(458)「市民のお金」はベーシックインカムへの第一歩・ベアボック外相への重要な3つの質問

「市民のお金」が意味するもの

 

 信号機政府が9月末に閣議決定したハルツ第4法に替わる「市民のお金(ブリュガーゲルト)」は、明日11月10日に連邦議会で採決され、賛成多数で可決される見込みである。

 ハルツ第4法は、SPDシュレーダー政権で作られた競争原理最優先の労働法であり、世界で単位時間あたり最も高いドイツの賃金を激的に低下させただけでなく、熟練労働者の失職者を生活保護者へと貶めた労働法である。

もっとも日本では、賃金コストを激的に低下させることで、ドイツを強国に蘇らせたとポジティブに評価されているが、ドイツ市民にとってはこれまで市民が勝ち取って来た権利を根こそぎにした悪魔のハルツ法である。

それまでは失業保険も32か月であり、それを過ぎても資格を活かした専門職が見つからない場合は、前職場での総収入の57%が期間無制限に雇用局から支給されていた。

それが2003年雇用局がジョブセンターに変わり、失業保険も12か月に激的に短縮されるだけでなく、ジョブセンターで紹介された職業は専門職でなくとも断ることが難しくなり、失業保険期間が過ぎても専門職にこだわる場合、生活保護者への転落を余儀なくされていた。

しかも生活保護給付金を受取るためには、厳しい資産鑑定がなされ、資産が見つかれば減額され辱めを受けることから、恐怖のハルツ第4法と呼ばれていた。

その恐怖のハルツ第4法を生み出したのが、市民の信頼していた社民党であり、その時から40%近い社民党支持率は、シュレーダー政権が幕を閉じる頃には20%台に落ち込み、その後も年々支持率を低下させ、昨年の春頃には15%の支持しかなく、誰も社民党政権の復権を予想するものはなかった。

 そうしたなかで社民党復権を実現させた理由の一つが、ハルツ法を「市民のお金」に置き換える公約であった。

2023年1月1日から施行される「市民のお金」では、生活保護給付金が増額されただけでなく、最初の2年間は世帯主に対し6万ユーロ資産を認め、世帯内に一人追加ごとに3万ユーロが追加され、4人家族では15万ユーロまでの資産を認めている。

しかも世帯主には月502ユーロ、パートナーには451ユーロ、子供には318ユーロから420ユーロが支払われるため、14歳から17歳の2人の子供を抱える4人家族では、住宅費とは別に月額1793ユーロ(25万円ほど)が支給され、生活保護者も名実ともに人間としての尊厳ある暮らしが保証されることになる。

 現在野党に転落したCDUキリスト教民主同盟は、このような「働かない人たちが、ともすれば底辺で働く人たちよりも収入が多くなり得る」法案は、社会正義に反するとし、連邦参議院では阻止する構えである(もっともそのような阻止は国民に支持されないことから、多少施行は遅くなるとしても確定的である)。

またジョブセンターも、申請がデジタル化で簡素され、資産審査や罰則が軽減されるため、権益を失うだけでなく、業務も縮小を余儀なくされるため、フイルムで見るようにまったく乗り気でない。

また「市民のお金」は、緑の党が目標に掲げるベーシックインカム導入への第一歩であることから、緑の党も積極的に推進側に立っている。

実際他の先進国で実験的に実施されたベーシックインカムでは、殆どの人が勤労意欲を失わず、基本的暮らしが保証されることで生きがいの持てる仕事を選択しようとする、ポジティブな結果が出ており、これからのデジタル化、人工知能AI化の時代には、ベーシックインカムを不可欠としている。

 

ベアボック外相への3つの重要な質問

 

 上の映像は、先週のG7外相会議の後ZDFのベアボック外相へのインタビューであり、3つの質問がなされている。

第一の質問はウクライナの厳しい冬に対する援助であり、冷徹なプーチンは人々を凍死、もしくは飢餓で殺す戦略を立てていることから、巨大な発電機を送るというものである。

既に1400万人が避難民として辛い暮らしを強いられており、ウクライナに残って戦っている人々には凍てつく冬が迫っているにもかかわらず、和平の動きは止まり、戦争の膠着状態が新しい年も続くこと自体恐ろしいことである。

また第2は、イラン抗議デモを支援するためにG7国々が自国民にイランから帰省を要請するものである。

それは、G7側世界が今できる行動表示であるが、手詰まりになって来ている世界を実感せずにはいられない。

第3は、ドイツはロシア政策での過ちを再び中国で繰り返すかであり、それには伏線があった。

すなわち中国はハンブルク港への資本参加を要請し、それを容認するシュルツ首相のSPDと反対する緑の党との違いが明らかになり、シュルツ首相の訪中直前に中国のハンブルク港権益参加を決めたからである。

そして今回のシュルツ首相の訪中には、ZDFのインタビューアが、「首相が以前のように大規模なビジネスの代表団を連れて来て、以前のようにように密室で人権について簡単に話すだけで十分でしょうか?」と質問するように、ロシアという利益追求ターゲットを失ったドイツ産業界が中国にそれを求めていることは明らかである。

それは、過ちを繰り返すとしても利益追求を最優先しなければならないドイツ産業界の現状に他ならない。

すなわち2014年の無法なクリミア併合後、ドイツ産業界はさらにガスパイプライン開発を推し進めれば、今回のような問題が生じることは以前載せたZDFフイルムで見るように認識しており、それでも目先の利益追求を最優先したことに問題がある。

それは、本質的には絶えず成長を追求する現在のグローバル資本主義経済の問題に他ならない。

そしてSPD社民党は労働政党であり、そのなかでは究極的に産業利益を優先せざるを得ず、それがハルツ第4法であり、ロシアのガス開発であり、今回の中国への懲りない開発であり、結局は同じ過ちを繰り返さざるを得ない。

その点緑の党は、理想と現実的対処とは区別して政権を動かすまでになって来ており、そこでは絶えず市民利益が優先されている。

それこそが、現在の混迷する危機の世界を切り拓く希望が持てる理由と言えよう。