(141)タイタニック日本のないことを願って(6)憲法96条改正が導く全体主義国家

安部首相の憲法96条改正を求める宣言で、日本中が護憲か改憲で沸き立ち始めている。
安倍晋三は若くして自民党幹事長になった際、日本の新重商主義を強調し、それを守るためには軍隊が必要であるという発言をしたことを思い出す。
そして安部第一次政権では、、教育基本法を「個人の価値をたつとび、自主的精神に充ちた健全な市民の育成」から「必要な資質を備えた国家に従順な国民の育成」へ、すなわち「平和を希求する市民育成」を求める教育基本法を「国家及び産業に奉仕」を求める新教育法に改悪し、競争原理を最優先することで、必然的に“いじめ”や“体罰”が溢れ出している。
それは同時に、平和を希求する日本憲法の外堀を埋めたと言っても過言ではなく、現在日本がアジアだけでなく中東へ新重商主義を推し進めるにあたって、本丸の憲法改正によって軍隊を持とうとしている。
何故96条の改正が求められるかは、軍隊を持つための憲法改正では国会3分の2の賛成が難しいためだ。
すなわち96条の憲法改正の条件、国会の3分2以上の賛成と国民の過半数の賛成を、国会の過半数の賛成と国民投票での過半数の賛成に緩和しようとしているのである。
そのために戦後誕生した日本憲法が世の中の変化にもかかわらず、一度も改正されていないことが問われている。
確かに戦後誕生したドイツ基本法が59回も改正されていることから見れば、一度も改正されていない日本憲法は異常である。
しかしドイツの基本法改正では、連邦議会と各州政府の代表からなる連邦参議院の3分2以上の議員賛成で59回も改正が実現されてきたのだ。
まさにそれは、国民利益が党派利益より最優先して求められていることを意味している。
すなわちドイツでは、6つの民間世論調査機関が絶えず国民の要求や政党支持率を調査し、毎週競って公表していることから、各政党は敵対する政党の発案であっても、国民が求める憲法改正であれば賛成せざるを得ない。
そこでは、家族の間でさえ政治に関する問題を議論することが、市民の権利として慣習化されている。
それ故国民の誰もが政治に無関心では有り得ず、メディアも十分な議論へ導くことを使命としており、議論の場を提供することに最善の努力を支払っている。。
例えばZDFの毎週木曜日の女性人気キャスター『マイブリット・イルナ』の公開生番組では、社会問題や政治テーマで政治家や専門家の賛成者、反対者からなる円卓会議が放映され、会場の市民も質問や発言ができるように取り計られている。
またシュピーゲル誌は、長年読者が参加できる議論の広場フォーラムを設け、絶えず100近くのテーマで活発な議論がなされている。
特に関心の高いテーマに関しては一日に数百の投稿があり、いかにドイツ人が政治的関心高いかを示している。
しかしドイツの基本法は、時流に左右され易い国民の要求を全面的に認めているわけではない。
すなわちナチズムの反省から、基本法第一条「人間の尊厳、基本権による国家権力の拘束」及び第二十条「国家秩序の基礎、抵抗権」の条項に関しては改正が一切認められていない(注1)。
すなわちドイツ基本法がある限り、ナチズムの独裁社会や秘密警察シュータージが監視する全体主義社会は未来永劫到来しないのだ。
こうしたドイツの基本法に学べば、今回の憲法96条改正は時流に流され易い国会及び国民の過半数の賛成で、憲法をどのように改変することも可能となり、独裁国家全体主義国家を招くことにもなりかねない。
もちろん憲法の改正は時代の流れに沿って必要であり、改正努力を怠ってきたことこそ問われるべきである。
すなわち戦後も官僚政治に全面的に依存し、長年与党にあった右派自民党だけでなく、全面的護憲で可能な国民利益獲得を怠ってきた左派政党にも責任がある。
またメディアも、ドイツのように国民利益を最優先する仕組みの構築を怠ってきた責任を反省すべきである。

そして今、瀬戸際ともいうべき日本の危機に際し、「民は之に由らしむべし之を知らしむべからず」で日本の命運を決める政治を、憲法96条の活発な議論を通してドイツのように民のものとすることが必要だ。


(注1)ドイツ基本法(翻訳)
http://www.fitweb.or.jp/~nkgw/dgg/

Art. 1 [Menschenwürde, Grundrechtsbindung der staatlichen Gewalt]
(1) Die Würde des Menschen ist unantastbar. Sie zu achten und zu schützen ist Verpflichtung aller staatlichen Gewalt.
(2) Das Deutsche Volk bekennt sich darum zu unverletzlichen und unveräußerlichen Menschenrechten als Grundlage jeder menschlichen Gemeinschaft, des Friedens und der Gerechtigkeit in der Welt.
(3) Die nachfolgenden Grundrechte binden Gesetzgebung, vollziehende Gewalt und Rechtsprechung als unmittelbar geltendes Recht.
第1条 [人間の尊厳、基本権による国家権力の拘束]
(1)人間の尊厳は不可侵である。これを尊重し、および保護することは、すべての国家権力の義務である。
(2)ドイツ国民は、それゆえに、侵すことのできない、かつ譲り渡すことのできない人権を、世界のあらゆる人間社会、平和および正義の基礎として認める。
(3)以下の基本権は、直接に妥当する法として、立法、執行権および司法を拘束する。

Artikel 20 [Grundlagen staatlicher Ordnung, Widerstandsrecht]
(1) Die Bundesrepublik Deutschland ist ein demokratischer und sozialer Bundesstaat.
(2) Alle Staatsgewalt geht vom Volke aus. Sie wird vom Volke in Wahlen und Abstimmungen und durch besondere Organe der Gesetzgebung, der vollziehenden Gewalt und der Rechtsprechung ausgeübt.
(3) Die Gesetzgebung ist an die verfassungsmäßige Ordnung, die vollziehende Gewalt und die Rechtsprechung sind an Gesetz und Recht gebunden.
(4) Gegen jeden, der es unternimmt, diese Ordnung zu beseitigen, haben alle Deutschen das Recht zum Widerstand, wenn andere Abhilfe nicht möglich ist.
第20条 [国家秩序の基礎、抵抗権]
(1) ドイツ連邦共和国は、民主的かつ社会的連邦国家である。
(2)すべての国家権力は、国民より発する。国家権力は、国民により、選挙および投票によって、ならびに立法、執行権および司法の特別の機関を通じて行使される。
(3)立法は、憲法的秩序に拘束され、執行権および司法は、法律および法に拘束される。
(4)すべてのドイツ人は、この秩序を除去しようと企てる何人に対しても、他の救済手段が存在しないときは、抵抗権を有する。