(284)万人の幸せを求める社会(ドイツ子供ニュースによる)第一回 健全な財政


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健全な財政均衡政策が生む幸せ
ドイツの公共放送ZDFの子供ニュースでは(2月23日の「Hallo bei logo!」)、2015年のドイツは壁崩壊以来かつてない財政黒字194億ユーロを出したことを伝え、黒字をどのように使うべきかを子供たちにインタビューしていました。
そのインタビューで驚くべきは、子供たちの多くが避難民のために使うことを望んでいることです。
(そのような主張がごく自然に子供たちから出てくるのは、教育で社会に理想が求められているからであり、社会に理想が求められる子供ニュースでは毎日のようにドイツへ向かうシリア避難民の現状や、避難民を排斥する右派政党誕生の問題が伝えられています)。

そのような歴史的財政黒字を復活させる切っ掛けは2008年の世界金融危機であり、ドイツの殆どの州立銀行がサブプライム金融破産で実質的破綻に追い込まれ、莫大な国費投入を余儀なくされたからです。
しかも莫大な国費投入にもかかわらず、銀行役員の高額な給料、ボーナス、年金などが規定通りに支払われ、一般市民だけでなく官僚や政治家に至るまで激怒させ、結果的に金融緩和によるカジノ資本主義新自由主義)への傾斜にブレーキがかけられました。
それはかつてのドイツのハイパーインフレを戒めとして呼び起こすだけでなく、この時期これまでドイツになかった天下りを出現させるまでに利権構造が目立つようになり、問題になっていたからです(ドイツや多くの欧米諸国では役人の退職後はボランティア職が慣習)。
そのような役人や政治家の天下り出現は巨大電力企業や原発産業で見られ、批判が高まった2009年には多くの利権構造の不正を厳しく批判する本(例えばSchwarzbuch Deutschland 2009)が店頭に並んでいました。
また莫大な利益を生む原発稼働期間延長が求められるなかで、ネッカーハイム原発での電力会社と州政府の電力製造不正操作を記した内部戦略書類「影の計画」を公共放送ZDFが明るみし、政官財の癒着が問われました。
すなわち政官財の利権構造が天下りを誕生させるほどに肥大すれば、政府はあらゆる手段で支援しようとすることから、財政債務が肥大する仕組みができあがり、ますます借金に頼る金融緩和政策が求められると言えるでしょう。

それ故ドイツ市民、メデイア、官僚、政治家は借金をしない健全な財政均衡政策(新自由主義推進国は批判を込めて緊縮政策と呼んでいます)を選択したと言えるでしょう(ギリシャ金融危機でもドイツが終始一貫して金融緩和政策に反対し、財政均衡政策を求めたのはこうした理由からです)。
そして2010年1月から「経済成長加速法」を実行し、増税なき財政健全化の中で市民と中小企業の大幅減税で(新自由主義推進国の強者減税と弱者増税の逆)、国民の消費を加速増大することで税収を膨らませて行きました。
もっともそこでは金融政策だけではなく、2011年の脱原発宣言によって再生可能エネルギーへのエネルギー転換が、利権構造支配の要である巨大電力企業を赤字に転落させるまでに、地域の隅々まで再生可能エネルギー産業を沸き上がらせたからに他なりません。
そのようにしてドイツの財政均衡政策は徐々に実を結び、2012年からは殆ど年間財政赤字がなくなり、2014年には89億ユーロの黒字に転じ、2015年には新規国債発行ゼロ開始したにもかかわらず、1990年壁崩壊以来の歴史的黒字化に成功し、子供たちから蔵相ショイブレに至るまで笑みを与えています。

財政債務肥大が招く日本の不幸せ

これに対して日本では戦後10年間は財政赤字を出さない法による均衡財政が守られましたが、一度財政赤字を例外的に許すと、財政均衡は日本の成長の障害でもあるかのように絶えず先送りされ、下図のドイツの比較で見るように世界最大の突出した債務国へと転落させています。


2015年の国や地方の合わせた債務残高は1229兆円(IMF推計)・・・出典「世界経済のネタ帳」

その結果現在の日本の国と地方の負債は1000兆円を遥かに超え、財政黒字は夢のまた夢と言えるでしょう(2020年からの財政均衡を政府は目標としていますが、実現はこれまでのように不可能と誰も考えているのが実情です)。
アベノミクスではそれを乗り越えるためにドイツとは反対に大胆な金融緩和政策で市場投機を活性化しましたが、ひと握りの人たちが益々利益を得ただけで、実質賃金は下がり続けるけることと連動して、消費意欲も益々下がり続けています。
そしてこれまでリスクをとらないことが前提とされた年金資金が、方針を変更してその大半が市場で運用されており(株などへの割合が増大していることから投機されているとも言えるでしょう)、万一ウォール街大暴落があれば誰が責任を取るのでしょう(現在の金融市場はゼロ金利現象が示すように異常であり、恐ろしく肥大した金融市場ではウォール街大暴落を遥かに超える大暴落で紙切れとなる日を予測する専門家も少なくありません)。

このように国の財政債務が肥大し、財源の枯渇で国民の年金資金さえリスクに晒さなくてはならない原因は、利権構造の肥大にあると言えるでしょう。
そうした財政債務肥大は既に2000年の初めから厳しく指摘され、債務を生まない構造改革が求められました。
例えば道路公団民営化の際、本体の道路公団が莫大な赤字を生み出していたにもかかわらず、高速道路建設では117の直轄子会社やその下の多くのファミリー企業が高収益を上げている実態が明るみにされ、徹底した改革が期待されました。
しかし結局は運営企業と借金返済機構(独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構)に分離することで、日本政府が破綻しない限り永遠に建設できる仕組みをつくりだし、道路だけでなく空港、港湾、ダム建設などのあらゆる分野で従来のように組織を益々焼け太りさせています。
しかも民主党政権事業仕分けで、そのような独立行政法人財政投融資特別会計から財源が流れる仕組みの公開と縮小が求められたにもかかわらず、実質的な国債である財投債残高は100兆円に達しており、私から見れば際限なく利権構造維持に注ぎ込まれているように思えます(2015年新規発行国債36,9兆円、復興債2,9兆円、財投債14、0兆円・・財投債は国の債務から除外されていますが、実質的借金以外の何者でもありません)

13日のドイツ3州選挙結果(出典シュピーゲル誌オンライン)
いずれの州でも避難民排斥に過激な右派新党AfD「ドイツのための選択肢」が議席を獲得し、基本法に違反するという声が上がっており、次回はドイツの戦う民主主義をテーマにしたいと思います。

ザクセン・アンハルト州選挙結果・右派新党「ドイツのための選択肢」大躍進
バーデン・ヴュルテンベルク州選挙結果・緑の党王国化
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