(140)タイタニック日本のないことを願って(5)アベノミックス成長戦略は国民へのタカリだ!

アベノミックスの成長戦略は6月の公式策定を目指し、産業競争会議で検討作成されているが、会議のメンバーからし新自由主義色が強く、攻めの農業政策でもまったく戦略的裏付けや展望も見られないように、これまでの7回の議会では抜本的な戦略転換と具体的目新しさが感じられない(注1)。
確かに2002年小泉新自由主義政権から2006年の安部第一次政権では、その間行き詰まっていた日本の貿易輸出額は、2002年の52兆円から2007年には6割増しの84兆円に増大した。
しかしこの間国の負債総額(国債及び借入金残高)は、2002年の582兆円から2007年の832兆円へと巨額に膨らんでおり、莫大な公共投資、大企業の大幅な減税だけでなく利益の内部留保を容認し、様々優遇措置で海外進出を後押ししたからである。
それは、日本産業が復活したのではなく、将来世代を担保とする莫大な支援で一時的に勢いを取り戻したと言っても過言ではない(注2)。
国民の平均年収は、2002年の389万円から2007年の367万円に下がり、雇用も派遣社員などの劣悪化が進み、年収200万円以下の相対貧困者が1100万人を超えた。
またこの間高額所得者の税金は大幅に減税されるなかで、国民全体の税金は5兆円増加し、さらに健康保険を含めた社会保障費も5兆円増加した。
すなわちこの間大企業には莫大な富がもたらされたが、小泉劇場での激情を持って語られていたことに反して、その富の雫は下に滴らないだけでなく、国民の暮らしを著しく悪化させたと言えよう。
それ故に2006年9月に発足した第一次安倍政権は1年も持たずに、2007年8月に終焉したのだ。
2009年の衆議院選挙ではその反動として、産業利益よりも国民利益優先を求める鳩山民主党政権が誕生した。
鳩山政権は現実的な戦略もなく正面から公約を実現しようとしたことから、既存のコンクリートに関与する利権構造と激突し、メディアを通して引きずり下ろされたと言えよう。
そして鳩山政権の退陣を機に、民主党政権は国民を裏切り、国民利益よりも産業利益優先に反転した。
何故なら、大企業組合や官公庁組合は既に新自由主義に絡め取られており、産業利益を最優先するようになっているからだ。
そうした民主党の公約違反で、誕生した安倍政権の復活は、産業側の戦略と安倍晋三の“美しい日本”というナショナリズムが一致するからに他ならない。

本来ならば成長戦略は、福島原発での安全神話崩壊、シャープやソニーで見られるような量産神話崩壊を生かして、ドイツのように2050年までに脱原発だけでなく脱化石燃料という輝く未来への目標を掲げ、新しい産業を湧き起こして行くなかで、行き詰まりの原因である巨大な利権構造をスクラップ・アンド・ビルドで解体し、再生する方向で立てらるべきである。
またこれまでの日本の技術蓄積を生かし、途上国や新興国のインフラ整備を住民の幸せと平和への貢献を世界に宣言して、強力に推し進めていくべきである。

しかしアベノミックスの成長戦略では、現在の日本を行き詰まらせている巨大利権構造に全くメスを揮うことなく、無謀にも世界に突出して新重商主義の国家戦略で突破しようとしているのである。
実際産業競争会議を取り仕切っているみずほ総合研究所のリポートを読めば明らかであり(注3)、年頭のリポートでは、「今年は草食系日本が新重商主義に変わる年」と位置づけている。
重商主義とは、15世紀半ばから18世紀までのヨーロッパにおける植民地政策時代の経済思想であり、貿易を通して富を蓄積することにより、国富を増大する目標を掲げている。
そして新重商主義は、第二次世界大戦後先進国が経済ナショナリズムの姿勢に立ち、貿易収支の黒字を追求してきた重商主義の国家政策である。
すなわち現在の日本に当てはめれば、国家が日本産業の売込み等で積極的に関与するだけでなく、輸出産業が最大限の利益を獲得できるように、円安、法人税引き下げや特区による税制優遇、さらには雇用や教育から防衛に至るまで、産業への奉仕を強いる政策である。
この新重商主義は、国家の介入を必要最小限にし、あらゆる規制撤廃を求める新自由主義と相反するように思えるが、コインの裏と表であり全く同一と言えよう。
すなわち産業が外側へ進出する場合、国営企業の民営化を含めてあらゆる規制撤廃が求められるが、一旦獲得支配された内側では鉄の規制が求められるのである(注4)。
そしてこの新重商主義を守り、推進するために、憲法改正によって海外に自由に派遣できる普通の軍隊を求めているのだ。
このようなアベノミックスの成長戦略は、本質的に国民へのタカリであり、国民に犠牲を強いるものであるばかりか、世界に突出した新重商主義は著しく危険であり、戦前のように必然的に世界戦争へと導くものであり、核戦争によって人類の生存さえ脅かすものである。


(注1) 産業競争力会議
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/kaisai.html

(注2)しかしそのような海外進出支配も、既に“もの”が溢れる時代の到来で継続するものではなく、2008年の金融危機後は消費が冷え込み、トヨタに見られるように世界への肥大が逆に危機を招いていた。2008年以降の日本の輸出額は60兆円台に落ち込み、2011年からは貿易赤字が鮮明となっている(2011年輸出65,5兆円、輸入68,1兆円、2012年輸出63,7兆円、輸入70,7兆円)。

(注3)2013年1月25日みずほ総合研究所リポートPDF
『安部政権で何が変わるのか(経済政策10分野での提案とマインド転換への10のポイント)』
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/urgency/report130125.pdf

(注4)ドイツの電力自由化では4大巨大企業が企業買収などで電力業界を支配すると、新規参入企業を阻む様々な法案を政府も巻き込んで実施し、電力料金の市場独占支配で、電力自由化当初30パーセントほど値下がりしていた電力料金は、現在では当初の2倍以上に値上がりしている。またこうした4大巨大企業は東欧のEU加盟で、電力の民営化、自由化を迫り、東欧の国々の電力を支配した。しかしドイツの脱原発選択で、こうした企業も2050年に向けて大きな転換が求められている。