(459)危機の時代を賢く生きる・2022年末のドイツ世論調査

危機の時代を賢く生きる(1)

 

   

 今世界には、ウクライナ戦争、気候変動激化、終わりなき感染症、世界同時インフレなどの波が押し寄せてきている。

そうした危機の時代に、世界の政治に解決を求めることが最早期待薄になりつつあるなかで、嘗ての貧しいドイツの過疎地域から、危機の時代ゆえ他者に依存しない、地域でアウターク(Autark自給自足)に生きがいを持って豊かに、賢く生きることを説く人々が増えてきている。

それは今年に入り、最早エネルギーをロシアに依存できない状況が創り出しており、ZDFの様々な番組から垣間見ることができる。

それは今回載せたPlanbが放映した『未来により賢く生きる(エネルギー転換のためのオルタナティブ)』であり、Terraエクスプレスの『村の力』(近く転載予定)など、頻繫に見られるようになって来ている。

それは来年2023年から始まる、再び市民のエネルギー転換を取戻したともいうべき再生可能エネルギー法(EEG)改正を先取していると言えるだろう。

何故政府がそうしなくてならないかは、2014年の巨大電力企業救済優先で、いわばエネルギー転換を市民から取上げたEEG改正法では、再生可能エネルギーへのエネルギー転換にブレーキがかかり、予定通りに進展しなかったからである。

それは再生可能エネルギーが分散技術であることから、地域で必要量を製造するのが圧倒的に有利であり、巨大電力企業が推し進める洋上風力発電では1キロワットの電力を製造するのに十数セントかかるのに対して、地域での陸上風力発電が3セントまで下がっている事実からも明らかである。

それゆえ政府は、2030年までにドイツのエネルギーの80%を再生可能エネルギーにするためには、地域の市民エネルギー協同組合へのブレーキをアクセルに変えなくてはならないのである。

そうした流れのなかで、ZDFは地域での100%エネルギー自給自足に取組む人たち焦点をあて、今回の『未来により賢く生きる(1)』では、自らの理念に生きがいを持ち、地域で賢い暮らしを広めようとしている農民マーチン・ラス等の取組を描いている。

 そしてマーチン・ラスが「気候保護と未来の確保の努力は、誰にとってもそれだけの価値があります」と述べるとき、気候変動がもたらす様々な脅威に対処していくことは価値ある生き方であり、禍を生きがいという福に転じる生き方であると、私には聞こえる。

 

 

2022年末ドイツの世論調査

 

 2022年も終わりが見えてくるなかで、現在の難局を世界の一歩先を歩むドイツの市民がどのように考えているかは、興味深いことである。

しかしそのような期待に反して、世論調査(11月11日)での市民の反応は政治に対して、断固としてシニカルであった。

まずベーシックインカム導入の第一歩と言われる「市民のお金」に対して、賛成は35%しかなく、反対が58%もあったことは意外に感じた。

もっともドイツも戦前から勤勉性が尊ばれ、これまで長く政権を執ってきたキリスト教民主同盟の政治家が口を揃えて、「働いていない人が、底辺で汗水流して働いている人より収入が多くなるのは不当であり、不正義である」と叫び続けているなかでは、多くがそれに引きずられて同調するのは当然であり、むしろ3分の1以上が賛成であることに目を向けるべきである。

今でこそ労働者の権利を根こそぎに奪ったハルツ労働法を支持する者は殆どいないが、誕生した当初はシュレーダー首相の「雇用を創出することは正義である。雇用を創出するためには、賃金の抑制と社会保障費の企業負担軽減は不可欠であり、国民の連帯によって実現しなくてはならない」という演説を、メディアだけでなく多くの市民が熱狂的に支持していたことから、今回も本質的なものは伝わらないからだろう。

すなわち産業側から来る「ベーシックインカムでは、働こうとするインセンティブが失われる」という一見的を得た指摘に、引きずられるのも群衆心理であるからだ。

しかし前回も述べたように、多くの国で試験的導入されている結果からは怠惰にするものではなく、むしろ積極的に生きがいを持って働こうとするポジティブな結果が得られていることも事実である。

また大局的観点からすれば、デジタル化とIT(知能)化が急速に進むことから、失業の不安を解消するものであり、オートメーション化とロボット化の時代は人間を機械に追従させるものとなったが、デジタル化とIT化の時代は人間を復権させるためにもベーシックインカム導入が不可欠である。

確かに現在は連邦参議院で難航しているが、既に「市民のお金」は連邦議会の多数決で議決されていることから、多少始まりが遅くなるとしても実現は確実である。

開始されれば、「市民のお金」は市民のためであることが徐々に理解され、後世においては産業利益追求から市民利益追求の転換点であったと高く評価され得るものである。

全般的に2022年末のドイツの市民は政治に対してシニカルであり、殆どの市民が最早世界気候会議COP27に期待していなかったことは象徴的である。

また政治に期待しても、ロシア依存が断たれた現状では、人権批判からサッカー好きのドイツ人の半数以上が参加に反対であっても、中東や中国との経済的友好関係は断てないのである。

もっともドイツの市民が政治にシニカルなのは、信号機政府が実施した最低労働時間賃金12ユーロ(1時間あたり約1700円)で豊かとなり、内外で10%のインフレと騒ぎ立てているが、市民利益を優先して手厚く交通支援や暖房費支援もなされているからだろう。

それゆえ、市民利益優先を掲げる緑の党の支持が上昇しているのである。

またドイツの市民が最早COP27に期待しないのは、あくまでも現在の政治に対してであり、上に載せた『未来により賢く生きる』が描くように、地域で身の回りからあくまでも現実的に市民のエネルギー転換を起して行けば、2030年までにエネルギーの80%以上の再生可能エネルギー達成は可能であり、地域でのアウターク(自給自足)をドイツ全域に拡げ、さらに世界に拡げて行けば、気候変動の克服は可能と考えているからだろう。