(415)ドイツ最新ニュースに学ぶ(8)・ワクチン接種ルーレット(3)・今コロナ禍で問われているもの(2)

ドイツ最新ニュースに学ぶ(8)

  • 憲法擁護庁のAfD監視強化決定(ZDFheute3月3日)

2月7日のZDFheute(「基本法はAfDを裁くのか」記載)で予告されていたように、憲法擁護庁のAfDの全面的監視が決定された。

AfDの党首の「こともあろうに連邦議会選挙の年に、この決定はこの上なくスキャンダラスである」と言うのが、精一杯のように感じられる。

何故なら、2年前から部分的監視が実施されていたにも関わらず、AfD内部の極右過激化への傾斜は、コロナ過激派デモで見るように、益々あからさまになって来ており、党大会でも穏健派と過激派の対立で収拾がつかないからである。

2013年AfD(「ドイツのための選択肢」)の誕生は、ユーロ危機でドイツ財政に莫大な負担を強いる救済措置を、メルケルが「この選択しかない」と言ったことで、新自由主義経済学者ベルント・ヘッケ(ハンブルグ大学教授)を中心に、アンチテーゼとして“もう一つ別な選択”を求めたことに発している。

それは2018年AfDが極右かするなかで、連邦内務省管轄の連邦政治教育センター(bpb)載せた、極右、ネオナチ研究での第一人者であるアレクサンドル・へスラーの論稿で述べられているように(注1)、当初のAfDはリベラルなポピュリズム保守政党を目指していた。

その論稿に以下従えば、AfDが変化したのは、2015年のメルケルの100万人を超える避難民受入れに、世論も反発し、抗議運動が高まり、AfDが結果として避難民受入れ反対の受け皿となった時からである。

すなわち2015年11月末のハノーファーの第4回定期大会には、保守から極右に至る勢力が結集し、大きく右傾化したのであった。

そのような内部の極右化を現在まで推し進めているは、新自由主義推進での敗者の支持であり、特に旧東ドイツ各州の統合期待を裏切られた人々が、その不満を難民排斥運動に噴出し、日増しにそのエネルギーHがAfDに結集されていったからである。

そして論稿で述べているように、2016年末にはそのエネルギーを利用して、2017年連邦議会選挙のための選挙戦略論が練られていた。

すなわち選挙民のターゲットは、以下の5つに絞っている。

1、政治家にドイツの利益優先する勇気を求め、さらなるユーロ救済措置を拒む全ての社会層、全ての年齢層の選挙民。

2、赤緑の支配的自由な恣意性や多文化イデオロギー時代精神を拒むリベラル保守の市民層、すなわち「管理されていない移民、犯罪との闘い、税金のぼったくり、教育の悲惨さ、家族責任放棄、社会正義や公共空間の無視、ジェンダー妄想」を懸念する市民層であり、最早これまでの既成政党を信頼しない選挙民。

3、メディアの政治的発言や政治的論争の内容やスタイルに、不満な抗議する選挙民。

4、政治的に関心を持っているが、既成政党では要望の受け入れが見込めない選挙民。

5、いわゆる「不安定な地域」の平均以下の収入を持つ市民で、グローバリゼーションの敗者であると感じており、パフォーマンス、秩序、安全、愛国心などの保守的な価値観を認める選挙民(多くの労働者や失業者)。

このような選挙戦略でAfDは、2017年9月の選挙でドイツ国民の12、6%の支持投票を得て、連邦議会に94議席を獲得して、野党第一党に躍り出たのであった。

その勢いはその後も止まらず、しかもその推進エネルギーはAfDが極右過激派と横の連携を持つだけでなく、明らかにAfD自体が極右化していることにあった。

それ故ヘスラーの論稿の結論として、AfDは既に極右化しており、民族的独裁ポピュリズム政党であると指摘している。

しかもそのような極右的政党が東欧を次々と支配するだけでなく、隣国オーストリアにも及んでいることから、極右と極左を許さない戦う民主主義のドイツでは、2年前から憲法擁護庁が動き出したのであり、今回の徹底的監視調査で裁かれる可能性は高く、裁かれないようにすれば勢力を失って行くだろう。

しかし現在の世界が極右化を含め、全体に右傾化するのは、ウルリッヒ・ベックが述べているように、「グローバル資本主義国民国家の足枷をはずし、あらゆる規制を取り去り、最終的に社会国家、民主主義、公共園を死にいたらしめる」といった、経済弱者の市民が分断させられる競争原理最優先の構造にあり、そのようなグローバル資本主義の構造を変えて行かなくては、本質的な解消は難しいだろう。

(注1)Die AfD: Werdegang und Wesensmerkmale einer Rechtsaußenpartei | bpb

 

  • ドイツの段階的ロックダウン解除

2月に載せた首相インタビューで、メルケルは第二波の爆発的感染を繰り返さないために、全面解除には現在大幅に下がって来た発生率60台が、35まで下がり、35以下が2週間継続することを主張していた。

確かに安全面からすれば、その主張は道理である。

しかし実際の決定は、州首相との会議で為され、必ずしもメルケルの慎重な意向は反映されなかった。

それは、各州が持つ事情や、人々の生業である経済活動から見れば、石橋を叩いて渡れるまで待てないからである。

しかし段階的ロックダウン解除決定には、最悪の場合も想定しており、誰もが納得できる合理性がある。

それこそが、ドイツから学ばなくてはならない倫理的民主主義であると思う。

しかも3月8日からは無料の敏速簡易コロナ検査が、薬局、センター、及び医院で実施されており、自分で簡単にできる敏速簡易検査器もスーパーで購入できるようになり、これまでのように市民に自粛制限を求めるのではなく、市民自らに根絶が担われていると言っても過言ではない。

 

ワクチン接種ルーレット(3)

現在日本でワクチン接種が始まったファイザー・ビオテックのワクチンは、(トルコから移民したドイツ人医師夫婦の起業した)小さな製薬企業ビオテックがノウハウを提供し、世界規模の巨大製薬企業ファイザーとの共同開発で、僅か10カ月で開発されたが、その経緯が語られている。

すなわちこれまで10年以上必要としたワクチン開発は、感染現場の緊急的必要性から、ドイツでは国の財政支援で各州に感染症研究センター設立され、ネットワークで基礎研究が進められ、開発期間を革命的に短縮できる遺伝子情報の伝達技術(ベクター技術など)が、コロナパンデミック襲来前に完成していたことが語られている。

しかし実際に世に出すためには、さらに莫大な費用を必要とし、現在の枠組のなかでは国家機関の開発は無理であることから、巨大製薬企業に託されると述べている。

開発企業がその莫大な費用を取り戻すために、厳しく守られる特許が必要であり、それが社会正義が実現できない伏線として、さらに描かれて行く。

しかし今回のコロナパンデミックでは、南アフリカやブラジルなどで次々に変異していくなかでは、最早従来のように社会正義は放置できないだろう。

 

今コロナ禍で日本が問われているもの(2)

緊急事態宣言の全面解除が予告され、ワクチン接種が進むにもかかわらず、変異種が次々と世界で猛威を振るっており、まだまだ終息にはほど遠い思いから、様々なものが見えてくる。

それは単にPCR検査の少なさだけでなく、ドイツに較べて1日の感染者が何十倍も少ない2000人を超えただけで、病院の緊急入院さえ難しく、自宅待機しなくてはならない危うさである。

確かに政府が自画自賛するように、10万人当たりの急性期病床数は779病床数で、ドイツさえ凌ぎ世界一である。

その世界一の病床数、病院数の日本が、コロナ感染では殆ど機能せず、重症化の可能性のある患者を自宅待機させ、病変で間に合わず亡くならせている。

自宅、もしくはホテル待機となるのは、症状の出たコロナ感染患者に対して病床数が余りにも少ないからである。

何故なら、感染症患者に24時間対応できるのは集中治療室ICUであり、その集中治療室の病床数が圧倒的に少なく7、3病床数で、ドイツの29、2病床数に較べて4分1であり、コロナパンデミック第一波で医療崩壊しかけたイタリアの12、5病床数に較べても半分ほどに少ない。

そのような視点から見れば、日本が誇る世界一の病院数や病床数も、命を救う使命を最優先したものではなく、画一的に病院で看取ることを企業化した延長上にあるとさえ思えてくる。