(485)ガザの人々の「幸せな懐かしい未来」

ガザの人々の「幸せな懐かしい未来

 

 

1月20日に放送されたETV特集「ガザ~私たちは何を目撃しているか~」は重い問いかけで、ガザの2万人もの無力な市民が悲惨に殺されて行く実態と、それを見過ごすしか手立てのない世界の深層に迫っていた。

冒頭の「私たちは全員死にかけている。世界はそれを眺めているだけだ」と訴えるガザの女性の悲痛な叫びには、絶望と怒りが溢れ出していた。

しかもそれを目撃する世界は無力であり、未だに出口さえ見えて来ていない。

このフィルムが描いているように、ユダヤパレスチナの紛争はホロコーストの悲劇を背負ったユダヤの人たちが、1948年パレスチナの地にイスラエルを建国した時から始まっている。

ホロコーストでは名前で扱われずモノとしてジェノサイドされたユダヤの人々が、それまでアルベルト・カーンの映像では助け合って共存していたパレスチナの人々を殺戮、追放し、そして今ガザの人々をジェノサイドしているのである。

その光景は地獄絵図であり、尊厳ある人間が何故ここまで残忍になれるのか問わずにはいられない。

この番組で救いと打開する鍵が感じられるのは、ガザ難民3世で嘗てのガザの人々の幸せな暮らしのオーラル・ヒストリーに、救済を求めて取組んでいるガータ・アギールさんの話であった。

難民キャンプで育ったガーダさんは、祖母の時代の女性たちから暮らしや生き方を日々聞いて育ち、幸せで誇りある暮らしや生き方に勇気と希望を感じ、それを記録し伝えて行くことが、現在を打開して行くものだと確信している。

「幸せだった。人の力を借りることもなく。私たちの土地があり、畑にはイチジクやブドウもあった」と誇らしく語る女性の話からも、それが伝わってくる。

イスラエル占領下の同化政策が採られる難民キャンプでの祖母たちの闘いは、嘗ての暮らしや生き方の豊かさ、寛大さ、収穫や歌踊りと言った歴史を語り継ぐことであり、ガーダさんはそこから「スムード(困難を乗り越える力、信念や希望)」を与えてもらったと自負する。

そして今、そのようなスムードを「世界の人々と共有し、パレスチナが生き続けるために歴史を記録し書き続ける」と語っていた。

そしてイスラエルの人々に理解してもらいたいのは、パレスチナの人々の土地への愛着、そこから生まれるスムードであり、どのような苦難があっても「パレスチナ人はここに留まる」であった。

すなわちガーダさんが理解してもらいたいのは、祖母たちの誇りある暮らしや生き方であり、それは前回書いた私のバングラデシュ山岳地仏教農家で半世紀前体験した「幸せな懐かしい未来」に他ならない。

 

なぜ「幸せな懐かしい未来」が打開の鍵となるのか?

 

世界の人々がガーダさんの祖母たちの暮らしと生き方に共感したとしても、現在のガザをジェノサイドと認める世界が何もできないように、殆どの人が打開の鍵となるとは思わないだろう。

昨年亡くなつたドイツの偉大なエコフェミニズムの旗手マリア・ミースは、女性の子供を生み、育て世話をすること、料理や掃除、洗濯などの家事をすることなどの労働が「再生産」と呼ばれ、この「再生産」が女性支配、自然支配、植民地支配の根幹であることを看破した。そして外に搾取を求める資本主義の視座から、内に自給を求めるサブシステンス(生命の維持や生存のための活動であり、生活の楽しみや幸福感や豊かさも示唆している)の視座への転換を求め、女性支配、自然支配、植民地支配のないオルタナティブな生産・生活様式を求め続けた。

ミースの提唱するサブシステンスの視座への転換は、気候激化、頻発する戦争のなかで先見の明ある提唱であり、福音ともなり得るものであった。

しかし世界の危機も最上の利益追求機会と利用し、危機の原因である化石燃料補助金が1000兆円を超えても止まらない惨事便乗型資本主義のなかでは、ミースの提唱も絡めとられ葬られて行った。

しかしそのように葬った世界はウクライナや中東で戦争が止まらないだけでなく、地球温暖化をむしろ推し進め、破局への途を辿っている。

事実そのような破局の途を懸念して、アメリカの設立した世界の中央銀行を取り締まるIMFが昨年公表した報告書では、2022年度の世界の国々が支払っている化石燃料補助金は1000兆円を超え、パリ協定達成の2030年には1200兆円を突破すると分析している。

そのような分析に従えば、2030年には臨界点1・5度を超え、最早地球のすべての氷河が融け出すことも避けられなくなり、次々と破局的禍の到来も避けられなくなる。

しかしその禍を力とすれば、希望ある途が開かれてくることも確かである。

事実ウクライナ戦争でロシアの天然ガスと石油が断たれたヨーロッパでは、化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーのエネルギー転換が加速している。

再生可能エネルギーの原動力は、地域に無尽蔵に降り注ぐ太陽であり、光や風を利用した分散型技術である。

この分散型技術は、地域でのエネルギー自立が従来の巨大電力企業の電力よりも経済的に圧倒的に有利である。しかも運営形態は利益追求の企業よりも地域住民の幸せを求める協同組合形態が最も秀でており、ドイツの市民エネルギー協同組合の爆発的拡がりが実証している。

しかも地域でのエネルギー自立は、余剰エネルギーを水素として蓄えることで、富の蓄積の必要のない地域自助経済を創り出して行くからである。

なぜなら頻発する戦争の拡がり、気候変動の激化で世界の地域は否が応でもエネルギー自立を通して自給自足を迫られ、地域自助経済の自律社会を築いて行かなくては生き延びれないからである。

そのような自律社会は、まさに「幸せな懐かしい未来」に他ならない。

そこでは他から奪うこともないことから、女性支配、自然支配、植民地支配がないだけでなく、戦争のない核なき世界が創り出されるからである

 

なぜ日本社会は沈んでいくのか?

 

いつまで経っても解消されない政治とカネの泥沼化、能登半島地震での孤立地域復旧の遅さ、物価高騰でも政策立案者が国家ネズミ講と豪語する金融緩和政策を止めれない実態、国連気候変動会議COPで化石燃料推進の不名誉な化石賞の4年連続の受賞に対してもメディア追求の弱腰、日本の膨大な化石燃料補助金44兆円さえ追求しない政治の弱腰、そしてジャニーズの性被害同様本質問題を追求できないメディアの広告依存等々に、日本沈没の未来をオーバーラップせずにはいられない。

世界の中央銀行を取り締まる国際通貨基金ⅠMFの報告によれば、2022年の世界の化石燃料への補助金総額は過去最高の7・3兆ドル(約1000兆円)にも上り、年々膨れ上がり続けている。

その内訳は1兆3300億ドルの明示的補助金と5兆7000億ドルの暗黙的補助金に分けられる。明示的補助金は燃料の消費者への小売価格を下げるために使われており、国内生産コスト、流通コスト、マージンなどが含まれている。また暗黙的補助金は、小売価格に温室効果ガスの排出による気候変動への寄与、微粒子などの有害な地域汚染物質の放出による地域の健康被害(主に早期死亡)、道路燃料の使用に関連する交通渋滞や事故などの外部コストが含まれていないため、これを補うための補助金である。

報告書には具体的にガソリンの例が挙げられており、アメリカの場合ガソリンの小売価格は1リットルあたり 0.3ドルで、供給コストは 一 リットルあたり 0.5ドルであることは明示的補助金は0.2 ドルで、暗黙的補助金は外部コストの合計であり 1リットルあたり付加価値税 (VAT)を含めて 0.75ドルとなることが説明されている。

そして報告書27頁には主要25か国の化石燃料補助金の内訳が載せられており、最も補助金総額多いのは中国であり、明示的補助金2700億ドル、暗黙的補助金1兆9660憶ドルで、2兆2350憶ドルにも上っている。次に多いのはアメリカであり、明示的補助金30億ドル、暗黙的補助金7540億ドルである。次いで総額補助金4210憶ドルのロシア、総額3410憶ドルのインドが続く。そして第五番目に多い国として日本が来て、明示的補助金340憶ドル、暗黙的補助金2760憶ドルで、総額3100憶ドルが明示されている。

日本の化石燃料補助金3100憶ドル(約44兆円)は2022年予算額が108兆円ほどであることから見れば恐ろしく高い額であり、国民の支払う税収入65兆円の8割近くが、化石燃料継続支援のため補助金として使われていることを示している。

このような数字からも、日本が如何に化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーへのエネルギー転換に消極的で、インドネシアベトナムの石炭火力発電建設の化石燃料プロジェクトを推進しようとしていることは明らかである。

そして2022年移行も世界の化石燃料補助金は、新興市場国の化石燃料消費が増え続けることから、2030年には化石燃料補助金総額は8兆2000憶ドルに増え続けると予想している。

報告書が上げる化石燃料補助金が止まらない理由は、一つには補助金を縮小すれば化石燃料価格が上昇しインフレを招くからであり、もう一つの理由は国際競争力に悪い影響を与えるからであるとしている。確かにそれは正論に見えるが、その裏に政治と産業の密接に結びついた利権構造が隠されていることも事実である。

それは日本の戦前における発展過程を見れば明らかであり、富国強兵、殖産興業を目標に官主導で日本の産業を育成するなかで官と民の癒着関係が必然的に生じ、強固な利権構造を築き上げ、利権構造が肥大して行き詰まると、利権を求めて際限なく膨らんで行った事実からも理解できるだろう。そこでは冷静な判断が効かず、世界を敵にまわして戦うことも厭わなかった。

そして今日本が沈んでいく原因は、際限なく膨らんだ利権構造であると言っても過言ではない。

例えば日本は1990年代には太陽光発電技術、風力発電技術でドイツを遥かに引き離して先端を走っていたが、今や再生可能エネルギーへのエネルギー転換では後進国に成り下がっている。

その原因は、先ず原発と火力発電ありきで不足する電力を再生可能エネルギーで補う制度で、イソップ童話が説くように、「黄金の卵を産むガチョウ」を殺し続けている利権構造に他ならない。

 

尚、長らくブログを休んでいますが、現在書いている『禍を力とする核のない世界』もようやく目途が見えてきており、来月には書き上げる予定です。そこではどのように「幸せな懐かしい未来(核のない世界)」を異論なく創り出して行けばよいか、また地域自助経済の社会とはどのような社会か具体的に描き出す予定です。