(474)核なき世界の実現(2)・ドイツが掲げる戦う民主主義

ドイツが掲げる戦う民主主義

 

 前回述べたようにドイツが公共放送を通してプーチンの核限定的攻撃に万全の備えができている事を公開したことから、ロシアの核限定的攻撃の使用はできなくなったと書いた。

なぜなら万一ロシアが使用すれば、NATOは最早相応の核反撃を必要とせず、核使用の地獄映像で中国やインドをはじめとする多くの中立国に訴えかけることで、ロシアは完全に孤立するだけでなく、自ら崩壊するからである。

そうしたねらいが、ZDF制作の『プーチンのタブー違反』には節々で感じられた。

しかしそのようなやり方は、独裁者プーチンの無謀なやり方に対しては機能するとしても、必ずしも何時でも機能するとは思えない。

なぜなら現在の世界は気候変動激化のなかで、世界の全ての氷河融解で十数メートルの海面上昇を起こす1.5度の臨界点を超えないよう一致協力すべきであるが、逆に覇権主義が拡がり自国利益を優先している。しかも核拡散は中東にも拡がり、世界の石油産出国イランだけでなく、アラブ首長国連邦さえ原発建設を通して核を保有しようとしている。そこではイスラエルに対する憎しみが深く、ジハードを掲げるイスラム原理主義には民主主義のそうしたやり方も通用しないからである。

しかし何故現在の世界は、民主主義を推し進め全ての国の協力が不可欠であるにもかかわらず、覇権主義に傾いていくのだろうか?

それを明らかにしたのは、昨年ドイツ第一公共放送ARDが放送した『気候崩壊、エネルギー危機、右翼の物語』であり、そのフィルムでは右翼研究の第一人者であるマチアス・クエント教授が世界に拡がる気候人種差別を通して、上の『私の見た動画74ドイツの掲げる戦う民主主義』で見るように、その理由を述べている。

(このフィルムは世界に公開されているにもかかわらず、私がこの動画を撮影して、半分ほどに短縮してユーチューブに載せようとしても拒否されたことから、見られるアドレスを載せ、下の注3に動画シナリオを載せておきます。また上の動画はZDFが2020年に制作した『気候変動否定での潜入取材』に変更しました)

すなわちクエント教授は、「気候問題にブレーキをかける最前線でのロビーイストたちは、すべての政党に出入りしています。とりわけ10年前からネオリベラルな強いネットワークができ、極右リベラルは議会で化石燃料の特権を守る議題を勢力的に遂行し、宣伝しています」と述べている。

そして公共放送のナレーションは、「彼らは、世界に拡がる南の貧困地域の大きな苦しみに、何ら責任を感じていない。西洋の裕福者は、他の場所での貧困者、飢餓者、益々多くなる気候難民の暮らしから利益を得ている」と語り、クエント教授等が著作した『気候人種差別』を紹介し、「この本は気候変動の不平等、とりわけ右翼がそれらを如何に否認し、エコロジー転換に怒り、白人至上主義のために(どの様に)戦っているかを書いている」と解説している(注1)。

そのような意図を持った極右リベラルが、感染症の蔓延化、気候変動の激化、核戦争の危機など禍が次々と襲うなかで、「右翼の物語は、人々の日常生活に意味を与え、どのように生きようとも、何故存在しているか、存在に役割を正当化する類似点があります」とクエント教授が述べるように、市民が求めるわかり易い物語で市民を巻き込もうとしているのである。

それはハンナ・アーレントが『全体主義の起源』で書いているように、「(全体主義は)一貫性を備えた嘘の世界をつくり出す。この嘘の世界は現実のそのものよりも、人間的信条の要求にはるかに適っている。ここにおいて初めて根無し草の大衆は人間的想像力の助けで自己を確立する。そして、現実の生活が人間とその期待にもたらす、あの絶え間ない動揺を免れるようになる」からである。

すなわち大衆が求めるものは、不安を解消するわかり易い提示であり、科学的論拠よりも人間的信条に訴える一貫性を備えた嘘に他ならない。

なぜ嘘によって市民を巻き込もうとするかは、極右の背後に現在の化石燃料支配があり、現在の構築された中央集中型技術によるグローバル産業社会が太陽と風力による再生可能エネルギーへのエネルギー転換を望まないからである。

すなわち気候変動激化阻止を求める民主主義が化石燃料支配を危機に陥れているからであり、トランプから極右に至る全てが求めるものは、危機ゆえに自国利益最優先の覇権主義になるのである。

そのような覇権主義は、トランプの気候保護会議脱退に見られるように、実質的に既に再生可能エネルギーへの転換は100%は可能であるにもかかわらず(注2)、むしろそれを阻止しようとしている。

なぜなら再生可能エネルギーへのエネルギー転換は地域分散型技術に依っており、経済的に地域自立を後押し、より民主的社会を築くからであり、現在の化石燃料の特権的支配を崩壊させることになるからである。

それゆえにドイツの公共放送及び主要メディアは、AfDをドイツの民主主義を脅かす極右政党として報道し、AfDに流れ込む莫大な資金についても絶えず追求している。

例えばZDFが2020年に制作した『気候変動否定での潜入取材』(2月4日のZDFフロンターレ21で放送)では、市民調査機関と共同で人為的気候変動を否定するロビー活動本部に潜入取材までして、その実態と資金の流れを明らかにしている(「ドイツから学ぼう385」参照)。

お金の流れは、下の図を見れば一目瞭然であり、まずアメリカの石油産業などからのお金が、様々なシンクタンク、あるいは匿名寄付を可能するドナーストラストを通してハートランド研究所Heartlandに集められ、ドイツの研究所EIKE(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候とエネルギーのためのヨーロッパ研究所)にお金やイデオロギーが送られ、そこから極右政党AfD(ドイツのための選択肢)に流れている。

f:id:msehi:20200309153237p:plain具体的なお金の提供者は、石油と石炭のロビーや防衛産業、さらにはアメリカのヘッジファンドマネージャーたちで、実名を挙げるならトランプ政権の選挙操作を可能にしたロバートマーサーのような複数の億万長者たちである。ロバートマーサは2017年に80万ドルをハートランドに譲渡し、2018年には800万ドル以上をドナーズトラストに寄付している。

潜入取材で明らかになった実態は、EIKE欧州統括代表者ジェームス・テーラーが述べているように、お金さえ出せば著名な学者や専門家を通して自動車産業に有利に疑問を投げかけることができるというものであった。

すなわち大衆が求めるものは、不安を解消するわかり易い提示であり、科学的論拠よりも人間的信条に訴える一貫性を備えた嘘であり、化石燃料支配に仕える著名な学者や専門家を通して絶えず疑問を投げかけることで、大衆操作が為されている実態であった。

このようにドイツの公共放送ARDやZDF、さらにはシュピーゲル誌などのドイツの主要メディアは絶えず戦う民主主義を掲げ、気候正義、社会正義を求めて戦っている。

それは、本質的に「核のない世界」を実現するものである。

なぜなら現在の世界は化石燃料支配のグローバル資本主義が行き詰まっているからこそ、自国利益最優先の覇権主義に向かっているのであり、そのような支配構造を戦う民主主義で変えて行かなくては、本質的に「核のない世界」は到来しないからである。

そのような視点から見れば、第一回で述べた相応の核反撃を現場で可能な限り公開するドイツのやり方は、現状を変えようとするものであり、ドイツの戦う民主主義(永久革命としての民主主義)と言えるだろう。

 

 (注1)私自身この本強く引付けられたことから、この本『Klimarassismus : Der Kampf der Rechten gegen die ökologische Wende 』を購入して読みつつあるのだが、序章では2021年の連邦議会選挙で緑の党及び女性党首(ベアボック)への中傷キャンペーンが、これまでのドイツではなかった規模で行われたことから始まっている。

それを背後で指導しているのが、極右政党として現在憲法擁護局によって監視されているAfD(ドイツのための選択肢)であり、中傷キャンペーンのために莫大な資金が流れ込んだと述べている。

なぜこのような大規模な中傷キャンペーンが行われたかは明白であり、気候変動激化によって早急のエコロジー転換(エネルギー転換を含め)が必要となり、それを推進する緑の党が政権を担うまでに至ったからであるとしている。

そして極右の主張は化石燃料の特権を守り、気候変動には責任がなく、社会的グローバル不平等と気候人種差別の状態を合法化であると述べている。

特筆すべきは、極右リベラル(AfD)は人為的気候変動を否定し、気候変動の原因はアジア、アフリカ、アラブ世界の人口過剰にあり、最終的には劣っていると分類された人々を大幅に減らし、文化と民族の混合を止めるという国家社会主義(ナチズム)に帰結すると述べている。

 (注2)例えばベストセラー作家のトニー・セーバーは現在のエネルギー転換の可能性を詳しく分析し、既に太陽光と風力発電が最も安いコストになって来ていることを示し、2014年に出した『Saubere Revolution 2030(英語タイトルClean Disruption of Energy and Transportation)』では、2030年までの100%エネルギー転換は可能であることを検証している。

 (注3)

『気候崩壊、エネルギー危機、右翼の物語』のシナリオ

(ARDの人気女性司会者の語りでこの番組が始まる)

0.5-8.5秒 気候が崩壊し、エネルギー価格が増大して行き、その中で右翼が好機を見出しています

11.0-13.8 『タイトル、テーマ、気質』の番組にようこそ!

13.8-31.0 そのようであれば、前に進めないと気候危機では既に聞かれますが、しかしながら、原因は益々進行して行きます。頻繁に異常気象に直面し、河川や湖の水位が下がり、森林が炎々と燃えています

31.4‐42.4 新しい灼熱の時代が始まり、気候は傾き、同時にエネルギーが支払い不能となる2つの危機が多くの社会的な爆薬を潜ませています

42.4‐52.5 既に暴徒が動き出しており、右翼はグリーンの表向き避けられないエネルギー価格を攻撃し、革命幻想を投げかけています

52.5‐59.0 その際エネルギー危機は、本質的に気候変動を阻止するための好機になるでしょうか?

1.3.4‐9.4 (小川と化したライン川を背景のナレーション)記録的暑さ、干ばつ、ライン川は小川と化している

10.9‐18.1 しかし北部では豪雨であり、他では氷河の融解で、気候崩壊が激的に身近に到来している

18.1‐23.0 気候崩壊が心配を搔き立て、同時に高騰するエネルギー危機を差しはさんでいる

23.0‐30.0 私たちは、ガス、電気、水を節約しなければならない。より少ないエネルギー消費が、本質的に気候保護を強化する

30.0-34.1 (大型石油タンカーを背景に)しかしそれとは反対に、化石燃料

ブームになっている

34.7-39.2 (シュピーゲル記者スザンヌ・ゲッテ)私たちは、化石燃料ルネッサンスを世界中で決定的に為すべきです

39.2-42.2 すなわち世界中の石油とガス開発計画が廃止されるように為すべきです

42.2-55.5 問題は、政治が気候保護措置やエネルギー節約措置に取組む時、化石燃料を費やす代わりに、いかに人々が強くなるかです

56.3-2.3.0 (ナレーション)シュピーゲル記者スザンヌ・ゲッテは、どの様に、何故エネルギー転換が麻痺しているかを日々伝えている

3.4-10.4 彼女はアニカ・ユーレスと共著の『制御不能の気候』で、気候適応が激的に欠けていると述べている

14.6-17.9 明らかに、昨年の洪水悲劇が手本になっている

17.9-23.4 凡そ200人の人が亡くなり、悲劇的で、非常に高くついた気候保護と気候適応の不全であった

30.0-35.5 私たちは、殆ど気候保護を為していません。それ故異常気象で悲劇が生じたと、今感じています

35.5-42.2 同時に十分適応していません。それは大きな損失であり、社会が支払わなければなりません

42.2-47.9 巨大企業はその損失を全く支払わず、公共の損失に担わせています

48.6-56.4 どの様に損失が公共のものとされ、利益が巨大企業に奪取され、気候保護が回避されるかについても、彼女は書いている

57.1-3.1.6 目下の政府は、30年眠っていた気候政策を取戻さなくてならない

2.3-7.1  ロビイストは、エコロジー転換にブレーキかけ遅らせ、政治に巧く働きかけている

9.9-17.6  重大な鍵を握り、いわば気候保護や気候適応を妨げる人たちは、殆ど省庁の席に就いています

17.9-22.3 (社会学者マチアス・クエント教授)気候問題にブレーキをかける最前線の人たちは、全ての政党に出入りしています

22.3-36.7 取り分け10年前からネオリベラルな強いネットワークがあり、とりわけ極右リベラル(AfD)は、議会で特権を守る議題を勢力的に遂行し、宣伝しています

38.7-47.0 (ナレーション)彼らは、世界に拡がる南の貧困地域での大きな

苦しみに、何ら責任を感じていない

48.0-55.3 西洋の裕福者は、他の場所での貧困者、飢餓者、益々多くなる気候難民の暮らしから利益を得ている

59.0-4.7.0 マチアス・クエントは、それに対して『気候人種差別』の本を、アクセル・ザールハイザー及びクリストフ・リヒターと共著で書いている

4.7-16.5  その本は、これらの不平等、とりわけ右翼が如何にそれらを否認し、エコロジー転換に怒り、白人至上主義のために戦っているかを描いている

16.5-28.9 とりわけ、分断をはかるナショナリズムの考え方は問題で

あり、彼らは本質的に気候を守るのではなく、経済的自由と国境を守らなくてならないと述べているのです

29.9-35.6 そして気候変動の問題は、例えば人口移動や他を変えることで克服しようとしています

36.6-47.3 右翼過激主義の専門家であるクエントは、右翼が現在どの様にグループのテレグラムに特権を要請し、「暑い秋」に備えようとするか観察している

48.5-57.0 エネルギー危機の数百のデモが、右翼でない人のために危険な筋の通らない物語で、計画されている

57.6-5.12.4 極右の物語は、人々の日常生活に意味を与え、またどの様に生きようともなぜ存在しているか、存在の役割を正当化する類似点が見られます

12.4-24.9 それが、まさに保守的考えと結び付く点であり、相応しい手本、極右のネットワークや物語を通して、過激化されます

22.9-28.0 右翼の組織する最初のデモでは、常識的考えに挑戦する水平思考市民団体が抗議している

29.3-37.5 自由が問題であり、現実的にはプーチン賛成で、ハーベック経済相と高いエネルギー費用に反対である

38.0-44.5 クエント教授は、コロナの際に既に見られたように、右翼の部分的権利抗議の過激化を危惧する

44.8-49.4 そして右翼の過激な物語が、社会の中心に効力を持つことを恐れる

44.8-57.0 危険なことは、右翼の物語がさらに常態化し、過激化し、社会の分断を起こすことです

57.0-6.5,1 コロナの下でも見られたように、テロリストグループやテロ暗殺者の訓練に至たるまでが為されます

5.2-10.2  (シュピーゲル記者スザンヌ・ゲッテ)それが、武力に至る過激化過程に非常に急速に進行して行きます

12.4-17.4 気候転換やエネルギー転換が社会で為されないなら、傾いて行くでしょう

17.6-19.2(ナレーション)人々は蜂起し、例えば右翼政党は上昇気流に乗る

19.9-25.2 気候危機、エネルギー危機の物陰では、右翼が「暑い秋」を夢見ている