(256)カントの理想実現(14)・インダストリー4.0の地平線(4)・何故戦争が求められるのか中編

先駆者ボッシュ(過去の俯瞰から見えてくるもの)

ロバート・ボッシュは若い頃動物や植物などの自然科学を学びたいと思っていたと伝えられているが、父親の要請で機械工場の見習い工として修業した。
上の動画でも述べられているように、産業革命という機械導入のなかで従業員の待遇は劣悪となり、その際の苦労がボッシュに大きな影響を与えた。
すなわち産業革命は従業員に不幸せをもたらすだけでなく、新たな重商主義を推し進めることで人々に幸せをもたらさなかった。
それゆえボッシュは、従業員の幸せと万人の幸せを求め、大学や病院を寄付するだけでなく、反軍国主義と反植民地主義を掲げるマンチェスター資本主義を支持したと伝記にも書かれている(注1)。
ボッシュの設立した小さな町工場が29万人の従業員の世界のボッシュにまで成功した秘訣は、目先の利益を求めず、長期的視点で先を見据え、技術一筋で公の幸せを追求していることにある。
そのような成功の秘訣を産業革命時のロバート・ボッシュに学ぶとき、インダストリー4・0をどのように発展させるべきか、未来の地平線が見えてくる。

何故戦争が求めらられるのか中編
日本産業がハンメルンの笛吹の如き安倍首相復活を通して、平和憲法を葬る新重商主義を今敢えて推し進めるかは、下のGDP推移を見れば明らかである。

日本の名目GDP1994年4兆8504億ドル、2014年4兆6163億ドル
アメリカの名目GDP1994年7兆3088億ドル、2014年17兆4189億ドル
中国の名目GDP1994年5827億ドル、2014年10兆3804億ドル
韓国の名目GDP1994年4456億ドル、2014年1兆4170億ドル

すなわちこの20年間韓国や中国が脅威的に成長し、衰退の象徴とされるアメリカさえも2,4倍ほどに成長するなかで、日本は足踏みを続けている。
さらに言えば、日本の看板企業のソニーパナソニックが窮地に陥るだけでなく、つい先ごろまで液晶家電世界一のシャープは瀬戸際まで追い込まれ、洗濯機や冷蔵庫で世界に轟いた三洋電気の名は最早ない。
日本は戦後平和憲法の下で、松下幸之助本田宗一郎に見られるように、従業員を大切に、人に奉仕する経営理念で驚異的発展を遂げ、1979年には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称されまでに頂点に上り詰めた。
それはアメリカに危機感を与え、1985年のプラザ合意の金融緩和政策で1ドル240円から150円への円高を強いた。
また韓国、東南アジア、中国などの新興国の成長は著しく、価格競争で大きな脅威となって行き、現在の失われた20年がある。

こうしたなかでの日本産業の対応は、人を大事にし、人に奉仕する経営理念から、目先利益最優先の効率主義に転換し、競争原理強化による精鋭主義で高機能製品を追求し、さらに運命共同体としての終身雇用制を廃止しただけでなく、人を大事にしない派遣労働拡大で道を開こうとしている。
その道とは、新重商主義を推し進めるために戦前の富国強兵政策で戦争を求めることに他ならない。

そして復活した安倍首相は新重商主義を実践するために、カントが平和にとって不可欠と断言する「国家の公開性」という足枷を特定秘密保護法案で取り外し、さらに今憲法解釈によって集団的自衛権を認めることで自衛隊を普通の軍隊(常備軍)につくり変えようとしている。

このような日本の選択しようとしている道を、上に述べたロバート・ボッシュであれば、即座に間違っていると一喝したであろう。

(注1)『Robert Bosch und der liberale Widerstand gegen Hitler 1933 bis 1945』、BeckC.H、2002.