(315)官僚奉仕を求めて第24回 自然エネルギーが創る富の蓄積のない社会(6)それでもエネルギー転換は歴史を創る後編(私の見た動画『ZDFが問うエネルギー転換での石炭回帰2ー2』)

後編フィルムはドイツ経済研究所を牽引する著名なエネルギー経済学者クリスチャン・ヒルシュハウゼン教授が、「ドイツの素晴らしいEEG法によるエネルギー転換がそのまま推進されれば、現在構想されている巨大な送電線建設は不要である」と明言するところから始まっています。
その理由はエネルギー転換の理念は、地域で必要な電力を地域で自ら製造することにあるからです。
巨大送電線建設は北の洋上風力発電で得られた電力を南へ輸送するためにも必要と唱えられて来ましたが、本当の狙いは北に未だに無尽蔵に眠る褐炭利用で現在電力製造コストの最も安い褐炭発電所を維持拡張し、最も安い電力を南へ輸送するだけでなく、フランスなどへの電力輸出増大にあります。
しかもドイツの巨大電力企業はドイツ最大のエーオン社が2014年分社化に追い込まれたように、2011年の脱原発宣言以来窮地にあり、それを救うために2015年石炭合意がなされたことが見えて来ます。
すなわち本来は廃止されるべき古い褐炭発電所が5年間の一時休止となり、そのために莫大な補償がなされ、しかも地球温暖化を防ぐため以前から求められていた石炭発電所の懲罰的課税が消えてしまいました。
そのような動きは既に2014年に改正されたEEG法でも顕著に見られ、太陽光発電の1キロワット時固定買取価格を11セントまで引き下げるだけでなく(当初は28セント)、2017年から再生可能エネルギー発電所の建設を順次入札制度に変えて行くことが決められています。
入札制度への転換はフィルムで描かれているように、これまで地域でエネルギー転換の推進役であったエネルギー協同組合を結果として経済的に成り立たなくするものです。
このようなEEG改正法を押し切ったガブリエル経済相は、最大の理由としてEEG法の固定買取価格が家庭の電気料金を著しく上昇させたことを挙げていましたが、本当の理由は専門家やメディアが指摘するように、市民が製造する再生可能エネルギー電力が市場で1キロワット時4セントを割るまでに投げ売りされ、最大28セントする固定買取価格との差額が電力を消費する市民にだけ分担金として強いられるからです(殆どの大企業は競争力が損なわれことを理由として分担金が免除されています)。
またそのように社会民主党SPDの経済相ガブリエルがエネルギー転換にブレーキをかけるのは、化石燃料産業のロビーが組合組織を通して圧力を強いるからに他なりません。
しかもガブリエル経済相はZDFレポーターの追求に対して、こともあろうに再生可能エネルギー産業のロビー活動を上げ、自らの決断を正当化しています。
しかしドイツの世論はこのフィルムが2016年5月に放映後石炭回帰の批判が高まり、11月14日から始まるパリ協定締結を求めるマラケシュ国連気候変動会議の数日前には、ドイツ政府も2030年までに現在の二酸化炭素排出量を5分1に削減する「気候変動保護計画2050」を決定せざるを得なかったと言えるでしょう(注1シュピーゲル誌参照)。
何故ならドイツのようにシステムとしても官僚奉仕が求められる社会では、気候変動の日々の実害増大が絶えずメディアを通して報道され、世論が石炭回帰を許されないからです。
またルールなきグローバル化による格差拡大と地域困窮のなかでは、地域自らのエネルギー転換が欠かせないからです。
しかもドイツの地域がエネルギー転換で時代の新たな扉を開いたことは、最早戻すことができない事実だからです。

それを示唆するかのように、2017年にドイツ市民だけでなく地方の社会民主党からも批判が絶えない党首でもあるガブリエル経済相が突然今年の連邦選挙の首相候補から失脚し、これまでEU議長などを務めたマルティン・シュルツが社会民主党首相候補となったことがガブリエル党首自身によって1月24日に公表されました。
それをドイツ国民が望んでいたかのように、2月17日の世論調査では次期首相候補支持率でシュルツがメルケルを大きく抜き去りました。



シュルツ首相到来が意味するもの

今回の社会民主党内の政変劇には、明らかにシュレーダー政権での新自由主義アジェンダ2010)を反省批判した2007年党大会で決議したハンブルク綱領への巻返しが感じらます(ハンブルグ綱領についてはブログ110参照)。
すなわちガブリエルにしても、今年ドイツ連邦大統領に就任するシュタインマイヤーにしても、シュレーダー政権を支えた人たちであり、上のフィルムで見るようにガブリエルの表現には化石燃料産業社会のロビイストの要請が感じられます。
シュルツは明確にシュレーダー政権でのアジェンダ2010政策を既に反省批判し、ハルツ法改正で失業給付金の大幅延長も唱えています。
それが現在シュルツ効果と呼ばれる社会民主党支持率30%(これまで20%前半に低迷)に急進した理由です。
このシュルツ到来は、最も支持率を失ったリンケさえ支持しています
何故ならシュルツの到来は、ドイツ市民に真摯に奉仕する赤(SPD)、赤(リンケ)、緑(緑の党)の連立政権誕生を可能にし、エネルギー転換の理念を実現し、新しい時代を創るものと成り得るからです。
もちろん現在のメルケル首相の2011年以来ドイツを脱原発に導き、社会的市場経済を復活させた貢献は大きいものがありますが、支持母体キリスト教民主同盟のなかではどのように頑張っても限界が見えて来たのも事実であり、惜しまれるメルケル退場も新しい時代の扉を開くものだと思います。

次回の「世界の官僚奉仕を求めて」最終回では、どのようにして新しい歴史、富の蓄積を必要としない社会の扉を開くか、総括して述べたいと思っています。

(注1)
シュピーゲル誌2016年11月11日
http://www.spiegel.de/wissenschaft/natur/klimaschutzplan-2050-regierung-einigt-sich-nach-streit-a-1120863.html

Regierungskonzept Kohlekompromiss ebnet Einigung auf Klimaplan
政府計画 石炭合意は気候計画の合意で打開される
Einigung nach langem Streit: Die Bundesregierung hat einen Klimaplan für Deutschland beschlossen. Ein Kompromiss bei der Kohleenergie brachte den Durchbruch.
長い戦いの後の合意。連邦政府はドイツの気候計画を決めました。石炭エネルギーでの石炭合意は打開をもたらしました。
Die Spitzen der Bundesregierung haben sich nach monatelangem Streit auf den "Klimaschutzplan 2050" verständigt. Damit kann Umweltministerin Barbara Hendricks (SPD) am Montag mit gutem Ergebnis auf die Uno-Klimakonferenz nach Marrakesch fahren.
政府首脳は気候変動保護2050年計画を数ヶ月の論争の後で知らせました。環境大臣バルバラ・ヘンドリックはその良い計画を持ってマラケッシュの国連気候変動会議に月曜出かけます。
Dort kann sie Deutschlands Beitrag zum Klimaschutz plangemäß vorstellen. Deutschland sende "ein starkes Signal" auf die Klimakonferenz, sagte ein Regierungssprecher.
そこでバルバラ大臣は会議で気候変動保護の主旨に沿ったドイツの貢献説明で、強いシグナルを送ることができると政府スポークスマンは報道していました。
Der Klimaschutzplan 2050 soll Industrie und Gesellschaft den Weg zum nahezu 殆どkompletten Verzicht auf den Ausstoß von Treibhausgasen weisen, der im Weltklimavertrag vorgesehen ist.
気候変動計画2050は産業や社会に、世界気候条約で予定する温室ガス排出量をほぼ完全に無くす道を指示しています。
Bundeswirtschaftsminister Sigmar Gabriel (SPD) hat in den finalen Verhandlungen einen Rabatt für die Industrie durchgedrückt. Bis 2030 darf die die Industrie nun 140 bis 143 Millionen Tonnen Kohlendioxid (CO2) ausstoßen. Das sind etwa 10 Millionen Tonnen mehr als zuletzt von Umweltministerin Hendricks vorgesehen. Die Industrie soll ihre Emissionen damit bis 2030 um ein Fünftel reduzieren.
連邦経済相シグマー・ガブリエル(SPD)は最終協議で産業のための割引を押通し、2030年までに産業は1億4000万トンから1億4300万トンの二酸化炭素排出とするものです。これはヘドリック環境相の約束した量より約1000万トン多いですが、産業は2030年までに排出量を現在の5分の1に削減することになります(ドイツの2014年二酸化炭素排出量は7億9300万トン、尚1990年の排出量は10億5100万トンであることから7分の1に削減することになります)。