究所に集められ、ドイツのEIKE研究所(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候とエネルギーのためのヨーロッパ研究所)にお金やイデオロギーが送られ、そこから右派極右政党「ドイツの選択肢」AfDに流れている。

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尚カタリナとジャンのインタビューが、ドイツのジャーナリストがつくるJETZT.DE(下のアドレス)に載せてあり、彼らの真摯な思いが述べられているので、抜粋して載せておきます。

https://www.jetzt.de/politik/zwei-journalist-innen-zeigen-wie-die-klimaleugner-lobby-gegen-geld-die-oeffentliche-meinung-beeinflussen-will

今あなたがたは、気候否定のロビーで潜入調査をしました。何があなたたちを捜査に立ち向かわせたのですか?
jetzt: Katarina und Jean, ihr habt undercover in der Klimaleugner-Lobby recherchiert. Was hat euch zu der Recherche bewegt?
カタリナ::私は「Correctiv」の気候騙取部の一員です。とりわけ、気候に関する事実チェックを行い、記事やレポートの真実性を検証します。 Facebookで共有されている生半可な事実は、常に協会名「EIKE」からでているいることがわかりました。まず私が思ったのは、この「EIKE」協会とは誰なのか?その背後にいるのは誰なのか?でした。
Katarina: : Ich bin bei „Correctiv“ Teil der Klimaredaktion. Wir machen unter anderem Klima-Faktenchecks, bei denen wir Artikel und Meldungen auf ihren Wahrheitsgehalt untersuchen. Dabei ist aufgefallen, dass  Halbwahrheiten, die auf Facebook geteilt werden, sich immer wieder auf einen Verein Namens „EIKE“ als Quelle beziehen. Zu Beginn stand für mich die Frage: Wer ist dieser „EIKE“-Verein? Wer steckt dahinter?
Jean:気候変動の原因と結果を否定しているのは誰なのか、彼らはどう考えているのか、何が動かし、どのように組織化されてるのか?という問いに、関心がありました。
Jean: Mich hat die Frage interessiert, wer diese Menschen sind, die die Auslöser und die Folgen des Klimawandels bestreiten. Wie denken sie, was bewegt sie, wie sind sie organisiert?
なぜあなたがたは、潜入捜査まで為そうとしたのですか?
Und warum wolltet ihr das undercover machen?
カタリナ:ジャーナリストはすでに現場で脅迫されています。私たち報道員からの派遣調査を望んだとき、訪問を断られたからです。特に国際的な状況、寄付の隠蔽メカニズム、政治的背景ついて認識を得たい場合、潜入捜査なければ不可能だからです。
Katarina: In der Szene wurden Journalist*innen schon bedroht, eine Reporterin von uns bekam prompt Hausverbot, als sie sich akkreditieren lassen wollte. Uns war klar, dass es nicht anders möglich war, gerade wenn wir einen Einblick in die internationale Szene und die Mechanismen der Spendenverschleierung und politischen Hintergründe bekommen wollten.
これらのシンクタンクの主な寄付提供者は、シンクタンク誰ですか?
Wer gehört denn zu den Hauptspender*innen von diesen Thinktanks?
ジャン:重要な提供者は、石油と石炭のロビー、防衛産業、そしてアメリカのヘッジファンドマネージャーで、トランプ政権やケンブリッジアナリティカの選挙操作を可能にしたロバートマーサーのような複数の億万長者です。ロバートマーサは2017年に80万ドルをハートランドに譲渡し、2018年には800万ドル以上をドナーズトラストに寄付しています。
Jean: Wichtige Geldgeber sind die Öl- und die Kohlelobby, Rüstungsindustrie und Multimiliardäre wie Robert Mercer, ein amerikanischer Hedgefond Manager, der auch Trump und Cambridge Analytica möglich gemacht hat. Der hat im Jahr 2017 eine Summe von 800 000 Dollar an Heartland überwiesen, 2018 gingen dann mehr als acht Millionen Dollar an den Verschleier-Fonds Donors Trust.
「EIKE」は、ドイツの政治に影響を与えますか?
Hat „EIKE“ denn Einfluss auf die deutsche Politik?
カタリナ:もちろん。いずれの場合もAfDが、連邦議会で講演する専門家として「EIKE」の人々を招待しています。これらの専門家は、人間は気候変動に影響を及ぼさず、気候保護は全く遂行できないと言います。それは連邦議会の議事録にあります。これこそが、EIKEの影響力行使であり、ロビー活動です。
Katarina: Auf jeden Fall. Vor allen Dingen durch die AfD, die Leute von „EIKE“ als Experten einlädt, damit sie im Bundestag sprechen. Diese Experten erzählen dann, dass der Mensch nicht den geringsten Einfluss auf den Klimawandel habe, dass man überhaupt keinen Klimaschutz betreiben könne – und das steht dann im Protokoll vom Bundestag. Das ist Einflussnahme, das ist Lobbyismus.
彼らのロビー活動はどのように機能していますか?
Wie funktioniert das?
ジャン:主な戦略は、すべてに疑問を投げかけることです。 気候変動は本当に人間が作ったものですか?本当に危険なのでしょうか?というように、行動のプロセスを遅くすべく絶えず疑問を投げかけることです。常なるモットーは、疑問をていするだけで、議論を止めるためだけにあります。他の戦略は自由に訴えることです。あなたがたは、私たちからすべてを奪いたいという非難、あなたがたは、実際には共産主義者、エコ社会主義者だと言ったものです。
Jean: Die Hauptstrategie ist, alles zu hinterfragen. „Ist der Klimawandel wirklich menschengemacht? Ist er wirklich gefährlich?“ Fragen über Fragen, die den Handlungsprozess verlangsamen und aufhalten sollen. Immer nach dem Motto: Ich darf doch wohl noch fragen – aber die Fragen sind nur dazu da, die Debatte aufzuhalten. Die andere Strategie ist, an die Freiheit zu appellieren. Der Vorwurf, ihr wollt uns alles wegnehmen, ihr seid eigentlich Kommunisten, Ökosozialisten, und so weiter.