(424)ドイツ最新ニュースから学ぶ(17)

ハンガリー同性愛差別法が欧州に問うものZDFheute6月23日

 EU委員会委員長ウルスラ・フォン・デア・ライヱンは、メルケル政権の下で労働保健大臣や国防大臣を努めメルケルを支え、保育所の増設やインターネット規制強化で弱者支援に努め、2019年7月にはEU委員会委員長に指名され、欧州グリンニューディールなどで意欲的に先頭に立っている。

そのライヱン委員長が、ハンガリー議会で成立した同性愛差別法案を欧州連合の基本的価値に違反しており、そのような法案は恥じであり、撤回しない場合委員会は欧州司法に提訴手続きを開始すると激しく非難している。

しかしハンガリーの長期独裁者と称されるヴィクトル・オルバン首相は、提訴で欧州司法から改善を求められても強制権がないことから、全く真摯に向き合おうとしていない。

同じ公共放送のドイツ第一放送ARDのTagesschauでは、EUハンガリーへの支援金を止めれば決着するにもかかわず、その切札を温存したことが欧州司法の決定さえ無視される原因だと、一歩踏み出して核心をついていた。

そのような切札温存こそは、まさにEUの本質的な問題である。

すなわち本質的な問題とは、EUの民主的理念よりも経済成長が優先されることである。

EUの東方拡大で2004年に加入したハンガリーは、社会主義から受け継がれた国有企業が民営化され、それらの企業はドイツなどの西側企業に買収され、合理化で失業者が溢れ、大部分の市民は困窮していったことも事実である。

私自身も2009年の秋、ベルリンからブタペストを訪れたことがあるが、ハンガリー通貨とユーロ通貨の闇市さえでき、物乞いをする人さえ至るところで見られ、人々の窮状が感じられた。

物価は驚くほど安く、ハンガリー大帝国の宮城の入場から様々な由緒ある美術館の入場は殆ど無料であった。

そのような状況は西側からきたものには、居心地のよいものであっても、私と話した市民がそうであったように、一握りのエリートを除き、大部分の市民は失望していた。

そのような市民の失望が、ハンガリー民族主義を掲げるオルバン政権を誕生させたと言っても過言でないだろう。

オルバン政権は2010年に誕生すると、3分2を占める議会与党決議で憲法裁判所を支配し、独裁化に踏み出し、現在も揺るぎのない長期独裁政権を築いているといえるだろう。

それを支えているのは、格差拡大で国家社会主義の如き公正さを求める市民と、企業買収の西側資本との利権構造であり、西側資本の3万人を超えるロビイストたちに支配される欧州連合EUは切札を切れないのである。

 スロベニアEU議長国誕生で浮かび上がるものZDFheute7月1日

 7月1日にEU理事会議長国がポルトガルからスロバニアになった。

問題となっているのは、スロベニアのヤンシャー首相がメディア支配と司法圧力を強め、今回のハンガリー性差別法ではオルバン首相を公然と支持し、2020年3月ヤンシャー政権誕生以来絶えず欧州連合EUに物議を醸していることである。

ヤンシャー首相はトランプ信奉者であることを明言し、公共放送の政権批判報道をフェイクニュースと一喝し、給料も6カ月も延滞させ、他方で政権支持の民間放送を支援していると、ドイツのメディアは伝えている。

そしてもっとも懸念されるのは、EU加盟の東欧諸国がハンガリーのオルバンを手本に、メディアと司法を支配し、国家社会主義の如き反民主主義国に導いて行くことである。

もし強行に現在の西から東への莫大な支援を絶てば、西欧諸国と東欧諸国の亀裂が激化し、二つに分かれる可能性さえ考えられる。

現在の欧州連合EUは、ドイツのように基本法と連邦憲法裁判所によって国家利益より国民利益が優先される仕組みが出来ておらず、国益が最優先されており、EU委員会委員長ライヱンやメルケル首相がどのように粉骨砕身しても、打開は不可能である。

支援金を断つ切札が使えないなら、国連のようにNGOや様々な形態の協同組合を動かして、「対人地雷禁止条約」や「核兵器禁止条約」、さらには「世界を変える持続的開発SDGs」を推進しているように、国益追求の国よりも、各国の利益を求めない様々な形態の協同組合を育成し、本質的に変えていくしかないだろう。

もちろんEU補助金や支援金などの配分は、これらのEU理念実現の担い手となる利益を求めない各国の民間団体や公益団体に振り分け、子供たちの貧困解消から教育機会の平等を通して格差の小さな社会に変えて行かなくてはならない。

すなわち現在のグローバル資本主義のなかで国に期待しても無理であり、お金を各国に振り分けるのではなく、利益を求めない地域のこれらの団体に直接配分して行けば、国家の力を弱め、欧州連合の理念「自由、民主主義、法の優位、人権の尊重」の実現を、ヨーロッパ市民の手に取り戻すことも可能であろう。