(423)ドイツ最新ニュースから学ぶ(16)

欧州量的金融緩和での独憲法裁判所との対立 

ZDFheute6月㏨

 

6月19日欧州委員会は、欧州中央銀行(ECB)の資産買い入れプログラム(量的金融緩和)で昨年5月にドイツ連邦憲法裁判所が異議を唱えたことに対し、法的措置を開始すると発表した。

量的金融緩和は、日本が2013年世界で最初に始め、それ以降継続しているのは国民の知るところである。

その仕組は、日本政府が不況を乗切るため毎年数十兆円規模の国債を発行し、民間銀行がその国債を買い、日銀がその国債を市場金利より高く買取り、市場にお金を溢れさせ、景気を刺激することにある。

欧州においては、欧州中央銀行(ECB)が2015年から加盟国の国債や債券を買取り、金融市場にお金を溢れさせて来た。

しかし2020年5月ドイツの憲法裁判所が、このようなECBの量的金融緩和に違憲判決とも言うべき異議を唱えた。

その理由は、ECB による無制限の低信用国の国債などの買入は,突き詰めれば,財政余裕国 ドイツの財源をドイツ連邦議会の同意なしに、国債買入対象国に移転する措置に当たると見なしたからである。

それは各国の国内法をEU法が優先して支配することでもあり、補完原理に基づき各国国内法を尊重するEUの理念に反するだけでなく、財政健全化に絶えず努めるドイツでは、お金がEU市場に溢れることで、制御不能のインフレへと加速する危惧があるからだ。

ドイツは過去において、第一次世界大戦後賠償費用を工面するため、意図的に資金供給量を増大し続け、食料品などが不足して一旦インフレが加速すると、金融政策では制御ができなくなり、1兆倍という恐ろしいハイパーインフレを経験したからである。

確かに量的金融緩和の仕組は巧妙に作られており、一見安全であるように見えるが、通貨が市場に溢れることでは同じであり、例えば食料危機などの予期せぬ事態が生ずると、インフレ加速が制御不能に陥る可能性は否めない。

もっとも量的金融緩和よる巨額の景気刺激政策なくしては、EUの弱国と称される国々は経済危機に見舞われ、EU自体も危機に陥りかねないのも事実である。

それ故EU委員会は、1年前のドイツ憲法裁判所異議判断に法的措置を開始した。

しかしドイツ憲法裁判所の判断は、ドイツ市民の世論を反映するものであり、量的金融緩和自体が本質的に健全でないことから、波紋を拡げていくように思われる。

それは突き詰めれば、絶えず成長を求める市場経済自体が問われているのであり、コロナ禍でも国民の命よりも経済が優先され、早期に非常事態宣言解除がなされ、コロナ感染症を爆発的に世界に拡げている原因でもある。

 

緑の党首相が誕生するとき

ZDFheute6月13日

 

党大会では、98.5%という高い得票でアンナレーナ・ベアボックが首相候補として再確認された。

彼女は少々興奮気味で、演説でもミスが目立ったが、緑の党共同党首のローベルト・ハーベックは州副首相兼環境大臣の経験もあることから、沈着冷静に補佐したと称賛して伝えている。

党のマニフェスト(党綱領)でも、従来のラジカルな目標は控え、気候変動阻止のパリ協定を実現していくことで、市民の幸せを追求して行くことを確認した。

具体的には2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で70%削減し、現在1トンあたり25ユーロの炭素税を2023年から60ユーロに引き上げ、2030年には150ユーロにして、70%削減の実現を公約している。

その炭素税も市民に還元し、再生可能エネルギー法(EEG)の固定買取での課税を下げ、電気料金を下げることを公約している。

ドイツの再生可能エネルギー法は、4大電力企業の経営危機から、2014年に市民側からすれば改悪された。

すなわちそれまでドイツの再生可能エネルギー製造を担い、800以上に破竹の勢いで増え続けていた市民エネルギー協同組合が、建設補助金の減少や、全ての再生可能エネルギー発電所建設で入札制度導入で運営自体を難しくされ、巨大電力企業に引き継がれるように改変された。

そして巨大電力企業は、欧州グリンニューディールの追い風で、巨大メガソーラー発電や洋上風力発電に取組んでいる。

しかし遠隔地で集中的に莫大な電力を製造するやり方は、化石燃料エネルギーから自然エネルギーへのエネルギー転換であっても従来と変わらず、巨大な電力網建設必要として、気候変動阻止目標に貢献せず、市民利益もない。

本来自然エネルギーの転換は、地球上何処においても照らす太陽エネルギーを利用するものである。

しかも太陽光発電風力発電バイオマス発電は分散型技術であり、地域での小規模利用でこそ生かされるものであり、市民エネルギー協同組合が造る方が経済的にも圧倒的に有利である。

そのような市民が創る自然エネルギーへの転換なくしては、リオの「地球サミット」、そして京都議定書温室効果ガス排出量削減を公約しても増やし続けてきたように(2020年には90年比で60%も増やし続けている)、益々気候変動の激化は避けられない。

そのような中で、市民が創る自然エネルギーへのエネルギー転換を実現できるのは緑の党である。

何故なら緑の党の支援組織は市民であり、自他ともに認める市民政党であるからだ。

この報道でも演説しているバーデン・ヴュルテンベルク州緑の党首相クレチュマンは、かつて原発保守王国であった州で3期に渡って首相を努め、益々支持を高めている。

その理由は、クレチュマンが市民利益を最優先して、市民奉仕に徹しているからである。

確かにメルケル首相も国民奉仕に努めたが、現在の緑の党首相誕生の勢いは、国民が市民奉仕を求めているからである。

そのような市民政党の首相が誕生するとき、世界は変わり始めるだろう。