(277)世界危機第15回『地球2100年7−7』(希望ある未来提言)・成長至上主義が日本を滅ぼす5(政治の責任と公正な民意育成が創る希望ある未来)

『地球2100年』の希望ある未来提言
ABC放送2009年制作の『地球2100年』は前回述べたように、今回のフィルムではルーシー物語の検証と視点に立って、登場する専門家たちは現在の危機に真剣に向き合うことこそが現在の危機を回避するだけでなく、より素晴らしい持続可能な未来を創造することだと明言している。
例えば最初に登場する環境弁護士、市民活動家として世界的に知られているヴァン・ジョンズは、「確かなことは、私たちが今生きている現在よりずっとより良い未来があるということですThere’s a future out there that’s a much better future than the present that we’re living in right now, to be sure. 」と明言する。
次に登場するハーバード大学教授(生物学者)のE.O.ウイルソンは、「もし私たちがすべき措置を取るならば、2100年はパラダイスと見なされる時代の始まりとなるでしょうIf we took the measures we should take, 2100 would be at the beginning of an era that we today would regard as paradise. 」と述べている。
さらに3番目のパシフィック研究所所長のペーター・グレイクは、「私たちは人口と戦う繋がりのない非効率な世界から持続可能な惑星に移行する好機を手にしています。私たちが今日直面している問題は、どの様にしてそこへ行くかですWe have a chance to get it right, to move from a disconnected, inefficient world of fighting populations to a sustainable planet. The problem we face today, is how do we get from here to there? 」と、地球温暖化と真剣に向き合うことを主張している。
それについてペーター・グレイクは少し後で、「ポジティブなシナリオは私たちのエコシステムを回復させることであり、その考えを気候変動に統合させていくことです。そうすれば化石燃料はなくなっていくでしょうThe positive scenario is, we've restored ecosystems, we've integrated climate change into our thinking. Fossil fuels will be disappearing. 」と述べている。
そして2100年の未来像で特筆すべきは、建築家で都市デザインの専門家ミシェル・ヨアヒムは、「全てのものが都市内で生じています。それは食物生産、消費、リサイクル、エネルギー生産を意味しますEverything happens inside the city itself. That means our food production, our waste and recycling, our energy. 」と述べていることである。
それはルーシー物語でも巨大な高層ビールが太陽光や風力発電を利用して、ビル内で電力自給するだけでなく、設置された植物工場で食物を自給しており、2100年の未来に都市内での地産地消は画期的であり、それこそが素晴らし世界の到来である。

このABC放送のフィルムは50人を超える専門家が登場しているが、現在の地球温暖化が招こうとしている危機を警告すると同時に真剣に向き合うことを求める啓蒙こそが、制作の意図といえよう。
それはアメリカ産業界が2001年の京都議定書離脱宣言の数年前からアメリカ全土に流していた、「エネルギー消費20パーセントカットは物価高騰のカオスを招き、中国、インド、メキシコなどが何もしなくてもよい条約など意味がない」という趣旨の意見広告フィルムと対照的であり、地球温暖化被害が現実化するなかでメデイアの危機感からそのような制作が意図されたと信じたい。
しかもそのような啓蒙は、6年という年月をかけても崩されなかったことから(50人を超える専門家の意見に嘘がなかったことから)、今回のCOP21では大きく機能し、アメリカを再び主役に復帰させたといえよう。

政治の責任と公正な民意育成が創る希望ある未来

(12月23日ZDFニュースから撮影)
12月22日ポーランドで、10月にシリア難民受け入れ拒否を掲げ国民選挙で勝利した右派「法と正義」政権党が、憲法裁判所を実質的に無力化する法案を下院で深夜に「(多数決こそ)民主主義、民主主義と政権党議員たちが連呼するなかで可決した(憲法裁判で違憲判決をこれまでの過半数多数決から3分2多数決に変更し、15名の憲法裁判所裁判官の9名関与を13名関与に変更することで、憲法裁判所の機能を実質的に無力化した)。
その異常さを23日のZDFニュース(heute)が映し出していたが、欧州では貧困やテロの危機を利用して極右のナショナリズムが高まっている。
「国民は私たちの党“法と正義”を選んだ。だから私たちは新しいポランド建設しようとするが、憲法裁判所が妨害する」というのが、政権党「法と正義」議員たちの主張である。
新しいポランド建設とは多くの批判者が指摘しているように、ナチズムのような国家に他ならない。
このニュースはドイツだけでなく、ヨーロッパ全土で重大ニュースとして報道されているにもかかわらず(もちろんアメリカでも)、日本では無視されており、その危うさを感じないではいられない。
ドイツやヨーロッパの国々で大きく報道されるのは、1933年に誕生したヒトラー政権が議会の決議無しに、政府が法律を制定できるという全権委任法可決で、世界を第二次世界大戦へと導いて行ったからである。
それゆえ戦後のドイツではナチズム反省が徹底してなされ、二度とそのような悲劇を起こしてはならいという思いが制度に組み込まれている。
その点日本は本当の反省がなく、戦争を引き起こした無責任な大本営が継続し、戦後の日本産業が発展成長後行き詰まるに連れて、再びナショナリズムを高めている。
しかも安倍政権では選挙で信認を受けたと豪語して、治安維持法にもなりかねない特定秘密保護法可決も覚めやらないなかで、立憲国家に違反する安全保障法を強引に強行採決した。
それはまさに、ポーランド右派政権と五十歩百歩ではないだろうか?
しかもポーランドの今回の事件は、アベノミクスに距離を置きだしたメディアさえ全く報道していない。
そのこと自体、如何にナショナリズムが密かに浸透しているかのバロメータでもある。
しかしこのまま放置すればアベノミクスが瓦解しても、ハシズムのようなナショナリズムへの傾斜は必至である。
ハシズムが大衆に受け入れられるのは、腐敗した政官業の既得権益破壊を断固求めるからであるが(大衆迎合的なナショナリズムの利点を見事に演出しているからといえよう)、政権を取れば新重商主義を加速させるだけでなく、ポーランドの右派政党「法と正義」ようなファシズム独裁国家への道も必至であろう。

私がドイツに学ばなくてはならないと思うのは、戦後のドイツは世界で最も民主的憲法と称されたワイマール憲法がナチズムに全く機能しなかった反省にたって、基本法では人間不信の憲法といわれるように、人間の尊厳、基本的人権、そして万民の幸せ追求を憲法改正できない普遍原理とし、戦争に導くファシズム共産主義などの全体主義を厳しく禁止し、自由に対しても厳しく規定していることにある(「ホロコーストはなかった」という表現の自由さえも、犯罪と見なされる)。
しかもそのような基本法が普遍的に厳守されるように、政治に責任と公正な民意育成が制度を通して組み込まれていることにある。
具体的に学ぶべきは、既に何度もこのブログでかいてきたように、戦後ドイツが政治に責任を求めるために政治を行使する官僚権限を官僚一人一人に移譲し、決裁権を与える事で厳しく責任を問う制度への刷新のである。
そこでは官僚の無謬神話から必ず間違う視点に立ち、ドイツのように行政訴訟も住民の無料の簡易な請求で審査がなされ、行政裁判がなされる場合行政側に全ての書類(行政行使では手紙や面談に至るまですべて記録することが法で義務付けられている)を行政裁判所に提出することが義務付けられなくてはならない。
また公正な民意育成をはかるために、審議会や専門委員会は国民にガラス張りに開かれるだけでなく、その委員は官僚が選ぶのではなく、国民民意によって選出されなくてはならない。
すなわち戦後のドイツでは、州、連邦の審議会などの委員は選挙での得票率で各政党推薦の委員が選出されてきたことから、委員自身が自らの政党を宣伝するために競争でガラス張りにしようと努力し、公正な民意育成を実現して来たといえよう。
それ故ドイツの憲法改正連邦議会及び連邦参議院での議員3分2以上の賛成が必要にもかかわらず、どの政党も公正に育成された民意に反対することは殆どできないことから、59回も国民利益を求める憲法改正が実現しているのである。
したがって日本の憲法改正ゼロは、国民を「民は之に由らしむべし之を知らしむべからず」の象徴であり、公正な民意育成を避けてきた政治の責任といえよう。

来年2016年7月予定の参議院選挙では第一に安全保障法案の信認が問われるが、野党は結束して廃案を求めるだけでなく、公正な民意育成を可能にするガラス張りに開かれた制度(法案を形式的に発案する審議会や有識者会議)を求めて行かなくてはならない。
そのようなガラス張りに開かれた、国民民意による審議会や専門委員会が創設されれば(実質的には、最も近い国民選挙の各党比例獲得数で委員選出)、日本の責任が問われない官僚制度、そして再生可能エネルギーのエネルギー転換を絶えず妨害する原子力ムラも自ずと解体しよう。

もちろんそのような転換は2016年の参議院選挙では解決できないとしても、安全保障法成立の原因と結果が問われれば、歴史的転換の始まりになると確信している。
すなわち日本でもエネルギー転換で希望ある未来への道を開き、すべての教育を無料化する機会均等から基本的人権尊重の暮らしを実現させ、沖縄基地問題を通して(基地をなくすことで)世界平和創出に関与し、上のABC放送フィルムが示すように危機を回避するだけでなく、より素晴らしい未来を創り出そう。

*エネルギー転換については今年5月に出した『ドイツから学ぶ希望ある未来』を参照してください。
尚前回述べたように、1月は休みたいと思います。2016年がよき年であることを祈ります。