(278)世界危機第16回『避難民危機討論6−1』・3月はメルケルの宿命の月になるのか?

本当に問われなくてはならないもの

1月21日放映されたZDFマイブリット・イルナの円卓討論『避難民危機』では、著名な政治助言者でジャーナリストのミヒャエル・スプレングは、「メルケル首相が避難民危機で政権を失う公算は五分五分である」と断言していた。
五分五分であるのは、昨年はシリアからの避難民受け入れが100万人に達して限界が迫るなかで、メルケル首相は権力を失うか、首相が昨年国民に訴えた「私たちは避難民を解決できる」、「庇護権には上限がない」、「友好の手を差し伸べないなら、私の国ではない」で信頼を得るか、どちらかの選択岐路に立っているからだと述べている。
そして3月がメルケルの宿命の月になると明言している。
その理由として、3月には3つの州で選挙があり避難民受け入れに反対するAfD「ドイツのための選択肢」右派政党が2ケタに迫る勢いであること、姉妹政党CSU(キリスト教社会同盟バイエルン州だけの政党)が突きつけた最後通告が期限を迎えること、そして3月に開かれるEUサミットでドイツに避難民受け入れ制限及び国境の期限付き一時閉鎖が要求されることを挙げている。

(私自身は昨年の勇気あるメルケル首相発言に心を大きく動かされたこともあり、ここは正念場としてメルケル首相に頑張ってもらいたいという思いから、その信憑性を検証してみた)

まず姉妹政党CSUの最後通告の期限とは、昨年9月CSUの党首でバイエルン州知事でもあるゼーフォーファが、メルケルの寛容な難民受入を重大な過ちと激しく非難し、「避難民受け入れに歯止めをかけない場合、連邦憲法裁判所に提訴する」などの通告である。
確かにこの後メルケルの属するCSU(キリスト民主同盟)の各地の党員集会でメルケル批判が盛り上がり、メルケルの国内及び海外での信望が失墜したことも事実である。
公共放送ZDFの2015年11月世論調査でも、メルケルの避難民政策では、国民の半数以上が良くないと答えていた。
しかしメルケルの政治全般に対しては、70%の国民が満足していると答えていることも事実である。

もっともその後、大晦日にケルン駅前で騒乱から多数の女性が暴行される事件が起き、避難民などの関与からメルケルの避難民政策が大きく批判されたことも事実であるが、1月29日の世論調査ではドイツ国民が冷静さを取り戻しつつあり、大部分の人たちは住居地での避難民問題がないとしている(21日のこの討論でカチャ・キーピングが冷静さを呼びかけたように、多くの人々が冷静さを呼びかけていることも影響していると思われる)。




77%の住民が殆ど問題なし、6%が近くに避難民がいないと答え、問題があると答えたのは僅か16%である
また3月の州選挙は、ZDFの世論調査をしている研究グループ機関の1月22日公表の調査結果によれば(他の5つの世論調査機関はまだだしていないが出たとしても大差がない)、ラインラント・プファルツ州世論調査では、CDU38%、SPD31%、緑の党7%、リンケ5%、FDP5%、AfD9%(2011年の州選挙での獲得票は、CDU35、2、SPD35,7、緑の党15,4・・・尚FDP4,2、リンケ3,0で5%以上条項で議会の議席はない)。
バーテン・ヴュルテンベルク州ではCDU34、SPD15、緑の党28、AfD11、FDP6(2011年州選挙では、CDU39、0、SPD23、1緑の党24,2FDP5,3、リンケ2,8)。
ザクセン・アンハルト州世論調査では、CDU33、SPD19、リンケ19、AfD15、FDP3(2011年の州選挙では、CDU32,5、SPD、21,5、リンケ23,7、緑の党7,1、FDP3,8)。
この世論調査を見る限り、むしろCDUは前回よりも支持されているのである。
しかも特筆すべきは、3年前メルケルギリシャ財源救済非難で誕生したAfD「ドイツのための選択肢」右派ポピュリズム政党が社会民主党(SPD)の票をくい、飛躍的に支持を拡大していることにある。
すなわち3月の選挙で問われるのはメルケルではなく、大連立を組む社会民主党姿勢が大きく問われることになろう。

最後のEUサミットでは、むしろ問われるのはメルケルではなく、避難民制限や国境閉鎖だけを求める他の加盟国首相である。

連日のようにゴムボート転覆で赤子を含めて多くの人が亡くなるにもかかわらず、必死に逃げ出してくる避難民家族を見殺しにするかが問われなくてはならない。
そのような避難民家族を、結果的に見殺しも致し方ないとするならば、世界は滅びるしかないだろう。