(260)カントの理想実現(18)・今ギリシャが世界に問うもの(2)・均等な豊かさへの道

第二回フィルムで見るように、現在スペインでもギリシャ市民がたどった同じ選択がなされようとしている。
このまま北と南に亀裂させている本質的な問題に取り組まないなら、将来的にEUの崩壊は明白であり、世界の明日はないと言えるだろう。

明日なき世界を救う道(2)・均等な豊かさを求めて
既に述べたように人間の飽くなき欲望が現在の世界では利益至上主義を生み出し、本来の万人の幸せという目標が蔑ろにされ、人類を滅ぼす瀬戸際にまで自ら追いやっている。
カントは「人間は幸せになるために生きている」ことを認めた上で、幸せは万人が求めるものであり、「人間の唯一の目的」であると説き、道徳的善さの追求を掲げた。
そして飽くなき欲望(傾向性)から解き放つカントの教えは、飽くなき欲望の終着点の幸せ獲得ではなく、私たち人類に幸せを受けるに値する存在になることを求めた。
それは現在から見れば、本来幸せを目標とする飽くなき欲望への警告という見方もできよう。
そして現在の最大の危機は、飽くなき欲望を最大限発揮させるためにあらゆる規制が取り払われ、益々飽くなき欲望が目的化し、肥大化して行くことにある。

上のZDFフィルムで見る「平和、自由、(機会の)平等、均等な豊かさ」を目標理念としたヨーロッパ共同体でも、飽くなき欲望が肥大化し、強者の北と弱者の南に分かれ、益々亀裂が崩壊に向けて大きくなっている。
そこで絶えず批判されるのは一人勝ちするドイツであり、ギリシャなどの小国だけでなく、スペイン、イタリヤ、フランスなどの南の大国、そしてそれらの国々の市民はドイツに怒りで激しく抗議している。
一方与党キリスト教民主同盟を支持する多くのドイツ市民は、ギリシャのEU離脱を望み、南のEU市民の抗議にも挑発的でさえある。
それらのドイツ市民の言い分は、ドイツは2000年から労働権利低減、実質的賃金低下、そして2008年以降の緊縮政策に耐え抜いたからこそ現在のドイツの成功があり、南の国でそうした努力もせず、EU共同債という虫のよい借金で切り抜けようとしても、失敗は明白だと言うのである。
何故ならその失敗を連帯して尻拭いするのはドイツであり、2008の金融危機の際の州銀行救済の巨額なお金も、ギリシャ救済のお金も最終的にはドイツ国民が支払うことになるからである。

結局、飽くなき欲望を最大限発揮させるための2000年以降の競争原理最優先が発展の遅れた国を弱国として浮かび上がらせ、グローバルで規制のない金融市場で弱国が生贄にされていると言っても過言ではない。
すなわち競争原理最優先を変えて行かなくては、南の国いくら投資しても北の国の企業に吸い取られる仕組みができており、北の国の市民(北の莫大な利益を得る企業ではない)も尻拭いで困窮することになり兼ねない。

それ故に今、飽くなき欲望を克服する転換がなされなくてはならない。
既にドイツやフランスではそれを克服するために、2010年から世界に金融取引税導入を求めているが、気候変動保護条約が後退するように、グローバルな世界では全体合意の立法規制は不可能に近く、取り決められた2014年EU内11か国導入も延期され、目途が立たない。

しかしEU崩壊の危機に瀕して、ヨーロッパ共同体の理念目標に戻り、加盟国の均等な豊かさを追求することは可能である。
ドイツが2015年から新規国債発行ゼロの財政均衡を実現し、最低時間給8,5ユーロの極めて高い法定賃金制度を実施したにもかかわらず功を奏しているのは、国全体が活況を示しているからに他ならない。
それはドイツ企業が潤っているからではなく(何故なら日本は企業が莫大な利益を出しているにもかかわらず逆に沈滞している)、ドイツの地域がエネルギー転換で北から南まで潤っているからである。
そこではこれまで貧しかった北でも、風力発電推進で再生可能エネルギー100%以上の自給を達成するだけでなく、1万を超える風力発電機部品を製造する中小企業を生み出し、地域雇用にも多大な貢献をしているからに他ならない。

それゆえEUの弱国化された国々も青写真なくしてEU共同債による救済投資を求めるのではなく、エネルギー転換による地域のエネルギー自給、さらには経済自立を掲げ、均等な豊かさを求めて行かなくてはならない。
そのような南の国の要請は、ドイツ政府、そして与党キリスト教民主同盟支持のドイツ市民も「ノー」と言えない筈である。
すなわちEU全体で「均等な豊かさ実現」を最優先の目標に掲げ、そのためにEU共同債を発行し、連帯する発展が今求められなくてはならない。
まさにそれこそが、現代におけるカントの理想実現と言えよう。