(279)世界危機第17回『避難民危機討論6−2・メルケルの解決策』

寛容であることの難しさと人間性の奇跡

姉妹政党キリスト教社会同盟CSUの避難民流入の制限や一時的に国境閉鎖という提案は決して法外なものではない。
もちろんメルケル首相もこのままではドイツも政権も存続できないことは百も承知で、戦後誕生させた基本法の庇護権を貫くという寛容さを守り抜いている。
まさに、人間性の奇跡とさえいえよう。
そこにはドイツが他の国のように、経済的や治安の不安定化理由で、一旦政治的に制限や国境閉鎖をすれば、結果的に避難民を見捨てることになることが明白であるからだ。
私自身寛容性を貫くことがいかに難しいか、身を持って体験したことから、与党連邦議員44名の抵抗勢力が形成されたことよりも、キリスト教民主同盟CSUの大多数の連邦議員がメルケル首相を支持し、国民の大半がメルケル政治を支持し、避難民問題でも4割も支持していることが信じられないことである。
そうしたなかでポレンツCDU連邦議員が述べるメルケルの解決策とは、「私たちはCSUの再び国境を導入する提案が現実的に相応しいとしても、議論しません。同様にバルカン半島ルートを閉めるというより良いやり方も議論しません」と明言し、「すなわちバルカン半島ルートの留金をすることで、2つの目標の避難民が来ることをより少なくし、再び避難民が地中海で溺死を防ぐことを解決します」との断言にほかならない。
バルカン半島ルートの留金とは、1月22日から始まったドイツとトルコの政府間協議で、シリアからトルコに出た避難民をトルコ財政支援で制御し、バルカン半島ルートでドイツに来る避難民をより少なくし、トルコに溜めおく手段である。

寛容さを貫くことの難しさを私のベルリンの暮らし体験から書けば、外国人が多く暮らす地域のボーヌンク(アパート)は建物も新しく、部屋も広く、家賃も破格に安く、私の暮らしたノインケルンではトルコ人の八百屋も多く、果物や野菜の価格は中心街のツォーあたりの半額近かった。
そう書けば良いことづくめであり、言葉での外国人との共生、そして寛容であることは美しく、重要であるにもかかわらず、実際暮らして見ると屡々閉口した。
何故ならトルコの人たちは余りにも感情的にナイーブであり、自らの伝統的暮らしに誇りを持ち、それを貫いて暮らしているからである。
しかし私から見れば、喜怒哀楽をさらけ出して暮らしており、サッカーの試合の際は試合中にあちこちで爆竹が鳴らされ、トルコが勝利すれば不眠になるほど喧しい。
その上不要になったマットや家具が路地に放り出されることも日常茶飯事であり、文化の違いだけでなく、共生して暮らすことの難しさ身を持って体験したからである。
今回の避難民危機ではその上、避難民の人たちへの莫大な費用が社会福祉などに回るべき財源であるにもかかわらず、与党CDUの大多数の連邦議員や国民の4割がそれでも尚メルケルを支持し、寛容性を貫いていることがむしろ信じられない人間信頼の奇跡とさえ思える。
そのような奇跡を壊さないためにも、避難民の人たちを入口のトルコでシリアの戦争が解決するまで庇護することは現実的な打開策だと思う。
何故なら、勤勉で絶えず胸を張って行動するトルコ国民はシリア避難民の救済を望み、トルコ首相もその解決策に前向きにならざるを得ず、ドイツにとってもたとえ全てその費用を払うとしても、その費用はドイツで庇護するより著しく少なくて済むからだ。