(259)カントの理想実現(17)・ギリシャが今世界に問うもの(1)・明日なき世界を救う道(1)

『ヨーロッパは維持できるのか?』第一回露わにされたEU亀裂(4回シリーズ)

7月15日にZDFズームが放映した上のフィルム『ヨーロッパは維持できるのか?』の解説では、この数か月ギリシャ債務危機でEUサミット会議が繰り返され、ギリシャ構造改革を強いることが求められて来たが、より大きなヨーロッパの問題が失われているのではないかと問を投げかけている。
このフィルムは冒頭で緑の党EU議員をして「現在はヨーロッパの夢のかけらが潰えていきます」と語りかけ、著名な政治学者をして「ヨーロッパはこの十数年成功物語でした。私たちがそれを壊すとき、悲劇になるでしょう」と将来の悪夢を予感させる。
そして5月に英国選挙で大勝利し、EU残留を2017年の国民投票で問うと宣言したキャメロン首相の右腕ジョージ・オズボン財相をして、「英国の納税者がギリシャに支払うことへの抗議は砲身内早発であることを、明らかにしました」と現在のEUの非情さを象徴する。
確かに表層的にはギリシャ債務問題は7月13日の17時間にも及ぶEU加盟国金融支援協議で、ギリシャ構造改革を実行することで一応決着したが、本質的には致命的なEU亀裂を露わにした。
すなわち13日の協議では、今回のフィルムの終わりに緑の党EU議員スベン・ギーゴルドが「昨晩はEU創設の理念に欠けていた」と強調するように、信頼と理解が欠如し激しく罵り合ったのである。
特にEU創設以来寛容と信頼を尊重してきたフランスとドイツの意見の亀裂は、EUの未来に暗雲を投げかけている(第二回スペインで今起きていることに続く)。

明日なき世界を救う道(1)

ギリシャでは今年3月に債務審査委員会が公に設置され、年末までにギリシャ債務の多くが不当債務であることを検証すると伝えており、国民投票でのギリシャ国民の「ノー」は不当性の怒りであるとも言えるだろう。
もちろん不当性だけではなく、2010年以来の緊縮政策断行で均衡財政を実現しながら、経済が収縮することで失業と貧困が拡大し、債務もGDP比で120%から172%に増大し、これ以上の緊縮措置が容認できないだけでなく絶望的であるからだ。
だからと言ってチプラス首相が本気で財政破綻を採れば、完全にギリシャ経済は麻痺し、国民の大部分が飢える事態も想定される。
このようなギリシャの絶望的状況は決して日本とは無縁ではなく、現在の金融緩和政策が幕を引く時インフレが急速に始まり、金利上昇で財政破綻を余儀なくされることは必至であろう。
何故なら2020年の均衡財政計画さえ実質的には既に破綻しているからであり、それ故に戦前のように海外進出(新重商主義)が求められ、平和憲法憲法解釈で葬ることで、集団自衛権も容認される普通の軍事国になることが求められていると言えよう。
そのような未来は戦前の絶望的な繰り返しであり、日本の巨額な債務が不当債務であろうがなかろうが、最終的に尻拭いするのは国民であり、このままで行けば大部分の国民がギリシャ国民以上に窮乏することは必至である。
しかも上のフィルムで見るEUの深刻な亀裂を見る時(少なくともEUは2000年の競争原理最優先までは、世界の平和、自由平等、均等な豊かさ、連帯を実現する希望であった)、その先に崩壊さえ見えてくる。
EUの崩壊は世界の経済危機を意味するだけでなく、気候変動の激化を通して最終的に世界を終末戦争に導き、世界の明日はないと言っても過言ではない。
しかし前回述べたように、世界が現在の枯渇する化石燃料の産業社会から無尽蔵な自然エネルギーの産業社会に転換する道を採るならば、希望ある日本、EU、そして世界の明日が見えてくる。
それを実現するのは、まさに公の幸せを道徳法則で無条件に求めるカントの理想主義に他ならない。
すなわち世界は実践理性で「あるべき姿」を認識し、道徳法則に基づき目先の利益至上主義を厳しく規制していくことで、自然エネルギーの産業社会という目的の王国を築くことも可能なのだ。