(403)救済なき世界”をそれでも生きる(25)・コロナ感染拡大で見えて来た世界(3)分断される世界を救い、もう一つ別の世界を創出するもの

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二つの分断を救うもの

アメリカ大統領選挙では、ようやく8日に民主党バイデンが当選確実になったが、11月1日に放送されたNHKスペシャル『揺れるアメリカ 分断への行方』では、アメリカ大統領選挙を通して驚くほど真っ二つに分断され、異なる相手に対して全く寛容性がないだけでなく、激しい憎しみさえ露わにされる分断社会がミシガン州の対立に絞って描かれていた。

ミシガン州は元々工場労働者が多いことから民主党の牙城であったが、トランプがデトロイト自動車産業の復活を誓って、トランプ現象と言われる逆転劇を引き起し、トランプ政権を誕生させた州である。

トランプ現象とは、「メキシコから不法移民を、殺人犯であり強姦魔だ」に始まる過激発言にもかかわらず、大衆支持が拡がって行った現象であり、そこにはグローバル資本主義によって翻弄され、没落する人たちの叫び、「雇用を取り戻せ、国境を塞ぎ我々の富と安心を取り戻せ」という反グローバル資本主義の声が聞こえて来る。

しかし今回勝利した民主党陣営の推進力となったのも、グローバル資本主義に翻弄されている黒人、移民を含めた市民であり、どちらの陣営の市民も被害を被っている市民であり、本質的には寧ろ連帯できる市民である。

修復不可能に見えるまで真っ二つに分断され、ルサンチマンを露わに抗争し続けているのは、私から見れば江戸時代の農民と部落民のように、分断させられ、抗争させられている人たちに思える。

分断させ、抗争をさせている側は、グローバル資本主義を推進する側であり、肥大することで行き詰った経済が議会による民主主義より独裁による全体主義の方が、さらなる肥大発展のためにやり易いからだ。

もっともグローバル資本主義を推進する側と言っても、富める1%の人たちがそうさせていると言うより、利益最優先の肥大する仕組であり、グローバル資本主義自体の仕組みと言うべきであろう。

しかしアメリカ市民の二つの分断だけでなく、世界の二つの分断は限界に達しており、最早このままグローバル資本主義の仕組に任せれば、人類の未来はないと叫ばれるまでに達していることも事実である。

しかしそのような人類の危機も、グローバル資本主義の仕組を変える(無条件)ベーシックインカムが実現すれば、ウルリッヒ・ベックが言うように、人類の勝利を歓喜して祝う時代に変わり得ることも確かである。

すなわちベックは既に述べた投稿論文「完全雇用ユートピア」で、社会民主党SPDの「完全雇用は可能であり、失業は政治、経済、社会の機能不全である」という党内合意を真っ向から否定して、その合意は間違いであると断言し、「大量失業と貧困は敗北の表現ではなく、現代の労働社会の勝利の表現である」と明言している。

失業は現在の生産力が脅威的に増大し、益々人が関与する労働が少なくなっているからだとし、貧困の絶望は、歴史的にその信頼性を失ってきた完全な雇用哲学の欠陥だと鋭く批判している。

そしてベックは、そのように雇用が見つからないなかで、どうすれば有意義な生活が送れるか、どのようにすれば自己認識のある市民になれるかと問い、市民の権利として毎月700ユーロのベーシックインカムを提唱している。

何故市民の権利かと言えば、生産力の脅威的増大(戦後の100倍以上に上る)が人の関与する労働を減らしていることは市民の富であり、そのような社会を創り出してきた市民がその富を受け取るのは当然であるからだ。

さらにベックは、ベーシックインカムを人類が完全雇用から解き放たれ、自由を獲得するものと位置づけ、(デジタル化の進展で)将来到来する絶望的貧困を防ぐ唯一の方法だと述べている。

 

もう一つ別な世界の創出

そのようにベーシックインカムを市民の権利として受取る考えは、今回上に載せた動画、緑の党『今、ベーシックインカムを!』で、緑の党支持者の女性がベーシックインカムを社会的分け前と述べ、また別の女性が市民の請求権と明言しているように、ベーシックインカムを求める過半数を超えるドイツ市民に受け継がれている。

そして私自身が今ベーシックインカムを切望するのは、単に人々を雇用の呪縛から解き放つだけでなく、この動画の中頃に登場する緑の党の男性も述べているように、これまでのもう一つ別な世界がそれによって創出可能だと思うからである。

それは分断のない自由、公正、平等、平和な世界であり、文化や人種が様々に異なる地域の人々が相互に違いを尊重し、グローバルに連帯できるもう一つ別な世界である。

そのようなもう一つ別の世界は、『ドイツから学ぶ希望ある未来』で書いたように、化石燃料から自然エネルギーの転換で、分散型技術による地域のエネルギー自給で築かれると思っていた。

しかしこれまでヨーロッパの電力を化石燃料原発で支配してきたドイツの4大巨大電力企業が、ドイツの再生可能エネルギーを牽引してきた地域の800を超える市民エネルギー協同組合の躍進によって倒産の危機に直面すると、ドイツ連邦政府は様々な手法で巨大電力企業の延命を図った。

すなわち2014年にはドイツの再生可能エネルギー法(EEG)を改悪し、固定買取価格を大幅に下げるだけでなく、これまで地域の市民が自らエネルギー協同組合を作って風力発電太陽光発電、バイオ発電を建設してきたにもかかわらず、全ての再生可能エネルギー発電建設を公募入札として、再生可能エネルギーを育成してきた地域市民から取上げようとしている。

本来であれば、再生可能エネルギーは分散型技術であることから、地域市民がエネルギー協同組合で電力自給することが圧倒的に安価であることから、政府の延命策なしには4大巨大電力企業の倒産は明らかだった。

しかし何万人、何十万人の巨大企業の倒産は関連企業にも波及し、大量の失業者を生み出し、計り知れない社会問題を引き起こすことから、世界金融危機で銀行だけを公費で救済したことを反省し二度と繰り返さないことを明言したにもかかわらず、様々な手法で救済しているのだ(特にEEG改悪の際、メルケル政権に参加している社会民主党ガブリエル経済大臣へのロビー活動は凄まじいものだったと言われている)。

それはドイツの自然エネルギーへの転換に急ブレーキをかけ、エネルギー転換を市民の側から巨大企業の側へ引き戻すものであった。

このように倫理的公正な民主主義が市民の間に行き渡り、最早国民的にグローバル資本主義を拒否するドイツにおいても、グローバルに発展した巨大企業には全く歯が立たないのが現状である。

それは、これらのグローバルな巨大企業が絶えず国民国家から莫大な補助金を受けているにもかかわらず、国民国家の税徴収能力を遥かに超えるタックスヘイブンで税を逃れている実態を見れば、国民国家の民主主義では全く歯が立たないのがより鮮明に理解できるだろう。

しかもそのように国民の税がグローバル資本主義を支えるために使われているにもかかわらず、莫大な利益が公正に入らないことから、国民国家の福祉財源が縮減され、国民が分断されるのだ。

もし(無条件)ベーシックインカムが市民の権利として成立するならば、既に限界に達しているグローバル資本主義補助金や、ケインズ的公共事業政策で救済する必要もなくなり、貧困に対する福祉政策も官僚の裁量を必要としなくなり、市民は自ら自由に仕事を選択決定できるのだ。

それは、新しいもう一つ別の世界の始まりに繋がるものと言えよう。

2017年の連邦選挙では、国民支持率10%ほどのリンケ(左翼政党)だけがベーシックインカムを公約に掲げるだけで機は熟していなかったが、最近の地球温暖化阻止の運動で支持率が20%と倍増した緑の党も、動画で見るように支持者の誰もがベーシックインカムを求めており、2021年の連邦選挙ではベーシックインカムが焦点になることは間違いない。

支持率15%の社会民主党や支持率35%のキリスト教民主同盟ベーシックインカムを現在のところ拒んでいるが、コロナパンデミックの動向次第で、国民のベーシックインカムを求める声が高まれば、実現の可能性は極めて高い。

そしてドイツでベーシックインカムが成立すれば、前回資料を載せたスーエデン、スイス、オーストリアに波及して行き、途上国にも国連主導で拡がり、世界の市民が一つになることも可能だと確信している。

 

尚次回は、ベーシックインカムの財源に絞り、何故それがもう一つ別の世界を創り出すのかを述べ、同時に動画で綱領をマルクス主義から倫理的民主主義に転換したリンケの主張を取上げたい。