(440)ウクライナ戦争が招くインフレ、飢餓、金融崩壊[世界戦争の始まり(7)]

終わりなき戦争が招くインフレ、飢餓、金融崩壊

 

 ウクライナ戦争が終わってくれることを日々切に願っているが、前回も述べたように国連が拒否権によって機能不全なかではそれも難しいだろう。

何故なら、ウクライナ軍が欧米支援によって善戦すればするほど、ロシア軍の残忍な無差別攻撃、空爆やミサイル攻撃が激化するからであり、既に2カ月の戦況がそれを明かしている。

 そして果てしない戦争は、世界のインフレ、西アフリカの飢餓、そして金融崩壊の始まりを既に招いている。それはウクライナ及びロシアが世界の穀物生産を担ってきたからであり、天然ガスや石油の高騰に加えて、上に載せた4月14日のZDFジャーナルが描くように、ドイツでも食料品の高騰は凄まじく、インフレが7%を超えて脅かし始めている。

しかし現在のように戦争が終わりなく続いていけば、食料危機を招くだけでなく、特に穀物などの食品がスーパーマーケットから消える日さえ想定しなくてはならないだろう。

 市場はそのような危機を先読みして、実質金利が上がり続けており、ZDFでは金融政策(量的緩和)の転換を指摘している。

 量的金融緩和は日本が不況を乗切る政策(アベノミクス)として世界で最初に2013年に導入し、毎年数十兆円規模の景気刺激政策で国債を発行し、民間銀行にその国債を買い取らせ、日銀が市場金利より高く買取るという仕組みで市場にお金を溢れさせ、景気を活性化するものであった。

 しかし銀行に溢れるお金は、リスクあるものには貸されず投機に向かい、景気を活性化せず、本当に必要とする市民の手に入らなかった。

 そのような量的金融緩和は、サブプライム以降お金に飢えていた欧米でもすぐさま始まり、アメリカであればFRBアメリ中央銀行)、EUであればECB(欧州中央銀行)が債券を買取り、世界の金融市場にお金を溢れさせてきた。

 しかしドイツでは、2020年5月ドイツ憲法裁判所がこのようなECBの量的金融緩和に、違憲判決とも言うべき異議を唱えた(1)。

ドイツ憲法裁判所が異議を唱えた理由は、第一次世界大戦後賠償費用を工面するため、意図的に資金供給量を増大し続けていたが、突然金融制御ができなくなり、ハイパーインフレを招いた苦い経験からであった。

すなわち量的金融緩和の仕組みは、一見安全であるように見えても通貨増刷では同じであり、一旦インフレが加速すると制御不能に陥るからであった。

 それゆえEUはコロナ復興債後は審査も厳しく、金融緩和を少なくすることを表明していたが、EU諸国にとって利子のない国債発行は魅力的であり、3月初めの総会では継続を望んでいた。

しかしウクライナ戦争の影響で物価が恐ろしく高騰していくなかで、ドイツ銀行のヨアヒム・ナーゲル新総裁が金利引き揚げ前の躊躇を警鐘したことを受けて、ZDFが量的金融緩和の転換と指摘して報道したのであった。

 確かにインフレと戦うためには金利引き揚げは優先事項であるが、終わりのない戦争が続くなかで決してバラ色ではなく、ZDFジャーナルが指摘するように市民のインフレとの長い戦いが続くのである。しかも債務を多額に抱えるギリシャポルトガル、イタリアでは金利上昇が重くのしかかろうとしている。

 

(注1)ドイツ憲法裁判所が異議判決

https://www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Entscheidungen/DE/2020/05/rs20200505_2bvr085915.html

 

 

ゼロ金利継続しかない日本の絶望的未来

 

 量的金融緩和創設者の浜田宏一(東大及びイェール大学名誉教授、安倍政権の内閣官房参与)は、当時の「お金をじゃぶじゃぶ印刷してデフレをインフレに転化する」ことに対して、「アベノミクスは実現可能なネズミ講システムであり、普通のネズミ講は破綻するが、政府の行うものは必ず次の納税者が現れ、健全化する」と語っていた。

しかしその後の経過は、アベノミクスによって一握りの企業及び人々が益々裕福になるだけでなく、一般市民の豊かさは益々奪われるだけでなく、日本の負債額は僅か30年で天文学的に増え続け1400兆円を超え、国債の負債だけでも1000兆円を超えるまでに増え続けている。

 私自身はアベノミクスの「賃金をあげます。景気をよくします。平和をまもります」を、国民を破綻へと連れていくハーメルンの笛吹とブログでも警鐘し続けてきたが、今まさに破綻への途が始まろうとしいる。

 確かに国家が絶えず成長するならば、新自由主義信奉者の浜田宏一が唱えた「実現可能なネズミ講システム」も正論であろう。しかし現代の世界が絶えず成長することが難しくなるなかで、量的金融緩和にしても、先のサブプライム金融工学お墨付きで6000兆円売上たデリバティブ金融派生商品)も、「絶えず成長」を掲げるグローバル資本主義錬金術であることは明らかであろう。

 そして日本の場合金利を上げれば負債利子が増大することから、欧米のようにインフレと戦うために利上げができず、益々日本円の価値が失われて行くだろう。

しかも終わりなきウクライナ戦争のなかで、食物依存国日本のインフレは5月以降突出して激増していくことが予想されており、気候変動が招く洪水や干ばつの激化による食料危機が重なれば、ドイツ憲法裁判所が懸念したようにハイパーインフレに突き進み、金融崩壊で絶望的未来を甘受しなくてはならないだろう。

 しかし来るべき金融崩壊、食料危機、感染症危機という禍を、禍を力としてよりよい日本、よりよい世界を創ろうとするならば、塞翁が馬に見るように「禍を転じて福と為す」ことも可能である。

そのように確信して、現在の世界の危機、日本の危機を乗り越える文明救済論『2044年大転換・・・ドイツの絶えず進化する民主主義に学ぶ救済論』を検証を踏まえて書き上げたので、是非読んで欲しい。

(尚今回は本を書き上げた際の思い、「あとがき」を下に載せておきます)

 

ドイツ大統領訪問が拒否される理由

 

 

 訪問拒否の鍵はゼレンスキー大統領の連邦議会演説にあり(注1)、「経済、経済、経済優先が新たな壁を造ろうとしている」という思いに集約される。

それは社会民主党SPDが伝統的に東方外交を重視し、シュレーダー政権ではドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプライ(ノルドストリーム計画)開発に着手し、シュレーダー自身が政界引退後開発の本体巨大企業ガスプロム(半国営)の相談役に就任したことからも関係の深さが伺える。

そしてシュタインマイヤーの政界入りはシュレッダーの個人秘書から始まり、シュレッダーがニーダーザクセン州首相であった際は州首相府長官であり、シュレーダー政権では首相府政務次官として、「アジェンダ2010」、ハルツ法改革という新自由主義政策を推し進め、2005年から2009年まではメルケル政権の外相として、ノルドストリーム2を推進してきた経緯がある。

 もっともドイツでは、2008年の金融危機以降新自由主義への批判が高まり新自由主義に対しては、「新自由主義の唱える自由とは、リベラルな自由ではなく、公共の規制さえ壊す自由であり、自由化が完了すれば巨大支配によって自らの規制を作り出す自由である」という見方が、産業分野を除き主流になってきている。

 そのような新自由主義の過ちを、社会民主党は2007年党大会のハンブルク綱領(注2)でいち早く反省批判したにもかかわらず、ハンブルグ綱領を指揮したクルト・ベック党首を翌年には引きずり降ろし(注3)、党首を受け継いだのがシュタインマイヤーであり、シュレッダーの新自由主義及びシュレーダーのロシア企業癒着という遺産を引き継いだと言っても過言ではないだろう。

 ドイツの市民はそのような背景を熟知していることから、社会民主党の支持率は以降年々減少し、2021年5月の世論調査では支持率15%まで低下していた。

 しかしキリスト教民主同盟の内紛や緑の党首相誕生への懸念が高まったことから、漁夫の利を得て社会民主党連立政権が誕生したと言えるだろう。現在の社会民主党オラーフ・ショルツ首相は、ハンブルグ市長を経歴した後2018年からメルケル政権で財務大臣を務め、公正を求めて反新自由主義の金融取引税導入に取組んできたこと、及びシュレッダーの息がかかっていない地道さが評価され2021年末首相になったと言えるだろう。

 もっともシュタインマイヤーもドイツ大統領就任後は、ドイツ産業のロビー活動に縛られた社会民主党の枠組から解き放たれた性か、理想的な大統領として国民に奉仕し、平和外交に献身していることも事実である。

それゆえ今回の連邦大統領訪問拒否は、ノルドストリーム2さえ廃止ではなく、一時的停止であり、未だにシュレーダーガスプロム取締役から引きずり降ろせない、経済優先のドイツへの苛立ちの現れであったように思われる。

 そのような苛立ちは、この2か月間の戦争で多くの市民がジェノサイドされるだけでなく、多くの美しい都市が瓦礫と化すなかで、不撓不屈の精神で戦っているゼレンスキー大統領を思いやれば、ドイツ連邦大統領訪問拒否は当然であり、ドイツ及び欧米は見込みのないロシア敗北を望むよりも、あらゆる手段で停戦平和をもたらすことを最優先すべきであろう。

 

(注1)ドイツ連邦議会でのゼレンスキー大統領全演説(字幕付き)

https://www.youtube.com/watch?v=QQg5o4vw8AU&t=303s

 

(注2)社会民主党ハンブルグ綱領

https://msehi.hatenadiary.org/entry/20121006/1349531794

 

(注3)クルト・ベック党首引き摺り下ろしの背景

https://msehi.hatenadiary.org/entry/20121013/1350135599

 

『2044年大転換』出版のお知らせ

 

f:id:msehi:20220206110850j:plain

 

「あとがき」

  現在私自身、鈴鹿山麓のふもとで自給自足を目指して農的に暮らしている。事実既に主食の玄米だけでなく、日々の殆どの野菜も自給できるようになって来ている。また家の修理で大工仕事をしたり、ストーブの薪調達で知人の山に入ったり、倒木や間伐でチェーンソを使い、老いにも負けず、自ら調達できるようになって来ている。 

 そのように暮らしに必要なもの(サブシステム)を自ら創り出すことは楽しいことであり、生きがいと喜びを感じている。

 もっともそうした暮らしは、特に還暦を過ぎて一層強まり、稼ぐことを止め、僅かな年金と少々の蓄えで自由に生きたいと思ったからでもある。

 農的暮らしは体を壊して退職した時から始まっているが、土を耕し、汗をかくことは気持よいだけでなく、楽しいことである。

 それは土を耕す単純作業が楽しいのではなく、土を耕すことが私にとってゆったり思索できることであり、自らを内観できるひと時でもあるからだ。

 それゆえ何事も長続きしない私が、半世紀近くも農的暮らしが続いて来たと言えるだろう。

 そして今世界に目を転ずれば、地球は確実に壊れ始めており、現在の抑制と成長を求める対処ではカタストロフィを最早避けられないだろう。

 それは、利益追求の欲望が益々膨らみ破裂する未来であり、気候変動の最悪のシナリオを歩み、人々が食料に餓え、感染症の蔓延で社会全体が機能しなくなる恐ろしい未来でもある。

 しかし地球が壊れていくことを止めることは最早できないとしても、壊れていくなかで、その原因を生み出しているお金を追求する世界のしくみを、人々の幸せを追求するしくみに変えていくことができれば、カタストロフィを免れ、地球は再生へと向かい、未来は再び輝き始めるだろう。

 現在の降りかかる禍を、「地球が壊れて行く禍こそ、よりよい世界を創り出す力である」と信じるならば、未來への希望にもなり得るだろう。

 それは、「私が体を壊し、(両親には絶えず親不孝をかけ続けたことを悔いてるが)、線路のない人生を半世紀近く面白く歩んできた」と、今思えることにも似ている。

もっとも世の中のことは殆ど思ったように行かず、思ったように行かない事を力として農的暮らしをしてきたからこそ、そう思えるのである。

 農的暮らしをしたことのない人にとって、暮らしに必要なものを自ら創り出そうとする暮らしは大変に思えるかも知れないが、私のように怠惰で不器用な人間でも長期に続く、自らを救済する自由な暮らしである。

 そのような農的暮らしに、世界の人々が転ずることができれば、まさに「禍転じて福と為す」と思い、最後まで書き上げた。

 

二〇二一年一二月末日

                      

                               関口博之