(283)世界危機第21回『避難民危機討論6−6・メルケル継続の一致点』・見えてきた本質的問題

見えてきたメルケル長期継続の一致点

このマイブリットの円卓討論で一つの一致点は、まだ大晦日のケルン集団暴行事件でメルケル去就が危惧される1月21日の議論であるにもかかわらず、メルケル支持のCDU議員ポレンツ(メルケル避難民政策の代弁者でもある)と敵対している姉妹党CSU議員ゼーダー(バイエルン州蔵相でもありCSU国境上限制限政策の代弁者)の間に「メルケル首相の長期継続を望む」ことで意見が一致したことだ。
その背景には、昨年9月に年間シリア避難民が100万人を超えるなかでCSUが危機感から出した国境コントロールによる上限制限が、市民だけではなく産業界から、さらには実際は同じ姿勢とるEU諸国さえも支持されないことにある。
市民にとっては国境のない自由に移動できるEUが暮らしに欠かせないものとなっており、産業にとっても再び国境を設けることは輸送だけでなくジャストインタイム生産体制を損なうものであるからだ。
またEU諸国についても、分担受入に反対で自ら国境制限で避難民流入を阻止するEU加盟国でさえ、ドミノ国境閉鎖で全体が避難民を阻止する自国利益最優先がまかり通れば、EU崩壊により致命的打撃を受けるのは自分たちであることがわかっている。
それゆえドイツの強行的な避難民分担には激しく反対しても、ドイツ抜きでは何もできず、本音はひたすらマザー・メルケルに手を合わせていると言えるだろう。
すなわち現在のEUを取り仕切れる行動的知者はメルケル以外におらず、与党CDUだけでなくドイツ国民にとっても、2005年から様々な困難を乗り越えてきたメルケル首相以外の選択肢はないからである。

もう一つ別に見えてきた本質的問題
今回の討論で見えてきたものは、司会者マイブリット・イリナとリンケ党首カチャ・キーピングの議論をめぐっての衝突であった。
司会者マイブリットはあくまでもテーマに沿って自らの質問を通して、避難民危機の抱える問題を議論しようとした。
しかしキーピングはそのような枠組みの中での議論を嫌い、問題の本質的な解決には「裕福者税による再配分強化」と「先進国の植民地的経済進出規制」が不可欠として、枠組みを越えた議論を求めた。
私自身もキーピングの言うように、避難民危機から金融危機に至るまであらゆる問題の原因は、格差肥大と規制なきグローバル化にあると思っている。
しかしテーマ議論の枠組みを越えてそのような本質的解決を求めること自体、法学者バティスが言うように武器輸出さえ容認されている世界では不可能な理想であり、私にさえテーマ枠組みのある討論で正面からの原因追求はルール無視に見え、メルケルへの寛容性のなさを感ぜずにはいられなかった。

確かにメルケルは2005年からシュレーダー新自由主義構造改革アジェンダ2010)を継承したが、当初から「規制なきグローバル化」を批判し、2008年の金融危機以後は反カジノ資本主義色を徐々に鮮明にし、脱原発を実現することで固くしまわれていた自らの信念を、最早なりふり構わず発揮しているように思う(ZDFフィルム参照)。
それは、祖国ドイツの人たち、さらには世界の人たちの平和と幸せへの献身と言えるだろう。

それゆえリンケ党首キーピングは政敵与党CDU党首メルケルとしてではなく、司会者の求める議論の枠組みの中で先ずメルケルのなりふり構わない献身を賛美し、その献身の延長線上にキーピングの考える本質的解決があると主張すべきだったと思う。